April 20, 2010

大地の恵み

この新学術が誕生した(つまりプレゼンの審査があった)のは、昨年の6月末、忘れもしない第67期将棋名人戦最終局第7局の直後だったか直前だったかのはずです。領域の立ち上げにゲロ吐かんばかりに精進していたKさんやTさんの苦労を知ってや知らずか、郷田か羽生か、と手に汗握る矢倉戦のネット中継に貼り付き、いやいや、出張先のシンポジウムの白熱したトークに時を忘れ、まだまだ高い北の大地の初夏の夕日を見ながらの贅沢な夕食も、あまりにも濃厚なディスカッションのせいでほとんど喉元を通らなかったのを良く覚えています。北の大地と言えば、北大、北大でノンコーディングRNAといえば高木信夫先生ですね。個人的には存じ上げていないのですが、 mRNA型ノンコーディングRNA(もしくはlong noncoding RNA、もしくは高分子ノンコーディングRNA)のスーパースターXistが制御するX染色体の不思議な挙動を、それこそ僕が生まれる前からずっと追い続けておられる高木先生の研究の履歴、一度お伺いしたいものです。で、そのXistですが、これはノンコーディングRNAに興味を持っている人でなくても、一度その話を聞けば何とも奇妙なその振る舞いに心動かされずにはおれんという人が多いのではないでしょうか。なんと言っても、転写産物のRNAが染色体に貼り付いてそれを覆い尽くすなどというおよそmRNAにあるまじき振る舞いを示します。それに引き続いて染色体を丸ごと不活性化するという機能もさることながら、X染色体が何本あろうともかならず一本だけ不活性化しない染色体を残しておくという機構などは、まさに神のなせる技であり、この不可思議に真っ向から挑戦している人たちは数多くいます。本blogシリーズ(そう、シリーズのはずなんです。バトンは次に。駒はマス目の真ん中に。)に既に登場した佐渡さんなどは、まさに本邦が誇る研究者なのですが、来たるCDBミーティングには、新進気鋭のXist研究者、Joost Gribnauさんが来られます。どうやって二本あるうちの一本だけが不活性化する道を選ぶのか。その不活性化プロセスで中心的な役割を果たすXistの発現がどのように制御されているのか。きらきら光るデーターをばんばん出されていますね。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19945382
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18267073
どんな発想で仕事をしておられるのか。世代的にも近いので、お話しするのが今から非常に楽しみです。

さて、話は思い切りそれて冒頭に戻るのですが、ほぼ一年を経て、今、ちょうど第68期将棋名人戦が行われています。今日は第二局、我が心のふるさと、悠久の青春の地、遠野での対局です。理論上指し手は全て予想できるのに、なぜここまで人は魅了されるのか。そういう意味で、とても将棋は興味深いです(ほとんど駒の動かし方しか知りませんが)。すべての俳句も、小説も、理論上は全て予測できるのに事実上同じものは無く、そのそれぞれにそれぞれの読み方響き方があるのと同じなのでしょうか。ATCGで情報が決まっている生き物の可能性などたかがしれていると思うのに、その稚拙な予測をあざ笑うかのように思いもよらぬ顔がいつも飛び出してくる。深いですねー。

中川

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