June 26, 2012

Malat1のパラドックス(2)ーブルータス、お前もか!

慶応の福田さんの投稿をもって今回の公募班の方の自己紹介も無事終了しました、、、ってしていないですよ!蓮輪さん!とプレッシャーにならないプレシャーをここに書いておきます。。

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超速!▲3七銀システムならぬCDBシステムは実によくオーガナイズされていて、彼らと共同研究を開始さえすれば一年以内にホモのマウス個体を手にすることができるという、ほんの10年、20年前には到底考えられなかった夢のような環境を提供してくれています。一ラインあたり、共同研究者としての分担金はわずか40万円。もちろんノックアウトマウスがいざ出来た後のネズミの維持管理や表現型解析のほうが遥かに大きな労力とコストがかかるのは実際そうであり、またそうあるべきだと思うのですが、マウスの変異体解析が一部の特権階級の高級な趣味でなく実践的な解析ツールになったということに時代の流れを感じますし、あえて既得権益にしようとすればそうできたであろうマウス作製技術を、手を伸ばそうと思えば手の届く頒価で万人に開放してくださったCDBの相沢さんの心意気には本当に頭が下がる思いです。「頭を下げている暇があったら仕事しぅろろってんだよー!」とか怒られそうですが。ともあれ、さてそういう時代になりましたよ、これだけのシステムを作りましたよ、それであなたはどうしますか、と、ユーザーの立場である我々の世代は大きな問いを投げかけられていると言うことも出来るかもしれません。サブクローニングとミニプレップとシークエンスだけしていれば一人前だった時代もありました。ノックアウトマウスを作れるだけで神になれた時代もあったのかもしれません。マイクロアレイ、次世代シークエンサー、テクノロジーはすべて同じような要素があると思います。結局何が知りたいの?その問いが無ければ、主人公がいつまでたっても出てこないで最終回が来てしまった連ドラになってしまいます。「第三の男」はやはりオーソンウェルズが出てこないことには始まりません。

さて、話はすごくそれてしまいましたが、個人的に思っていた一つの問い。それは、核内構造体に局在する脊椎動物特異的なlncRNAがいったい何をしているのだろう?という疑問です。もう言い切ってしまいましょう。「悪女」Gomafuとつきあい始めてからすべて歯車が狂い始めた、そこまではいかないかもしれませんが、おそるおそる作ったGomafuのノックアウトマウスは発生過程に大きな異常を現すに違いないという期待を見事に裏切って、ピンピンしていました。それでは、と押し掛け女房(1)で産総研の廣瀬さんとの共同研究で始めたパラスペックルの骨格成分Neat1のノックアウトマウスも、パラスペックルは見事に消えましたが、これまた別の意味で見事に全く表現型が見えませんでした(当時は)。ここで、ノックダウンすれば核スペックルの構成成分の局在は変わるは細胞は死ぬは、転移性の癌細胞の移動がおかしくなるわ、しかも複数のラボから独立にそういう報告が出ているMalat1という遺伝子のノックアウトマウスを作るということは、僕にとって一つのポジコンー核内lncRNAはものすごく重要な働きをしているということを遺伝学的にも確かめられるという意味でのポジコンーであったわけです。

超速!システム、早い早い。2009年の10月末には待望のホモ個体が、いや、待望でなく期待を見事に裏切って見るからに性格の悪いガッツポーズを取っているホモ個体が生まれてきてしまいました。妊娠14日目の胎児でとりあえず調べてみたのですが、ホモ個体が普通に育っているということを僕が目にした瞬間、心の片隅にずっと住まう悪女Gomafuがニヤリと笑うその気持ちを不覚にも抑えることは出来ませんでした。ほれみい。ほれみい。ですね。心の別の片隅にいつのまにか住まいを決めてしまったらしい紳士Neat1もなんだか仲間が増えたようでうれしそうです。Welcome to the No Phenotype Worldです。ノックアウトマウスで表現型がなかなか出ないということには出身ラボで呪われたように表現型が出ないマウスを相手に艱難辛苦の日々を送る学生さんの日々を嫌というほど目にしていたので心の準備はできていたのですが、redundancyでは片付けられない、ファミリー分子が見当たらないGomafuやらNeat1やらMalat1のノックアウトマウスがこぞって何ら表現型が無いということをどう受け入れれば良いのか。核内構造体の存在意義って、、、核内構造体の構成成分であるlncRNAの存在意義って、、、

もやもやとしながら2009年の暮れを迎えました、というのはウソで、任期が切れてクビになりかけたのがなんとか別のポジションが見つかって、とことん悪女と紳士とMalat1とつきあってやろうかと、むしろ開き直ってさばさばとしていたのがその時期でした。ちょうど本ブログの企画が本郷三丁目のぶどう亭でひっそりと生まれた頃です。

(、、、長くなりそうなので次回からは要点を簡潔にまとめるようにします。。)

中川

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