December 15, 2011

第8回 Tokyo RNA Clubのレポートその1

先日のTokyo RNA Club128日)のレポートを仰せつかりました、分生研泊研のいわさきです。個人の独断と偏見が多少コンタミしているかと思いますがご了承ください。

まずはいわずと知れたRNAサイレンシング界の大御所David Bartelさんの発表がありました(僕から見ればボスのボスのボスにあたります)。彼の発表はDroshaがどのような基質特異性をもっているかの最新の知見を紹介されていたのですが、その手法がなんとも賢い。Droshaとその基質としていろんな種類のRNAを一気に混ぜ、反応させます。その後に反応が上手く進んだRNAだけをシーケンス出来る様な手法を用いて、もはやおなじみdeep sequencerでババッと読んでしまう。そうするとDroshaで上手く反応が進んだ基質の特徴がわかるという寸法です。生化学とインフォマティクスの美しい組み合わせ。うーんカッコイイです。

2番目の発表は菅先生です。環状人工ペプチドを合成させる人工翻訳系を駆使し、特定のタンパク質に強く結合する環状ペプチドをスクリーニングする仕事とその応用例に関しての仕事です。これまた圧倒的な仕事の数々。もうこれだったら、どんなタンパク質に対しても阻害剤、薬剤が作れちゃうじゃん、とわくわくしてしまいます。特に僕個人が感動したのは、目指す「系」を構築するのに10年かかった、という話です。そこの10年があったからこそ今のものすごい成果があるわけだと思いますが、もし自分だったらそのような忍耐と信念をもって研究できるか、ということを思うと頭が下がりっぱなしです。うーん、カッコイイですね。

3人目は東大宮園研の鈴木さんです。ヌクレアーゼの一種であるMCPIP1というタンパク質がpre-miRNAのループ部分を分解することでmiRNAの生合成を負に制御するというお話を発表されていました。(詳細は最近Mol Cellに発表されています。)これまでもいつくかのRNA結合タンパク質が直接miRNAの前駆体に結合し、miRNAの生合成を阻害したり促進したりという例は知られているので、MCPIP1のように今後もたくさん見つかるのではないかなと、またそれらが疾患に関係づけられるのではないかなーと期待させていただける発表でした。

4人目は我らが研究室の岩川さんです。植物のmiRNAは当初標的RNAの切断しかしない、と思われてきました。しかしながら最近の研究によって動物の様に翻訳抑制も引き起こすのではないか、ということを示唆する報告がされています。それではそのメカニズムを研究してやろう、ということでmiRNAによる翻訳抑制を再現できるin vitro系を自分でつくって解析したというお話です。自分で系をつくって、自分で解析する、という言わば生化学の王道です。

5人目はValerio Orlandoさんです。ショウジョウバエやヒトでRNAサイレンシングは細胞質内で転写「後」に働くものである、というのは誰もが疑いない所となっていますが、酵母や植物で起こるように転写レベルも制御しうるのではないかというお話でした。確かに以前から、ショウジョウバエやヒトで転写レベルにサイレンシングが起こるということを支持する報告はいくつかあるのですが未だあまり市民権を得られていないなーというのが現状だったと思います。Valerio Orlandoさんの報告(最近Natureに発表されています)でさらにこのあたりの議論が活発なってくるのでしょう。


当研究室佐々木氏が「いわさきくんが真面目なことを書くなら、僕はちょっと違った視点で書いてみるよ」とのことなので、そちらの方もご覧になっていただければと思います。(近日アップ予定?)

いわさき

1 comment:

  1. 転写レベルの制御はほんとうに難しいですよね。結局、実験の境界条件をはっきりと定めるのが難しい、というところに尽きる気がします。実際ほんとに間違いなくsmall RNAがそれらをリクルートしている、という証拠が出るまではどうにもならないし、とはいえどうやってその証拠を掴めるねん、という感じだし、しかも、していない、と結論付けるのも困難だし、本質的な進展はいつ訪れるんでしょうね。と、マジレスしてみました。

    K岡

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