July 24, 2011

カイコドラマチック(6)

こんばんは、河岡です。
またまた間が空いてしまいました。

前回のエントリに書いた、

「まず、成熟型のpiRNAよりも長い、1UのRNAがSiwiにくっついて、しかるのちに3'側が削られる」

この仮説に対して、どんな実験を行っていったのか、書きたいと思います。

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ここまでで、カイコのPIWI、Siwiが、1番目がU(1U)のRNAが好き、ということが分かっていました。
そこでまず、RNAの長さを、成熟型piRNAを模した26塩基から、50塩基に変え、Siwiをくっつけてみました。
面白いことに、50塩基の長さにしても、やはりSiwiは1Uが好き、ということが分かりました。

もっと長いRNAが適当に分解されると、当該RNAの塩基の組成に偏りがないとして、25%の確率で1UのRNAができてくることになります。
この実験結果から、これがSiwiにくっついて、piRNA前駆体となる、というシナリオが、いよいよもっともらしく思えてきました。

50塩基というのは成熟型のpiRNAよりも長いわけですから、何となく、RNAの3'側のおしりがSiwiからはみだしたような状況がイメージできます。
もし、たてた仮説が合っているとするならば、ここにタンパク質抽出物(ライセート)を入れたら、おしりがかじられて、成熟型piRNAができる、ということになります。

わくわくしながら、この予想が正しいかどうか、試してみました。

はたして。

おしりはまったくかじられませんでした。
じっと待っても、50塩基は50塩基のままでした。

しつこいですが、その段階で、piRNAがどのように作られるか、ということは全く分かっていませんでした。
つまり、仮説が正しい、という保証はどこにもなかったのです。
実験が「うまくいかない」ことが「正しい」のかもしれません。
まあ、そんな簡単じゃないよね、というような気もしました。
ここで実験は一時ストップして(1,2回しかトライしていませんが)、手を広げがちな僕は別のプロジェクトにずいぶん時間を使うことになります(別のプロジェクトについては後述します)。

しかし、心のなかでは、仮説が正しくないからうまくいかない、ということはないのではないか、と感じていました。
自分たちの仮説は、そのくらい、ものすごく合理的に思えたのです。
もし仮説が正しいのであれば、実験の方法が間違っているということになります。

ここで、泊さんに最初に言われたことが思い出されました。

「それこそ、ライセートの作り方から検討しなきゃいけないねえ」

このことを考えると、ことによると、僕のライセートの作り方が良くないのかもしれないー仮説は正しい、つまり、Siwiに結合した長いRNAのおしりをかじる活性はあるのだけれども、その活性が、使っているライセートには存在しない、あるいは活性が失われている、可能性が考えられたのです。

ここで、ライセートなるものについて、簡単なバックグラウンドをお話します。
ライセートというのは、なにがしかの方法でバッファー中で細胞を壊したあとに、遠心分離によってバッファーに溶け出してきた画分と、溶けなかった画分に分離してつくります。
いわゆる溶け出してきた画分をライセート、と呼んでいるのです。
すなわち、ライセートにした時点で、細胞のもっていた一部のものを「捨てて」いることになります。

さてさて、もう、オチが分かった方もいるのではないでしょうか?
ある昼下がり、別の実験の相談をしていたときだったのではないかと思いますが、泊さんに、

「例の実験だけれど、遠心しない状態で仮想piRNA複合体とまぜてみたら」

ということを言われました。

細胞を壊したぐじょぐじょの液は、細胞のあらゆるものが入っていて汚くて、これで実験するひとはあまりいません(たぶん)。
しかし、何も捨てていないわけですから、そこにはすべてが入っているはずです。
よしゃ、と思って、だめもとで、そのぐじょぐじょの液を仮想piRNA複合体とまぜてみました。

その日のことはよく覚えています。

僕は実験(?)が下手で、ゲル板からゲルがもれてゲルを作り直したり(いまだにもれますが、ピーターによって画期的な解決法が提示され、作り直すことは減りました)、ゲルがわれることもしばしばしば、です。
その実験のゲルも、乾燥機から取り出したあとにビキビキに割れてしまい、あーあ、またやっちゃった、とへらへらしていました。
しかし、そのゲルこそが、最初に実験が「うまくいった」ゲルとなったのでした。

ビキビキに割れてはいたけれど、はっきりと分かりました。

そう、ぐじょぐじょの液とまぜると、Siwiに結合した50塩基のRNAの3'側が削られて、27塩基くらいの長さになったのです。

(つづく)

4 comments:

  1. 常識は、疑え。ですね。
    普段の実験をうまく行かせるために努力していることの多くは、新しい発見という観点からはネガティブなものが多かったりするのかもしれません。とはいえ基礎を身につけてこその応用。ボスのアドバイスの呼吸は絶妙です。

    中川

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  2. そうですね、最初は、ほんとに、遊び心でした。
    でも、やった、ということは、心のどこかでいけるかも、と思っていたのだと思います。

    河岡

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  3. いや、よくその実験をやったと思います。わたしならやらなかったと思います。やっぱりひらめきというのは大事ですね。

    影山裕二/岡崎統合バイオ

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  4. はい、自分でもいまだにそう思います。

    ひらめいても、うーん、やっぱり無理かな、なんて思ってやらない、ということもよくあるのですけど、このときはなぜか無理と思わなかったのだと思います。

    河岡

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