October 13, 2010

Xist研究の舞台裏(1)

先日影山さんの方から紹介がありました「蛋白質核酸酵素」の続編ウェブサイトに、当新学術領域からの最近の研究成果の紹介がアップされました。結婚式の披露宴はノロケが無条件に許される一生に一度の機会でありますが、研究成果が論文という形で世に出るのも結婚式ほどではないにせよそんなに当たり前なことではないので、いや本当は当たり前のことにしたいのですがなかなかそうはいかないのが実情ですし、このような公式(?)の場での宣伝をお許し下さい。

学生さんが書いてくれた研究紹介はこちら

研究の詳細はそちらのサイトを参考にしていただくとして、そもそもこの研究がどこから来たかということなのですが、時計の針を戻せば、2007年の年明け、淡路の夢舞台から三宮までのバスで、京大ウイルス研のO野さん(ほとんど伏せ字にする意味なし)と隣の席になったところまでさかのぼります。ちょうどその時細胞核関連の国際シンポジウムが淡路島でありまして、David Spectorさんやら(結局来ませんでしたが)、Tom Misteliさんやら、Ian Mattajさんやら、当時にわか勉強で核内RNAをかじり始めた人間からみてもとてもスマートな仕事をされておられた方々の名前がinvited speakerに並んでいるポスターを見かけて、前後を顧みず突撃モードで新規核内ノンコーディングRNA、Gomafuを引っさげてほとんど知り合いがいないであろうミーティングに参加申し込みをしてしまいました。その帰りのバスで隣の席に来られたO野さんが席に着くなり、

「中川くん、Gomafuだけやっとったら、あかんのちゃう?」

と、ニコリともせずに、いや、いつものあの満面の笑みを浮かべておっしゃったのですね。ストレートど真ん中。変化球無し。こういうコメントに腰を引いてはいけません。野茂と清原の真剣勝負になれば良いのですが手合いが違いすぎるので一方的に攻め込まれる展開になってしまいましたが、その時のディスカッションの結論は、

(1)ノンコーディングRNAだから面白いというのではダメ。機能が見えなければ面白くない。
(2)核内のRNAに興味があるのなら、生理機能が良く分かっているXistが良いモデルとなるはず。
(3)Xistの核内繋留、染色体局在を制御している因子は分かっていないから、それを同定したら面白い。

というわけで、バスが着くまでになんとか二人でひねり出した勝負手が、siRNAで候補となるRNA結合タンパク質を一つ一つたたいていったときの、XistならびにGomafuの局在を調べる、というプロジェクトでした。和光に戻ってから早速候補遺伝子のリスト作りに入ったのですが、当時大学院生だったソネ氏がPubmed Geneのテキスト検索からRNA結合タンパク質っぽいものを拾ってきて、僕はRRMドメインやらKHドメインやらでBlast検索かけて引っかかってくる物を集めて、それらのリストを合わせたら大体500ぐらいあがってきました。ちなみに、Blastは結構時間がかかったのですが、結局ソネ氏のテキスト検索でほとんどカバーできていました。。。その中からリボゾーム関連タンパク質やsnRNPsの構成分子を捨てて、Y染色体にしかないものや特定の細胞だけでしか発現していない物を捨てて、残ってきたのが300ぐらい。Ambionにいろいろ交渉して値切りに値切って買える限界がプレート2枚分、176遺伝子分だったので、さらに絞り込みをしなくてはなりません。そこで、僕の大学院時代の先輩で、現Duke大学の松波さんが嗅覚受容体のシャペロンを同定したときにおっしゃっていた「もともと発現量が多いタンパク質の制御に関わる物は、発現量が多いはず」という、何とも拍子抜けな、しかしながら合理的な松波さんらしい力強い断言を思い出しまして、XistだってGomafuだって発現量は半端でなく多いのだから、候補リストの中から発現量の多いものから順に選べばよいだろう、ということになりました。ライブラリーを注文したのが3月。届いたのが4月。しかしながらそこからえらく足踏みをしてしまうことになります。ライブラリーを買うだけ買ったはよいけれども、スクリーニングする人がいない。何事も片手間にやるのは良くないことで、僕自身ちょっと手を動かしてみたのですが、そもそもsiRNAによるノックダウンが上手くいかない(ヘタクソなだけ)。というわけで、果報は寝て待て、ではないのですが、じっくりこのプロジェクトに取りかかれる人が現れるまで、ライブラリーにはしばらくフリーザーで寝てもらうことにしました(続く)。

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