MENε/βキメラマウスが和光にやってきた時点では、まだパラスペックルはかなりマイナーな核内構造としてしか認知されていなかったような気がします。新幹線のぞみのテロップ風にまとめてみますと、
2002年:新規核内構造体パラスペックルが登場。PSP1, PSP2, PSFが共局在するドメインとして。University of DundeeのArcha Foxらが報告。JCB誌。
2005年:パラスペックル論文続報。p54nrbが新たなコンポーネントの仲間に。再びFoxら。MCB誌。
2005年:イノシン化修飾を受けたmRNAがパラスペックルに繋留されているとの驚きの報告。ストレスが加わると繋留がはずれ核外へ。CSHLのPrasanthらが報告。Cell誌。
そして2007年、BMC Genomicsに発表された、Chessらの高発現量ノンコーディングRNA、NEAT1 (MENε)、NEAT2 (Malat-1) の細胞内局在報告が続く訳ですが、どういうわけか、この論文ではMENεの核内の輝点がパラスペックルであるという記載はありません。核スペックルの近傍にドットが見える、という記述があるので(パラスペックルとはそもそも核スペックルの近傍、という意味)気づいていなかった訳は無いと思うのですが、今から考えると、想像にすぎませんが、NEAT1をノックダウンするとパラスペックルが壊れるという予備的な結果が出ていたので、その機能解析論文を仕上げるまではヒ・ミ・ツ、ということだったのかもしれません。
さて、MENε/βのノックアウトマウス。ヘテロマウスを増やしてガンガン掛け合わせをして、片っ端からメンデル比を調べていったのですが、、、
E (embryonic day) 8.5:ホモ個体あり。外見異常なし。
E10.5:ホモ個体あり。外見異常なし。
E14.5:ホモ個体あり。外見異常なし。
こりゃノックアウトマウスのデザインが間違えていたかな、と、念のためE14.5胚から初代培養細胞MEFを作ったところMENε/βの発現はなく、パラスペックルマーカーPSFの集積も見られず、ほっと一息。つづいて。
E16.5:ホモ個体なし。
E18.5:ホモ個体なし。
うりゃ、きたきた、と、この時点ではembryonic lethalであることを全く疑っていなかったのですが、
P (post natal) 0: ホモ個体あり。外見異常なし
P14: ホモ個体あり。外見異常なし
なんだ、ただの偶然か、とちょっと落胆。と、ここで、もしかするとノックアウトMEFではパラスペックルはできていないけれども、生体内ではMENε/βの発現が失われていないのかもしれない、と思い当たり、背中にじっとりと脂汗が浮かんできました。このノックアウトマウスはちょっと手抜きのデザインをしていて、MENε/βの転写開始点の直下にpoly-A配列をタンデムで並べているだけなので、MENε/βの本体はしっかり残っています。ですので、たとえば生体内でalternativeな転写開始点が使われたりしたときは、もしくはせっかく挿入したpoly-A配列が完全に無視されてスルーされてしまったときは、普通にMENε/βが発現してきたとしても不思議ではないのです。
E10.5の個体のサンプルを切片にして、おそるおそるin situをしたところ、ホモ個体では全くMENε/βの発現が見られず、胸を撫で下ろしたのですが、別の切片を見たところ、
なんだこれ。野生型でもMEMε/βの発現がないではないか、、、
それまで文献的にはMENε/βの発現は「ubiquitous」と言うことになっていたのであえて生体内での発現を調べたことは無かったのですが、どれだけ目を皿にしてもMENε/βの発現は見られません。発現が無いのならば表現型が出ないのは当たり前で、それはそれで納得がいくのですが。通常ノックアウトマウスを作る前に詳細な発現解析をするのが鉄則なので、こんなおっちょこちょいなことをしていることを知られたら師匠に破門されそうですが、MENε/βの発現は実は思っていたよりもダイナミックなのではないか、という興味深い可能性が出てきた訳です。
(次回最終回です)
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