September 27, 2010

Torontoの人々(3)

さて、なんでこんなにDonnelley Centerでは高度な長期にわたる連携研究がかくも盛んなのだろうと考えてみたのですが、それは何で理研で連携研究がこんなにすすまないんだろう(とかいうとそんなこと無いだろう!!!とか怒られてしまうかもしれませんが、、、)、ということを考えた方が良いのかもしれません。トロント大学、というかカナダ全体の雰囲気なのかもしれませんが、様々な国籍の人が集まってラボを構えています。日本人でも結晶構造解析で有名な伊倉さん(心のふるさとカドヘリン!の結晶構造解析など)がおられますし、Blencoweさんもイギリス人、ついこないだ脊椎動物のポリコーム結合配列の報告をしたSabine Cordesさんのように隣国のアメリカ出身の人はもちろんのこと、世界各国の人々にPIとしての門戸が開かれています。これは単に開かれているだけなのでしょうか。それとも強力に大学側がリクルート活動をしているのでしょうか。そのあたりは知る由もありません。ただ、単に地理的に隔離されているから日本では多国籍の研究所が無い、という訳ではないような気もします。

Blencoweさんは、ロンドン大学のImperial Collegeの出身です。大学院ではとにかくスプライシングの研究をしたかったらしいのですが近隣にRNA研究をしているところがないということで、海を渡ったEMBLのAngus Lamondさん(現ダンディー大学)のところでPhDをとっています。Lamondさんは当時Chemistと共同研究をしていて、ちょうどラボの冷凍庫に当時は珍しかった修飾オリゴがあったとか。それを使ってUsnRNPsを個別に精製、depletionして行った一連の実験はとてもエレガントです。いやあ、あのときはラッキーだったよ。向こうに行って、冷凍庫を空けて、2ヶ月の実験でCell2本なんて、今じゃあり得ないからね。とか言っていましたが、海を渡った時点で成功は約束されていたような気もします。カエサルの、来た、見た、勝った、みたいなものです。

特に欧米の研究室では、学生・ポスドクが活発に動いて文化をうまいこと攪拌しているのが、大きな強みであることは間違いないでしょう。BlencoweさんのところでSR100の大変良い仕事をされた学生さんのJohn Calarco君は、同じくトロントのMount Sinal Hospitalで線虫の神経発生をやっているMei Zhengさんのところでも仕事をして、彼女の研究室にスプライシングの息吹を吹き込んでます。大学ー研究所・企業、国内ー海外、分野内ー分野外、そういった境界をまたげばまたぐほど、自分にとっても、周りにとっても、良い環境が拡がってゆくのだと思います。

Blencoweさんの話に戻ります。その後、大西洋を渡ってMITのPhil Sharpさんのところでポスドク。「核マトリクス」とスプライシングについてやりたい!と言ったら、Sharpさんから「おまえアホか!!」みたいな扱いを受けたとかなんとか。核マトリクスというのは何かと問題のある概念で、この言葉を口に出した時点で多くの人の逆鱗に触れ、論文は蹴られ、職を追われ、何もかも失い放浪するハメになる、、、、なんてことはないですが、ともあれ、核マトリクスに存在することになっているSRタンパク質の機能解析について一連の仕事を出されています。このときのデーターのほとんどは、in vitroのスプライシング。クロスリンクやら免疫沈降やら、これでもかというドロドロのRI実験の嵐。最近のスマートな論文からはあまり想像できませんが、、、

その後トロント大学にポジションを得て、最初のうちこそコテコテのRNA実験をされていたようですが、ほどなくして今につながる怒濤の共同研究が始まるわけです。こうしてみてみると、その時その時で環境を変え、ラボを変え、いろいろなテクノロジーを使いながらも、常に「RNAスプライシング」という1本の芯がずどんと真ん中に通っていることが良く分かります。「スプライシング、命」、なんですね。

こだわりといえば、彼の自宅の仕事部屋には、いつの時代の物なのか、活字を組んで印刷する骨董の印刷機がありまして、それで名刺を刷っているとか。良い研究をする人は良き趣味人でもあるのだなあと、つくづく思いました。

中川

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