February 5, 2013

日仏先端科学シンポジウム

中川さんと同じく、最近日本語の総説執筆と戦っていた泊です。1ヶ月以上遅れですが、皆さま新年あけましておめでとうございます。それから、私事ですが2/1付けで教授に昇任いたしました。研究室の体制等を含めて特に変化はありませんが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

さて先日、日仏先端科学シンポジウムという会合に参加してきました。
http://www.jsps.go.jp/j-bilat/fos_jf/jishi_07.html
これは、日本とフランスの幅広い専門分野の科学者が一緒に泊まり込んで、いくつかの決められたトピックについてああでもないこうでもないと議論しましょう、と言う趣旨のものです。日仏の他に日米、日独のバージョンもあるらしいのですが、私にとってこの様な会合は初めての参加でした。

今回の生物学のトピックは、すばりそのまま「small RNA」だったのですが、普段の学会とは違い、聞いている人々が、それこそヒッグス粒子を観測した人とか、隕石の年代を測定している人とか、サイエンスにおけるジェンダーを専門にしている人とか、科学者といえどもありとあらゆるバックグラウンドの人がいたために、「伝える」ということに大変苦心しました。

私はChairという立場で、そもそもsmall RNAとは何かということを会場の人に分かってもらい、その後の専門的な話(阪大の河原さん: 神経変性疾患におけるmiRNAの生合成の異常、CNRSのPfefferさん: small RNAを介したウィルスとホストのせめぎあい)につなげる、という役割でした。実際に参加するまでは「さすがにみんな科学者なのだからセントラルドグマぐらいは大丈夫だろう」と思って、自分自身の研究成果も少し含めたイントロダクションのスライドを用意してたのですが、前日に他分野の方に聞いてみると、実はそうでも無いということが分かり(逆に、ヒッグス粒子を理解するために必要な「標準理論」のバックグラウンドが私たち生物学者には全く無いということも分かり)、自分の研究に関する内容はすべて削除して、スライドを大幅に作り直すことになりました。

色々悩んだ結果、YouTubeのこのビデオ
http://www.youtube.com/watch?v=gZZyxVP02UU
を大々的に使って説明してみたところ、これが大正解。複数回参加している方からも「いつも生物学のセッションは、意味不明な省略語(遺伝子名や現象名のことだと思われる)が次々出てきて、気づいたら終わってることが多いけど、今回のはとてもよく分かった」と言われました。

さすが映像の力は偉大だな、と思っていたのもつかの間、「で、さっきのビデオは実際の何倍速ぐらいなのか?」とか「これは体の中で1秒間に何回ぐらい起こっているのか?」とかいう予期しない質問が出てきました。映像の伝える力があまりにも強いために、あたかも自分の体の中の実際をそのまま拡大したものであるかの様な錯覚(というか実感)で捉えられてしまったのです。結局、思考回路を整理できないまま「いや、このビデオはコンセプトを伝えるものであって、実際に起こっている物理的な現象とは少し違って・・・その辺りを定量的に測定するのは結構難しくて・・・」と、ごにょごにょお茶を濁してしまいました。科学者相手であってさえ(あるいは科学者相手だったからこそ?)、「分かりやすさ」と「正確さ」の両立がいかに難しいかということを、改めて実感させられました。

私自身は、結局最後まで「ヒッグス粒子」についてはあまり理解できませんでしたが、それでも、子どもの頃に科学雑誌などを読んで感じた「何かよく分からないけどすごいな」という感覚を新鮮に思い出させてくれましたし、他分野の科学者と同じ目線・同じ言葉でじっくりと議論できた、ということ自体とても良い経験でした。

新学術領域研究では「国民との科学・技術対話」というものが重要視され、いわゆるアウトリーチ活動が強く推奨されています。そろそろ最終年度を迎える本領域も、研究成果、いや、「非コードRNA研究の面白さ」をどうやって伝えていくかを本気で考えないといけないな、と感じる今日この頃です。

東大・分生研  泊

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