January 6, 2011

2011年はどんな年?

いよいよ2011年の幕開けです。今年は一体どんな年になるのでしょうか。

普通は年末に一年を振り返るものなのでしょうが、いまさらながら2010年という年を振り返ってみますと、まさにHITSの年だったような気がします。HITS、つまり次世代シークエンサーを用いた解析はRNA業界ですと2008年、2009年と立て続けにRobert Darnell研からでた報告されたHITS-CLIP論文(これとかこれとか)が記憶に新しいところですが、2010年は、この欄でも度々取り上げているJorh RinnとHoward Changのところから、怒濤のように論文が報告されました。

こちらはRinnラボの論文
Large intergenic non-coding RNA-RoR modulates reprogramming of human induced pluripotent stem cells.
Nat Genet. 2010 Dec;42(12):1113-7

A large intergenic noncoding RNA induced by p53 mediates global gene repression in the p53 response.
Cell. 2010 Aug 6;142(3):409-19.

Chromatin signature of embryonic pluripotency is established during genome activation.
Nature. 2010 Apr 8;464(7290):922-6. Epub 2010 Mar 24.

こちらはChangラボの論文
Long non-coding RNA HOTAIR reprograms chromatin state to promote cancer metastasis.
Nature. 2010 Apr 15;464(7291):1071-6.

Long noncoding RNA as modular scaffold of histone modification complexes.
Science. 2010 Aug 6;329(5992):689-93

Long non-coding RNA HOTAIR reprograms chromatin state to promote cancer metastasis.
Nature. 2010 Apr 15;464(7291):1071-6.

見ているだけで眩暈がしてくるようなpublication listですが、これら皆、次世代シークエンサーで長鎖のncRNAを見つけてきて、siRNAノックダウンでたたいて、もしくは強制発現をして、表現型をこれまた次世代シークエンサーで解析して、という良く言えば流れるような、悪く言えば変わり映えのない手順で解析が進められています。このあたり好き嫌いは結構分かれるところだと思うのですが、これから先しばらくは、このような順番でデーターが並んでいるとなんとなく安心する、そういう時代が続くのは間違いのないところでしょう。

これだけ毎月のように「凄い」雑誌に論文が載るって、一体何なんだろう?とか思ったりするわけですが、なんとなく既視感があるのですね。1990年代中頃、ちょうどショウジョウバエの相同分子をマウスで解析するとエラく面白い事が分かってくる、ということで世界中の分子発生生物学者が色めき立ったあの頃、WntとかShhとかいった遺伝子名が、毎週のようにCellだのNatureだのを賑わせていました(今でもまあそうですが、、、)。ほぼ時を同じくして、Netrin、Robo、Ephrinなど、いわゆる軸索ガイダンスに関わる分子が次々と見つかり、神経発生の謎はもうすぐ全貌が解明されるのではないか、という期待が一気に膨らんでいったのも懐かしく思い出されます。当時のMcMahon研、Tabin研、Goodman研、Tessier-Lavigne研、それこそ毎月、ビッグジャーナルとよばれるところに論文を出していたものです。いつだったかのミーティングでのMarcのトークは、イントロとまとめ以外全てCellの表紙のスライドだった、とかいう笑い話がありましたが、時代を作る人の爆発力、パワーは凄まじいものがあります。

既視感がある、というのは論文がマシンガンのように連発されるということもありますが、むしろその「わかりやすさ」にあるのだと思います。水戸黄門がここ何十年か全くスタイルを変えずにやってこれているのも、この「わかりやすさ」、安心感のおかげです。やっていること自体はそれほど学問的に難解というわけではない。シュレディンガー方程式がサッパリ分からない人でも十分理解可能。しかも、同じような研究の進め方で次々と面白い事が分かってくる。この面白さに関しては多分に共同幻想みたいなところもあるのですが、ベースとしている研究の進め方はどんどん定跡化されてきますから、もしかしたら自分も出来るかも知れない、という期待感も膨らむわけです。身近なサイエンス、身近な最先端。身近なアイドルAKB48が人気があるのも分かるような気がしてきます。

だいぶ話が脱線してきてしまいましたが、2010年、これは次世代シークエンサーによるncRNA解析の定跡が確立された年、として記憶されることになると思います。そして2011年。この新学術領域オリジナルの定跡、確立したいものです。

中川

ーー
ちなみに「既視感」、と言いましたが、1990年代と現在、ひとつだけ大きく違うところがあります。先述のようなビッグラボ、必ず日本人のポスドクがいたものです。帰国後国内でPIになっている方も沢山おられます。Changラボ、Rinnラボ、どちらも日本人のポスドクはいません。これについてはちょっと思うところがあるので又の機会に書き込みをしたいと思います。

No comments:

Post a Comment