こんばんは、河岡です。
さすがに書くほうもマンネリ化してきていますが、いつもコメントをくださる中川さん、影山さん、ありがとうございます。
続編を催促してくれた中條くん、キャッチャー木村くん、Dicerつつみくん、あたりがきっといつかコメントをくれる、そう信じての第9話です。
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in vitro編で簡単に説明しましたが、piRNAの生合成に関しては、Siomi lab、そしてHannon labから提示されたモデルが有名です。
そのモデルでは、ひとたびpiRNA複合体がつくられると、「最初のpiRNA複合体」は標的RNAを切断し、その切断反応によって「新しいpiRNA複合体」がつくられます(in vitro編ではまさに、「最初のpiRNA複合体」がつくられるしくみを明らかにしたわけです)。
つまり、piRNA複合体による切断反応に依存してpiRNAがつくられる、というモデルであり、これはping-pong model、あるいはping-pong amplification loopなどと呼ばれています。
これは必ずしも正確ではありませんが、「最初のpiRNA複合体」に含まれるpiRNAは「トランスポゾンをやっつけるためのpiRNA」であり、それによって切断されてできる「新しいpiRNA複合体」に含まれるpiRNAは、「やっつけられたトランスポゾンの残骸」、と理解すると、今回のお話は分かり易くなります。
さて、生体における「最初のpiRNA複合体」は、まったく別の視点から定義することができます。
じつは、カイコ、ショウジョウバエの卵には、母親から受け継がれたpiRNA複合体が含まれているのです。
人生、もとい、虫生を通してみたときには、
「最初のpiRNA複合体」=「母性的に受け継がれたpiRNA複合体」
ということになります。
さて、カイコの胚発生を通したpiRNAプロファイリングの結果についてです(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21628432)。
カイコの受精後0時間の卵に由来するpiRNAを調べてみると、その殆どが「トランスポゾンをやっつけるためのpiRNA」であることが分かりました。
カイコの受精後0時間から、その個体ではじめて転写が起こるまでの6時間のあいだでは、piRNAの組成はまるっきり変わらず、「新しいpiRNA複合体」がつくられている様子は認められませんでした。
ところが、面白いことに、受精後12-24時間になると、急に一群のpiRNAが増えてくるのです。
調べてみると、その一群のpiRNAは、ある種のいくつかのトランスポゾンに由来するもので、まさに、「やっつけられたトランスポゾンの残骸」タイプのpiRNAたちでした。
よくよく調べてみると、これらのpiRNAがまさに切断反応によってつくられたものである、ということが分かりました。
これはまさに、生体でpiRNAがつくられていくさまを、タイムコースに従って観察できた、ということになり、これまで提唱されていたモデルが生体で起こっていることを強力に支持します。
さて、なぜ決まった時間に「やっつけられたトランスポゾンの残骸」タイプのpiRNAができてくるのでしょうか?
その答えはかなりシンプルで、一群のトランスポゾンの発現が、受精後12-24時間で活性化する、というものでした。
やっつけられるために発現しているようなものです。
さてさて、piRNA生合成ではなく、トランスポゾンをやっつける、という観点からみると、この研究はこうまとめることもできます。
母性的に受け継がれた「トランスポゾンをやっつけるためのpiRNA」は、子のゲノムから新規なトランスポゾンの発現が起こるのをじっと「待って」いて、トランスポゾンが出てくるや否や、そいつらをずたずたにしている。
免疫みたいですね。
母は偉大なり。
子のゲノムから新規に発現してきたトランスポゾンに対するpiRNAが準備されていない場合にはいわゆる雑種不妊が起こります。
母性的に受け継がれるpiRNAと子ゲノムに含まれるトランスポゾン組成の関係が種分化の機構のひとつである、と考えるのはそう飛躍した話ではないでしょう。
もっとマニアックになりますが、タイムコースをとったこの実験から、ある時系列においてのみのプロファイリングで、あるトランスポゾンに由来するpiRNAの作られ方を論じることには危険がつきまとう、なんてことも言えます。
地味なお話ですが、カイコ生体の特徴を活かし、きちんとしたタイムコースをとって、piRNAがつくられていくさま、トランスポゾンがやっつけられていくさまを観察したこの論文、僕はお気に入りです。
(ちなみにこの論文、キイロショウジョウバエで観察されている現象がカイコでは観察されない、というパートも含んでいます。興味のある方はぜひご覧ください。)
次回は性染色体パートです。
(つづく)
いつも興味深く読ませてもらっています。
ReplyDelete読むほうは(少なくとも自分は)マンネリ化してませんよ!
同学年で違う研究室の人が活躍しているのを見ると、とても刺激を受けます。 追いつけ追い越せです。
中條 (鈴木研D3)