June 12, 2011

5th Tokyo RNA Club (2)

油断をしているうちにいよいよTokyo RNA Clubが明日に迫ってきてしまいました。今更ながらという感じになってしまいましたが、Jhumku Kohtzさんの紹介です。

長鎖のノンコーディングRNAの世界はXistやインプリンティングに関わる一部の遺伝子を除いては、非常に長いこと単なる配列の記載に終始していた感があるのですが、その中でキラリ、Evf-2というノンコーディングRNAの生理的な機能をきちんと報告したのが2006年にGenes and Developmentに報告されたKohtzさんのこの論文です。そもそもどうやってこの遺伝子に巡り会ったのかというのが興味深いのですが、Kohtzさんはもともと発生屋さん。発生生物学の世界では千両役者、スター級のシグナル分子にSonic Hedgehogという遺伝子があるのですが、この遺伝子は神経系の腹側の正中線で発現し、神経管の腹側に存在するいくつかの神経細胞のサブタイプの運命決定に関わることが分かっています。Kohtzさんはこの神経系のパターン形成の仕事をしている中で、腹側に存在する特定のサブタイプの神経細胞で発現している遺伝子を同定し、embryonic ventral forebrain-1と名付けています。この仕事は1998年のDevelopment誌に掲載されているのですが、当時は単なる神経細胞のマーカーとしてしか使っていなかったようです。ちなみにこのDevelopmentという雑誌。オソロシク同業者の間で評価が高く、業界外ではそれほどでもない、イブシ銀の雑誌で、いうならば長島、落合も認める天才打者、カープの前田、といったら分かっていただけるでしょうか。それはともかくとして、当時は単なるマーカーだったEvf-1、ならびに同じく腹側の神経細胞で発現するマーカーのEvf-2がノンコーディングRNAであること、またそのすぐ近傍のゲノム領域に同様に神経系のパターン形成を制御するDlx遺伝子が存在するところから話は急展開していきます。先述の2006年のG&Dでは、Evf-2が近傍の遺伝子発現の転写活性化因子としてはたらいていることを非常に綺麗な一連の実験で示しておられます。当時、僕自身ノンコーディングRNAの研究を始めたばかりのころでしたが、この美しい仕事に非常に感銘を受けたのを良く覚えています。すこし大げさな言い方をすれば、海のものとも山のものともつかぬ長鎖ノンコーディングRNA群でも、個別の遺伝子の機能をきちんと解析してゆけば必ず新しいことが分かるということを、極めて明確な形で明らかにしてくれた初めての論文ではないでしょうか。もちろんインプリンティング関連、Xist関連のノンコーディングRNAの論文はそれまでもあったわけですが。

 つい最近になって、Kohtzさんはさらにこの仕事を発展させ、Evf-2によって制御される遺伝子発現制御が海馬におけるGABA依存性の神経回路形成に関わっていることをNature Neuroscienceに発表しています(論文はこちら)。この辺りの話が中心になるのかもしれませんが、もっと新しい話も聞けるかもしれません。乞うご期待!

中川

No comments:

Post a Comment