June 30, 2012

Malat1のパラドックス(3)ーちょうどそのころ地震がありました



Malat1のKOマウスが表現型がない!という事実が明らかになる一方で、この遺伝子の機能を細胞レベルで検証するノックダウンの実験の結果が次々と報告され始めていました。最初は比較的目立たない形でChouさんのところからMol Hum Reprodに。次に秋光さんのFEBS lettの論文や、PrasanthのところからのMol Cellの論文や、どれも表現型としては非常に明確です。癌細胞の移動がおかしくなるとか。細胞分裂異常を起こすとか。具体的な分子メカニズムに関しては選択的スプライシングの制御である(Prasanth説)、いや、そうではなくてターゲット遺伝子の転写制御である(秋光説)、と違いはあるものの、どれもMalat1が培養細胞においては重要な生理機能を持っていることに関しては一貫しています。ちょっと微妙なBessisさんのところのEMBOの論文にしても、やはり培養細胞を用いたノックダウン実験ではきちんと表現型が出てきます。そう。2010年はMalat1の機能解析論文が一気に噴出した年だったのです。

しかるに、、、

どうして個体レベルでは表現型が現れないのでしょう。

これは大きなパラドックスです。ノックアウトマウスを作っても表現型がでないことに慣れてしまうとredundancyなんじゃない?と片付けてしまいたくもなるのですが、Malat1に塩基配列で明確に分かるファミリー分子はありませんし、とあるDeep sequencing解析によればmRNAの全リードのうち2%をも占めるMalat1ほどアホほど発現している遺伝子など、ほかに見当たりません。日本の科学技術関連予算ですら国家予算の2%なんてとてもいきません。Malat1が本当に無くてよいのならば、細胞がmRNA製造に注ぎ込んでいるエネルギーの2%の削減が出来るということです。これほどすばらしい無駄の削減もないでしょう。どこかの政治家さんに教えてあげようかしらん。

ひたすらけなげにMalat1(緑)を作り続ける神経細胞、、、

なんかおかしい、ということがある場合には我々が気づいていない重要なメッセージが込められているはずです。その謎をなんとか明らかにするまでは論文なんて書けないなあ、というか、全く表現型がないネズミを前にしてもなかなか気分が盛り上がらないし、論文書きという北鎌尾根に登る(登ったこと無いですが)モティベーションは高まらないものです。Neat1とパラスペックルの論文のときはカナダのRIboclubミーティングでパラスペックルのど真ん中の専門家のArchaさんとGordonさんに、「パラスペックルが細胞タイプ特異的なんて素敵な発見じゃない。ぜひ論文にしてみたら」、と背中を押してもらったのでモティベーションがきゅーんと上がった訳ですが、今回はなかなか「書こう」という気になりません。ずるずるずるずる、何か分かるまで、何か分かるまで、と、最初のホモ個体が生まれてから2年近く、頭を使わないでも良い実験以外は何もせず、事実上放っておくことになってしまったのですが、その頃例の地震がありまして。Prasanthからも大変心を痛めているけれども大丈夫か?と久しぶりに連絡があり、そういやパラスペックルが無くてもマウスが大丈夫というNeat1 KOの論文も出たね、我々のマウスも形にできるかね、というような話になり、なんやえらい話題の切り替えが早いなと思いつつも、やはりきちんと論文という形でまとめなければならないかなあ、と思い始めたのがちょうど5月ぐらいだったでしょうか。いろいろ心理的なダメージも大きく気分のまとまりもつかず落ち着かない日々を過ごしていたのですが、とりあえず切片を切って染め物をしてまとめデータを集めるのがちょうど良い心のリハビリになっていたような気がします。はっきり言って4月いっぱいは全く仕事が手につかなかったのですが、ちょうどそのところ行われたTokyo RNA Clubあたりから、ひたすら切片を作って染め物をするという日々に小さな幸せを感じる日常が戻ってきました。

中川

June 26, 2012

Malat1のパラドックス(2)ーブルータス、お前もか!

慶応の福田さんの投稿をもって今回の公募班の方の自己紹介も無事終了しました、、、ってしていないですよ!蓮輪さん!とプレッシャーにならないプレシャーをここに書いておきます。。

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超速!▲3七銀システムならぬCDBシステムは実によくオーガナイズされていて、彼らと共同研究を開始さえすれば一年以内にホモのマウス個体を手にすることができるという、ほんの10年、20年前には到底考えられなかった夢のような環境を提供してくれています。一ラインあたり、共同研究者としての分担金はわずか40万円。もちろんノックアウトマウスがいざ出来た後のネズミの維持管理や表現型解析のほうが遥かに大きな労力とコストがかかるのは実際そうであり、またそうあるべきだと思うのですが、マウスの変異体解析が一部の特権階級の高級な趣味でなく実践的な解析ツールになったということに時代の流れを感じますし、あえて既得権益にしようとすればそうできたであろうマウス作製技術を、手を伸ばそうと思えば手の届く頒価で万人に開放してくださったCDBの相沢さんの心意気には本当に頭が下がる思いです。「頭を下げている暇があったら仕事しぅろろってんだよー!」とか怒られそうですが。ともあれ、さてそういう時代になりましたよ、これだけのシステムを作りましたよ、それであなたはどうしますか、と、ユーザーの立場である我々の世代は大きな問いを投げかけられていると言うことも出来るかもしれません。サブクローニングとミニプレップとシークエンスだけしていれば一人前だった時代もありました。ノックアウトマウスを作れるだけで神になれた時代もあったのかもしれません。マイクロアレイ、次世代シークエンサー、テクノロジーはすべて同じような要素があると思います。結局何が知りたいの?その問いが無ければ、主人公がいつまでたっても出てこないで最終回が来てしまった連ドラになってしまいます。「第三の男」はやはりオーソンウェルズが出てこないことには始まりません。

さて、話はすごくそれてしまいましたが、個人的に思っていた一つの問い。それは、核内構造体に局在する脊椎動物特異的なlncRNAがいったい何をしているのだろう?という疑問です。もう言い切ってしまいましょう。「悪女」Gomafuとつきあい始めてからすべて歯車が狂い始めた、そこまではいかないかもしれませんが、おそるおそる作ったGomafuのノックアウトマウスは発生過程に大きな異常を現すに違いないという期待を見事に裏切って、ピンピンしていました。それでは、と押し掛け女房(1)で産総研の廣瀬さんとの共同研究で始めたパラスペックルの骨格成分Neat1のノックアウトマウスも、パラスペックルは見事に消えましたが、これまた別の意味で見事に全く表現型が見えませんでした(当時は)。ここで、ノックダウンすれば核スペックルの構成成分の局在は変わるは細胞は死ぬは、転移性の癌細胞の移動がおかしくなるわ、しかも複数のラボから独立にそういう報告が出ているMalat1という遺伝子のノックアウトマウスを作るということは、僕にとって一つのポジコンー核内lncRNAはものすごく重要な働きをしているということを遺伝学的にも確かめられるという意味でのポジコンーであったわけです。

超速!システム、早い早い。2009年の10月末には待望のホモ個体が、いや、待望でなく期待を見事に裏切って見るからに性格の悪いガッツポーズを取っているホモ個体が生まれてきてしまいました。妊娠14日目の胎児でとりあえず調べてみたのですが、ホモ個体が普通に育っているということを僕が目にした瞬間、心の片隅にずっと住まう悪女Gomafuがニヤリと笑うその気持ちを不覚にも抑えることは出来ませんでした。ほれみい。ほれみい。ですね。心の別の片隅にいつのまにか住まいを決めてしまったらしい紳士Neat1もなんだか仲間が増えたようでうれしそうです。Welcome to the No Phenotype Worldです。ノックアウトマウスで表現型がなかなか出ないということには出身ラボで呪われたように表現型が出ないマウスを相手に艱難辛苦の日々を送る学生さんの日々を嫌というほど目にしていたので心の準備はできていたのですが、redundancyでは片付けられない、ファミリー分子が見当たらないGomafuやらNeat1やらMalat1のノックアウトマウスがこぞって何ら表現型が無いということをどう受け入れれば良いのか。核内構造体の存在意義って、、、核内構造体の構成成分であるlncRNAの存在意義って、、、

もやもやとしながら2009年の暮れを迎えました、というのはウソで、任期が切れてクビになりかけたのがなんとか別のポジションが見つかって、とことん悪女と紳士とMalat1とつきあってやろうかと、むしろ開き直ってさばさばとしていたのがその時期でした。ちょうど本ブログの企画が本郷三丁目のぶどう亭でひっそりと生まれた頃です。

(、、、長くなりそうなので次回からは要点を簡潔にまとめるようにします。。)

中川

June 24, 2012

慶應義塾大学の福田です

慶應義塾大学の福田です。本年度より公募班の一員として参加させて頂くことになりました。 現在、骨代謝系でのmiRNAの作用について研究を進めています。 もともと私はホルモン受容体補因子のノックアウトマウスの解析をしていたのですが、その因子がmiRNAの生合成に関与するということが報告され、この世界に足を踏み入れました。 ここ数年はmiRNAの分野からは遠ざかっていて、骨関連疾患の中でもかなり珍しい、進行性骨化性線維異形成症(FOP)という病気の研究に携わっていました。FOPはBMPのシグナル異常により発症することを突き止めましたが、最近の報告でBMPがmiRNAの生合成に関係すること、さらにその経路には私のノックアウトした因子が関与していることが判明しました。こんなことから、私が作ったノックアウトではmiRNAを介して骨代謝に影響が出ているのでは?思い立った次第です。何分、miRNAの研究の経験が浅いので、班員の皆様の見識を少しでも多く吸収し、研究に役立てたいと思っています。 骨の分野は非常に地味ではありますが、コツコツ研究を続け、成果を出して行きたいと思います。 よろしくお願いいたします。

June 21, 2012

Malat1のパラドックス(1)


以前ここでもたびたび取り上げていたMalat1をノックアウトしても何にもおきませんよー、という論文、ついに公になりました。僕らのグループのRNAに掲載される論文がこちらMalat1をクローニングしたSven DiederichsさんのRNA Biologyに掲載される論文はこちら。そしてMalat1が局在する核スペックルのPoly-A(+) RNAをずっと追いかけてこられた、この分野の大御所David SpectorさんのCell Reportsに掲載される論文がこちらです。最初はJ Cell Sciに一緒に投稿しようね、とか言っていたのですが、紆余曲折あってそれぞれ収まりの良いところに収まった感じです。詳細は次回以降に。なんでGomafuなあんたがMalat1やっているの?とか突っ込まれてしまいそうですが、これには訳がありまして、今をさかのぼること4年前、分子生化合同学会BMB2008でPrasanthさんが来日されたのを覚えておられるかたは、、、あまりおられないかもしれませんが、Malat1ノックダウンで細胞の核スペックルは乱れに乱れ、しまいには分裂異常で死ぬという話をした人といえば、少し記憶に片隅に残っている方もおられるのではないでしょうか。その後、2010年のMol Cellにこれらの話は掲載された訳ですが(えらい時間がかかっているんですがこれもまた次回以降に)、学会前後にいろいろディスカッションしているうちに、「やっぱりネズミでの機能を見たいんだけどね、でもCSHLのマウス部門の人々、言を左右にしてなかなかノックアウトマウス作ってくれないんだよね、どうしたもんかいね。」と言うものだから、「じゃあ超速!神戸理研CDBでネズミを作ってみたら?Neat1のノックアウトマウスを作ったところだからBACクローンも手元にあるし(Malat1はNeat1のすぐ横にある遺伝子)、ベクターはすぐできますよ。僕が個体レベルでの解析をして、表現型が見つかったら細かい分子メカニズムをあなたが解明する、っていうのはどう?」と、軽い冗談のつもりで言ってみたら、思い切り冗談を真に受けられて、でも僕自身Malat1という遺伝子にはとても興味がありましたし、当時は(今も、、、)核内で構造体を作るノンコーディングRNAだったらもう誰でも良い!状態でしたし、じゃあオーサーシップとか良く分かんないけれどもとりあえず共同研究しましょうか、細かいことは後で決めましょうや、ということで廣瀬さんとのNeat1押し掛け女房プロジェクトに引き続き、海をまたいだ押し掛け女房第二弾、Malat1ノックアウトマウスプロジェクトがスタートした訳です。2008年12月12日。金曜日のことでした。(続く)

(ああ、また始めてしまった、、、)

中川

June 17, 2012

The 22nd CDB Meeting - RNA Sciences in Cell and Developmental Biology II -


 はじめまして。ミーティングレポートを書いてみる?とのご提案を、1日目のレセプションで中川先生からいただき、のこのことやってまいりました。理研CDB中山研の石田と申します。いつかこのブログがブログ本になるときに邪魔になるといけない…と躊躇しつつ、書き込みます。駄文長文、お許しくださいませ。

 今回のCDB RNA Meetingの幕開けは、山本正幸先生によるKeynote Lectureでした。違う分野のCDBメンバーの中にも是非聞きに行きたいと言う人が多かったLecture。山本先生が現在進めておられる研究課題の中で、2つのRNA結合タンパク質(Mei2 & Mmi1)によって体細胞分裂と減数分裂の遺伝子発現パターンの違いが生み出されることを中心にお話しされました。core/augmenting DSR (determinat of selective removal) のコピー数がMmi1による認識を調節していることを聞き、「生物って単純にすごいことやってんねやなぁ、やっぱり。」と変なところで妙な感心。私を含めた参加者全員にとって、熱い議論が繰り広げられる目眩くRNA Worldへの誘いとなるLectureでした。

Session
 願わくは全ての発表についてレポートしたいのですが…今更私が長々と書く必要はないか…というわけで、各日お一方ずつ私の心に残ったことを書かせて頂きます。(1日目のレポートではなくなってしまい申し訳ありません>中川先生)

1日目:Dr. Reini Luco
 美人さん!!(☆_☆)ではなくて。去年のReviewを読んでいなかったら、おそらく付いていけなかったです(本当は付いていけてないかもですが)。クロマチン構造やヒストン修飾による選択的スプライシングのエピジェティックな調節機構の中で、FGFR2anti sense-lncRNAの細胞分化における機能についてお話しされました。このasFGFR2が結合するSuz12ANRILとも結合しているよなぁ…と思っていましたら、望月一史先生のご質問に対する答えで、他のlncRNAとの関わりはまだ不明ということでしたので、気になるところです。

2日目:戸田達史先生
 『歌う生物学』の本川達雄博士を彷彿させる『Time to Say Good-Bye』の1フレーズとそれに続けられた言葉。会場に笑いを起こさせただけではなく、私はちょっと感動してしまいました。戸田先生はFCMDの患者さんのご家族の間でも有名で、その先生がおっしゃるからこその重み、でしょうか。FCMD原因遺伝子フクチンの3’UTRSVAというレトロトランスポゾンが挿入されることで起こる異常なmRNAスプライシングがFCMDの原因だというお話でした。臨床のお医者さんとして患者さんに向き合われているからこその視点で、創薬・治療を視野に入れた研究の重要性と面白さと難しさを感じました。AEDセラピーの実現や、ピカチュリンなど筋ジス発症に関わる他の因子との関与等、興味は尽きません。

3日目:鈴木敦先生
 マウスの生殖細胞の分化におけるNANOS2CCR4-NOTによるRNAP-bodyへの輸送と分解機構について、Dnd1が生殖細胞特異的に存在してNANOS2と一緒にRNAに結合して標的RNAの分解に関わっているというお話でした。ストーリーもさることながら、スライドもとても綺麗でわかりやすく、今後の参考にさせていただこうと思いました。私のボスにもよく注意されるのですが、論理的、かつ一般性を持たせたわかりやすい説明とスライドを作ることができるようになることは、私の大きな課題の1つです。

Poster
 PIPD、学生問わず、全てのポスターの前で活発な議論が繰り広げられていました。泊研のいわさきさんの流暢な英語による情熱的な発表に圧倒され、稲田研の坪井さんがこれまでのお仕事を纏められ新たなお仕事を始められていることに焦りつつ…。私もポスター発表をさせていただき、望月先生をはじめとする見に来ていただいた方に、5年間の仕事がようやくまとまったことを報告することができました。また、幸いなことに、私の研究課題について山本正幸先生とお話しする機会を得、鋭いご意見をいただくことが出来ました。いつも思いますが、自分が面白いと思って進めてきた研究に対して、第一線で活躍する研究者の方々に興味を持っていただけることは、下っ端(cf. 長谷川優子さんの投稿)にとってはこの上ない励ましになります!

つぶやき
 コーヒーブレイクやレセプションで会場をぼんやりと見渡していると、ncRNAの海(分野)にたくさんの島(研究グループ)があって、その間をたくさんの舟(研究者)が行き来しているように見えました。そして、この海には、まだまだたくさんの未発見の魚(ncRNA)が泳いでいて、たくさんの舟がその漁(探索・研究)をしている様も目に浮かびました。そして、ゆいのちゃんの笑顔が束の間のオアシスのようでした。
 M1RNA Worldに恐る恐る足を踏み入れてから5年。今回が学生&独身として参加するおそらく最後の大きな学会でしたが、やはり私は、実験して、その結果を議論することが好きなんだと改めて思いました。(知識も技術も、そして読む人にアピールできる論文を書く能力もまだまだ身に付けられていないですが。)Maurice & Katia Krafft夫妻のような「人生も研究もcrazy」という生き方は私には出来そうにありません。が、どの海に舟をこぎ出すことになっても、漁にだけはcrazyでありたいと思います。

最後に
 吉本新喜劇の安尾信乃助の初回入場時のお約束ギャグ的な質問の仕方で(つまり語尾が上がらない..)、何だか意図のよくわからない内容の質問をしたにも関わらず、意図を酌んで優しく真剣に返答してくださった塩見美喜子先生と中川先生に感謝しつつ、筆を置かせていただきます。

理研CDBクロマチン動態研究チームRA・関西学院大学大学院理工学研究科D4
石田 真由美

June 15, 2012

神戸大学の三嶋です。


 神戸大学の三嶋です。平成22−23年度から引き続き公募班として参加いたします。大盛況に終わったCDB meetingに参加された方々は熱気冷めやらぬ、と言ったところだと思います。私も大いに刺激を受け、実験の手を動かしたいのをぐっとこらえて(?)簡単な自己紹介をさせて頂きます。
 私は「
microRNAが標的mRNAを抑制するしくみの解明」を目指して研究を行っています。「miRNAが発見されてから20年以上経つのにまだそんなことを言っているのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これが実に複雑で興味深い。miRNAは複数のアウトプット(翻訳抑制、mRNA分解、ポリ(A)鎖の短縮)を引き起こすため、それぞれの現象の貢献とメカニズムに関して複数のモデルが提唱されており、なかなか決着しません。CDB meetingAntonio GiraldezKevin Struhlが「翻訳抑制とmRNA分解どっちが重要か?」と議論を戦わせていたのをご記憶の方もいらっしゃると思います。同様の議論が学会の度に巻き起こっています。
 この議論を穏便にすますための落としどころとして、使っているレポーターや培養細胞の種類、抽出液など「実験系の違い」がしばしば挙げられます。この「違い」こそが実は生物学的に大きな意味があるのではないか、あったら面白いな、というのが私の今の興味です。さて、そうなるとそのいろいろな「違い」を比較できる状況で
miRNAの作用機序を解析しなければなりません。そこで私がモデルとして使っている「ゼブラフィッシュ」の出番です。ものすごいスピードで発生が進むゼブラフィッシュ胚には様々な種類と状態の細胞が含まれています。この「生きた胚」をin vivoモデル系として、miRNAによる抑制システムのheterogeneityを検証して行きたいと思います。
 研究では
TAL nucleasesによる遺伝子破壊法を取り入れていますので、こちらの方でも領域の皆様と相互作用できればと期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。

 
三嶋

June 11, 2012

熊本大学の荒木喜美です、はじめまして。

熊本大学、生命資源研究・支援センターの荒木喜美です。今年度から、公募班に参加させていただくことになりました。
私は、元々、マウスES細胞を使って遺伝子トラップを行っていた「トラッパー」です。遺伝子トラップにCre/変異loxを組み合わせることで、遺伝子置換が可能、というシステムを作り、それで遺伝子トラップES/マウスのライブラリーを(小規模ですが)作って、公開しています。(http://egtc.jp/ です、是非ご覧下さい。)基本、マウスとES漬けの日々を送っており、毎週のようにキメラマウスを作製しています。
しかしながら、欧米でノックアウトプロジェクトが大規模に進められた結果、遺伝子トラップの重要性は目に見えて低下、という事態に直面することとなりました。しかし、しかし。ノックアウトは正体の分かったものしかつぶせませんが、遺伝子トラップは正体不明でもトラップできるところが強みです。 そう思って正体不明なものを調べた結果、遺伝子トラップクローンの中にはlncRNAをトラップしているものが存在することを発見、RNAの世界に足を踏み入れることになりました。どうかよろしくお願いいたします。
私たちは、Cre/変異loxのシステムを用いて、ES細胞において遺伝子をノックインする技術を得意としていますので、そういった面でお役に立てればと思っています。

June 7, 2012

横浜市大の佐々木です


横浜市大院・医・分子薬理神経生物の佐々木です。
本年度から公募班に参加させていただくことになりました。

私の研究テーマは神経軸索の局所翻訳制御機構とその生理的役割です。局所翻訳を制御する因子としてRNA結合タンパク質とマイクロRNA (miRNA) の研究を行っております。
ちょうど、現在発売中の「細胞工学」六月号の特集が「神経細胞特異的な翻訳制御」であり、当領域班員の藤原さんをはじめとして七名のRNA研究者の総説が掲載されています。
私の総説も掲載されていますので、ご参考までに。

私は神経軸索を大量かつ高純度に単離できる新規培養法、「ニューロンボール法」を開発し、軸索におけるmiRNAのオミクス解析を行っております。軸索に局在するmiRNAの局在機構を探るために、その輸送マシナリーを研究したいと思い、当領域に応募いたしました。非コードRNAに関してはまだまだ研究を始めたところなので、班員の皆様に教えを請うことが多々あると思いますが、よろしくお願いいたします。

私は今まで情報伝達の研究を行ってきました。神経軸索先端の成長円錐での局所的な情報伝達の研究を行っているうちに、局所翻訳調節、miRNAと研究が進展してきました。研究を続けるうち、miRNAは細胞外の刺激に応答して輸送され、局所的に濃度が変化し、局所翻訳を調節するのではないかと考えるようになりました。そうなると、miRNAは結局情報伝達分子と同じような仕事もしているかもしれません。というわけで、研究分野を移り変わったつもりが、やはり元と同じように情報伝達の仕事を続けていることになるのかなと感じ始めています。

来週のCDB meetingでは約20年ぶりぐらいに再会することになる影山さんをはじめとして、皆様とお会いするのを楽しみにしています。


June 5, 2012

京大ウイルス研より はじめまして

今年度から公募班に入れて頂きました京大ウイルス研の本田です。

私どもの研究室では、朝長教授のもと一致団結して、ボルナウイルス(BDV)という極めて特徴的なRNAウイルスの研究を行っております。通常、RNAウイルスは細胞質で転写・複製を行います。しかし、私どもの扱うBDVは、RNAウイルスで唯一細胞核に持続感染するウイルスなのです。さらに興味深いことに、感染細胞の核内には、ウイルスRNPを含む特徴的な核内構造物が形成されます。

本領域では、核内環境でのRNAウイルス(BDV)の挙動を詳細に解析することで、宿主核内RNAの挙動や宿主核内構造物の機能にまで研究内容を広げていければ、と考えています。僕自身は、生化学、解剖学、ウイルス学と、これまで様々な研究分野を渡り歩いてきました。今の研究室に赴任してきた際に、RNAを中心に据えた研究テーマを始めました。偉人たちは、「アイディアは、既存の要素のあたらしい組み合わせ」だと言っています。本領域に参加させて頂く中で、今までの研究とRNA研究の新しい組み合わせを見つけ発展させたいと思います。皆さん、どうぞよろしくお願いします。

来週のCDB meetingにさっそく参戦してみます。現在、ポスター鋭意作成中です。少しでも興味がある方は、ぜひ気軽に話しかけてください。

金沢大学の堀家です


平成2223年度に引き続き,平成2425年度も公募班として本研究領域に参加させて頂きます金沢大学の堀家です。どうぞよろしくお願い致します。本ブログへの書き込みも随分ご無沙汰しております(中川さん,すいません。でも,中川さんのブログ,いつも楽しく拝見しています。)が,常日頃思うことを徒然なるままに書きます。
私たちは,一貫してゲノム刷り込み現象におけるlncRNAの機能解析を行ってきました。古くは,LIT1の解析に始まり,最近ではUBE3A-ATSMESTIT1などなど・・・。しかし,なかなかその実体がつかめないで苦労しております。
現在までに,100近くのゲノム刷り込み遺伝子が同定され,多くの場合,染色体上にクラスターを形成していることが知られています。そして,その多くの領域でlncRNAが同定されており,染色体ドメインレベルの遺伝子発現やクロマチン構築に関わっていることが示唆されておりますが,そもそもなぜ,ゲノム刷り込みクラスターの発現制御にlncRNAが必要なのか疑問です!lncRNAなど無くても,すべての刷り込み遺伝子が生殖系列で各々印付け(インプリント)すれば単純でいいのに,インプリントセンター(IC)のみにインプリントの印付けがされ,それに伴ってlncRNAがその周囲の遺伝子の刷り込み状態を規定するといった複雑なシステムを哺乳類は持っております。ゲノム刷り込みにおけるlncRNAの存在意義はどこにあるのか?その一つの答えになるか分かりませんが,同一染色体ドメインに母性発現遺伝子と父性発現遺伝子が混在する状態を作り出しているのは,親アレル特異的に発現するlncRNAがリプレッサーとしてcisに周囲の遺伝子発現を制御しているからでしょう。ゲノム刷り込み現象を考える上で,よく「母親ゲノムと父親ゲノムのバトル」といった表現がなされますが,その喧嘩の主原因をつくったのは間違いなくlncRNAです。古くは,発現することに意味があるといわれたlncRNAですが,現在ではlncRNA自身に何らかの機能があると考えられるようになりました。私たちも,いつかlncRNAに“コード”された機能を明らかにし,進化の上で哺乳類がゲノム刷り込み制御にlncRNAを用いた意味を知りたいと思う今日この頃です。

June 1, 2012

東大医・代謝生理化学の栗原です

東大医・代謝生理化学の栗原です。
今年度から公募で参加させていただきますのでよろしくお願いいたします。

 私はもともと循環器内科で、当時発見された血管収縮因子エンドセリンのノックアウトマウスを作成して生体での機能を明らかにしようというのが最初の仕事です。思いがけず心血管・顎顔面の形態異常が出現したため、発生の世界に参入しました。
 幹細胞の分化メカニズムの研究では、マウス着床前胚でリプログラミングが起こる中、インプリンティング遺伝子や繰り返し配列のメチル化の維持を担う酵素が卵細胞型DNAメチルトランスフェラーゼ1(Dnmt1o)ではなくて(これは他の論文)、実は体細胞型Dnmt1であることを示しました。
 また、神経堤細胞由来組織の形態形成のメカニズムを追う中で、lncRNAEvf2に遭遇し、何かとても面白いことが見えてくるのではないかとわくわくし(詳しく書くと申請書になってしまうので、一言で書いたらこのフレーズになりました)、RNAの分野に足を踏み入れました。形態形成をアウトプットにlncRNAの作用機序の一端を明らかにしようとしています。
 あっという間に10日後になってしまったCDB meetingで、皆様とお話しできるのを楽しみにしております。

医科歯科大学の浅原です

皆様、こんにちは。医科歯科大学の浅原です。

本年度から、公募で参加させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

昨年6月より、東京医科歯科大学の医学部に分野(システム発生・再生医学)を新設いただいて、先月ラボも完成しました。ラボは御茶ノ水からすぐの高層ビルキャンパスの25階に位置し、スカイツリーもよく見えますので、皆様ぜひお立ち寄りください。

私は、留学先のMarc Montminyラボで転写の研究を学んで以来、遺伝子発現を通じて生物学、医学を知りたいと思っております。転写因子を網羅したマウスの発生期のWISHカタログを作っている中で、今回の課題である、RNA階層で発生を直接制御する因子に興味をもつようになりました。

憧れは今も昔も泥臭い生化学と病理組織学ですが、ハイスループットかつハイエンドのアッセイ系からデータを蓄積・共有し、そこから帰納・演繹する研究手法の構築を医科歯科でのミッションとしており、ぜひ今回もRNA研究にそうした戦略を持ち込むことができればと思います。

整形外科あがりということもあって、筋骨格系をモデルとして成果をアウトプットとすることが多いのですが、ハードコアサイエンスの極み、RNA研究の仲間にいれていただいたからには、よりジェネラルな研究成果をめざして頑張りたいとおもいます。