November 14, 2010

踏み込み不足の是非

チェックを怠っていたら、いつの間にか、というか案の定、元通り閑古鳥が鳴いていました。ちょっとさみしいかも。

なんて馬鹿な物まねを書いている暇があればすこしでも実験を、、、という気もしますが、業界ネタで少し。

衝撃的な論文というのは、今日び進展の早いサイエンスの世界にいれば2,3年に一回は目にするのが普通であるとは思いますが、実際のところ、いわゆるサーキュレーションの良い有名な雑誌には、毎週の様に大規模な地殻変動が起きてもおかしくない論文が目白押しで載っています。そのインフレぶりは、数年後に日本が破滅することを、知りうる限りここ二十年以上毎週予想しているマスコミのレベルに近づきつつある感もありますが、はたしてその噂の真相は?

先日ラボの論文輪読会でも取り上げられた論文と、JSTさきがけのRNAと生体機能のアドバイザー、5'キャップの発見者の古市先生が風呂場でひっくり返られた(?)論文のリンクを貼っておきます。
http://www.nature.com/nature/journal/v467/n7319/full/nature09465.html
http://genome.cshlp.org/lookup/doi/10.1101/gr.112128.110

前者は、piRNA、すなわちレトロトランスポゾン由来の低分子RNAで生殖細胞におけるゲノムのメチル化等に関わっているRNAが、体細胞では実はmRNAの分解(しかもpoly-A鎖を短くする作用マシナリーによる分解)に関わっているという話、後者は、ゲノムから読まれたRNAが切断を受け、再キャッピングされているという話、です。これら、どちらも、一目ビックリの話です。細かい内容はオリジナルの論文を見ていただきたいのですが、一つ強調しても良いと思うのは、基本的に分子生物学の実験で対象にしている事象は、実際に目で見たわけではない、その「可視化」の仕方次第で、もしくはその解釈次第で、右は左になり、白は黒になるということです。

ヒストンH3K27がメチル化したから、、、(おまえほんとに見たんかい!)
5'にキャップがついたから、、、(見たんかい!)
3'が切断を受けたから、、、(見たんかい!)
RNAが困っているから、、、(話したんかい!)

とこれまた妖しくなってきましたが、この、見てきたわけでもないのに見てきたようにしてストーリーを組み立てなくてはならないということを、強く、認識する必要はあると思います。

であるから、巷にあふれている解釈はどうもウサン臭い、などということを言うつもりは毛頭無く、むしろ逆で、強調したいのは、見えない物を見るときの方法論と言いますか、既存の手法を使うにしても、新しい技術を駆使するにしても、目で見えないものをいかにして解釈可能な土俵まで引っ張ってくるか、そこに研究の面白さなり醍醐味がある、ということです。半世紀前の人は、塩基配列、遺伝子の配列を「目に」見えるようにしてくれました。当新学術領域で研究に携わっている我々は、一体何を見えるように、何を解釈可能にしようとしているのでしょう?昨今の様々な不祥事のあおりで、こういう風に解釈しよう、こういう観点で実験をしてみよう、という踏み込みが、慎重な意見を言えばなんとなくインテリ(死語?)っぽい、という受けの一手に押さえこまれているような気もします。細胞は嘘をつきませんから、思いっきり踏み込んだ失礼な質問をどんどん実験でぶつけていけば良いのだと思います。突撃アナウンサーになったつもりで。火のないところに噂は立たぬか。人の噂も75日か。それはデーターがすぐに証明してくれますから。

中川

1 comment:

  1. ちょっと違う話ですけれど...

    論文にするには見てきたわけでもないのに見てきたように言わなければならないわけですが、それを差し引いても昨今のゲノムワイド解析には少しもどかしさを感じています。グロスで見たときに特定の傾向があったとしても、それが本当に意味があるのかどうか訝しい気持ちになってしまったり。特に deep sequencing で同定された一連の promoter-associated long non-coding RNA など、誤解を恐れずに言えば、「言ったもん勝ち」のような気さえします。もうちょっとたったらそれらが正しいことがわかるのかもしれませんが。

    影山裕二

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