September 29, 2011

カイコドラマチック(10)

だいぶ間があきました。
コンプリートせずに終わるのもなんなので、不定期更新。。。
問題集はさいごの1ページを必ずやらない、というタイプでした。
宣伝ですが、トリミング論文オープンです!!ぜひご覧ください(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21925389)。

**************************************

今回は性染色体に由来するpiRNAのお話です。
カイコの性はW染色体という性染色体の存否によって強力に決定されます。
Wがひとつあると、Zがいくつあろうと雌になります。
そこで、多くの研究者が、「Wのには雌決定遺伝子がある!」と考え、精力的に研究を行ってきました。
ところが現在まで、Wに存在するはずの雌決定遺伝子はおろか、単一のタンパク質コード遺伝子さえも見つかっていません。
それどころか、Wに由来する転写物さえ、ひとつも見つかっていませんでした。

なぜか?実は、Wには厄介な特徴があります。
Wは、トランスポゾンや反復配列に占拠された染色体なのです。
Wの断片配列をのぞいてみると、トランスポゾンのなかのトランスポゾンのなかのトランスポゾンのなかにトランスポゾンがはいっている、なんていう、とんでもなく複雑ないれこ構造になっていることが分かります。
しかも、似たような配列が常染色体にも散らばっているために(トランスポゾンですねえ)、雌ゲノムDNAをゲノム解析に供してしまうと、配列のアセンブリが困難になります(なので、カイコゲノム情報は、雄DNAに由来しています)。

piRNAの多くはトランスポゾンに由来していますので、Wが実はpiRNAのソースなのではないか?というのはそう難しいアイデアではありませんでした。
そこでまず、雄と雌のpiRNAをシークエンスして、単純にその組成を比較してみました。
すると、見つかるわ見つかるわ、雌にたくさんあって雄には少ない、あるいはないpiRNAがやまのように見つかりました。
そして、それらは、Wに存在するトランスポゾンに由来することが多いことが、すぐに分かりました。
逆にいえば、piRNAの組成をみると、そのトランスポゾンがWにいるかどうかが分かりそうだ、ということをがいえます。

そこで、カイコの遺伝資源を活用しよう、ということで、Wが小さくなった系統とか、Wの一部が雄の染色体に転座した系統などのpiRNA情報をみることで、性を決める領域に偏って存在するpiRNA、トランスポゾンの存在を突き止めました。実は、これらのpiRNAがどのような役割を持ちうるか、ということに関しては、弱いながらも種々の傍証があって、それらを含めたもりだくさん論文を投稿していたのですが、蹴られに蹴られました。
piRNA屋さんにはカイコわからね、といわれ、カイコ屋にはpiRNAよくわかりません、と言われる感じで、もちろん、論文書きの能力のせいも(多々)あるのでしょうが、ぼこぼこでした。
しょうがないのでなるべくデータをへらして、メッセージをシンプルにして、もういいや、何部作、みたいな感じにしよう、ということで、ついこのあいだようやく第一部が受理されて、いまin pressです(領域のHPにはアップされています)。

いまだ謎だらけのW染色体ですが、piRNAという方向から、すこしだけその実体が分かってきました。はてさて、性を決める、という大きな能力が何によって達成されているか、というのはいつ分かるのでしょうか。。。

ほんとうはここで終わりかな、と思っていたんですけど、もうすこし書けることがありそうです。随時、不定期更新ということにします。

(たぶんつづく)

2 comments:

  1. 論文おめでとうございます。trimmerの幻のMol Cellの表紙はぜひどこかにアップしてください。

    Wに特異的なpiRNAはWに乗っている遺伝子しか制御できないはずだから、そしてWにはタンパク質をコードする遺伝子が乗っていないとするのであれば、実際に性差を作る遺伝子を制御しているのは常染色体上にも相補配列が見られるpiRNAのような気もしますが、その辺りどうなんでしょう。W特異的なpiRNAはそういったpiRNAを作るための副産物だとか。

    ともあれ、続報期待しています。

    中川

    ReplyDelete
  2. ありがとうございます!分かりました(笑)。では、次あたり、、、あの表紙はうけますね。

    そう、僕もまさにそう思うんです。そういう(弱い)傍証もなくはないのですが、やはり、直接的に証明しろ、ということなんですよね。piRNA的には、piRNAの作用機序が分かっていないのに、予測に基づくbiological functionに言及するのはちょっと、という立場。カイコ的には、いや、絶対にタンパクコード遺伝子がある!!という立場。いろいろあって、まずはひとつ、という判断になりました。

    上記のことでさえ、インフォ解析だけでは何も言えない、とかいろいろ言われて、大変でした。

    続報プラス、そろそろ、「行くゼ海外」というエントリを書きます。

    河岡

    ReplyDelete