July 8, 2011

カイコドラマチック(2)

こんばんは、河岡です。
ひまなわけでは決してないのですが、第二部です。
今日の金曜ロードショーは魔女の宅急便ですよ!

**************************************

学生としての公式テーマをpiRNAに据えたのは2007年、修士1年生のときでした。

駆け出しの学生にできることと言えばそれはもう限られているわけでして、、、
まずは、カイコのPIWI遺伝子とpiRNAってどんな感じなのだろう、ということで、カイコのPIWIをクローニングして、その性状を解析してみました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18191035)。
後に、この事実がカイコのpiRNA経路に関する議論を分かり易くする一助となるわけですが、Piwi, Aubergine, Ago3という3つのPIWI遺伝子を持っているキイロショウジョウバエに対して、カイコはPIWI遺伝子をふたつしか持っていませんでした。
マウスのPIWIはMiwi, Mili, Miwi2、その響きのおしゃれ感に影響されて、ふたつの遺伝子のひとつをSilkworm PiwiでSiwi、そして、カイコの学名であるBombyx moriも残してやるか、ということで、もうひとつをBmAgo3、と名付けたわけです。
ホモログとっただけ、と言ってしまえばそれまでなのですが、flybaseのような素晴らしいウェブサイトがあるわけでもなく、比較的研究者人口の少ないカイコ界にあって、遺伝子ふたつとるのは、RACEしたり、EST解析したりして、結構大変だったことが懐かしく思い出されます。
加えて、カイコのボディの大きさを活かして、こまかーく遺伝子発現のプロファイルを調べたりもしました。
調べるべきステージが多いと、解剖してRNAとってcDNAつくってqPCRして、というのも結構な労働で、ひとりで作業するのが寂しかったので、いたいけな学部学生の後輩を捕まえて、一緒に実験していました。

さて、今度は、肝心のpiRNAです。
実は、前述の博士課程の先輩が卵巣のトランスクリプトーム解析をしているさなか、30塩基くらいの小さいRNAが発現してるよ、ということを明らかにしていました。
では、ということで、ぴかぴか光るそれらの小さなRNAをクローニングして、「前」世代シーケンサで一生懸命4万リードくらい配列を決めました(僕が4万リード読んだわけではありません)。
配列を決めたら、今度はなかみを解析する必要があります。
piRNAは、配列が異常に多様で、読んでも読んでも新しい配列が出てくることが知られています。
とてもとても、人力のみで解析できる代物ではありませんでした。
そんな事情もあって、別の研究室で研究をしていたコンピュータ好きな同期の友達を捕まえて、彼の力を借りて、一緒になってわいわい解析をしてみたわけです。

さてさて、コンピュータができる彼の力を借りたとて、どんなガイドラインでものを調べればいいか、ということがさっぱり分かりません。
piRNAを研究している人がまわりにいなかったので、続々出てくるショウジョウバエ、マウスなどの論文を読みながら、ああでもない、こうでもない、といろいろ試行錯誤する必要がありました。
苦難のはてに、どうやらとったものはpiRNAだ、カイコにもこのパスウェイはあるんだ、という、結論っぽいものを得ることができました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18801438)。
書いてみるとなんやねんという感じですが、こんな小さなことでも言うのは大変だなあ、学ぶは真似ぶとも言う、なんていうけど、真似するってのも大変なもんだな、と強く感じたことを覚えています。
このときすでに、本研究領域の課題ともなっている、性決定染色体由来のpiRNAの存在には気がついていたわけですが、それは後述します。

さてさてさて、そんなこんなで、もう、2008年になっていました。
個人的には、カイコでpiRNAをやる、という土台はできたなあ、と、一定の満足を覚えていたように記憶しています。
が、上で述べたような研究には、そこに、「カイコだからできたんだ」という売りがほとんどありませんでした。
そのことを認識して、自分に対して、強烈な不満を感じ、いらいらしたりしていました。
論文を読んで真似るだけではなく、カイコを材料にして、いや、したからこそ、こんな研究ができたんだ、と胸をはれる研究をしよう、と思ったのは、このときです。

つづく

2 comments:

  1. そろそろ奥さんとは出会っていたのかな?

    学生時代の高揚感はとても大事なことだと思います。ここまではホモログ取り、という位置づけですね。さて次は???

    中川

    ReplyDelete
  2. いえ、それは、piRNAの研究をはじめる3,4年前の話です(笑)。
    書いていると懐かしくなって、感傷にひたってしまいますね。
    ホモログとりとて、書いた論文は大切な僕の分身なのだな、と思います。

    河岡

    ReplyDelete