いよいよ最終回です。今回のKeystone meeting noncoding RNAでも、実に様々な人々に会いました。
Nick Proudfootさん
古くからmRNAのプロセシングを研究されている方で、Plenary lectureらしく歴史をひもときながら、最新のアンチセンス転写産物に関する研究やGene loopingという概念の説明などはとても新鮮でした。1976年に発表された3' UTRに関するこの論文など、「始めてnoncodingという言葉を使ったんじゃないか、今じゃみんなこれがとっても味気ない名前のUTRになってしまったがね、はは、」。古くからnoncodingに関心を持っておられるがゆえに、Mattickさんを始めとして多くの参加者が主張しているいわゆるPervasive Transcriptionの概念に関してはちょっぴり辛口で、「これらのアンチセンス転写産物はジャンクだし、おっといかんいかん、ここではジャンクと言っちゃいかんのだった、はは、」。ずっとこの調子。ユーモアを連発しては「はは、」。「イントロンはジャンクだから、おっと口が滑った。ついつい慣れているからジャンクと言ってしまうんだよ。これぞ、オートマティックにアンティマティック、はは、」。いやこれには腹がよじれて椅子からずり落ちました。大笑いしたユーモアが10個、理解できなくて周りのNative Speakerが笑っていたユーモアが10個、Nativeですらついていけず「はは、」だけが静まり返った会場に響き渡るジョークが10個。平均3分に1個のユーモアが交ったトーク、延々90分あまり全く飽きませんでした。ああいうユーモアはやっぱり練習しているんですか?と聞いたら、「いや、トークの準備は一切金輪際ユーモアを交えず極めてクソ真面目にしているんだが、話しているとついつい頭のどこかでジョークを言えという声が聞こえて、それを止められないのだよ、はは、」「うん。日本人は真面目すぎるね。もともと真面目な文化だから。アメリカがそのへん崩したはずなんだが、ちと崩したり無かったみたいだな、はは、」実はNickさん、数年前に東京医科歯科大(現京大)の萩原さんが日本に呼ばれた事もあるそうです。恥ずかしながら、Nickさんは今回その仕事を含めて始めて知ったのですが、とにかく渋い。渋い。こういう方々の仕事の蓄積があって今の世の中があるのだなあ、と、感慨深い思いがしました。また同時に、自分の知識の守備範囲など海の中のモズクほども無いということも改めて認識しました。。。
神Neil Brockdroffさん
そうなのです。今回最も楽しみだった事の一つは、神Neilさんに会える。生Neilさんに会える。行った事はありませんがアイドルの握手会というのは多分こういうものなのかな、と思ったりもします。Neilさん。言わずもがなXistをクローニングしたこの業界のスーパースター。以前ここでも触れましたが、分化させればピカピカの不活性X染色体が出来る奇跡のES細胞、PGK12.1を分与していただいた縁でものすごくHappyな共同研究の論文を出す事が出来た訳ですが、実はe-mailだけのメル友で、実際にお会いした事が無かったのです。Neilさんは想像通りのイギリス紳士で、多くの場合上述のNickさんもそうですがイギリス紳士は独特のユーモアを持っておられていて、そこがまた人物の奥深さをしんしんと感じさせられるところです。さて、Neilさんに以前から聞きたかったのは、X染色体の不活性化を発見したLyonさんとお話しした事がありますか、ということでした。で、とっても耳心地の良いブリティッシュイングリッシュで話されたエピソード。「Lyonさんかー、いやあ、彼女はものすごい寡黙な人でね。また、とにかく、尋常でなく、じーっと、考えてから返事をされるんですよ。とっても思慮深いということなんだけど、こっちは若造で、向こうは大御所だろ。一生懸命話しかけてもじーっと黙っておられるものだから、どんだけアホなことを言ったのだろうかと、また焦ってぺちゃぺちゃ喋ることになるんだよね。そしたら。「ーー」沈黙。もうこっちは気が気がない訳よ。どんだけ馬鹿な事をしゃべったのかなって。一度、電話をした事があってね。「ーーー」。「ぺちゃぺちゃ」。「ーーーーー」。「ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ」。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」。。。。
「しかも電話よ電話。全く顔の見えない電話。数分感の沈黙。いやあ、あれは人生最悪に焦った時間だったよ。」
神Neilさんが焦ってしまうLyonさん。僕はお話しできる機会が訪れるのでしょうか。。。
Leonald Lipovichさん
話には聞いていたのですが、He is a character. いやあーこれは百聞は一見に如かず。表現不可能にユニークな方でした。日本人がトークをするなら彼らの時差にあわせなければ。じゃなきゃフェアーでない。だから昨日は寝なかったのです。なんて大真面目でつばを飛ばしながら言われたら、引いてしまうのですが、だんだん彼のキャラが分かって来て、そうなるととても面白くなって来て、本当に本当にnoncoding RNAが好きなんだろうなあ、ここまで好きになってしまうとだいぶヤバいけれども、とにかく1000%本気。あと、楽しもう、楽しませよう、というサービス精神も満載で、これはなかなか日本では見かけない人物、、、と書こうとして、ふと思い出しました。僕が学生時代、そういえば生物物理学教室に、コードネーム「ごんぞう」さんという方がおられて、この方も表現不可能。偉大なる変人、いや、変人と書いてユニークと読む。これは研究者への最大限の賛辞にほかならないのですが、そういう規格外のユニークさを持った人に出会うとこちらも元気になってくるのです。久しぶりに異次元のバッテリーからの充電を受けたような気分でした。
John Mattickさん
noncoding RNAのreview articleといえばこの人。勿論オリジナルの仕事でも最近はかなり意欲的な仕事を連発されている、この業界のオピニオンリーダーですね。わざわざどういう人かなど書くのもおこがましいなのですが。見た、見た、見てしまったのです。噂に聞いていた、2フィンガーアルペジオならぬ、2フィンガータイピングを。そう。ノートパソコンを膝に置き、両手の人差し指をピンと立て、あとはコガラが幹をつつくがごとく、ティティ、、、、、ティティティ、ティティティ、、、、ティティティティティティティティティ。ノートパソコンが膝からずり落ちたら左手で支え、あとは右手の人差し指の独壇場です。この人、あのレビューを書くのに、これでずっとタイピングしてるのか、、、と思うと、にやけてきてしまって、笑いをかみ殺すのに必死でした。今回の世話人の一人であったという事もありますが、全てのセッションを最前列で聞いておられ、ポスターセッションもたぶん全部見て回っておられたのではないでしょうか。なんというか。ncRNAへの愛がこちらにもひしひしと伝わってくる、そんな感じの方でした。
うーむ。なんだか書き始めたらとても一回では終わらないような気がしてきましたが、もうたいがいこのブログを占拠してしまったので、そろそろ終わりにしたいと思います。いずれにせよ、このミーティングで得られた事。それは知的刺激であり、人のつながりであり、心のオアシスでした。Practicalにも実は凄いinputがあったりしまして、また近いうちにそれを紹介できる日が来ん事を。
ちなみにこの会議中、時差ボケへの切り札だと思ってサンフランシスコの薬屋で購入したメラトニン。全く全く全然僕には効果がなく、過不足無くきっちり一週間眠れぬ夜を過ごし、帰って来たらさすがに次の日は一日ぶっ倒れていましたが、その翌日からは何事も無かったようにいつもの時間に寝、いつもの時間に起きていました。どんだけ体内時計がしっかりしているんだか、、、
中川
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