October 26, 2010

自己紹介(東大・勝間)

皆さん、こんにちは。
今年度から公募班に入れていただいた東大・農学部の勝間です。
理研の中川さんから「何でもいいから書いて」というメールをいただきましたので、簡単に自己紹介でも書かせていただきます。

たぶん、見た目が老けているので年を食っているように見えますが、昭和48年生まれの37歳です。同級生には、ホリエモンなど変わった奴らが多い学年です。東大農学部の今の研究室で修士まで過ごし、製薬会社の研究所で6年、京大薬学部で助手(COE)を一年半ほど勤め、今に至っています。

専門は、昆虫のウイルス学です。特にバキュロウイルスというよくタンパク質発現系に用いているウイルスを専門にしています。僕の恩師がベクターの開発者なので、その辺りには少し自負があります。もし、バキュロ発現系でお困りの点がありましたらご相談ください。ただ、実際興味を持っているのは、ウイルスによる宿主制御機構で、このウイルスが宿主の行動を制御しているメカニズムの解明を目指しています。ひょっとしたらncRNAが絡んでいるのでは、という結果もあるので、この領域の研究と少し絡んでくるかもしれません。

さて、本題ですが、この領域ではカイコのpiRNAと性決定について研究を行っています。班会議でお話しさせていただいた通り、カイコの性とpiRNAに何らかの関係があるのではと考え、研究を進めてきました。ひょんなことから、この研究が始まったのですが、皆さんご存知の河岡君の加入により、ブルドーザーのごとく開拓、急展開し現在に至っています。カイコは実験動物としては非モデルであり、遺伝子の出し入れなど困難を極めますが、ハエとマウスの中間ぐらいの大きさで生化学的実験には都合がいい輩ではないかと思っています。また、歴史的にもフィブロインcDNAのクローニングやカイコ細胞質多角体病ウイルスからのキャップ構造の発見など、この領域とも関係が深い存在かも、とも思います。少数部隊ですが、この2年間でできるだけ大きな発見をカイコという虫から見いだしたいと思っております。どうぞご指導のほど、よろしくお願いいたします。

勝間

October 20, 2010

(1) RiboClubから色々考えてみる

今更ながらカナダで行われたRiboClubの参加報告です。
「書いて」と仰せつかっていたのですが、仕事が遅くて本当にすみません。
タイミングをうかがっていたら、完全に機会を見失いました…。
学生の立場から一言叫びたいのですが、
舞台裏話ってさりげなく物凄いプレッシャーがかかりますね。。
「他にも面白いこと」って!「続きは後日。」って!!
データ出します、ひぃぃ!!って気分です…(苦しむのは多分これから…)

本題ですが、書き出してみたら大分長くなったので、前半と後半に分けます。

RiboClubはもともと、Sherbrooke大学の研究者たちが立ち上げた会のようです。
毎年一回、年会のようなものを開催しているようで、
今回参加させてもらったのがそれに当たります。
"Flavour of the year"という年ごとに変わる特集のようなものがあって
今年のトピックはlong non-coding RNAだったのでした。
あ、ちなみに、今回は初の海外学会参加で
学会外で繰り広げられた諸々のトラブルも凄まじかったのですが
(モントリオール逆走事件、オタワ空港で財布・携帯行方不明事件、など)
あくまで真面目に学会報告を書こうと思います。

まずは要旨集。RiboClubの要旨集は名前入りでした。



プログラムは、やはりカナダの大学の方が多かったですね。
中川さんも書かれていますが、発表者は若いPIの方が多かったです。
というか、学生の発表は特別枠を除いて皆無だったかも。

会場はこんなかんじ。公式ページから転載させていただいています↓



フロンティアミーティング参加記でも話題になっていましたが
学生からあまり質問が出なかった、という点はこちらも共通かもしれません。
参加者にはもちろん学生もたくさんいたのですが。
(ご飯の時、周りにいたのは大抵学生でした)
発表者はPIばかりだったので、うかつに発言できない雰囲気のせいもあったかも?
ただ、写真のとおり会場は平地だったので、カジュアルな雰囲気ではありました。

個人的に、海外の学会ってみんなガツガツしているんじゃないか、
という先入観があったのですが、そんなことはなかったです。
大学のときから「日本の学生はおとなしすぎる」という言葉を
繰り返し聞いていたので、これにはちょっとびっくりしましたね。
かくいう私も、マイクの前での質問は今回一度も出来ませんでした。
言語が切り替わると頭が働かなくなるのは本当にストレスです。
…ただ正直、諸悪の根源は、言葉の違いを言い訳にした
聞き手としての気合い不足と思います。いかん…。
2,3年前、Y山研のS々木さんが「次のセッションでの質問数で勝負しようか」と
びしばし鍛えてくれたのを思い出しました。
英語でもそれをやれば、ちょっとはマシになるかも…。
とにかく、発表を聞く際の本気の出し方が足りなかったな、と反省しています。

自分の研究の進め方と、人の研究に対して質問することって
相互作用し合うようなところがあるな、と最近しみじみ思います。
他人の研究に対して質問を生み出す思考回路を鍛えることは、
自分自身の研究の仕方の探求にもつながるような。逆もしかり。

そんな感じでRiboClub参加を終え、
再びのモントリオール空港で、チーズが山ほどかかった大量のナチョスを
中川さんと廣瀬さんに押しつけ(すみませんでした!)
逃げるように、なぜかイギリス/ヒースロー空港へと飛び立ったのでした。

(2)へつづく…

October 19, 2010

RNA焼き肉の集い

先週、泊研の数人(泊さん、Y田さん、T君と私)と本領域の鈴木健夫さんおよび鈴木研関係者数人で焼肉を食べにいきました。

焼肉ジャンボ本郷三丁目店。そのおいしさからY田さんの焼肉に対する考え方を変えたお店です。お店の雰囲気は想像していたものとは異なりかなり綺麗でした。21時から食べ始めたのにも関わらずお店は客でいっぱいでさすがは人気店という感じ。席に付きまずはビールで乾杯し、生レバー、ユッケ、キムチからいただきました。次に塩にいくかと思いきや、ここからたれ+ご飯。Y田さん曰くここの焼き肉はご飯と非常に相性がいいのだそうです。 ハラミや上ロースなど鉄板メニューもいただきましたが、ここのお店は通常はあまり出回らない希少部位も食べられます。トモ三角、ささみ、ミスジ、上(うわ)ミスジ、ザブトンどれもあまり聞き慣れない名前ですが とてもおいしく、新鮮で炙るぐらいで食べられました。お店の人からは「片面4秒4秒で焼いてください」とか「片面10秒、もう片面を15秒で焼いてください」などかなりハイレベルな技術指導を受けるのですが、さすが生化学、分子生物学をやっている人々の集まり、薄い大きな肉をトングと箸を使って破れやすいニトロセルロースメンブレンを扱うように丁寧かつ短時間でひっくり返していました。このお店で初めて出会ったのが「野原焼き」というメニュー。焼いたお肉を生卵に通し、すき焼き風に食べるという逸品です。そのおいしいこと!結局ビールを飲みつつ大ライス2杯も食べてしまいました。

焼き肉を食べると疲れを忘れ、とても愉快な気持ちになります。研究に疲れたら焼き肉を食べにいきましょう!



東大分生研 岩川

October 18, 2010

Xist研究の舞台裏(3)

論文に書いていることが全て再現出来る、というわけではないことは多くの人が経験から知っている事だとは思うのですが、ではなぜ再現出来ないかというと、腕が悪いか、論文に書いてあることがウソか、二つに一つです。最近では次世代シークエンサーを用いた解析の大インフレで、とてもじゃないけれども普通のラボでは追試できない、というのも出てくるようになったみたいですが。特殊な機械を用いないと解析できない実験はスーパーカミオカンデやら加速器やらの物理の世界の十八番だと思っていましたが、分子生物学の世界にも確実にそういう波は押し寄せているようです。スーパーコンピューターを用いたシュミレーション実験もバンバン出てくるようになれば、それらもその手の「検証不可能実験」になることでしょう。余談ながら、このスパコンの愛称は公募で「京」に決まったわけですが、実はトップは「れんほう」で次点は「にばん」だったけど、全員一致で審査員に却下されたとかいう根も葉もない噂がありました。個人的にはそっちの方が面白かったろうに、その方が色々な意味で注目を浴びたろうに、リケンも宣伝が下手だなあ、と思いますけれども。

話が横道にそれてしまいました。Xistに話を戻します。Xistはメス由来の細胞でX染色体を不活性化しているわけですが、この不活性化は発生初期の特定の時期にしか起きません。通常の培養細胞でXistを発現させてやっても、Xistは染色体に貼り付くことは出来るものの、不活性化を誘導することは出来ません。そこで、Xistの不活性化活性についての研究には、ES細胞の分化の系が使われています。つまり、メス由来のES細胞を分化誘導すると、初期発生で起きるX染色体の不活性化のプログラムが再現されるので、そこでいろいろアッセイが組める、というわけです。ところが、この実験がちっとも再現出来ない。論文では分化を誘導すると綺麗なX染色体が形成されているのですが、手持ちのES細胞を分化させても、うんともすんとも言わない。世界中でこの系が使われているわけですから、こちらの実験系に問題があるのは一目瞭然です。学生さんのYHさんは別の細胞を取り寄せたり培養条件を変えたり色々工夫してくれたのですが、せいぜいX染色体の不活性化が起きる割合は0.1%。これでは実験になりません。僕に出来るのはそっと部屋の片隅に塩をまくぐらいでしたが、当然ながら何の効果もありません。

そうこうしているうちにひと月が過ぎ、ふた月が過ぎ、季節は暑い夏から秋、そしていつの間にか分子生物学会を迎える季節になってしまいました。うーん、このプロジェクト、最初ですべての運を使い果たしたんかなあ、などと血を吐きながら実験をしている学生さんが聞いたら激怒しそうな軽口をたたいていた僕もさすがに焦ってきたころ、この学術領域の計画班にも入っておられる佐渡さんから「でしょー。ES細胞で不活性化Xなんて出来ないよねー。でもあいつら出来るっていってんだよねー。」という力強いコメントをもらいました。そうか、そうなのか。でもどうする。すると、「上手くいくっていってる細胞もらったら?オレ持ってないけど。」と、あっさり言われまして、何でそこに頭が行かなかったのだろうと、自分の頭ペンペンしたくなりました。Germ lineにまで落ちるといわれているES細胞を使ってるのだから、細胞は大丈夫、という発想が最初にあって、そこを疑うという発想が全くなかったわけです。考えてみれば、実験がどうしても上手くいかなかったら、細胞を疑え、これ鉄則です。

というわけで、論文でしか名前を知らなかったのですが、当時Xist関連の仕事を連発しておられたJeannie Leeさんに、酔った勢いで「どうやってもうまくいかないんです。うまくいく細胞(PGK 12.1)ください。助けて。おねがい。」とメールしたら、一時間も経たないうちに、「あらその細胞私のとこにはないわ。ニールが持ってるの。間違えちゃったのね。転送しておくわ、じゃね。」と、とても親切な返事が、、、ふつう依頼先を間違えるか!アホアホアホと自分の勘違いに顔から火が吹きましたが、気を取り直して、Neil Brockdorffさんに再依頼。無事細胞を送ってもらえることになりました。この細胞を使ってみたところが、あれほど作れなかった不活性化X染色体がピカピカに出来ているではありませんか。おお、Neil。まさに神。この9ヶ月は何だったのだろう、と思うと同時に、やはり実験系を「作る」ということの難しさ・大切さをしみじみと感じました。最初に系を作った人は、無条件に凄いと思います。ともすると、こういうことは忘れがちであるのですが。

そのほかにもいろいろエピソードはあるのですが、長くなるのでこのあたりでやめておきます。ちなみに、例のライブラリー、他にも当たりがあるかとYHさんは残りのすべてを丁寧に見てくれたのですが、結局Xistが散るのはhnRNP U、たった一つでした。一発ツモで親マンひいたみたいなもんですから、そうそう幸運が続くわけもありません。とはいえ、実は他にもいろいろ面白い事が分かってきまして、続きは後日。この新学術が続いているうちにまた論文にまとめられればよいのですが。。。

中川

October 14, 2010

「非コードRNA作用マシナリー」領域会議を終えて

今年度の領域会議が10/6-7に岡崎コンファレンスセンターで行われました。今回から公募研究で参加されている研究者の発表も行われ、大変活気のある、有意義な会となりました。世話人の影山さんをはじめとするスタッフの方々に心からお礼を申し上げます。

領域会議ということで、良く有る科研費の班会議のようなスタイルを予想していましたが、全くそんなことはなく、形式にとらわれないフランクな研究発表会となり、良かったと思います。特に若い学生さん達からの発言が多かったのが印象的です。懇親会、二次会も盛り上がりましたね。ただし評価委員の先生方が一番元気だったような・・・

この領域はメンバーの平均年齢が低く、領域全体の雰囲気がとても親密な感じで好感が持てます。(私が平均年齢を上げています。申し訳ございません。)この雰囲気をぜひ続けていきたいですね。そして、お互いに刺激し合って、良い仕事をどんどん世界に発信していきましょう! 私は有機化学者という、この領域では異色の存在ですが、異分野の交流が新しい研究のコンセプトを生み出す原動力であると確信しております。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

和田 猛(東京大学・新領域・メディカルゲノム専攻)

Xist研究の舞台裏(2)

結局の所、プロジェクトというのは手を動かせる人がいなくては成り立たないということを痛感していた頃、筑波大の入江さんのところで修士を取ったYHさん(ほとんど伏せ字にする意味なし)が2008年の4月からうちに来てくれることになりました。そこで、眠っていたsiRNAライブラリーにようやく出番が回ってきたわけです。彼女がラボに合流した瞬間から僕自身さんざ翻弄されたsiRNAのノックダウン実験が何故か突然上手くいくようになり、RNAはついに人を見るにまで進化したか、などと馬鹿なことを考えたりしていたわけですが、ライブラリースクリーニングを開始するにあたって、まずは可能性の高そうな物からやっていこうということになりました。一番明確な候補遺伝子は当時からX染色体に局在する事が示唆されていたhnRNPU、別名SAF-Aだったわけですが、それが文献上報告されたのが2003年。もし「あたり」ならばとっくに分かっているはずだし、誰かがもう何かをつかんでいるのならばいまさらやっても仕方がない。その辺の事情を確かめようと先述の淡路島のミーティングでディスカッションする機会のあった核マトリクスの専門家、岡山大学の筒井さんに問い合わせたところ、XistとSAF-Aの関連を示唆する結果が出たという噂も聞かないし、誰かがやっているという話も聞いたことはない、是非確かめてみたらいかがですか、というアドバイスをいただいて、よっしゃこれから確かめましょうということになり、結果は、、、

一発ツモ。

例えて言うならば、チベットの秘境にあると言われる幻の草本を探しに出かけようと万全の装備で出発したところが、目的の宝物が玄関先に転がっていた、みたいなものです。「人はラッキーと言うけれども、、、」というテーマでRNA若手の会で塩見(春)さんが講演をされていましたが、強靱な意志に裏打ちされた塩見さんの場合と違い、この場合ただ単にラッキーだったわけです。

とはいえ、hnRNPUをノックダウンするとXistが染色体からはがれる、というところまでは良かったのですが、このあと思わぬ苦労をすることになりました(続く)。

October 13, 2010

Xist研究の舞台裏(1)

先日影山さんの方から紹介がありました「蛋白質核酸酵素」の続編ウェブサイトに、当新学術領域からの最近の研究成果の紹介がアップされました。結婚式の披露宴はノロケが無条件に許される一生に一度の機会でありますが、研究成果が論文という形で世に出るのも結婚式ほどではないにせよそんなに当たり前なことではないので、いや本当は当たり前のことにしたいのですがなかなかそうはいかないのが実情ですし、このような公式(?)の場での宣伝をお許し下さい。

学生さんが書いてくれた研究紹介はこちら

研究の詳細はそちらのサイトを参考にしていただくとして、そもそもこの研究がどこから来たかということなのですが、時計の針を戻せば、2007年の年明け、淡路の夢舞台から三宮までのバスで、京大ウイルス研のO野さん(ほとんど伏せ字にする意味なし)と隣の席になったところまでさかのぼります。ちょうどその時細胞核関連の国際シンポジウムが淡路島でありまして、David Spectorさんやら(結局来ませんでしたが)、Tom Misteliさんやら、Ian Mattajさんやら、当時にわか勉強で核内RNAをかじり始めた人間からみてもとてもスマートな仕事をされておられた方々の名前がinvited speakerに並んでいるポスターを見かけて、前後を顧みず突撃モードで新規核内ノンコーディングRNA、Gomafuを引っさげてほとんど知り合いがいないであろうミーティングに参加申し込みをしてしまいました。その帰りのバスで隣の席に来られたO野さんが席に着くなり、

「中川くん、Gomafuだけやっとったら、あかんのちゃう?」

と、ニコリともせずに、いや、いつものあの満面の笑みを浮かべておっしゃったのですね。ストレートど真ん中。変化球無し。こういうコメントに腰を引いてはいけません。野茂と清原の真剣勝負になれば良いのですが手合いが違いすぎるので一方的に攻め込まれる展開になってしまいましたが、その時のディスカッションの結論は、

(1)ノンコーディングRNAだから面白いというのではダメ。機能が見えなければ面白くない。
(2)核内のRNAに興味があるのなら、生理機能が良く分かっているXistが良いモデルとなるはず。
(3)Xistの核内繋留、染色体局在を制御している因子は分かっていないから、それを同定したら面白い。

というわけで、バスが着くまでになんとか二人でひねり出した勝負手が、siRNAで候補となるRNA結合タンパク質を一つ一つたたいていったときの、XistならびにGomafuの局在を調べる、というプロジェクトでした。和光に戻ってから早速候補遺伝子のリスト作りに入ったのですが、当時大学院生だったソネ氏がPubmed Geneのテキスト検索からRNA結合タンパク質っぽいものを拾ってきて、僕はRRMドメインやらKHドメインやらでBlast検索かけて引っかかってくる物を集めて、それらのリストを合わせたら大体500ぐらいあがってきました。ちなみに、Blastは結構時間がかかったのですが、結局ソネ氏のテキスト検索でほとんどカバーできていました。。。その中からリボゾーム関連タンパク質やsnRNPsの構成分子を捨てて、Y染色体にしかないものや特定の細胞だけでしか発現していない物を捨てて、残ってきたのが300ぐらい。Ambionにいろいろ交渉して値切りに値切って買える限界がプレート2枚分、176遺伝子分だったので、さらに絞り込みをしなくてはなりません。そこで、僕の大学院時代の先輩で、現Duke大学の松波さんが嗅覚受容体のシャペロンを同定したときにおっしゃっていた「もともと発現量が多いタンパク質の制御に関わる物は、発現量が多いはず」という、何とも拍子抜けな、しかしながら合理的な松波さんらしい力強い断言を思い出しまして、XistだってGomafuだって発現量は半端でなく多いのだから、候補リストの中から発現量の多いものから順に選べばよいだろう、ということになりました。ライブラリーを注文したのが3月。届いたのが4月。しかしながらそこからえらく足踏みをしてしまうことになります。ライブラリーを買うだけ買ったはよいけれども、スクリーニングする人がいない。何事も片手間にやるのは良くないことで、僕自身ちょっと手を動かしてみたのですが、そもそもsiRNAによるノックダウンが上手くいかない(ヘタクソなだけ)。というわけで、果報は寝て待て、ではないのですが、じっくりこのプロジェクトに取りかかれる人が現れるまで、ライブラリーにはしばらくフリーザーで寝てもらうことにしました(続く)。

October 10, 2010

CSHLミーティングレポート

 まずは感謝です。今回、領域様のサポートを受け海外の学会に参加することができました。非常にありがたく思っております。参加したのは『Translational Control』で、その名の通り翻訳屋さん達が中心となった集まりです。今年はアメリカのCold Spring Harbor Laboratory (CSHL)で開催されました。本当は、面白かったトークの内容など色々な研究の内容が書き込まれるべきなのでしょうが、如何せん自分の英語力は。。。。その辺は勘弁して頂きたいのです。そして、自身の発表(ポスターでした。)についてですが、何とか内容も説明できたと思います。きちんと言いたい事が伝えられているかは不安でしたが、面白い、すごい、などと色々な国の人々に言ってもらえるのはすごく励みになり、充実した時間を過ごすことができました。しかも、今までに日本人には指摘されたことのないような所も突つかれ非常に勉強になりました。やはり異文化コミュニケーションは必要だと感じました。

 話はがらっと変わりますが、CSHLのごはん、、、おいしいとは言えないです。二年前に一度行ったことがあり知っていたのですが、やはりおいしくなかったです。しかし今回は、その衝撃に耐えることができました。なぜなら同行していた藤原さんに炊飯器を持って来ていただき、自分は生米を持参し、毎日ほかほかごはんです。ということで、このほかほかごはんが今回のミーティングでの一番の思い出になってしまいました。すみません。

神戸大学 深尾亜喜良

October 5, 2010

RNAフロンティアミーティング2010への参加と感想

よく考えると私はマスター1年の時にRNA研究を始めてから毎年RNAフロンティアミーティングへ参加している。今年で5回目にもなる。いわば極度のリピーターだ。それはRNAフロンティアミーティングに多大な魅力があるからだと言える。

第一に、RNAフロンティアミーティングでは先生と学生の距離が近いということだ。学会で講演される一流の研究者の方々とゼロ距離で交流できることは研究者を志す学生にとってまたとない機会であると言えよう。

第二に、研究者を志す学生が多く、そして意欲に満ちていることだ。学生同士の熱い議論はお互いの研究能力を向上させ、さらなる意欲を生む。また、私が実際得たものとして、同世代の研究者を志す仲間である。とくに博士まで進学するとひしひしと感じるが、研究者は孤独を抱えてしまう。同じ境遇で似た分野である仲間の存在が今の私を勇気付けてくれたと強く感じている。

今年もこのような機会を与えて下さった世話人の方々に深く感謝しつつ、来年再来年とこれからも関わっていきたいと私は考える。関係者のみなさま今年もありがとうございました。来年も楽しみにしております。

名古屋大学大学院理学研究科 池田幸樹

RNAフロンティアミーティング2010

少々遅くなりましたが、RNAフロンティアミーティング2010が無事に終了しましたので報告致します。
今回、北は北海道から南は熊本まで、そして海外からはドイツのMax Planck Instituteと米国バージニア大学からも参加者がありました。また、企業に所属される研究者も参加され、総勢69名の大変活発な研究会でした。恒例の特別講演では、慶應義塾大学の塩見春彦先生、九州大学の中山敬一先生の大変示唆に富む話を伺い、学生・ポスドクのみならずPIの方々もミーティングを楽しんでいただけた事を大変嬉しく思います。塩見先生、中山先生のご講演のポイントの一つとして、いずれの先生も今後の研究の方向性として、定量的生物学の重要性を指摘されていたのは大変印象深かったことです。
サイエンス以外でも皆さん活発に活動され、二日目の自由討論の時間を利用して、スポーツ(卓球、フットサル、ゴルフ、バスケなど)を堪能していました。また、近場の温泉を堪能されるグループもあり、交流を深めることができたようです。二日目夜には「花火」も行いましたが、皆さん、童心に返って楽しまれていました。私自身もずいぶんと童心に戻ってしまっていました。その後も、夜更け(夜明け?)まで討論・交流が続いたのは言うまでもありません。
最終日のベストプレゼンテーション賞では、学生部門で東大の木村聡さん(最優秀)、理研の石田真由美さん、東大の中條岳志さん、熊大の黒木優太郎さんの4名が受賞しました。ポスドク部門では、東大の谷英典さん(最優秀)が受賞しています。受賞を逃した発表の中にも、大変優秀なものがあり、実力伯仲でしたので、今回受賞を逃した方々も、次回に向けて是非とも頑張ってください。現在はミーティングのホームページに集合写真を掲載していますが、近日中にミーティングを撮影した写真をダウンロードできるようにしますので、楽しみにお待ち下さい。
最後に、今回のミーティングが無事に開催できたのは、本新学術領域を含めて多くの方々のサポートによるものです。心より御礼申し上げると共に、援助してくださった方々の期待に応えるべく、今後とも皆でRNA研究を盛り上げましょう!

RNAフロンティアミーティング2010
世話人
秋光信佳

Journal Club

Translational repression by deadenylases.
Cooke A , Prigge A , Wickens M
Journal of Biological Chemistry. 2010 Sep 10;285(37):28506-13.


本論文はデアニレースがploy(A)分解とは別に、翻訳抑制を引き起こすことを初めて示したものです。デアニレースとしてはCCR4-CAF1-NOT複合体、PAN2-PAN3複合体、PARNが知られています。今回はCCR4-CAF1-NOT複合体の一員でRNaseD familyに属するCAF1が翻訳抑制することがわかりました。

著者らはゼノパス未受精卵へのインジェクション系を用いて、標的RNAとCAF1をMS2-tagにより直接結合させた際の標的RNAの挙動について解析しています。
予想されるように、CAF1を作用させるとpoly(A)分解と翻訳効率の低下が観察されます。
一方、poly(A)を持たない標的RNAを用いた場合には、CAF1が標的mRNAの安定性を変化させずに翻訳効率を低下させる現象が見られました。また、poly(A)分解活性を損なった変異型CAF1を作用させた場合にも翻訳効率が低下することから、CAF1はpoly(A)分解とは独立に翻訳抑制を行うことが示されました。
さらに、標的RNAの5’末端G-capをA-capに置換した場合や、cap認識をスキップするIRES付き標的RNAを用いると翻訳抑制が見られないことから、CAF1がcap認識段階周辺に作用していることが示唆されました。

今後の課題はより詳細な作用機構を明らかにすることです。特に、CAF1の翻訳抑制作用ドメインの特定、CAF1相互作用因子の関与の有無、生体内における実際の寄与について慎重に見極める必要があります。また、miRNAによる翻訳抑制に関与するかについては、それを支持するデーターも否定するデーターも無い現状であり、今後十分に検討していくことが必要です。

October 4, 2010

ミーティングレポート

9月27日から29日まで、富士山麓で開催されたRNAフロンティアミーティングに参加してきました。

実は私は卒論修論の発表以外での口頭発表の経験がなく、今回が初めて、と言ってよい状況でした。(フロンティアミーティングの参加自体も初めてです。)えらく緊張して会場へ向かい、まさかのトップバッターと知って驚愕し、暗澹たる思いで発表を始めたのですが、まぁ思ったよりは何とかなった、と自己評価しています。練習よりは上手くいったので良しとしましょう。質問・コメント等も大変参考になりましたし、色々と反省点も見つかったので、この先へ生かしていきたいものです。
それはそれとして、発表者には修士や学部の学生も少なからずいて、彼ら彼女らにとっても良い経験になったんじゃないかな、と思います。大きな学会だとなかなか口頭発表なんてできませんし、経験を積む場としてフロンティアミーティングは最適だったのではないでしょうか。D2になるまで口頭発表の経験がなかった私には羨ましい限りです。発表内容も非常に多岐にわたっており、RNAがいかに沢山の生命現象に関わっているか、ということをそのまま体現しているように思いました。普段small RNAを中心にnon-cording RNAの話題にばかり触れている身としては大変刺激的で、もっと視野を広く持たねばならん、と一人反省していました。
残念だったのは(自戒も込めて、ですが)学生による質問が少なかったことでしょうか。勿論先生方の質問・コメントはどれもハイレベルで、聞いているだけでも大変勉強にはなります。しかしせっかくの若手中心の会なので、(秋光先生も仰っていたように)先生方に勝る勢いで学生が質問する、というのが理想形かと思います。私自身も何度かは質問に立たせてもらったのですが、質・量共にまだまだ不十分で、精進せねば、と思う次第です。質はとりあえず量をこなしていけばついてくるかな、なんて…
発表にとどまらず、温泉・スポーツ・懇親会・深夜まで続く飲み会(二日目は徹夜…)と、これでもかと言うくらいに交流できたのも非常に有意義でした。全国から集まった若手研究者(しかも同業者!)達とのつながりは、これからの人生の中で大きな財産となると思います。来年以降も参加して、より強い結びつきにしていきたいものです。

その他の心残りは富士山を一度も見なかったことと、鰻を食べ忘れたことでしょうか。不覚…

最後になりましたが、今回のミーティングの開催に関わった皆様、支援していただいた皆様に深く感謝いたします。ありがとうございました。

東京大学分子細胞生物学研究所 包 明久

October 2, 2010

ミーティングリポート

僕がRNAフロンティアミーティングに参加するのは今回が初めてでした。当日まで、どのような会なのかすら把握していませんでした。しかも、口頭発表のプログラムが当日まで公開されなかったこともあり、とても緊張していたのを覚えています。でも、終わった後の印象は、非常に有意義で、次回も是非参加したい、と感じさせてくれるものでした。
僕の研究テーマは、プロモーター領域から転写されるncRNAの種間差についてで、small RNAやスプライシング等をメインに研究をしている方が多い中、少しアウェイ感を感じていました。初日のセッションを聴きながら、自分の発表に興味を持ってくれる人はどれくらいいるのか不安でしたが、自分の発表では、皆に興味を持ってもらい、その後の質疑応答では鋭い質問やコメントばかりで、とても嬉しかったのを覚えています。他の方々の発表も独創的で面白いものが多く、RNA研究の奥深さとその面白さを再発見しました。
一日目は夕食後に、塩見春彦教授と中山敬一教授の特別講演があり、世界トップクラスの研究者の話が聴けることにワクワクしていました。話の内容はここに書けないほど濃いものであり、また、想像以上に楽しいものでした。塩見教授のお話では、自分のスタイルを確立することの重要性、中山教授のお話では、時代を引っ張っていこうとする熱意に感銘を受けました。塩見教授とは飲み会の席でも、一緒にお話をさせていただき、いろいろ勉強させてもらいました。
プログラム上は、自由討論は23時半で終わりですが、飲み会は終わるわけがありません。場所を男子学生の部屋の前に移し、盛り上りました(翌日発表がある人もいるのに)。僕はM1のひよっこなので、日本各地の優秀なドクターの先輩やポスドクの方々のリアルな話ができるこの時間が大好きです。知らない人ばかりでしたが、積極的に絡みに行き、沢山の収穫を得ました。二日目の午後の温泉やスポーツ、その後の飲み会等で、色々な考えを持つ研究者と非常に近い距離で話す機会が持てました。
この会を一言で表すと「濃密」でした。ここで得た沢山の事はこれからの研究において、プラスになると確信しています。来年の国際RNA学会やRNAフロンティアミーティングでここで会った方々に再び会えることを楽しみにしています。
最後に、このRNAフロンティアミーティングに参加させていただいたことを、関係者の方々に感謝いたします。ありがとうございました。

京都大学大学院理学研究科 上坂将弘

October 1, 2010

RNAフロンティアミーティング2010を終えて

 “RNA”をキーワードに、今年も多くの若手研究者がRNAフロンティアミーティングに集まりました。今回のミーティングには、初めての参加という人が多く、3年連続でこのミーティングに参加している私にとっては、これまでとは雰囲気の異なる会となりました。しかし、メンバーが変わっても、“RNA研究に対する熱い思い”を誰もが持っているという点では変わらないということは、ミーティングでの討論や交流会を通じてよくわかりました。自分たちの研究について互いに意見交換しているときのみんなの顔は、とても生き生きとしていました。
 “RNA”と一言でいっても、様々な研究分野に分かれます。small RNAやlong noncoding RNAを研究する人、クロマチンを研究する人、スプライシングや翻訳、安定性、局在を研究する人。これだけを見ても、いかにRNAが多様性を有しているかがわかります。そして、このミーティングに集まった人たちは、このようなRNAの魅力に引きつけられた人たちなのではないかと思います。近年のRNA研究で私が特に面白いと思う点は、未だ明らかにされていないRNAの発現制御や機能などを見出すために、様々な新しいアイディアを提唱し、様々な手法を利用することによって新たな発見を積み重ねていることです。概念的に新しいことが次々と報告されているのは、近年は特にRNAの分野が目立って多いのではないかと私は感じています。今回のミーティングでも、small RNAの発現機構や、分解メカニズム、RNAと結合するタンパク質の構造およびその機能解析などについて、新しくこんなことが言えるのではないかという、ユニークな考えを提唱する発表が多かったように思いました。研究者に重要な発想の豊かさを鍛える上でも、RNAの研究は非常に重要だと改めて感じました。
 RNAの発現異常や機能異常などが、がんなどの重大な疾患に関わることは、近年多く報告されています。従って、私たちが行っているRNA研究は、そのような疾患解明のためにも必要不可欠な基礎研究と言えると私は思います。今回のミーティングで議論したことが、RNA研究としての成果のみならず、将来の疾患解明に役立てられなければなりません。
 また、今回参加した若手研究者にとっては、このミーティングで発表し、議論して考え、習得したことが、今後の研究者人生の土台となると思います。ただ、今回の口頭発表における討論では、学生同士の議論がやや少なかった点は反省すべき点であると思いますが、そのような反省も踏まえ、このミーティングで勉強したこと、経験したことを活かし、今後の新たな発見に貢献したいと私は思います。
 最後に、私たち若手研究者のために、発表および討論する機会を与えて下さいました、東京大学秋光信佳先生、慶應義塾大学齋藤都暁先生をはじめ、多くの先生方に感謝申し上げます。そして、「非コードRNA作用マシナリー」をはじめとする後援の方々に深く感謝致します。

東京大学アイソトープ総合センター 田埜 慶子