October 11, 2012

Webのパワー

 一昔前はディスカッションの際に「Webにのってたんですけどー」などと学生さんが言おうものなら気の荒い助手の先生など回し蹴りなどお見舞いしていたものですが、このごろではWikipediaも「どうでも良い事は何でも分かる」というレベルをクリアして、むしろ下手な講義を聴くよりもよっぽど手っ取り早く知りたい知識にたどり着けるぐらいまで充実してきた感があります。いろいろ複雑な思いはありますが、LNCipediaなんてものまで登場してきました。ちょっとまえにここでも紹介したlncRNA databaseよりはよりlincRNAに焦点を絞ったサイトのような気がしますが、こういうのが出てくるところを見ると世も末、、、なんて言わずむしろ積極的に利用しなくてはいけないのかな、などと思ったりもします。

 いわゆるベンチで手を動かす仕事でなくコンピューターを前にしてやる仕事の場合、特にWebとの相性は良いのかもしれません。研究者というのは、よっぽど偏屈な人でない限り、基本的に自分の持っている技術なり知識を他の人に伝えたくてうずうずしている人種だと思うのですが(実験系のラボにいる若い学生さんたちは何か伝えたくてうずうずしている先輩連が周囲にごろごろいるはずですから、そういう人たちをそっとしておくなんていう残酷な事をしないよう!)、残念な事にベンチで手を動かす実験というのは真横で見てもらわないと、伝えようにも伝えられないという空間的な制約があります。それに比べ、データの加工なりダウンロードのちょっとしたコツなどは、ホームページなりブログなり、近頃ではTwitterなりで結構エッセンスのところが伝わったりする訳です。先日も、手持ちのRefseqのリストをAffymetrixのProbe IDのリストに変換できないかなあ、と思い、エクセルのファイルをDgetやらなんやら見知らぬ関数を使ってえっちらこっちらいじっていたのですが(それもちょっと困ったらGoogle窓口に問い合わせにいきながら)、何の事は無い。 e!Ensemblなるページからから入ってBioMartなるサイトに行けば、一気に解決。しかもご丁寧に、「使い倒し系チャンネル」なんていう動画解説サイトまであるのですね。あちこちクリッククリックしていればなんとなく使えるようになっている。データのダウンロードがちんたらしていたらちょっとYahooのニュースも覗いてみたり。結構楽しかったりして。黒田、すごい!!この回も三者凡退か!とか。

 RNAseqなどのデータの解析も、こういうサイトなり動画を見ていたりしていると、実際はいろいろ難しいのでしょうが、なんだかやれそうな気にもなってきます。プロになろうとすると、つまり、自分でブログラムを書いたり統合データーベースサイトを作ったりするとなるとそれはそれで大変なのでしょうが。実を言うと40を越えてから新しいテクノロジーに触れるのがだんだん面倒くさくなってきたのですが、昨日だったか、いつも悲観的で後ろ向きな記事しか載せず、昔は良かった、今の政治の劣化は何だ、角栄はやっぱり偉かった、ぐらいしか書けない某新聞の社説欄に、いったん40で人生リセットしましょうよ、ずっと同じ事をしていたら長い人生つまらんでしょう、という40歳定年論を唱える人のすごく前向きな記事が載っていて、えらく刺激を受けてしまいました。ほとんどままごとみたいなレベルでも、ベンチの実験屋がWebを使い倒すことを覚えれば、それはそれなりに強力なアイテムになるのかもしれません。それ以前に、ままごとのような質問でバイオインフォの専門家の貴重な時間を削るような迷惑行為を減らせるかもしれない。。。

 そういえば、Genome Researchの特集号で、Encodeプロジェクトの最新の成果がまとめられています。このブログでも取り上げようと思っていたのですが、若い人たちはさすがで、独自に勉強会を開いていて、それなりのまとめがTwitterの#encodejpで拾えるようです。つぎゃるとかいう言葉、初めて知りました。Togetterのページはとりあえずマメ知識を拾うにはなかなかすばらしいです。Webで共有できる知識ならばそこで共有してしまおう。そうでない知識は顔と顔を突き合わせて醸成していこう、そういうスタイルがあたりまえになりつつあるのかもしれません。

中川

October 9, 2012

山中さんのノーベル賞

山中さんが、といいますか山中先生がノーベル賞を受賞されました。生命科学を生業としている人全てにとって、オリンピック開催地が決定したようなfeeling goodの朗報なのではないでしょうか。

その一方で、クソ、俺はまだノーベル賞とれるようなネタつかんでないぜいーっ!負けてたまるか(誰に勝つの?というツッコミはおいといて)、というような感情を持たれた方も、生命科学の業界の中の人には多いのではないでしょうか。いえいえ私なぞはとてもとても、表では言いつつ、裏では研究者は渦巻く野心と根拠の無い自信を持っているものですから。良い意味で。

また、個人的にそうそう!と思ったのは、理研のホームページにもあった利根川さん、といいますか利根川先生のコメントでした。第二第三の山中さんを作るために必要なのは大型プロジェクではなく、二人か三人でこじんまりとやっている基礎研究なのではないか、というような趣旨のコメントですね。こじんまり、とはいっても、バキバキやろうと思ったら一つの研究室あたり、年間、一千万円ぐらいは必要でしょうから、日常感覚で行くと浮世離れしたところで研究をさせてもらっているのだなあというのは、そう思います。ともあれ、幹細胞とか、エピジェネティックスとか、「山中以前」に分かっていたメカニズムだけでもいろいろ複雑ですし、多能性幹細胞をリプログラムで作るなどそう簡単にできるわけ無いだろうと、多分その道の専門家は思っていたのだと思いますが、ごちゃごちゃした議論を全て吹き飛ばしたのが奈良先端の小部屋で数人で行った手作業だったというのは、実に痛快な話です。

ともあれ、iPSの仕事とは当新学術領域の研究は分野も興味も方向性も違いますが、素直に祝福するより、クソっ!負けてたまるか!(研究とは勝ち負けではないでしょう、というツッコミはおいといて)、という気持ちで目の前の実験に取りかからなくてはいけないな、と思っています。ついつい科研費申請のこのシーズン、書類書きに忙殺されていますよーという言い訳をしながら現実逃避に走りがちです。デスクを離れて現場に戻ろう、と。

中川