July 23, 2010

Journal Club

Nature. 2010 Jun 24;465(7301):1033-8.
A coding-independent function of gene and pseudogene mRNAs regulates tumour biology.
Poliseno L, Salmena L, Zhang J, Carver B, Haveman WJ, Pandolfi PP.

【論文の要旨】 がん抑制遺伝子である PTEN は、ハプロ不全を示すことからその量の調節ががん抑制に重要であることが知られている。 また PTEN の発現は複数の miRNA により制御されていることがこれまでに明らかになっている。PTEN にはプロセス型 偽遺伝子 (mRNA が逆転写によりゲノムに挿入され生じた偽遺伝子) PTENP1 が存在し、両者は 3’UTR の miRNA 標 的配列を含め塩基配列が高度に保存されている。PTENP1 はタンパク質をコードしない ncRNA であるが、ほとんどの組 織で発現している。本論文では PTENP1 が PTEN を標的とする miRNA のデコイとなって PTEN の発現に影響を与え る可能性を検証した。 PTENP1 の 3’UTR 領域を高発現させると PTEN の発現が mRNA、タンパクレベルで上昇し、細胞増殖が抑制された (PTEN 発現亢進の効果は Dicer 依存的であることから、miRNA を介したものであることも示している)。一方、PTENP1 ノックダウンにより PTEN の発現が低下し、細胞増殖が亢進した。正常およびがん組織において PTENP1 と PTEN の発 現は正の相関があり、がん組織のサンプルにおいて PTENP1 遺伝子座の欠失と (それに対応するように) PTEN 発現 の低下が認められた。がん関連遺伝子のいくつかには PTEN と同様な miRNA 標的配列が保存された偽遺伝子が存 在する。そのひとつである K-Ras においても偽遺伝子の 3’UTR の高発現で K-Ras の発現、および細胞増殖が亢進し たことから、PTEN-PTENP1 の関係と同様な偽遺伝子による miRNA のデコイメカニズムがはたいていることが示唆さ れる。上記の結果から、偽遺伝子由来の転写物が内在的な miRNA のデコイとして機能遺伝子の発現に影響を与えて いること、さらにそれががん化・がん抑制に寄与していることが明らかとなった。

2 comments:

  1. 【コメント、疑問点、議論となった点等】
    ・(実験で用いている)DU145細胞ではPTENP1の発現量はPTEN の1/100以下にも拘わらずデコイとしての機能する のはなぜか。 (この理由は不明である。量以外にも何か要因があるのかもしれない。)
    ・PTENP1 はゲノムに何コピーあるのか。 (NCBI のデータベースによれば 9p21 には 1 コピー存在する。他に PTEN の 偽遺伝子で発現しているものがあるのかは不明。)
    ・PTENP1 の siRNA は本当に PTENP1 特異的に効いているのか。 (supplementary data によれば 3’UTR の後半部分 の PTEN と相同性が低い領域に siRNA を設計しており、配列上 PTEN に siRNA として機能することはない。)
    ・3’UTR には miRNA 以外にも RNA 結合タンパク質などが結合し、mRNA の安定性の制御をする場合がある。(Dicer 依存性を示す実験データはあるが) 3’UTR の高発現の効果が miRNA 依存的な効果であることを示すために、miRNA 結合配列に変異を入れたものを実験のコントロールとした方がより説得力のあるデータとなる。
    ・偽遺伝子の発現 (転写) は変化することがあるのか。 (プロセス型偽遺伝子の場合、周辺の調節配列(プロモーター等) に発現が依存するので、発現が変化することはありう ると思われる。実際偽遺伝子の発現は細胞の種類や組織によっても異なるようである。)
    ・miRNA 結合配列を有する内在性の ncRNA が miRNA の活性を阻害することは植物で報告があり (Nature Genetics 39, 1033 - 1037 (2007))、新規性という観点から新しさはないのではないか。

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  2. この論文、ホットな話題なのでうちのラボでもjournal clubで取り上げられました。
    Pseudogeneがらみのはなしでは大変興味深いMakorin1の話があるのですが、これはちょっと違う機構によるものではないか、という論文も後から出たらしく、現状、コンセンサスは無い状態でしょうか。

    僕自身がこの論文を読んで気になった一番のポイントは、上述のコメントにもちょっとありますが、量についての議論です。通常の発現量、ガン細胞での発現量、ノックダウン細胞での発現量、出てくる表現型との対応は、必ずしも一対一対応ではありません。ただ、生命科学ではしばしば、そのへんの定量性は「まあいろいろ諸事情があるんでしょう」、ということで済まされることが多いし、そういう一見いい加減な見方の方が、むしろ本質を突いていることが多いのも事実です。こういうことを書くと、およそ科学者としての態度ではないと思われてしまうかもしれませんが。。。

    あともう一点、この論文、何が一番編集者なり審査した人の心を打ったのだろう、と考えたときに、いわゆるhigh throuput sequence analysisなのかな、と思いました。即ち、ガン患者由来の組織ではこのPTEN pseudo gene付近の遺伝子の発現量が変化しているというヒートマップの図ですね。新しい技術があれば、新しい物の見方が生じる。これは紛れもない事実で、ひと昔前までには、かようなヒートマップの図は、生物系の雑誌ではお目にかかることはありませんでした。

    時代と共に、データーの出し方やその並べ方は変わっていきます。ノザンブロットはRT-PCRに駆逐され、特異的な抗体はタグ分子の検出で置き換わりつつあります。このあたりは本質的にはあまり変わらない変化ではありますが、いわゆる時世代シークセンサーを用いた解析の勃興を僕らは目にしているのは紛れもない事実です。一昔前は、PCRでdeletion constructを作って変異が入っているのが分かった暁には「ほらみい、Exoとmung使え。Exoとmung!!」と怒鳴られ、キアゲンのカラムを使って実験が失敗しようものなら、「おめえさぼんな。セシウム回せセシウム!!」と恐い先輩にしばかれました。話が凄くそれてしまいましたが、大規模なシークエンス解析という技術自体には、大きな期待を持っていますし、それがどういう世界を明らかにしてくれるのかに関しては、自分がすぐに出来ないだけに、こういった論文を読むことによって、それなりの距離感を測りたいな、という気がしています。

    中川

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