July 13, 2011

カイコドラマチック(5)

こんばんは、河岡です。
若干途切れてしまいました。
見る人が見たら、これを書く時間があるなら論文を早くしろ、と言われそうですが、論文より大事なことだってあるのです。
全編通してそうですが、より分かり易いエントリを目指して、明らかになったことの時系列が前後している場合があることをご了承ください。
こんなふうにすんなりすべてがうまくいったらしあわせです(つまらないかも)。

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かくして、この手でpiRNAをつくるべく、生化学の実験がスタートしました。
まずはともあれ、タンパク質抽出物(以下ライセート)を作って、系を構築することになります。
まさにこれが要のステップであり、御大将、泊さんに最初に言われたことが深く印象に残っています。

「それこそ、ライセートの作り方から検討しなきゃいけないねえ」

一通りの分子生物学実験は勝間ボスに仕込まれていたものの、そういうことはやったことが(考えたことが)ありませんでした。
すなわち、キットか、論文か、そういうリファレンスに、こうやるとうまくいくで、と書いてあることをやっていたことがほとんどだったわけです。
そもそも、やりたいことをやるのにそれでじゅうぶんでした。
確かに、どうやってできるか分かっていないものを作ろう、というのですから、その材料たるライセートの作り方を検討する、というのは至極もっともだな、と納得したわけです。

ところが、僕は相当のめんどくさがりで、いわゆるハードワーカーでもありません。
そこで、いまや好敵手であり心友という、まさにジャンプ的な関係だと勝手に思っているいわさきさんがいつもやっている方法をならって、常法にてライセートを調製し、それでまずは遊んでみることにしました。

話はそれますが、僕といわさきさんの会話は、ときにシリアス (15%)、ときに高尚 (2%)、ほとんど漫才 (83%)、という内容で、(あの)よださんにあきれられるくらいで、一緒に実験していると、口ばっかり動いてしまいます。
そのせいで(?)起こした事件は数知れず、セミドライのブロッタを落として破壊したり、ウェットのブロッタを高熱にさらしてしまったり、、、思い出せばきりがありません。
実験室にひとあらば必ず口が動くのが僕なのですが、事件が起きるのはいわさきさんspecificなので、お互いに何かあるのだと考察しています。

さて、とにかく最初につくったライセート、いちおう、FlagタグをくっつけたカイコのPIWI、Siwiは、そのなかで心地よく過ごしているようでした。

ちょっとバックグラウンドを書かなければなりません。
piRNAの生合成経路はとにかく不明な点だらけなのですが、2007年に、ひとたびpiRNA複合体ができると、piRNA複合体による標的の切断を通して新しいpiRNAがどんどんできる、という、Ping-pong modelと呼ばれる魅力的なモデルがSiomi lab、そしてHannon labから発表されています。
が、「最初のpiRNA複合体」がどうやってできるか、という情報はほとんどありませんでした。

このことを考えるにあたって使えそうだった情報は以下のふたつ。

1) 二本鎖RNAからつくられるsiRNAやmiRNAとちがって、piRNAは一本鎖RNAからつくられる
2) ある種のPIWIは1番目の塩基がU (1U)であるRNAに好んで結合する

これだけです。
カイコの場合、Siwiは1Uが好きで、BmAgo3はそうではない、ということが、deep sequencingの結果から分かっていました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19460866)。

というわけで、まず最初に、一本鎖のRNAをライセートにまぜるとSiwiとくっつくのかどうか、そして、1U RNAが好き、ということを再現できるのか、ということを試しました。

すると、確かに、生化学的にもSiwiは1U RNAが好きで、BmAgo3はそうではない、ということが分かりました。
生体内で起こっていることを生化学的に再現できるというのは美しいものです。
またまた話がそれるのですが、現泊研のささきさんが、「僕がタンパク質だったら、よほどちゃんと教えてくれないと1Uが好きとか分からない」みたいなことを言っていて、やけに納得したのを覚えています。

なにはともあれ、これで一歩前進です。

上述の通り、

1) siRNAやmiRNAとちがって、piRNAの前駆体は一本鎖RNAである

わけです。

一本鎖のRNAから成熟型のpiRNAができる、という反応は、「両端をどうやって決めるか」、ということに他なりません。
成熟型のpiRNAの5'側がどう決まるか、ということに関しては、シンプルに、Siwiが1Uを好きだから、ということによって説明できそうです。

3'側はどうでしょう?
Deep sequencingのデータをよく見てみると、piRNAの3'側は非常にヘテロ、すなわち、同じ5'末端でありながら、3'側の長さが異なるものがたくさんある、ということが分かります。
5'側は1Uでかっちり決まっているようにみえるのに、3'側は適当に決まっているようにみえたのです。

このことから、つぎのような作業仮説を立てました。

「まず、成熟型のpiRNAよりも長い、1UのRNAがSiwiにくっついて、しかるのちに3'側が削られる」

1U好き実験で使っていたRNAの長さは、成熟型piRNAを模した26塩基でした。
そこで、オリゴの値段と相談しつつ、適当に、1Uで50塩基のRNAを使って、上記仮説を検証してみることにしました。

つづく

4 comments:

  1. コメントをつけないと先に進まないということは七ならべみたいなことも出来るということですね。

    冗談はともかく、河岡君の日々のlogical flowが良くわかって、とても興味深く読んでいます。細かいステップを何十、何百と積み重ねて最終的な論文になる訳ですが、そういうプロセスはなかなか見えてきませんからね。

    中川

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  2. 七ならべ、何のことでしょうか?

    続編、いましばらくお待ちください。
    現在、元気が不足しています(笑)。

    河岡

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  3. 続編お待ちしております。

    影山裕二

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  4. コメントありがとうございます!
    これからアップします!

    河岡

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