March 1, 2012

カイコドラマチック(11)

寒いですね、こんにちは。最近ふんだりけったりの河岡です(みなまで書きませんが)。
中川さんのポストを見て、だいぶ前になぜか以下の文章を書いて投稿していなかったことを思い出しました。実はまだ続いている、カイコどらです。

今回は、「(トランスポゾンではない)GFPに対するpiRNA依存的なサイレンシングが起こったBmN4細胞」に関する論文について、主にその研究の経緯について語ろうと思います(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22194309)。
もちろん、論文には、こういうことを狙って~、なんて書くわけですけど、その裏にはやはり、いろんな事情があるものです(自分で言うか)。

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piRNA経路は、動物の生殖巣におけるトランスポゾンサイレンシング機構の中核をなす経路であると考えられています。そこでひとつ、シンプルな疑問が生まれます。
piRNA経路は、どのようにして、トランスポゾンをやっつけるべきものだ、と認識できるのでしょうか?ここで言う「認識」、とは、「やっつけるべき配列に相補的であるpiRNAが(選択的に)産生される」ことです。
このことは、piRNAに関するレビューでもたまに記述されており、生物学的に結構面白い疑問だと思います。

僕は学部4年生の頃から、カイコの研究者が集まる蚕糸学会、という学会に参加しています。あるとき、長野で行われた蚕糸学会で発表を聞いていると、おなじみBmN4細胞を用いた新しいトランスジェニックライン作出法に関する面白い発表をされている方がいました。
発表では、GFPと薬剤耐性遺伝子を含むトランスジーンをBmN4細胞のゲノムに飛ばし、薬剤選抜をかけることによって、GFPを安定的に発現するラインがとれた、ということが報告されていました。
その発表の途中で、「薬剤耐性なのだからトランスジーンを持っているはずなのに、GFPが光らない」ラインの存在についての言及がありました。

「あ、これは、何らかの理由でBmN4細胞のpiRNA経路がGFPを(トランスポゾンと勘違いして)抑制している結果なんだ」と思いました。

発表されていたのは山口大学/鳥取大学のグループの方で、ボス同士が知らない仲ではなかったこともあり、すぐにその細胞を利用した共同研究が始まりました。

彼らの実験で素晴らしかったのは、GFPが光っているラインとそうではないラインが両方、しかも複数あった、ということです。つまり、後者にあって前者にない特徴こそが、piRNA経路によるトランスポゾン認識機構の一端を担うはずです。

昆虫遺伝研究室助教の木内さんや泊研の小林さんの協力もあって実験はとんとん進み、8つあったトランスジェニックBmN4ラインのうち3ラインでGFPをやっつけるpiRNAが産生されるようになっていることが分かり、その理由が、GFPを含むトランスジーンがもともとpiRNAを産生する能力のあるゲノム領域(piRNAクラスタ)に挿入されたからである、ということが分かりました。何とみっつのラインで同じpiRNAクラスタへの挿入が認められたため、ねばっこい雰囲気、ということで、このクラスタを「とりもち」と名付けました。その他、「piggyTrap」とかいろいろ候補はあったのですが、和風がよかろう、ということで。

すなわち、ある配列がpiRNA経路による抑制を受けるための必要条件は、「その配列が内在性のpiRNAクラスタに挿入されること(+その領域からその配列が転写されること」である、ということが分かりました。さて、もっと細かく条件を知るには!?この実験系も、かなりいろんな展開が想像できる実験系ですね。我ながら、今後の展開が楽しみです。

このあいだの某学会に参加した方々からは、BmN4細胞を扱った研究がかなり市民権を得てきている、という嬉しい報告がありました。片手では数えられなくなってきているかな?という感じです。以後、自分たちはもちろんのこと、多くのグループからBmN4細胞をつかった論文が出るといいなあ、と思っています。そうであってこそ、自分はこの分野のプログレスに貢献したんだ、と胸をはって言えますから。

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