November 13, 2011

うらやましい論文

ついに、というか、満を持して、というか、噂の論文が世に公開されました。
転写因子の分野の大御所、Rosenfeld研からの仕事です。
普通にウェブで公開されているのでその図を貼付けても良いのでしょうが、いちおう書き直したまとめがこちら。もっとまともな図はリンク先をご覧ください
ポイントは、血清刺激によって発現がオン、オフされる一群の遺伝子がある訳ですが、それらの遺伝子座がポリコーム体と核スペックルという核内構造体を往復することによって発現制御がなされている、というところです。しかも、その際にPC2と言うタンパク質のメチル化のオンオフが伴っており、それぞれの核内構造体に存在するノンコーディングRNA、TUG1とMALAT1が遺伝子発現制御に必須の役割を果たしていることを示しています。遺伝子座そのものを核内で移動させることによる転写制御があり、そこにノンコーディングRNAが関わっているという、非常に興味深い報告です。


 正直言って、こういう仕事を出したいなあ、とおもっている論文を他のラボから出されてしまうと、とても悔しいですね。遺伝子の機能と、分子レベルのメカニズムと、そして細胞生物学レベルでの知見がぴたりと合うような仕事というのは滅多にお目にかかれるものではありません。Gomafuもこういう形でまとめられれば良いのですが、、、

 ただ一点、どうしても引っかかるのは未発表のMalat1のノックアウトマウスの表現型で、これがいまのところ何一つ見えていないのですね。僕の所を含めて世界で3ラインほど作られているようですが、どこも同じような状況のようです。これをどう考えるのか。Malat1の劇的な機能を示した論文は以前ここでも紹介したPrasanthらによるものなどありますが、いずれも培養細胞株を使ったものです。培養細胞、特にガン由来のものではMalat1は過剰発現している傾向にありますから、細胞株になるときにMalat1の機能が必要だった、だから細胞株でMalat1をたたくといろいろな表現型が出てくる、という解釈をすることも出来るかもしれません。

 もう一つの可能性は、これはつまらん方の可能性ですが、核内にAgo-siRNAの複合体を「異所的に」持ち込んでしまうことによる二次的な影響です。siRNAは高等真核生物においてはヒストンのメチル化等は引き起こさない、というのがコンセンサスになっていると思うのですが、特に核内に大量に存在するMalat1ようなノンコーディングRNAに対してsiRNAを使った場合、本来核内には「無い」はずのAgo-siRNAの複合体が、核スペックルなり、なんなりに異所的にたまってくることが予想されます。そうするとなにか別のことが起きないのかな?という気もしてくるのですが。高等真核生物においても「siRNA (miRNA)ーエピジェネティック制御」があるのではないか、という可能性は、有名雑誌に掲載された論文がリトラクションされたこともあり、完全に無視されている状況ですが、あの話にも一分の真実は含まれていたのかもしれないと、思うこともあります。

 核内のノンコーディングRNAに対してsiRNAを使うのが本当に正しいアプローチなのかについては、いちど、きちんと検証してみなくてはいけないと思っているのですが、なかなか手が回らないのが現状。。。です。

中川

3 comments:

  1. 核内のものに限らず、長いncRNAの機能を調べるのにsiRNAを使うのが妥当かどうかというのは、僕も常々気になっています。。。誰か、RNaseHを使う方法、あるいは(どれ位簡単に出来るのかどうか分かりませんが)ZFNやTALENを使ってノックアウトしてしまう方法などと、表現型を比較してもらえませんかね。

    東大・分生研

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  2. 少なくともS-オリゴとsiRNAの効果の違いをみるだけならホントにすぐに出来る実験ですが、なかなかこの手の実験というのはやる気にならないものですよね。力の有り余っている学生さんの冬休みの宿題にいかがですか?と、当新学術のメンバーにふってみます。論文一本すぐかけるでー、オイシイしい仕事やでーと甘い言葉にひっかかるひとはいませんかね。

    中川

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  3. あいたたた、針がくちに刺さりました。

    いわゆるゲノムの三次元構造、面白そうですよね。

    河岡

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