January 20, 2011

RNA学会会長のメッセージ

海外留学の話題で盛り上がってきたところで、丁度タイムリーなRNA学会会長のメッセージが会報に載っています。このブログを読んでいる人がいるとしたらその人がRNA学会会員である確率は非常に高いとは思うのですが、あえてまたここに、再掲しておきたいと思います。この熱いメッセージを、あなたならどのように受け取りますか?学生さん、若手研究者、普通の研究者、既に功成り名を遂げた研究者、どんな人でもそれなりにもの思い、心動かされるのではないでしょうか、、、

中川

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巻頭言 「創造性、個別性、国際性、女性」

「知ること、発見すること、それを感動をもって知らせることは科学、芸術に共通した喜び。書かなければ発見したことになりません」というメッセージを残して昨年逝ってしまわれた多田富雄の『落葉隻語-ことばのかたみ』(青土社2010)の中に、石坂公成の言葉として以下のよう なことが語られています。

独創的な研究とは「誰もやらない研究」ではない。競争の激しい一流の主題は、それが万人にと って大切だからこそ人が集まるというものである。それを避けて競争の少ない主題に逃げると、 一生、落ち穂拾いのような研究しかできない。競争の激しいところに勇気をもって参加するアグレッシブさをもたなければならない。さらに、実験をやるときは、必ずうまく行くと思ってやれ。 どうなるかわからないと自分があやふやに思っていてはうまく行くはずがない。そして、最後は実験をやっているマウスを睨みつけろ。

また、同じ本の中で、多田は、独創性とは個人の顔が見えること、つまり、やり方がどこか他の人とは違うという個別性を生み出すことである、と言っています。さて、近年、新しい解析技術が次々に開発されてきています。次世代シーケンサーを含むこれら新しい技術は使わないと損です。新しい技術を使わないと新しい発見も新しいアイデアも出てきません。でも、ここで問われるのは、あなたならどのようにそれら新技術を使いますか?あなたの顔がみえるカタチでこれら新技術を使うことができますか?

独創的な研究を進めて行くためには、国際的であるということも重要な要素です。国際的であることとは、おそらく、自分の考えを言葉で伝える情熱をもつことだと思います。

「そこの中堅研究者、苦みばしった無口な高倉健のフリをしてる場合じゃないよ、国際社会にお いては、何も考えていない単なる馬鹿にみられますよ」 「ラボでiPodをイヤフォンで聞いている君、背中から“相互作用拒否”光線が出てますよ」

言葉が足りなくても判ってもらえると思うのは俳句文化に浸る日本人の考え方です。一流の国際的な研究者の多くはとてもおしゃべりです。私の好きな英単語に“obnoxious”というのがあります。 特に、若い人はおしゃべりでヤンチャで行儀が悪く生意気でobnoxious/‘イヤなヤツ’な存在(その上で可愛げがあると尚良い)になることが国際的であることへの具体的な近道であると思います。この6月に開催されるRNA2011Kyoto Meetingで試してみましょう。伝えようとする情熱があれば、そして「言葉を尽くさなくても、話し相手は含意とか言外の意味だとか行間だとかを讀み解いてくれるはず、だって彼らはPh.D.だもん」なんて丸投げの甘い考え方を放棄すれば、(ぎこちない英語で表現された)あなたの存在は国際的なものになるはずです。そして、さらに国際的になるための自己トレーニングとして、海外にどんどん出て行きましょう。

国際化を考えた場合、極めて重要なことは女性の活用です。民族の文化や伝統(よくしゃべる男より無口で静かな男になることを強要される文化とか)が色濃く染み付いている男性達に比べ、一般に女性は既に国際的です。たとえば、会話を楽しむことを知っています。

「そこの“女性”(“女流”?)研究者、そこのあなた、いつ定職を得られるかわからないこんな業界 ヤッテラレナイヨとか、ヤッパリ安定が一番さっさと就職しよーかなとか、30すぎてポスドクは きついとか、現在1万8千人もいると言われているポスドクの中から女神が私に微笑みかけると思えるほどノー天気じゃないしとか、それに見渡してみても全日本RNA業界には女性教授はほとんどいないし(1人?)とか、さらには、私のサポートで夫と子供が仕事と勉強に打ち込めればそれはそれで良い人生かもとか、そんなことを思い始めていませんか、降りることを考えていませんか」

「Don’t make assumptions about what your capabilities are. Just try it and see how it goes」(Joan Brugge, JCB 189:922-923, 2010) 「女性研究者が働くための理想的な環境整備をグズグズ待っていたら、すぐ年とっちゃうよ」 「あの旦那より君の方がよっぽど優秀じゃん、夫のサポートで思い切り仕事に打ち込める妻というのになったら、その方が収入も多いと思うよ」

パートナー(夫等)やボスや同僚、そして親やご近所や役所を「うまく使う(こき使う)方法」を見つけましょう。思い切ってobnoxious な存在になって、とにかく、一つずつ、試してみましょう。そして、降りずに踏みとどまる良い「やり方」を見つけてください。この研究はあなたでなければできないという必然性と個別性、そして(天からの)「要請の声」と「小さな頃からの夢」があるはずです。あなたが自己中心的に『要請の声』に反応し『夢』を追求することが、そして、あなたが降りないことが、ひいては日本の RNA および科学全般の発展と国際化の促進に必ずつながります。

2011年1月 塩見春彦

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