河岡君の渾身の自戦記の合間に、、、
こんな論文が出ています。発生生物学の業界では知る人ぞ知る。ノックアウトマウス作製技術と組換え技術を自在に使ってしてホメオボックス遺伝子の機能を突き詰めているDenis Dubouleさんの仕事です。
PLoS Genet. 2011 May;7(5):e1002071. Epub 2011 May 26.
Structural and functional differences in the long non-coding RNA hotair in mouse and human.
Schorderet P, Duboule D.
長鎖のノンコーティングRNAの中でも最近大きな注目を浴びているのは、次世代シークエンサーなどの最新の技術を駆使して機能が明らかとなってきた「クロマチン制御因子と相互作用することで遺伝子発現を制御する低発現量の遺伝子群」であるわけですが、その代表選手、宝塚だったら後ろに大きな羽がひらひらしているうんちゃら組のトップHOTAIRを含む遺伝子領域を欠失したノックアウトマウスの表現型の解析です。
彼らの主張はアブストラクトに明確に書かれているのでそちらを参考にしていただきたいのですが、「ヒトとマウスってやっぱり違うんかねえ」というものです。HOTAIRはHOX-Cクラスターから転写されてHOX-Dクラスターの遺伝子の発現をトランスに制御しているところが一つの売りな訳ですが、ヒトの培養細胞を用いた実験で見られていたクロマチン修飾の変化も見られないし、遺伝子発現の変化も見られない。そこでHOTAIRなんておとぎ話につきあわされたオレの青春を返せー、とか言っている訳では決して、決してなく、慎重に、結果の違いについてサイエンティフィックに検証を重ねています。非常にクオリティーの高い論文です。
僕自身は次世代シークエンサーやマイクロアレイを駆使した解析は追試不可能なのでHOTAIRを始めとした最近のアイドルたちは少し距離を置いて見ているのですが、一番大切なことは、こうして実験的な証拠を重ねていきながら(できれば遺伝学的な検証を重ねながら)、結果の差異について慎重に検証を重ねていくことだと思っています。かつて、ニワトリの神経冠細胞の業界では、オレゴンとパリでは水が違うんだとか言う良くわからない結論になったりしたこともあったようです???それはちょっと、、、という気もしますが、先日も取り上げた、「チャオ」ゼッペさん。「いやむかし、このラボと、このラボで、このタンパク質がCajal bodyにあるか、ないか、議論になったんだ。でもね、お互い、使ってる細胞を交換して、みてみたんだ。何が起きたと思う?」(3歩後退)「彼らの結果は!」(2歩後退)「なんと!!!完全にお互いにお互いの結果を再現したんだ!!!!」
こういうことがあるからサイエンスは面白いと思うのです。大事なことは、やはり実験的な検証を加えてゆくこと。ただ単に実験のやり方が悪かったり、もしくは同じ結果が出ているのにそれに気づかない、見る目が無いために結果が再現できないことはありますが、何かしら底に真実は隠されているはずです。個人的に思うのは、次世代シークエンサーを用いた解析は感度が高すぎるし、僕が日常的に使っている古典的なノックアウトマウス作製と組織学の解析は、感度が低すぎる、その中間ぐらいで、うまいこと感覚的に違和感が無い解析方法があれば、スッキリするのになあ、ということですが。
ともあれ、一石を投じる論文であることは間違いありません。今後も目が離せません!
中川
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