December 15, 2010

細胞老化と長鎖ncRNA

 浜松医科大学、生化学第一講座の神武(こうたけ)洋二郎と申します。ncRNAブログ初書き込みですし、折角ですから自己紹介もかねて、これまでの私の研究内容等を簡単に紹介したいと思います。
 
 私はもともと九州大学農学部の細胞制御工学講座という研究室で、研究人生をスタートしました。そこで最初に習った手技が動物細胞培養法でした。二ヶ月間、ただひたすらいろんな種類の細胞株を培養継代していたような気がします。その中で他の細胞株とは異なり、だんだんと増殖スピードが遅くなり、次第に増えなくなってしまった細胞株が現れたのです。当時教わっていた先輩は、それはそれは恐い人(元空手部主将)で、細胞が増えなくなったとはなかなか言い出せなく、血清濃度を上げてみたり、培地を頻繁にかえてみたり、素人ながら試行錯誤したものでした。その後分かった事ですが、その細胞株はTIG-1細胞というヒト胎児肺正常線維芽細胞で、不死化したガン細胞とは異なり、分裂寿命を持つことから細胞老化のモデルとして用いられている細胞株でした。これを知った時、安堵感と共に、細胞が持つ巧妙な老化誘導機構について興味を持った訳です。以来、九州大学の中山敬一先生、ノースカロライナ大学のYue Xiong博士の研究室を経て、現在でも細胞老化の分子基盤の解明に取り組んでいます。

 ここ最近の細胞老化の分野は、エピジェネティックな遺伝子制御やDNAダメージ応答機構との関連が明らかとなり、急速に分子レベルでの理解が進んでいます。私もポリコームタンパクがINK4 locus(p16/p15/ARFをコード)に結合し、ヒストンメチル化を介してINK4 locusをエピジェネティックに抑制することによって、細胞老化を抑制していることを明らかとしました。近年、このINK4 locusへのポリコームリクルートメントにmRNA-likeな長鎖ncRNAであるANRILが関与していること、さらにANRILは細胞老化を抑制する機能を持っていることを見出し、ncRNAの分野に足を踏み入れる事となった訳です。現在ではこのANRILの作用マシナリー及び個体の老化/癌化に関与しているか、その生理機能の解明を行っています。miRNAなどの他のsmall ncRNAと比べ、長鎖ncRNAはまだまだ謎に包まれているため、暗中模索状態です。そんな中、この新学術の公募班員に選ばれたのは私にとってかなりの幸運だったと思います。前回の班会議では、他のメンバーのお話が聞けて、今までモヤモヤとしていた部分が幾分クリアに見えてきたような気がします。私も次の班会議では少しでもこの領域に貢献できるようなおもしろい発表ができるように精進したいと思います。

神武 洋二郎

2 comments:

  1. その後の空手部主将の対応が気になったりするわけですが。。。

    ANRILの機能に数年後(?)出会うことになるというところになんといいますか運命的なものを感じますね。僕も3回生の時の論文輪読会でなんとなしに手にした原著論文2報、一つは大学院の、もう一つは現在の研究テーマにつながっています。研究のオリジンというのは意外と個人的なところにあるのではないかというのは最近とみに感じることです。

    この新学術を契機に国内でも数少ない長鎖ncRNAの研究を盛り上げていきましょう!!

    中川

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  2. コメントありがとうございます。その後の空手部主将の対応ですが、どういった流れでかは忘れましたが、確か背中に上段蹴りだったような気がします。。。。後に後輩思いの先輩であることが分かり、今でも交流がありますが(念のためフォロー)。

    鳥は最初に見たものを親だと思うみたいに、そういった研究のオリジンは、無意識に深層心理に刷り込まれ、ずっと興味の対象になるのかもしれませんね。

    今後とも何卒ご指導のほどよろしくお願いします。

    神武

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