日々の研究にGoogleを活用されている人も多いと思いますが、そのパワーにはいつも圧倒されます。あれだけのシステムが広告収入(というか最初は個人レベルの試み)だけで成り立っているところも凄いのですが、長い歴史を持つ既存の検索システムを質的に凌駕してしまっているところに驚きを禁じ得ません。文献検索などはPubmedのお家芸だったのが、今ではGoogle Scholarの方が、被引用文献まで出てくるという点で、一歩先んじているのは間違いのないところでしょう。NCBIの提供するPubmedデーターベースがインターネットの普及とともに全世界に無償で提供され、あっという間に各大学図書館で提供されていたOVIDのシステムを葬り去ったのも個人的には記憶に新しいのですが、ネットで手に入れられる知識をどう生かしてゆくか、それは研究の進捗状況を大きく左右する重大な要素であるという実感を持っている人も多いのではないでしょうか。僕自身、ノンコーディングRNAの研究ではありませんが、Pubmedでの"RPE, margin, retina, chicken"というたった4語の検索から出発して10年近く飯を食ってこれました。
また、とんでもないヒミツ(?)情報もネット検索で引っかかってくるときもあります。RNA業界の人なら、またそうでない人にとってもHuRというRNA結合タンパク質のことを耳にしたことはあると思うのですが、このタンパク質にちょっとしたご縁があったことがありまして、そうなると発生生物屋としてはノックアウトマウスの表現型が気になるわけです。ところがPubmedで検索してもそういうマウスの報告はない。データーベースにも載ってない。そこでほんのお遊びで"HuR, knockout, mouse"とかGoogleバーに打ち込んでみるわけですね。そうするとなにやらどこかの大学の学位論文のディスカッションが引っかかってきて、「現状HuRのノックアウトマウスは胎生初期に致死となるため、、、」とか出てくるわけです。Google恐るべし。せっせとロボットがpdfファイルをかき集めている今日び、滅多なことはホームページに載せるものじゃあありません。
しかし、ここから先が一番強調したいことなのですが、よくよく考えてみると、Google検索ではどうでも良いことは何でも分かるけれども、本当に知りたいことは一つも分からないんですね。「ノンコーディングRNA, 核, 機能, 新規」なんて打ち込んでみても、さして情報は得られません。結局のところ、本当に知りたいことは手を動かさなくては分からないし、手を動かして得られた結果は裏切りません。ちなみにちょっとお下劣なネタですが、白い鼻毛が生えてきたのを見つけまして、さっそく「鼻毛, 白髪」で、Google検索。もー、大変といいますか、ものすごくどうでも良いことが、何でも分かってしまいました。日々のちょっとした疑問には、忠実に、そして確実にGoogleは答えてくれます。
ちなみに、我が愛すべきノンコーディングRNA、「Gomafu RNA ノックアウトマウス」あたりで検索すると、学会のアブストラクトとかが引っかかってくるので、大体の状況はすぐに分かります。ふむふむ、なんだ、ノックアウトマウスは一見正常なのかと。一昔前ならこういう機密情報(??)には箝口令を引いたのでしょうが、今の時代、すぐに分かってしまうわけですね。この、「一見表現型が無い」という状況は大変に手が広い局面で、多くの場合、「もうやらない」というのが、最善手となります。しかしながら形勢判断は難しく、今後どのような勝負手が出てくるか分かりません。そのあたりの勝負手をじっくり考える、これはまさに研究者冥利に尽きるというもので、またそういう手の広い局面こそ、研究者の個性が一番出やすいのだと思います。今後どのように研究が進むか分かりませんが、Google検索では引っかかってこない局面を、作り出したいものだと思います。長々と書いてしまいましたが、これが一番言いたかったことです。
中川
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