July 13, 2012

Malat1のパラドックス(5)ーまだまだ先は長そうです

Davidさんの一行メールはパンチのように効いてきます。

僕:(前略)これこれかくかくしかしか、、、(後略)(20行メール)

David:それもやったけど、差はないよ。

僕:こーやってあーやってこれがこうかもしれなくて、、、(中略)サンプル送ってくれませんか、こちらも送りますから(18行メール)

David:了解。

ともあれ、お互いのマウス組織やRNAを交換して、結果が再現できるかどうかを確かめることにしました。1週間もたたないうちにRNAと切片がFedExで送られてきました。正月返上で(ちょっと誇張あり)渾身のノザンをしたところ、DavidのMalat1 KOでもNeat1がすこんと減っているではありませんか!急いでスキャナーでフィルムを取り込み、勝ち誇った気分でメールを送りました。

僕:再現できたよ!(一行メール!!)

しかるに。あれだけやってみたかった一行メールを送った当日は気分が良かったのですが、翌日冷静になってフィルムを見てみると、、、左右逆ではありませんか。生来のおっちょこちょいがこんな肝心要のところで発揮されるとは、、、汗だくだくになって訂正メールを送ります。

僕:あのー、じつはすごくおっちょこちょいなことしてしまったみたいで、自分でも恥ずかしいんだけれども、、、、(中略)どういうわけかあなたのところのMalat1 KOではNeat1は発現が上昇するみたいですね。考えられるメカ二ズムとしてはこんなのがあるのかもしれませんが、、、(20行メール)

David:(無視)

あー、こんなことばっかりやっているからついに返事すらしてもらえなくなってしまいました。もう二度とDavidさんと話をしてもらえなくなるんだろうか、なんて思っていた訳ではありませんが、そういえば4回生の頃、フィルムを現像していて待ち焦がれていたバンドを目にしたとたん暗室を飛び出し、教授室が空だったのでダッシュで一階に駆け下り、帰宅しかかっていた教授を追っかけていって出口付近でつかまえて、先生!ついに出ました!疑問が氷解しました!!と研究室まで引っ張ってきて自慢げにみせたウエスタン、これが明るいところで見るとレーンを間違えていた、、、のを思い出しました。ぽたぽたと液がしたたるフィルムを挟んだホルダーを手に、次の言葉を探す僕。目をそらす教授。長い沈黙。心優しい教授は満面の笑みを浮かべて、君、こういうこともあるよ、またがんばろうね、と声をかけてくれ、、、るわけはなく、ムスっとした顔で無言で去っていかれたのを、ああ、今になってなんで思い出さなくてはいけないのでしょうか。あれから20年。つい最近もその教授の前でまたまた恥ずかしいことをしてしまったことがあるのですが、人は反省しながら生きてゆくものですよ。と、今度は大変優しい言葉をかけていただきました。この言葉は一生忘れることは無いでしょう。反省。反省。反省。反省。反省、、、

話をぐいっと元に戻すと、結局分かってきたのは、Malat1のノックアウトマウス、アメリカとドイツではNeat1が発現上昇して、日本では低下する、ということでした。そういえば神経冠細胞の移動経路についてもアメリカとフランスで違うらしい、なんていう有名な笑い話(?)があるのですが、マウスに関してはC57Bl6という近交系のマウスを使っているので遺伝的背景の差で地域差が出るなんてことはほとんどありませんし、これはもうノックアウトのデザインの差、ということ以外には説明がつきません。

WT         : -------Malat1-------
Nakagawa KO: -------lacZ-pA-Malat1-------
David KO   : ---(    )lat1-------
Sven KO    : -------(    )-------


要は、僕の作ったネズミはinsertion mutationで、DavidはプロモーターとMalat1の一部のdeletion mutation、SvenはMalat1の完全deletion mutationなわけです。まだきちんと決着がついた訳ではありませんが、DeletionをかけたところにNeat1の発現抑制elementがあって、それをなくすとNeat1の発現が上昇する。一方、Malat1が転写されるとNeat1の転写も活性化するという効果もある。その両方を見ているのかな、というのが一つの解釈です。

無駄話を書いていたらだいぶ長くなってしまいました。次回、最終回にします。

中川

1 comment:

  1. 熊本大学生命資源研究・支援センターの荒木です。
    私のグループでは遺伝子トラップを行っていて、トラップベクターにはbeta-geoを用いています。Cre/loxで、beta-geoを別の遺伝子に置き換えることが出来るようしているのですが、あるトラップマウスで、beta-geoをEGFP遺伝子に置き換えるとヘテロでの表現型が変わってしまった(軽くなった)ことがありました。説明がつかず、論文に出来ていませんが・・・。私たちは、いろいろゲノムを操作できるけれど、結果の予想は難しいですね。

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