March 28, 2014

5年間のまとめーこれまでとこれから


長かったようで短かった5年間も終わろうとしています。この領域が立ち上がるか否か、最終ヒアリングに泊さんと影山さんが臨まれたのは、羽生ー郷田の名人戦第7局、フルセットの末に郷田さんが惜しくも破れた2009年6月末の頃のことでした。ちょうどそのときエピジェネティックスに関する内藤シンポジウムが札幌であり、たまたま佐渡さんと一緒だったのですが、「俺たちもうやる事ないもんね。祈るしかないよね。」ということで、まさに祈るような気持ちで、でも懇親会の飲み物はしっかりいただきながら、成り行きを見守っていたのを良く覚えています。

振り返ってみればこの5年間は、特に長鎖ncRNA研究に関して言えば、生まれたての赤ん坊がようやく一人で立ち上がって歩き始めるようになった、というような期間だったような気がします。勿論それまでもXistやroXなどの性染色体の遺伝子量補正を制御する長鎖ncRNAは存在していたわけですが、シークエンサーから次から次へと吐き出される大量の新規ncRNAの一体どれほどが機能しているかはさっぱり見当がつかず、そもそもただのゴミじゃないの?という懐疑的な見方が主流で、あまりにも冷たい周囲の方々の反応に、もうやめてやる、と泣き明かした日も良くありました(ちょっとブラック)。冗談はともあれ、小さなRNAがRNAサイレンシングという現象と対応がつけられ、Agoという生涯のパートナーを見つけていたのに比べれば、長鎖ncRNAの研究はまだまだ手探りだったと言わざるを得ません。

領域の立ち上がった2009年と言えば、ちょうど核内構造体パラスペックルが巨大な長鎖ncRNAであるNeat1が骨格となって作られているというマイルストーン的な発見が、現北大の廣瀬さんのラボを皮切りに世界の4つのラボからほぼ同時に報告された年でした。その後おなじく廣瀬さんの所からパラスペックル構成蛋白質の網羅的な同定、それらのいくつかはNeat1のアイソフォーム制御を通じてパラスペックル形成を制御しているという仕事が出たのは記憶に新しいところです。長鎖ncRNA単独で話をする時代から、ともに働くタンパク質を考慮する研究へ。XistやHOTAIRのようにエピジェネティックな発現制御に関わる長鎖ncRNAを研究している研究者の多くはセレンディピティに導かれクロマチン制御因子との関連に注目した研究を一斉に行い、直接か間接かはともかくそれらを染色体上に連れてくる際にncRNAが機能しているというコンセプトが業界では一気に出来上がってきました。

手前の話で言いますと、「Gomafuの結合タンパク質を見つけたらアシベと名付ければ」、という影山さんの素晴らしいアドバイスを実現すべく、今で言うところのCHARTやCHIRPの技術開発を試みていたのですが、なかなかうまくいかず、アプローチを変えて同定されてきたのが既に確固たる地位を固めていたブランチ部位結合タンパク質であるSF1。。。さすがにそれを強引にアシベと呼ぶわけにもいかず、真打ちを捜そうと、一発逆転を期して購入したRNA結合タンパク質に対するsiRNAカスタムライブラリー。運良くそこにアシベが含まれていれば、それをたたいたときにGomafuの局在が変わるだろうということで実験系を立ち上げるも、なかなか進まず。一方、「君、Gomafuばっかやっとったらあかんのちゃう?」という大野さんの一言で背中を押されてそのライブラリーをXistの染色体局在化因子探索に使う事にし、それがhnRNP Uであることが一発ツモでわかってしまったという、まるで一生の運を全てここで使い果たしまったかのような幸運な出来事もありました。

これも手前味噌で失礼しますが、影山班の分担であった僕の課題、核内構造体を形成する長鎖ncRNAのノックアウトマウスの解析は、進んだような進まないような。Gomafu、Neat1、Malat1全てviable & fertile。後者については表現型ありませんでした!キリッ!という開き直り論文を一応世に送り出す事が出来、皮肉にも表現型がないという事が却って驚きを持って迎えられたようですが、Gomafuちゃんは間に合いませんでした。。一応行動異常が見られるので、そのメカニズム解析に突っ走ったのですが、なかなか難しく、どうしたものやら。ちなみに学会等では話をしていますがNeat1は奇麗な表現型が見えてきて、こちらももうすぐ世に送り出す事が出来る、、、はず。です。先日、投稿翌日にエディターから突き返されてしまいましたが、、、

さて、この領域が終わって、長鎖ncRNA研究はどこに行くのでしょう?

この5年間で技術的に一番改良が進んだのは次世代シークエンサーであったのは間違いないでしょう。資金力のある特殊な方々が使うちょっとマニアックな武器だったのが、PCRとは言わないまでも、qPCRなみに普及してきた感があります。数年がかりの国家プロジェクトでなくてはできなかったような解析が、機械を借りられさえすれば一つのラボの規模で出来てしまう、というのは驚愕です。今後を占うに、やはりこのツールをどれだけうまく使っていくかというのがキーポイントであると思います。このところ長鎖ncRNAの研究を牽引してきたHoward ChangとJohn Rinn。先日のキーストンミーティングでも、やはりこの二人の発表は飛び抜けて面白く、Howardは3C/4C/Hi-C解析のような事をRNAで展開し、特定のncRNAの領域が、同一分子のどの場所と相互作用しているのかを調べる事で、ncRNAのドメイン構造を決めようという意欲的な試みをしていました。もうすぐ論文として出てくる事でしょう。Johnはといえば、single cellをMondrianが使っているようなデジタル・マイクロフルイディクス(フリューダイム c1?)に突っ込んで、single cellでのトランスクリプトーム解析をバシバシすすめる試みを紹介していました(二階堂さんが早速論文出てるよとインプット&情報くれました)。
http://www.nature.com/nbt/journal/vaop/ncurrent/abs/nbt.2859.html
かれらの新技術との付き合い方を見ていると、うまいなあ、の一言です。後追いするばかりではいけませんが、それらを参考にしながら新しい使い方を模索していかなくてはいけません。

この5年間で長鎖に関わらずncRNAの研究分野でももっとも変化があったのは、新規のncRNAを見つける、という時代が終わって、ncRNAを、相互作用するタンパク質の複合体と共に機能解析をすすめていくというスタイルが出来上がってきたことでしょう。その中で浮かび上がってきたのは、ncRNAにもタンパク質同様機能ドメインが存在し、それらがタンパク質と複合体を作りながらモジュールとして働いている、ということで、これは今後非常に重要な概念になると思います。泊さんと廣瀬さんがそのあたりのコンセプトをまとめた総説をEMBO Reportに書かれていて、そのラインの研究を進めていく事で、一つの大きな流れを作り出す事が出来るかもしれません。というか作り出したいところです。

あと、技術進歩ということでいうと、ビジュアル大好きな僕が個人的に注目しているのが超解像顕微鏡です。光学限界なんのその。電顕とまではいかないまでも、一歩踏み込んだ解析が可能になりつつあります。超解像度顕微鏡を用いれば、Neat1の5’末端と3’末端がパラスペックルの表面にパッチ状に並んでいる事がこんなに奇麗に分かります。従来の顕微鏡では、これは同じ所に共局在していますね、ということしか言えませんでしたから、大きな技術進歩です。ちなみにこの画像を取ったのは3D-SIMという方式で、世の中にはもっと解像度が理論上高いPALMという方式も存在します。しかも、PALMで3D情報まで取れるという全く新しい顕微鏡が開発されているらしい、、、ということで、来月ドイツに行って見学してきます。衝撃の画像が取れたらまた紹介いたします。このような技術を駆使して、ncRNAの神秘に少しでも迫れれば。


というわけで、この5年間、下らん事ばかりかいてきましたが、色々ありがとうございました。この領域で得られた有形無形の財産を糧に、ncRNA研究分野とともに少しずつ成長していきたいところです。

中川

(おしまい)

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