July 31, 2011

カイコドラマチック(8)

こんばんは、河岡です。

ここまでの7話(!?)で、カイコでpiRNAをはじめた経緯、BmN4という相棒の発見、そしてそれを使ったin vitroにおけるpiRNA生合成研究の進展、をお話してきました。
今回以降は、カイコを使ったin vivoの研究についてお話させていただきたいと思います。

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ある段階で、カイコならではの研究をしよう、と強く思った、というのは前述の通りです(http://ncrnablog.blogspot.com/2011/07/2.html)。
BmN4細胞はpiRNA研究におけるカイコの明確な「ならでは」を提供してくれたわけですが、他にも「ならでは」はたくさんあったのです。

カイコ生体の良さのひとつ、それは、大きい、ということです。

修士のときにある講義で、カイコのたまご1個の上にショウジョウバエの成虫がちょこん、と乗っている写真を見たのですが、そのくらい違います。
piRNAが発現している生殖巣の大きさも、カイコの卵巣1個体ぶん=ハエの卵巣数百個体(以上?)ぶんなのではないでしょうか (1.5mLチューブに1個体ぶんいれたら、250ulのところくらいまで埋まるでしょうか)。
エレガントな遺伝学やゲノム情報の充実といった面ではハエのほうがまったくすごいですが、カイコにはカイコの良さ。
その大きさ故に、細かなステージングをしたり、(僕はやっていないですけれど)生理学をしたり、ということにはとても適しているのです。
余談ですが、材料の手に入り易さというのは本当に重要で、有名な脱皮ホルモンであるエクダイソンなども、カイコをはじめとする「大きな」鱗翅目昆虫が良き材料としてはたらいて、その同定に至りました。

さて、僕がカイコの生体を使ってやったことのひとつは、受精後時間によってステージングしたカイコの卵におけるpiRNAの特徴の変化を追った、ということです。
昆虫遺伝研究室では、やすはらくん、あらいくん、はらさん、そしていまはしょうじくんといった学部、修士の面々とともに研究をしています。
この研究では、あらいくんと一緒に実験をしました。

この実験は、何か大きな目標があった、というよりはむしろ、面白いことが分かりそうな気がしてやってみた、というタイプの実験です(本当は、心の底では性決定関連のプロジェクトとの絡みを狙っていたのですが、それはまた後述します)。

というわけで、やったことはいたってシンプル、受精後0時間、6時間、12時間、24時間の卵に存在するpiRNAの配列を網羅的に決めて、その特徴を調べました。
同一ステージの群に含まれる卵同士の受精後時間は、かなりの精度でぴっちり揃っています。

どうしても話がそれて長くなってしまいます(まあ、そもそも、論文では読めない余談が趣旨ということで)。
大量に配列を決定してその特徴を解析する、というステップには、どうしてもバイオインフォマティクスなる分野に関連した手法が必要になります。
はじめは、以前登場した友人(http://ncrnablog.blogspot.com/2011/07/2.html)と一緒にやっていたのですが、彼が卒業してしまってからは、彼の残したデータベースをMySQLで解析するくらいのことはしていたものの、新規なデータベースは扱えませんでした。
そこで、勝間ボスとともに東大農学生命科学研究科のアグリバイオインフォマティクス教育研究プログラム所属の門田先生に共同研究のお願いをし、解析をしていただくことにしました。

自分でできないことを共同研究としてお願いする場合、そこに自ら赴き、最終的にはある程度自分でできるようになれ、というのが勝間ボスの教育方針です(僕がふらふらできるのはこのためです)。

インフォマティクスの場合、高度なコードを作ることはできなくても、人様の作ったコードを理解し、コードを走らせ、結果を見てコードを微調整する、くらいのことはできるように、というわけです。

実験をしていて思いますが、実験の途中ではいろんなことが起こります。
そのいろんなことによって、あたらしい疑問が想起されたり、あたらしい展開がうまれることがあります。

インフォマティクス解析だって、その途中段階でいろいろな思いつきがあるはずだし、何より、思いついたことを気軽に自分で試せたほうが気分が良いです。

そこで、門田先生には申し訳なかったのですが、もうほんとにうしろに張り付いて、先生がコードを書けば、先生、これはどういう意味ですか、とか、直せば、どうしてそこをこう直したんですか、という具合に、勝手に、インフォマティクススーパー講義を作って、修行をしました(このときは、昆虫遺伝、泊研、そしてアグリバイオインフォマティクス教育研究プログラムの3カ所をうろうろしていたということになります)。
こんな僕につきあってくださった先生にはとても感謝しています。

それまでもインフォマティクスを勉強しようと思って本を買ったり読もうとすれど、どうにもうまくいかなかったのですが、プロの仕事をみる、というのは最高の教科書で、結構、ポイントが分かるようになりました。

扱うデータセットがいかに大きくとも、1ステップ1ステップ、高度なコードに頼らず、自分の目で自分が行った作業のアウトプットを確認すること、がかなり大事でした。
実験とまったく一緒ですね。

そんなこんなで、アマチュアなれど、piRNAに関する解析に関しては一通りの手技を(たぶん)身につけることに成功したわけです。

さて。
生化学の実験で痛感したことですが、反応のタイムコースをとる、ということはそれ単独でとても重要です。
ここでは、受精後のタイムコースをとったことによって、生体においてpiRNAが作られていくさまをこの目で捉えることに成功したのです。

だいぶ長くなってしまったので、詳細は次回紹介させていただきます。

(つづく)

3 comments:

  1. コメント3つです。

    1)百聞は一見に如かず。

    2)モデル生物はあくまでもモデルで、それで全ての生物が分かる、などという甘ったれた考え方を持っていると必ずしっぺ返しがくると思います(反省)。こと生物学においては、どれだけ飽和したと言われる分野においても、僕らが理解しているのは神の理解の1%ぐらい、というのがフェアーな見方だと思います。新しいモデルは新しい理解を生むはずです。

    3)実験が「出来る」ようになるというのはいろいろなレベルが多分あって、どんな実験をしても、たとえそれがミニプレップのレベルでも、いまだに新しい発見があるというのが正直なところです。どんなことでも予見できるよりは、少々抜けている方が、日々いろいろ楽しい、ような気がします。
    今日の発見(伝説)ー凍結切片は-80度でしばらく置いておいた方がきれいに切れることがある。
    今日の失敗(恥)ーショウジョウバエの培養細胞は37度で瞬殺される。

    中川

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  2. 訂正です。

    >ショウジョウバエの培養細胞は37度で瞬殺される。
    ショウジョウバエ×
    昆虫○
    まあ、ショウジョウバエでも一緒でしょうが、、、

    ちなみに、学生さんで、なぜ培養細胞はCO2インキュベーターの中で(5% CO2)窒息しないのかと効いてきた人がいました。この質問にはいろいろなレベルでの答え方があって面白いです。僕の理解は多分序二段ぐらいです。

    中川

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  3. いつもコメントありがとうございます。

    結構、僕には非モデル僻みがあるのかもしれません。
    とくに、論文を投稿したときの話の通りにくさ(単に実力がないだけかもしれませんが)を体験すると、ああ、非モデルよ、と思ってしまいます。
    そんなところが好きでもあるわけですけれど。
    いっぽうで、絶えずマイノリティでありたい、なんて考えているわけで、自分で自分がよく分からないですね(笑)。

    何分くらいで死ぬのでしょうか?
    ちなみに、BmN4君はCO2いらないので、CO2について考えたことはありませんでした、、、

    河岡

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