July 27, 2012

落ち着くところーMalat1 KO最終回

いろいろややこしいやり取りがあった後、結局の所、一緒に投稿するのはやめようね、これからはお互い好きな道を歩んでいこうね、とかいうなんだか遠い昔に交わしたような甘酸っぱいメール(ん、電話だったか、、、)を交わして、それぞれ投稿する事になりました。一番の理由は、それぞれ持っているデータが違っている、ということなのでしょう。僕自身、僕のデザインでMalat1をKOした時にNeat1が減るという事に関しては200%の自信がありますし、それはDavidにしてもSvenにしても同様なのだと思います。実験としては下らん間違いをしていないのに結果が違うところには往々にしてなにかしら面白い真実が隠されているものですが、それ(おそろくそれぞれのKOデザインでつぶしているcisエレメントの違い)を全て確かめるためにつぎ込んだ努力と時間が間尺に合うかどうか、というとことを考えると、まあいいか、となってしまいました。

というわけで、仲良くみんなで一緒にゴールインなどという最近の小学校の運動会(と聞いているのですが僕が知る限り近所の小学校の運動会は髪の毛振り乱してみんな負けじ抜かれじと走っているようですが。マスコミの捏造??)にはならず、もうそれぞれが勝手に投稿という事になってしまいました(正直に言います。著名なDavidと一緒に投稿したら通りやすいかなあ、なんて甘ちゃんな考えもちょっぴりありました)。最初に投稿したJCSはreviewに回らず撃沈。「んー、なんか違うんだよね。いろいろ聞いてみたんだけどね。なんか合わないみたい。他探してね。あ、そうそう、クリック一つでうちの系列の別の雑誌に投稿出来るのよ。最近流行のオープンジャーナルってやつ。興味があったら押してね。じゃね。」という内容の(かなり意訳していますが)短いメールを速攻でもらったあと、廣瀬さんやPrasanthといろいろ話し合った結果、Open jounarl なんてやっとれるけー!!という古い観念のもと、落ち着くところ、RNAに投稿しました。その後色々あったわけですが、あ、そうでした。Prasanth。いろいろrevisionの時に追加実験を要求されるわけですが、Prasathに打診してもサッパリ返事がありません。遠慮などはとうの昔にかなぐり捨てた僕は矢のような催促を送り、、、とはいかず典型的な日本人よろしく我慢に我慢を重ねて一月ぐらい待ったあげく、エクセルのファイル、送ってね。Pつけないといけないから、、、と聞いた返事が、「いやー、実験やってた子が臨月でさ。ごめん。もうちょっと待って。」これって、親戚が危篤で、、、と新聞の人生相談でよく見かける(実際に見かけたことはありませんが)最強の言い訳かとも思ったのですが、これほどめでたいことはありませんから、辛抱強く待って、しびれを切らせてもう一回催促を送ったところが、「産後1週間のべービーを家に放置してラボに出てこいなんて言えるわきゃないだろーがー!!」みたいな返事が来た24時間後、きっかり3行のエクセルファイルが送られてきました。このあたり、時間の感覚が違うのでしょうか?ちょっとせわしすぎるのかもしれません。日本人。狭い日本、そんなに急いでどこに行く。。。

ともあれ、めでたくめだたく、3つのグループの論文、それぞれ世に出ることになったわけです。収まるところに収まったという感じでしょうか。Svenさんの、結局こういう事になったけれども、俺たちの友情は変わらないよね、なんてスポコン漫画のようなセリフはありませんでしたが、お互いにcross-referenceしましょうよ、という提案はなるほどフェアーで、無事、Malat1をつぶしても何にも起きませんよーという、マニア以外の人にとっては本当にどうでも良い内容の論文は、どうでも良くない当事者にとってはどうでも良くないことにしのぎを削りながら、ひとまずの区切りを迎えたわけであります。

ちょっと気になるのはDavidのsupplementのデータで、Malat1をKDしたときに見られるSRタンパク質のリン酸化の変化はリポフェクションのアーティファクトなんじゃないの?という主張です。これに関しては僕自身がノックダウン実験をしたわけではないので分かりません。細胞分裂はおかしくなるは、SRのリン酸化はおかしくなるは、という表現型は、再現性は良くないようです。つまり、僕のKOマウスでも、廣瀬さんのところのノックダウンでも、そういう現象は見つかっていないので。このように、一見一貫性がないデータを前にしたときにどう考えるのか、というのは、実は結構大きな問題なのではないかと思っています。逆説的ですが、良く分からないときは、本当にどうでも良い間違いをしでかしているか、本当に面白い事を見ているのか、どちらかであることが多いと思うので。さて、決着や如何に。当新学術が続いている間に答えを出せれば良いのですが。。。

中川

July 13, 2012

Malat1のパラドックス(5)ーまだまだ先は長そうです

Davidさんの一行メールはパンチのように効いてきます。

僕:(前略)これこれかくかくしかしか、、、(後略)(20行メール)

David:それもやったけど、差はないよ。

僕:こーやってあーやってこれがこうかもしれなくて、、、(中略)サンプル送ってくれませんか、こちらも送りますから(18行メール)

David:了解。

ともあれ、お互いのマウス組織やRNAを交換して、結果が再現できるかどうかを確かめることにしました。1週間もたたないうちにRNAと切片がFedExで送られてきました。正月返上で(ちょっと誇張あり)渾身のノザンをしたところ、DavidのMalat1 KOでもNeat1がすこんと減っているではありませんか!急いでスキャナーでフィルムを取り込み、勝ち誇った気分でメールを送りました。

僕:再現できたよ!(一行メール!!)

しかるに。あれだけやってみたかった一行メールを送った当日は気分が良かったのですが、翌日冷静になってフィルムを見てみると、、、左右逆ではありませんか。生来のおっちょこちょいがこんな肝心要のところで発揮されるとは、、、汗だくだくになって訂正メールを送ります。

僕:あのー、じつはすごくおっちょこちょいなことしてしまったみたいで、自分でも恥ずかしいんだけれども、、、、(中略)どういうわけかあなたのところのMalat1 KOではNeat1は発現が上昇するみたいですね。考えられるメカ二ズムとしてはこんなのがあるのかもしれませんが、、、(20行メール)

David:(無視)

あー、こんなことばっかりやっているからついに返事すらしてもらえなくなってしまいました。もう二度とDavidさんと話をしてもらえなくなるんだろうか、なんて思っていた訳ではありませんが、そういえば4回生の頃、フィルムを現像していて待ち焦がれていたバンドを目にしたとたん暗室を飛び出し、教授室が空だったのでダッシュで一階に駆け下り、帰宅しかかっていた教授を追っかけていって出口付近でつかまえて、先生!ついに出ました!疑問が氷解しました!!と研究室まで引っ張ってきて自慢げにみせたウエスタン、これが明るいところで見るとレーンを間違えていた、、、のを思い出しました。ぽたぽたと液がしたたるフィルムを挟んだホルダーを手に、次の言葉を探す僕。目をそらす教授。長い沈黙。心優しい教授は満面の笑みを浮かべて、君、こういうこともあるよ、またがんばろうね、と声をかけてくれ、、、るわけはなく、ムスっとした顔で無言で去っていかれたのを、ああ、今になってなんで思い出さなくてはいけないのでしょうか。あれから20年。つい最近もその教授の前でまたまた恥ずかしいことをしてしまったことがあるのですが、人は反省しながら生きてゆくものですよ。と、今度は大変優しい言葉をかけていただきました。この言葉は一生忘れることは無いでしょう。反省。反省。反省。反省。反省、、、

話をぐいっと元に戻すと、結局分かってきたのは、Malat1のノックアウトマウス、アメリカとドイツではNeat1が発現上昇して、日本では低下する、ということでした。そういえば神経冠細胞の移動経路についてもアメリカとフランスで違うらしい、なんていう有名な笑い話(?)があるのですが、マウスに関してはC57Bl6という近交系のマウスを使っているので遺伝的背景の差で地域差が出るなんてことはほとんどありませんし、これはもうノックアウトのデザインの差、ということ以外には説明がつきません。

WT         : -------Malat1-------
Nakagawa KO: -------lacZ-pA-Malat1-------
David KO   : ---(    )lat1-------
Sven KO    : -------(    )-------


要は、僕の作ったネズミはinsertion mutationで、DavidはプロモーターとMalat1の一部のdeletion mutation、SvenはMalat1の完全deletion mutationなわけです。まだきちんと決着がついた訳ではありませんが、DeletionをかけたところにNeat1の発現抑制elementがあって、それをなくすとNeat1の発現が上昇する。一方、Malat1が転写されるとNeat1の転写も活性化するという効果もある。その両方を見ているのかな、というのが一つの解釈です。

無駄話を書いていたらだいぶ長くなってしまいました。次回、最終回にします。

中川

July 8, 2012

Malat1のパラドックス(4)ーデザイン違えば結果も違う?

ようやく重い腰を上げてMalat1のノックアウトマウスの表現型=無い、という論文をまとめることにしたのは良いのですが、やはりなにか自分でこれを伝えたい!という強い気持ちが無いと、筆の方も、実験の方も、なかなか進みません。全く表現型がありませんよー、というだけではおそらく全くやる気が起きなかったとは思うのですが、実は、以前、ノックアウトマウスが出来る前に産総研の廣瀬さんから秘密のデーターーMalat1をノックダウンするとNeat1の発現量がなぜか下がるーという話を伺っていました。その当時はそういえばマウスの組織でMalat1とNeat1の発現パターンが結構似ているなあ(Neat1_2に関してはごく一部の細胞でしか発現していないけれども、たいがい、そういう細胞ではMalat1の発現も高い)、ぐらいであまり気にも留めていたかったのですが、実際MEFを作ってみても明らかにNeat1の発現が低い。マウスの組織でin situしてみてもシグナルが薄い気がする。いろいろ調べていくと、すべての組織でそうという訳ではなくて、特に小腸でその傾向が強いということが分かってきました。

メカニズムはよくわかりませんが、これは一応意味のあることかな、ということで俄然やる気が出てきて、一通りのデーターを取り直して論文用の図を作ったり、qPCRやらpolIIのCHIPやらの実験をちょうどその頃研究室に加わってくれたJoさんに手伝ってもらったりしながら、どうやら夏頃には論文の形が見えてきました。

結晶構造の分野では全く独立の研究室で進められていた解析がなぜか同時期に論文になる、ということをよく耳にしますが、それは研究のトレンドであったり、新しい技術の開発であったり、いろんな要素が研究を同調させる方向に向かうからなのでしょう。Malat1に関してもそれは例外ではなく、Malat1をクローニングしたSvenさん、核スペックルといえばのDavidさん、Davidさんのところから独立したPrasanthと僕ら、この3つのグループが本気でノックアウトマウスを作って解析をしようと考えたのは、培養細胞を用いたMalat1のノックダウンの表現型に触発されたのは間違いありません。ちょうどそのころPrasanthがSvenさんにミーティングで会って、むこうのノックアウトマウスも表現型が出ないみたい。どうだろう。Davidのラボのマウスも表現型が無いって言っていたから、3グループで一緒に出そうか。という話になってきました。僕としても全く異論はありませんでしたし、彼らのデーターが出そろうのを待って、まあ遅くとも年内には投稿しようかねえ、ということになり、投稿先やら何やら話し合っていたのですが、一応お互いの手の内をある程度は見せなければ、ということでMalat1のKOでNeat1が減るみたいなんだけど、どうですか、と聞いたところが、、、

「Neat1はうちのマウスでは下がらないよ。David」

彼のメールはいつも極端に短くて行間がないので行後を読まなければならないのですが、明らかに不信感、いっぱい、って言う感じです。しかもSvenさんからも、うちでも変わらんけれどもねえ、と追撃です。MEFにおけるNeat1の発現はバッチによってかなり変動するのでそういうこともあるかなと思ったのですが、あれだけ安定した結果が出てくる小腸におけるNeat1の発現低下とパラスペックルの減少も再現できないとは、、、、

いつの間にか暑い節電の夏はとっくに過ぎて、季節は冬になっていました。

(ふう、次回でやっと終わりそうです、、、)

中川

July 6, 2012

1週間実験してデータを見て考えるのは5分

ncRNAの話題とは少しずれてしまうのですが、昨日、和光の理研にOISTの柳田充弘さんをお招きして、研究について、そして今の日本の現状について大いに語っていただくという空恐ろしい(?)企画がありました。

僕自身が学部生の頃、挑発的な言葉で若者の自尊心を刺激する柳田さんの講義を聞いた後はいつもムキになって勉強したことをよく覚えているのですが、おそらく今回の講義を聞いた学生さんや若いポスドクの方々も同様の刺激を受けたのではないでしょうか。特に僕にとって印象深かったのは、柳田さんが学生時代、1週間実験してデーターを見て考えるのは5分で良い、という教育を受けてきたが、ケンブリッジのMBLに共同研究で短期滞在した時、当時そこにおられたアーロン・クルグさんの、とにかく一つのデーターについてとことんとことん議論するというスタイルに触れたことが研究人生の上で大きな転機になった、というお話でした。そういえば僕も、留学先で、チョーク一本で(スライドはなし!!)1時間ディスカッションするというチョークトークというセミナーがあることにおったまげた記憶があるのですが、そういった伝統がかの国にはあるのかもしれません。ああでもない、こうでもない、と日がな一日議論しているよりはとにかく実験。そういう風潮に染まりがちなところは特に実験生物学の分野ではありがちだとは思うのですが、長いスパンで考えたときにはやはり腰を据えてとことん考えてみるということも時には必要なのかもしれません。

今回の柳田さんのお話のメインテーマは「学問の継承」で、現在の日本には個別のベクトルとしては非常に優れた研究がたくさんがるが、それが大きな流れとなって歴史として残るところまで行っていないのではないか、という問いかけをされていました。なぜそうなのだろう。ということですね。鈴木梅太郎や高峰譲吉などキラ星のように輝く偉大なる先陣がいたにもかかわらず、なぜ世界から尊敬される科学大国にいまだになっていないのだろう。今なっていないとするのならば、これからなることは出来るのだろうか。そう聞かれれば、たぶんそれはないと思っている日本人が多いのではないですか。その一方で、中国はこれから世界に冠たる科学大国になるのか?と聞かれれば、なんかそうなりそうな気がする、と思う人は多いのではないですか。それはなぜなのでしょう。歴史を知りましょう、そのためにも年の離れた研究者と話をしましょう。みんなで考えましょう。

いやー、実にいろいろ考えさせられるお話です。柳田さんのブログの方にスライドの一部が出ているようです。ぜひご覧下さい(というかあのブログの読者の集合にこのブログの読者は完全に含まれているような気もしますが、、、)
http://mitsuhiro.exblog.jp/18192407/

懇親会でもおおいに気を吐き、駅前の車道を堂々と横断して帰っていかれる柳田さんは、まさにロックンローラーの趣でした。上の世代からいずれは下の世代にバトンは渡ってきます。とてつもなく大きな宿題が残されているようです。

中川