January 15, 2011

されど海外

中川さんから海外留学の話が出たので、僕も少し思うところを書いてみます。

実際、海外に出る若者が減ってきているというニュースはよく耳にします。先日、国際ヒューマンフロンティアサイエンスプログラム(HFSP)主催のミーティングがあり、そこでも日本からのポスドクフェローシップへの応募が減ってきていることが大きな話題(問題)になっていました。世界的には応募総数はどんどん増えているにも関わらず、です。HFSPは日本発案の制度の中では(珍しく?)国際的評価が非常に高いですが、一方で日本が半分近く出資していますから、このまま日本人の応募が減っていってしまうと、「事業仕分け」に引っかかるかもしれません。

一昔前に比べると日本の研究レベルも上がってきていますし、わざわざ海外に出て不便な思いをしなくても、というのは十分理解できます。また、「海外に行ったらみんな幸せになる」という訳でもないし、帰ってこれるという保証もない。家族・大切な人のこともある。海外留学しなくてもすばらしい研究を主導している先生も多くいるし、今やっている研究も面白い。国際学会に出て、いろんな人と話をする機会もあるし、英語も苦手なわけではないし、日本の研究室も留学生などがいて結構国際色豊かだし・・・ 確かに、海外に出る明らかなメリットというものは、どんどん少なくなってきているのかもしれません。

僕自身は、海外でポスドクをやって良かったことが多いですが、しんどかったことも色々ありますし、海外に出ることがすべてだとは思いません。ただ、今振り返ると、最も大きかったのは「自分の世界の中での立ち位置、自分と世界との関係」がそれなりにはっきりと見えたことだと思います。これは、純粋な研究面だけではなく、自分が日本人であるという意識を含めた価値観面の意味合いが強く、国際学会に出たり海外旅行したりするだけでは見えづらい部分(もちろん意識的に見ることは可能ですが)、むしろ海外に数年間住んで仕事をして初めて良く見えてくる部分だと思います。

研究、特に我々が対象にしているような研究は、自分一人で出来るものではありません。研究室内の、同じ分野の、そしてひいては世界中の様々な研究者との、時には協力しし時には競争しながらの切磋琢磨とコミュニケーションがあって、初めて成り立っているものです。そして、そこにこそ研究のもう一つの醍醐味があるのではないかと思います。

一度しかない人生、早いうちに「世界」を経験しておくことは、決して損にはならないと思います。


東大分生研・泊

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