July 9, 2011

カイコドラマチック(3)

こんばんは、河岡です。
前回の連載は打ち切りになってしまいましたが、今回はまだクレームはありませんので、続けたいと思います。

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「カイコだからこそ」をやるぞ、と意気込んではみたものの、どんな方向に進めば良いか、なんてことがすぐ分かるはずもありません。

そこで、piRNAの論文をいまいちどさらってみると、piRNAに関する知見の多くは、

(1) PIWI遺伝子の変異体の表現型を解析する
(2) piRNAの配列を次世代シーケンサで大量に決める

というものが多数派である、ということに気がつきました。

そして、ふと、修士1年生のときに自費で購入した「RNAi A GUIDE TO GENE SILENCING : edited by Greg. Hannon」の日本語版に記されていた、とある章を思い出したのです。
それが、第五章 「小さなRNAの大きな生物学 : RNAiの生化学的解析 (by Gregory J. Hannon and Philip D. Zamore)」でした。

この章には、RNAiという研究分野において、キイロショウジョウバエの胚抽出物、あるいはS2細胞をはじめとする培養細胞由来のタンパク質抽出物を用いたin vitroの生化学が、いかに大きな貢献をしたか、ということが魅力的に記述されていました。

さらに、当時お気に入りだったpiRNAに関するこのレビュー(piRNAs-- the ancient hunters of genome invaders: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17639076)は、こんなふうに締めくくられていました。

Genetic experiments and large-scale sequencing have been extremely informative, but the next breakthrough may well come from biochemical experiments that recapitulate the loading of Piwi subfamily proteins, and maybe even the biogenesis of piRNAs, in vitro.

確かにそうやな、と思いました。
逆に、どうして、そういう論文がたくさんでてこないのだろう?と感じたわけです。

カイコでもやっぱりそうでしたが、piRNAの発現は生殖巣にかなり特異的です。
モデル生物たるキイロショウジョウバエの生殖巣はカイコよりも全然小さくて、ガチ生化学には厳しそうだな、と感じました。
さらに、どうも、piRNA経路を発現しているような培養細胞がないらしい、ということを知りました。

つまり、in vitroの研究は絶対大事なのだけれども、それをやるのに良い材料がない、ということなんだな、という結論に達しました。

クドクド書いてきて、ようやく、このエントリのヤマにたどり着きました。
そう、うちの研究室はカイコの研究室で、卵巣由来の培養細胞であるBmN4という培養細胞が、とくに勝間ボスの専門であるバキュロウイルス絡みのプロジェクトで、普通に使われていたのです。
卵巣由来、卵巣由来、、、おお、卵巣由来!!!

スットコドッコイ、これ、BmN4細胞がpiRNA経路もっていれば、こんないい材料はないんじゃないか??

勝間ボスとそんな話になり、じゃ、BmN4細胞をきちんと調べてみよう、ということになりました。

.....

いろいろあって、結局、BmN4細胞は、piRNA経路の全てをもっているように見える、ということが分かりました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19460866)。
ここもさらっと書きましたが、PIWIタンパク質を認識する抗体を作ってみたり、免疫沈降物からpiRNAライブラリを作って次世代シーケンサで配列を決めて解析したり、、、piRNAラボなら普通なことでも、やるのはとても大変でした。
次世代シーケンサに由来するデータが、まさに「piRNA生合成」がBmN4細胞で起こっていることを示していると理解したときは、本当に興奮しました。
論文は、いろんな雑誌にふられふられて(昔からふられるのには慣れていたので別に、という感じでしたが)、レフェリーにはthis work is surprisingly incompleteとかいわれたりして、もうハチャメチャでしたが、苦難の果てに、ようやっと、piRNA研究の材料としてのBmN4細胞、を世に売り出すことができました。

書いてみると、この後僕が体験した進展は、少しずつ、少しずつ試行錯誤しながら研究をしたこの時期なくしては語れない、ということを改めて実感します。

さてさて、そんな感傷は置いといて、こんなかわいい愛着のある材料でも、うまく料理してやらねば、宝のもちぐされです。
どう料理したものか。

純粋にどんな科学的事実を明らかにしたか、という話として、おお!、となっていくのはまさにここからです。
そして、ここから先のお話は、みなさんご存知の泊さん、泊ラボとの出会いなくしては、語ることができないのです。

次回は、この運命的な出会いについて語りたいと思います。

つづく

3 comments:

  1. 身近なその辺の石ころが実は宝石の原石だったというのは良くあることなのかもしれません。寺山修司が書を捨てよ、街へ出よ、と言ったのはそういうことだったのか、などというのは明らかに言い過ぎですが、身近なものへの価値に気づくというのは、もしかすると新しい価値を創出するぐらい重要なことかもしれない。それが、「イノベーション」ってものなのでしょう。一般的にはイノベーションよりはインベンション(発明)やディスカバリー(発見)の方に価値が置かれがちですが、小さなことからコツコツと(古!!)、というきよしさんの言葉は、僕は大好きです。

    中川

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  2. そうですね!!
    ただ、まだ、BmN4=宝石、となるほどには盛り上がっていなくて、もっと使う人が増えて、さまざまに料理されてほしい、といつも思っています。

    河岡

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  3. 小さなことからコツコツと、というのは西川きよしが出典だったんですね。それはともかく、手近な材料の中にも大事な真理が隠されているのというのはその通りだと思います。彫刻家は彫るのではなくて、そこにはじめからある形を取り出すのだといいます。研究者も似たようなものでしょうか。

    影山裕二/岡崎統合バイオ

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