さてさて、多田隈さん・藤原さんを皮切りに新学術メンバーのお仕事の紹介が続きます。
ちょっと一休みという事で、「バイオ」について一言。
「バイオ」というともうほとんど死語のような気もしますが、思い返せば僕自身が大学の農学部に入学した頃は、なんともきらびやかな響きを持った言葉でありました。ちょうどバイオの代名詞?アサヒスーパードライが世に出て2、3年経ったころだったでしょうか。これからはバイオの時代だ、バイオを使えばなにかが出来る、きっとバイオが助けてくれる、ということで、多くの企業がバイオに参入し、電線を作っていた会社ですらバイオマテリアル研究所なる研究所を立ち上げていたぐらいです。
しかるに。当時のバイオに対する期待はいささか過剰なものがあったような気がします。組換えDNA技術が成熟し、トランスジェニック動物・植物がちょと出来るようになったからと言って旧来の品種改良のスピードが格段に進歩した訳ではありませんし(そもそもGMは日本では栽培できませんし)、TOYOBOやタカラバイオといった老舗を始めとする専門家向けの試薬会社のカタログはどんどん分厚くなっていったのかもしれませんが、業界として「市場」と呼べるほどのものを形成するまでは至っていなかった気がします。10兆円を超すパチンコ産業に比肩する市場になりうるかどうか、それが問題だ、といったことを言っておられる先生もおられました。結局それほど大きな産業には成長せず、その一方で甘い見通しで生物系の博士課程の定員を大幅に増やしてしまった、がゆえにポスドク問題が出て来た、というのは、良く聞かれるストーリーの一つです。
なんでバイオなどという言葉を持ち出したかと言いますと、某新聞の日曜版ならぬ土曜日版Beというのがありまして、新聞というのは偏った記事を読むたびにこれはちがうだろうと腹が立ち、文句の一つも言いたくなり、こんなんがあるから世の中暗く見えてくるんだと愚痴が始まり、朝っぱらからそれだから極めて精神衛生上よろしくない、それなら購読をさっさとやめれば良いのに、これがどうして習慣になるとなかなかやめられない、一通り一面の記事の批評をしてからでないと一日が始まらない、一体自分は何をしているのだと、、、あ、話がそれてしまいました。新聞・マスコミのことになると2年間ぐらい語り続けてしまいそうなので、本題に。先週ぐらいだったかそのBeの特集に、アマゾンの創始者、ジェフ・ベゾスさんのインタビュー記事が載っていました。1990年代半ば、ネットが急速に拡大している状況に刺激を受け起業し、いまや誰もが知っている巨大企業アマゾンを作った彼。今、いったいどんな事に興味があるんですか?という新聞記者としては珍しく真っ当な質問に、「うん良い質問だ。それはバイオだよ。」と、さらり。
これには正直ビックリしました。ナノテクノロジーとか宇宙産業とかなら何となく分かるような気もするのですが、バイオって、、、もう死語のような気もしていたので。
しかるに。かつて8ビットの「パソコン」が各家電会社から一斉に販売され、一般家庭にも徐々にコンピューターが浸透しつつあった1980年代初頭。ASCIIやらベーシックマガジンやらいろいろなパソコン雑誌が発行され、これからどれだけ大きな市場になるのだろうと、一部の人はおそらく大きな期待を持っていたのだと思います。ただ、実際にその流れが一気に加速したのは間違いなくインターネットの登場で、それ以前は、過剰な期待と現実を見ての失望感が延々と繰り返されていて、いわばオタクの範疇を出ないツール。コンピューターとはそういうものだったのが、ネットとの抜群の相性で、大きな産業となりました。
生命科学も、そういった時期にさしかかっているのかもしれません。既存の分野に長く居るとその限界も良くわかるが故に、とかく悲観的になりがちです。結局ガンなんて直せないのだとか、脳科学が発展したと言ってもゲーム脳とかいう怪しげな言葉を流行らせただけだとか、まあたしかに現実は厳しいのですが、少なくとも「文化」として、生命科学が一般に広く浸透しうる素地はかなり出来つつあるのではないかと。次世代シークセンサーの登場もそうですし、iPSなどという技術の登場もそうです。おとぎ話の王子でも昔はとても食べられないアイスクリームなんて歌がありましたが、アリストテレスもカハールも出来なかった事が我々には今出来る。うまく使えるかどうかというのはまた別問題ですが、そういったツールを使えるという幸せだけは、昔はとても出来なかった実験でいろいろ試す事が出来るという幸せだけは、いくら噛みしめても決して無くなる事はありません。
さて、そんな現在。一体何をしましょう。
中川
May 20, 2012
May 15, 2012
自分勝手に思ってること
さて、お次は生一本の生化学屋、微生物化学研究所の藤原さんです。
ーー
私は、この手の媒体が大嫌いである。
この文章を載せたあとはまず見ないと思う。ご意見ご感想は直接お伺いしますので電話してください。お互い目を見ないで行うコミュニケーションはまっぴらである。
盟友の(勝手にそう思っている)泊さん、中川さん御両名からの依頼なので断ることもできず、2年間透かしてきたが自己紹介がてら、いつも思っていることをたしなめます。
「研究って仕事なんかな?」ここでいう研究とは実験を行うことではない。前にもどこかで書いたことがあるけど未だに心の底からそう思っている。生計を立てる収入が別にあれば、土日で実験させてくれるところがあればいいのだが、一方で研究者番号をもらわないと科研費申請資格がなく、、、何を馬鹿なことを・・と思われることは確実だが、生業にすることになにか引っかかりを感じている
さて、私は徹底して仮説検証型のスタイルで研究を行っている。仮説を検証できたときの快感は爽快そのもので、自分なりに興味のある研究課題はあるが、正直いって別に「課題は何だってよい」と思っている。自身の philosophyのもと、自分がこれまで身につけたスタイルで仮説を立て、それを実験科学・特に(古典)生化学の手助けで検証できればとても幸せなのである。論文を読み、想像力を働かせ、いろんな清濁定かならぬ情報を抽出し、新たな実験系をたてるときは、わくわくする。感覚的には、目の前に出された数学の証明問題を片っ端から解いたとき自己満足に浸っているという感じ。生化学の技は一種独特の「業」があり、実験を試行錯誤して初めて身につくと考えている。そしてこの「業」はin vitroに取り出して行うほぼ全ての実験に適用できる。それは、生化学か特殊なものでなくlogicに基づく経験を経て体得できるからだと思う。何でもキットに頼る昨今の流れが気にくわない。よく教えてくれというヒトがいるが、教えることはできない。決して意地悪で教えることができないと言っているわけでなく、来て見てもらえばわかってもらえる。従って頼まれれば自分でやることになる。論文に著者として載せなくて謝辞で良いと言っているのにみなさん著者として扱ってくれ、ありがたいことだがこれが弊害を生むことにもなってきた。端から見れば何でも屋さん化してきたのである。。
最近指摘されることが、「何を求めて、研究生活を送っているのかが見えて来ない。」「若くても教授になる研究者は、既に夢をある程度固め、それが論文リストに表れている研究者である。」
どうやら私はほど遠いみたい。。
繰り返すが私は「課題は何でもいい」。知識が豊富で越えなければいけない命題は「翻訳」であるが好きであるかどうか尋ねられたら答えに窮する。自分の「業」で証明可能であるなら何でもよい。。。。
ーー
藤原さんに質問するときは目を見てしましょう!
ーー
私は、この手の媒体が大嫌いである。
この文章を載せたあとはまず見ないと思う。ご意見ご感想は直接お伺いしますので電話してください。お互い目を見ないで行うコミュニケーションはまっぴらである。
盟友の(勝手にそう思っている)泊さん、中川さん御両名からの依頼なので断ることもできず、2年間透かしてきたが自己紹介がてら、いつも思っていることをたしなめます。
「研究って仕事なんかな?」ここでいう研究とは実験を行うことではない。前にもどこかで書いたことがあるけど未だに心の底からそう思っている。生計を立てる収入が別にあれば、土日で実験させてくれるところがあればいいのだが、一方で研究者番号をもらわないと科研費申請資格がなく、、、何を馬鹿なことを・・と思われることは確実だが、生業にすることになにか引っかかりを感じている
さて、私は徹底して仮説検証型のスタイルで研究を行っている。仮説を検証できたときの快感は爽快そのもので、自分なりに興味のある研究課題はあるが、正直いって別に「課題は何だってよい」と思っている。自身の philosophyのもと、自分がこれまで身につけたスタイルで仮説を立て、それを実験科学・特に(古典)生化学の手助けで検証できればとても幸せなのである。論文を読み、想像力を働かせ、いろんな清濁定かならぬ情報を抽出し、新たな実験系をたてるときは、わくわくする。感覚的には、目の前に出された数学の証明問題を片っ端から解いたとき自己満足に浸っているという感じ。生化学の技は一種独特の「業」があり、実験を試行錯誤して初めて身につくと考えている。そしてこの「業」はin vitroに取り出して行うほぼ全ての実験に適用できる。それは、生化学か特殊なものでなくlogicに基づく経験を経て体得できるからだと思う。何でもキットに頼る昨今の流れが気にくわない。よく教えてくれというヒトがいるが、教えることはできない。決して意地悪で教えることができないと言っているわけでなく、来て見てもらえばわかってもらえる。従って頼まれれば自分でやることになる。論文に著者として載せなくて謝辞で良いと言っているのにみなさん著者として扱ってくれ、ありがたいことだがこれが弊害を生むことにもなってきた。端から見れば何でも屋さん化してきたのである。。
最近指摘されることが、「何を求めて、研究生活を送っているのかが見えて来ない。」「若くても教授になる研究者は、既に夢をある程度固め、それが論文リストに表れている研究者である。」
どうやら私はほど遠いみたい。。
繰り返すが私は「課題は何でもいい」。知識が豊富で越えなければいけない命題は「翻訳」であるが好きであるかどうか尋ねられたら答えに窮する。自分の「業」で証明可能であるなら何でもよい。。。。
ーー
藤原さんに質問するときは目を見てしましょう!
May 8, 2012
柏より(東大・多田隈)
今年度から公募班に入れていただきました東大・柏の多田隈(ただくま)です。
専門は、蛍光1分子観察です。以前は、生きている細胞内でmRNAを観察しており、中村義一先生の特定にお世話になっていた事もあります。その後、モータ蛋白質キネシン(RNP顆粒の輸送等にも関わっています)の研究を行って、しばらくRNA業界とは離れていましたが、縁あって、上田卓也先生の研究室で翻訳の研究をさせて頂くことになり、近い業界に戻ってまいりました。
本領域では、泊さんと共同で、RNA干渉において標的切断活性をになうRISCを対象に、RISC形成過程やRISCが標的RNAを認識・切断する様子をリアルタイムに観察できればと考えております。皆様の研究とは少し畑違いとなるかもしれませんが、楽しく研究をさせていただければと思っております。 今後よろしくお願い致します。
May 3, 2012
とかくユニークな人々ーPost Keystone meeting (7)
いよいよ最終回です。今回のKeystone meeting noncoding RNAでも、実に様々な人々に会いました。
Nick Proudfootさん
古くからmRNAのプロセシングを研究されている方で、Plenary lectureらしく歴史をひもときながら、最新のアンチセンス転写産物に関する研究やGene loopingという概念の説明などはとても新鮮でした。1976年に発表された3' UTRに関するこの論文など、「始めてnoncodingという言葉を使ったんじゃないか、今じゃみんなこれがとっても味気ない名前のUTRになってしまったがね、はは、」。古くからnoncodingに関心を持っておられるがゆえに、Mattickさんを始めとして多くの参加者が主張しているいわゆるPervasive Transcriptionの概念に関してはちょっぴり辛口で、「これらのアンチセンス転写産物はジャンクだし、おっといかんいかん、ここではジャンクと言っちゃいかんのだった、はは、」。ずっとこの調子。ユーモアを連発しては「はは、」。「イントロンはジャンクだから、おっと口が滑った。ついつい慣れているからジャンクと言ってしまうんだよ。これぞ、オートマティックにアンティマティック、はは、」。いやこれには腹がよじれて椅子からずり落ちました。大笑いしたユーモアが10個、理解できなくて周りのNative Speakerが笑っていたユーモアが10個、Nativeですらついていけず「はは、」だけが静まり返った会場に響き渡るジョークが10個。平均3分に1個のユーモアが交ったトーク、延々90分あまり全く飽きませんでした。ああいうユーモアはやっぱり練習しているんですか?と聞いたら、「いや、トークの準備は一切金輪際ユーモアを交えず極めてクソ真面目にしているんだが、話しているとついつい頭のどこかでジョークを言えという声が聞こえて、それを止められないのだよ、はは、」「うん。日本人は真面目すぎるね。もともと真面目な文化だから。アメリカがそのへん崩したはずなんだが、ちと崩したり無かったみたいだな、はは、」実はNickさん、数年前に東京医科歯科大(現京大)の萩原さんが日本に呼ばれた事もあるそうです。恥ずかしながら、Nickさんは今回その仕事を含めて始めて知ったのですが、とにかく渋い。渋い。こういう方々の仕事の蓄積があって今の世の中があるのだなあ、と、感慨深い思いがしました。また同時に、自分の知識の守備範囲など海の中のモズクほども無いということも改めて認識しました。。。
神Neil Brockdroffさん
そうなのです。今回最も楽しみだった事の一つは、神Neilさんに会える。生Neilさんに会える。行った事はありませんがアイドルの握手会というのは多分こういうものなのかな、と思ったりもします。Neilさん。言わずもがなXistをクローニングしたこの業界のスーパースター。以前ここでも触れましたが、分化させればピカピカの不活性X染色体が出来る奇跡のES細胞、PGK12.1を分与していただいた縁でものすごくHappyな共同研究の論文を出す事が出来た訳ですが、実はe-mailだけのメル友で、実際にお会いした事が無かったのです。Neilさんは想像通りのイギリス紳士で、多くの場合上述のNickさんもそうですがイギリス紳士は独特のユーモアを持っておられていて、そこがまた人物の奥深さをしんしんと感じさせられるところです。さて、Neilさんに以前から聞きたかったのは、X染色体の不活性化を発見したLyonさんとお話しした事がありますか、ということでした。で、とっても耳心地の良いブリティッシュイングリッシュで話されたエピソード。「Lyonさんかー、いやあ、彼女はものすごい寡黙な人でね。また、とにかく、尋常でなく、じーっと、考えてから返事をされるんですよ。とっても思慮深いということなんだけど、こっちは若造で、向こうは大御所だろ。一生懸命話しかけてもじーっと黙っておられるものだから、どんだけアホなことを言ったのだろうかと、また焦ってぺちゃぺちゃ喋ることになるんだよね。そしたら。「ーー」沈黙。もうこっちは気が気がない訳よ。どんだけ馬鹿な事をしゃべったのかなって。一度、電話をした事があってね。「ーーー」。「ぺちゃぺちゃ」。「ーーーーー」。「ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ」。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」。。。。
「しかも電話よ電話。全く顔の見えない電話。数分感の沈黙。いやあ、あれは人生最悪に焦った時間だったよ。」
神Neilさんが焦ってしまうLyonさん。僕はお話しできる機会が訪れるのでしょうか。。。
Leonald Lipovichさん
話には聞いていたのですが、He is a character. いやあーこれは百聞は一見に如かず。表現不可能にユニークな方でした。日本人がトークをするなら彼らの時差にあわせなければ。じゃなきゃフェアーでない。だから昨日は寝なかったのです。なんて大真面目でつばを飛ばしながら言われたら、引いてしまうのですが、だんだん彼のキャラが分かって来て、そうなるととても面白くなって来て、本当に本当にnoncoding RNAが好きなんだろうなあ、ここまで好きになってしまうとだいぶヤバいけれども、とにかく1000%本気。あと、楽しもう、楽しませよう、というサービス精神も満載で、これはなかなか日本では見かけない人物、、、と書こうとして、ふと思い出しました。僕が学生時代、そういえば生物物理学教室に、コードネーム「ごんぞう」さんという方がおられて、この方も表現不可能。偉大なる変人、いや、変人と書いてユニークと読む。これは研究者への最大限の賛辞にほかならないのですが、そういう規格外のユニークさを持った人に出会うとこちらも元気になってくるのです。久しぶりに異次元のバッテリーからの充電を受けたような気分でした。
John Mattickさん
noncoding RNAのreview articleといえばこの人。勿論オリジナルの仕事でも最近はかなり意欲的な仕事を連発されている、この業界のオピニオンリーダーですね。わざわざどういう人かなど書くのもおこがましいなのですが。見た、見た、見てしまったのです。噂に聞いていた、2フィンガーアルペジオならぬ、2フィンガータイピングを。そう。ノートパソコンを膝に置き、両手の人差し指をピンと立て、あとはコガラが幹をつつくがごとく、ティティ、、、、、ティティティ、ティティティ、、、、ティティティティティティティティティ。ノートパソコンが膝からずり落ちたら左手で支え、あとは右手の人差し指の独壇場です。この人、あのレビューを書くのに、これでずっとタイピングしてるのか、、、と思うと、にやけてきてしまって、笑いをかみ殺すのに必死でした。今回の世話人の一人であったという事もありますが、全てのセッションを最前列で聞いておられ、ポスターセッションもたぶん全部見て回っておられたのではないでしょうか。なんというか。ncRNAへの愛がこちらにもひしひしと伝わってくる、そんな感じの方でした。
うーむ。なんだか書き始めたらとても一回では終わらないような気がしてきましたが、もうたいがいこのブログを占拠してしまったので、そろそろ終わりにしたいと思います。いずれにせよ、このミーティングで得られた事。それは知的刺激であり、人のつながりであり、心のオアシスでした。Practicalにも実は凄いinputがあったりしまして、また近いうちにそれを紹介できる日が来ん事を。
ちなみにこの会議中、時差ボケへの切り札だと思ってサンフランシスコの薬屋で購入したメラトニン。全く全く全然僕には効果がなく、過不足無くきっちり一週間眠れぬ夜を過ごし、帰って来たらさすがに次の日は一日ぶっ倒れていましたが、その翌日からは何事も無かったようにいつもの時間に寝、いつもの時間に起きていました。どんだけ体内時計がしっかりしているんだか、、、
中川
Nick Proudfootさん
古くからmRNAのプロセシングを研究されている方で、Plenary lectureらしく歴史をひもときながら、最新のアンチセンス転写産物に関する研究やGene loopingという概念の説明などはとても新鮮でした。1976年に発表された3' UTRに関するこの論文など、「始めてnoncodingという言葉を使ったんじゃないか、今じゃみんなこれがとっても味気ない名前のUTRになってしまったがね、はは、」。古くからnoncodingに関心を持っておられるがゆえに、Mattickさんを始めとして多くの参加者が主張しているいわゆるPervasive Transcriptionの概念に関してはちょっぴり辛口で、「これらのアンチセンス転写産物はジャンクだし、おっといかんいかん、ここではジャンクと言っちゃいかんのだった、はは、」。ずっとこの調子。ユーモアを連発しては「はは、」。「イントロンはジャンクだから、おっと口が滑った。ついつい慣れているからジャンクと言ってしまうんだよ。これぞ、オートマティックにアンティマティック、はは、」。いやこれには腹がよじれて椅子からずり落ちました。大笑いしたユーモアが10個、理解できなくて周りのNative Speakerが笑っていたユーモアが10個、Nativeですらついていけず「はは、」だけが静まり返った会場に響き渡るジョークが10個。平均3分に1個のユーモアが交ったトーク、延々90分あまり全く飽きませんでした。ああいうユーモアはやっぱり練習しているんですか?と聞いたら、「いや、トークの準備は一切金輪際ユーモアを交えず極めてクソ真面目にしているんだが、話しているとついつい頭のどこかでジョークを言えという声が聞こえて、それを止められないのだよ、はは、」「うん。日本人は真面目すぎるね。もともと真面目な文化だから。アメリカがそのへん崩したはずなんだが、ちと崩したり無かったみたいだな、はは、」実はNickさん、数年前に東京医科歯科大(現京大)の萩原さんが日本に呼ばれた事もあるそうです。恥ずかしながら、Nickさんは今回その仕事を含めて始めて知ったのですが、とにかく渋い。渋い。こういう方々の仕事の蓄積があって今の世の中があるのだなあ、と、感慨深い思いがしました。また同時に、自分の知識の守備範囲など海の中のモズクほども無いということも改めて認識しました。。。
神Neil Brockdroffさん
そうなのです。今回最も楽しみだった事の一つは、神Neilさんに会える。生Neilさんに会える。行った事はありませんがアイドルの握手会というのは多分こういうものなのかな、と思ったりもします。Neilさん。言わずもがなXistをクローニングしたこの業界のスーパースター。以前ここでも触れましたが、分化させればピカピカの不活性X染色体が出来る奇跡のES細胞、PGK12.1を分与していただいた縁でものすごくHappyな共同研究の論文を出す事が出来た訳ですが、実はe-mailだけのメル友で、実際にお会いした事が無かったのです。Neilさんは想像通りのイギリス紳士で、多くの場合上述のNickさんもそうですがイギリス紳士は独特のユーモアを持っておられていて、そこがまた人物の奥深さをしんしんと感じさせられるところです。さて、Neilさんに以前から聞きたかったのは、X染色体の不活性化を発見したLyonさんとお話しした事がありますか、ということでした。で、とっても耳心地の良いブリティッシュイングリッシュで話されたエピソード。「Lyonさんかー、いやあ、彼女はものすごい寡黙な人でね。また、とにかく、尋常でなく、じーっと、考えてから返事をされるんですよ。とっても思慮深いということなんだけど、こっちは若造で、向こうは大御所だろ。一生懸命話しかけてもじーっと黙っておられるものだから、どんだけアホなことを言ったのだろうかと、また焦ってぺちゃぺちゃ喋ることになるんだよね。そしたら。「ーー」沈黙。もうこっちは気が気がない訳よ。どんだけ馬鹿な事をしゃべったのかなって。一度、電話をした事があってね。「ーーー」。「ぺちゃぺちゃ」。「ーーーーー」。「ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ」。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」。。。。
「しかも電話よ電話。全く顔の見えない電話。数分感の沈黙。いやあ、あれは人生最悪に焦った時間だったよ。」
神Neilさんが焦ってしまうLyonさん。僕はお話しできる機会が訪れるのでしょうか。。。
Leonald Lipovichさん
話には聞いていたのですが、He is a character. いやあーこれは百聞は一見に如かず。表現不可能にユニークな方でした。日本人がトークをするなら彼らの時差にあわせなければ。じゃなきゃフェアーでない。だから昨日は寝なかったのです。なんて大真面目でつばを飛ばしながら言われたら、引いてしまうのですが、だんだん彼のキャラが分かって来て、そうなるととても面白くなって来て、本当に本当にnoncoding RNAが好きなんだろうなあ、ここまで好きになってしまうとだいぶヤバいけれども、とにかく1000%本気。あと、楽しもう、楽しませよう、というサービス精神も満載で、これはなかなか日本では見かけない人物、、、と書こうとして、ふと思い出しました。僕が学生時代、そういえば生物物理学教室に、コードネーム「ごんぞう」さんという方がおられて、この方も表現不可能。偉大なる変人、いや、変人と書いてユニークと読む。これは研究者への最大限の賛辞にほかならないのですが、そういう規格外のユニークさを持った人に出会うとこちらも元気になってくるのです。久しぶりに異次元のバッテリーからの充電を受けたような気分でした。
John Mattickさん
noncoding RNAのreview articleといえばこの人。勿論オリジナルの仕事でも最近はかなり意欲的な仕事を連発されている、この業界のオピニオンリーダーですね。わざわざどういう人かなど書くのもおこがましいなのですが。見た、見た、見てしまったのです。噂に聞いていた、2フィンガーアルペジオならぬ、2フィンガータイピングを。そう。ノートパソコンを膝に置き、両手の人差し指をピンと立て、あとはコガラが幹をつつくがごとく、ティティ、、、、、ティティティ、ティティティ、、、、ティティティティティティティティティ。ノートパソコンが膝からずり落ちたら左手で支え、あとは右手の人差し指の独壇場です。この人、あのレビューを書くのに、これでずっとタイピングしてるのか、、、と思うと、にやけてきてしまって、笑いをかみ殺すのに必死でした。今回の世話人の一人であったという事もありますが、全てのセッションを最前列で聞いておられ、ポスターセッションもたぶん全部見て回っておられたのではないでしょうか。なんというか。ncRNAへの愛がこちらにもひしひしと伝わってくる、そんな感じの方でした。
うーむ。なんだか書き始めたらとても一回では終わらないような気がしてきましたが、もうたいがいこのブログを占拠してしまったので、そろそろ終わりにしたいと思います。いずれにせよ、このミーティングで得られた事。それは知的刺激であり、人のつながりであり、心のオアシスでした。Practicalにも実は凄いinputがあったりしまして、また近いうちにそれを紹介できる日が来ん事を。
ちなみにこの会議中、時差ボケへの切り札だと思ってサンフランシスコの薬屋で購入したメラトニン。全く全く全然僕には効果がなく、過不足無くきっちり一週間眠れぬ夜を過ごし、帰って来たらさすがに次の日は一日ぶっ倒れていましたが、その翌日からは何事も無かったようにいつもの時間に寝、いつもの時間に起きていました。どんだけ体内時計がしっかりしているんだか、、、
中川
May 1, 2012
日本ってどこ?ーPost Keystone (6)
キーストーンは当たり前ですが多国籍な会議で、場所がアメリカなのでアメリカ人が圧倒的に多いのは間違いないのですが、イギリスを始めとしたヨーロッパの国々は勿論の事、朝食のテーブルではイスラエル人とイラン人とアメリカ人と日本人が同席している、なんて事もありました。国境をあまり意識せずに世界中どこでも好きなところで仕事ができるーこれは研究者のある意味特権で、実際そのイランの方はフランスで研究をされているわけなのですが、なかなかそういうことは一般の職業に就いた人が出来る事ではありません。ちょっくらアメリカで働いてくるかーなんて事が自分の意志で出来るのは、一流のスポーツ選手かポスドク一万人、というのはその待遇の差を考えると結構笑える話ではあります。ともあれ多くのポスドクがこれまでに海をわたり、これからも海をわたっていく事だと思うのですが、この長鎖ノンコーディングRNAという業界、とにかく日本人が少ない!まだ生まれたての分野、ということもあるのでしょうが、日本からのinvited speakerが日本人以上に日本人らしいイタリア人、理研のピエロさんだけ、というのはやはりちょっと寂しい気がします。そりゃお前が呼ばれるような仕事をしてないから悪いのだ、と言われたらそれまでですし、だからこそ今に見てろよコンニャローと、あまり神様が喜ばれそうも無い暗い執念の炎を燃やして日々研究に打ち込んでいるわけでありますが、今の所、この長鎖ノンコーディングRNAという業界で、海外で一旗揚げた人が国内に戻って来て文化を広げる、さらにその経験を生かして国内から良い仕事をして発信する、というこれまでに良くあったビジネスモデルは効率よく回っているようには思えません。絶対数が少ないというのもありますが、そもそもそういうビジネスモデルはこれからの時代成り立たないし、これまでも実際のところ成り立っていたようで成り立っていなかった、という認識の方が正しいのかもしれません。やはり注目を集めるのは源流となる研究をした人ですし、源流を作った人はある意味大した仕事をしていなくても(お前が言うな!というツッコミはおいてといて)やはり尊敬を持って受け入れられている、というような気がします。
日本ってどこ?なんて言われないようにしなければ。これが最後の危機感です。さてどんな戦略を立てたものやら、、、
次回、ミーティングで会った人々、でこのミーティングレポートを締めたいと思います。
中川
日本ってどこ?なんて言われないようにしなければ。これが最後の危機感です。さてどんな戦略を立てたものやら、、、
次回、ミーティングで会った人々、でこのミーティングレポートを締めたいと思います。
中川
April 25, 2012
複合体同定と信頼感とーPost Keystone Symposia (5)
長鎖ノンコーディングRNAの機能解析がここ2、3年で急速に進んだ理由の一つは間違いなく大量シークエンシング時代が到来したからではありますが、特定の遺伝子をノックダウンした時の遺伝子発現変化については詳細な解析がなされていたものの、具体的にどのようなメカニズムで働いているかについてはなおざりにされていた感がありました。それが今回は、HOTTIPやlncRNAaシリーズなど既にpublicationされているもの達に関しては勿論の事、unpublishなのよーん、と期待を持たせて発表された、またその期待を裏切る事の無かった新顔の長鎖ノンコーディングRNAに関しても、少なくとも一つは相互作用するタンパク質が出て来て、機能的な考察が加えられているのがほとんど、ということに大きな驚きを感じました。RNAのパートナーを同定をしようとしてもなにかとバックグラウンドが多く、実際にやってみるとほとんどコントロールと差がない、あったとしてもabundantなものがたまたま引っかかって来たに過ぎない、ということもしばしばで、いわばそれを言い訳にして機能解析がトンとして進まない自分を慰めて来たところもありました。そういうことを言っていてはあっという間に取り残されてしまう、これが危機感の第一。HOTTIPに関してはHoward Changが抑制型のクロマチン制御complexの一つのタンパク質の安定化に関わっているという結構驚きの話をしていましたし、lncRNAaに関しては予想通りかもしれませんが活性化型のcomplexと複合体を作っているそうです。
今から15年ぐらい前でしょうか、ハエの相同遺伝子を脊椎動物で解析するだけで面白い、箸が転がっただけで面白いみたいな時代があったのですが、その時も、ハエで新規遺伝子を取ったら脊椎動物の相同遺伝子の発現パターンを解析しているのは当然、それを出すのがマナー、大概はノックアウトマウスを作っているところまで進んでいる、などということもありました。勿論、そういった研究のお作法に従わざるを得ないというのは裏返してみればオリジナリティーが少ないという事でもあるのでしょうが、基本的には時代の中で研究をしている以上、その時代時代の最先端のテクノロジーや常法とされる研究の進め方に柔軟に対応していかなければならないというのは間違いない事実でしょう。それについていけなくなったら、そろそろ引き際を考えなくてはなりませぬ。ともあれ、長鎖ノンコーディングRNAの機能を語る時は必ずタンパク質もご一緒に。ご飯には野菜を一品取りましょう。みたいな感じでしょうか。
ちなみにHoward Changさん。始めてお会いしたのですが、なんとなく論文は無理矢理感が強くてなんだかなあ思う事もしばしばだったのですが、鋭い質問は良く飛ばしているし、物腰は真摯だし、プレゼンは完璧だし、こういう人がやっている仕事なら、、、という信頼感みたいなものがプラスアルファーであるのだろうなという事を強く思いました。日本でも若いうちに学会で質問して目立つ事は重要なんだよ、と口やかましく言われますが、目立つとかそういう問題以前に、質問に立つ、ということは、ある意味小さな中間評価を常に受けている、ということでもあるのだと思います。発表をする際には勿論それを意識するわけですが、質疑応答、他の人のトークでの質問、ブレイクでのディスカッション、こういったミーティングでの振る舞い、一挙手一投足とまでは行かなくても、目立つ振る舞いに関してはプラスにせよマイナスにせよ将来的に論文、ひいては、その人のサイエンスの評価につながっているのかもしれません。投稿論文だけで評価するのがフェアー、なのかもしれませんが、実際本当かどうかなどという事は自分の手で確かめるまでは分からない訳ですし。論文のレビューアはほぼ間違いなく国外の人ですから、時差ぼけが嫌だ英語は嫌だとか言って海外のミーティングに行きたくない、なんてことをしていたら間違いなくあっという間に取り残されてしまう、昔からそれは思っていましたが、改めて今回それを再認識しました。これが第2の危機感でしょうか。(なかなか終わらない、、、)
中川
今から15年ぐらい前でしょうか、ハエの相同遺伝子を脊椎動物で解析するだけで面白い、箸が転がっただけで面白いみたいな時代があったのですが、その時も、ハエで新規遺伝子を取ったら脊椎動物の相同遺伝子の発現パターンを解析しているのは当然、それを出すのがマナー、大概はノックアウトマウスを作っているところまで進んでいる、などということもありました。勿論、そういった研究のお作法に従わざるを得ないというのは裏返してみればオリジナリティーが少ないという事でもあるのでしょうが、基本的には時代の中で研究をしている以上、その時代時代の最先端のテクノロジーや常法とされる研究の進め方に柔軟に対応していかなければならないというのは間違いない事実でしょう。それについていけなくなったら、そろそろ引き際を考えなくてはなりませぬ。ともあれ、長鎖ノンコーディングRNAの機能を語る時は必ずタンパク質もご一緒に。ご飯には野菜を一品取りましょう。みたいな感じでしょうか。
ちなみにHoward Changさん。始めてお会いしたのですが、なんとなく論文は無理矢理感が強くてなんだかなあ思う事もしばしばだったのですが、鋭い質問は良く飛ばしているし、物腰は真摯だし、プレゼンは完璧だし、こういう人がやっている仕事なら、、、という信頼感みたいなものがプラスアルファーであるのだろうなという事を強く思いました。日本でも若いうちに学会で質問して目立つ事は重要なんだよ、と口やかましく言われますが、目立つとかそういう問題以前に、質問に立つ、ということは、ある意味小さな中間評価を常に受けている、ということでもあるのだと思います。発表をする際には勿論それを意識するわけですが、質疑応答、他の人のトークでの質問、ブレイクでのディスカッション、こういったミーティングでの振る舞い、一挙手一投足とまでは行かなくても、目立つ振る舞いに関してはプラスにせよマイナスにせよ将来的に論文、ひいては、その人のサイエンスの評価につながっているのかもしれません。投稿論文だけで評価するのがフェアー、なのかもしれませんが、実際本当かどうかなどという事は自分の手で確かめるまでは分からない訳ですし。論文のレビューアはほぼ間違いなく国外の人ですから、時差ぼけが嫌だ英語は嫌だとか言って海外のミーティングに行きたくない、なんてことをしていたら間違いなくあっという間に取り残されてしまう、昔からそれは思っていましたが、改めて今回それを再認識しました。これが第2の危機感でしょうか。(なかなか終わらない、、、)
中川
April 21, 2012
Post-Keystone Symposia (4)
年度末もしくは年始というのは報告書やら申請書やらなにかと色々な書類仕事がやってくる時期で、んなもん誰が読むのだろう、いっせいのせいでみんなが書くのをやめたらどうなるのだろう、別に今日書かなくても良いのだったら明日に回そうか、などなど、様々な悪魔のささやきを耳元近くで聞く時期であります。加えて花粉症の季節でもありまして、2月末から5月初めに至るまで、苦しむ人は苦しみ、そうでない人はケロリとしている、こんな世の中の不条理を許すまじ、とシュプレヒコールをあげてもスギなりヒノキなりが聞いてくれるわけでもなし。何かとアンニュイな季節ではあるのですが、その時期に、
1)完全書類書きフリー(連絡手段が無ければどうしようもない)
2)花粉フリー(スキー場には花粉は飛んでいない)
3)会議フリー(僕のような下っ端は出なければいけない会議はほとんどありませんが、、、)
という天国のような1週間を過ごして、まるで昔ほぼ全ての時間サイエンスに没頭していた、いや、サイエンスとパブ通いと塩野七生さんに没頭していたポスドク時代を思い出しておりました。実際のところ、研究所を取り巻く環境は今日びいろいろ厳しいらしく、それは厳しいと言っていないと存在価値が無くなる人たちだけが言っていることかと思っていたら、色々な人が、それぞれの思惑を持って、状況を憂いたり、制度を改革しようとしたり、改革に文句を言ったり、議論を始めたり、そういうところでは往々にしてある結論の先送りがあったり、結論を出しても大きな流れが変わる訳でもなく無力感だけ感じたり、しているみたいで、いろいろややこしい訳です。そのややこしさの余韻を感じながら、飛行機に乗り、空港や現地ではサイエンスの会話以外の言葉が通じない不自由を感じ、朝ご飯どうしよう、誰の隣に座ろうとミーティング特有のこれまたややこしいコミュニケーションに不安な気持ちを抱きながらセッションに突入したところ、アカデミックな事に関しては「饗応」というにふさわしい高レベルの話の数々。ああ、自分はこういうところに来たかったのだなと至極の喜びに浸る一方、ふと、日本に残して来た(一週間なのに大げさな)家族の事やら、ラボの事やら、理研を取り巻く状況やら、生物系で良くささやかれている様々な問題を思い出しているうちに、
ガガーリン
の気持ちになってしまいました。なかなかうまく伝えられないのですが、宇宙飛行士になって地球を眺めているような気持ちというのでしょうか。僕が子供の頃、某朝日新聞の朝刊の漫画はフジ三太郎だったのですが、冷戦のころ、サトウサンペイさんが書いた漫画に、しかめっ面をしたブレジネフさんと、レーガンさん。お互いに脅し合いのスピーチをしている二人が、同じ飛行船で宇宙に行って、青い地球を見て涙を流し、握手して喜び合って仲良くなる、というものがありました。本当に自分が大切にしたいものに出会えたときにはその他の争い事がどうでも良くなってくるはず、というメッセージが込められていたのでしょうが、当時中学生だか小学生だかひねくれていた僕はこんな「分かりやすい」漫画ちっとも面白くはないなどと思っていたのですが、たしかに分かりやすいけれども、その「分かりやすい経験」を、自分はした事はなかったのだなあと、つくづく今になって思います。経験というのは、それを実際に経験した人でなくては分からないもので、初恋を知らない人に初恋の甘酸っぱさを説明をするのは、リンゴとミカンしか食べた事の無い人に梅干しのあの独特の酸っぱさを説明するようなものです。
ともあれ、なんだかいろいろ自分では頑張って来たつもりでいたこの2、3年だったのですが、仕事に集中しているつもりがそうでもないところに結構労力を使っていたような気が、強力にしてきたわけです。「取り残される」。こんな事をしておってはいかん。もう一度ギアチェンジして頑張らないかん。と。会期の後半は、一刻も早く帰りたい。帰って実験したい。そればかり思っておりました。
なかなかサイエンスの内容には入れないのですが、次回こそ。多分数行で終わってしまいそうな気もしますが、、、
中川
1)完全書類書きフリー(連絡手段が無ければどうしようもない)
2)花粉フリー(スキー場には花粉は飛んでいない)
3)会議フリー(僕のような下っ端は出なければいけない会議はほとんどありませんが、、、)
という天国のような1週間を過ごして、まるで昔ほぼ全ての時間サイエンスに没頭していた、いや、サイエンスとパブ通いと塩野七生さんに没頭していたポスドク時代を思い出しておりました。実際のところ、研究所を取り巻く環境は今日びいろいろ厳しいらしく、それは厳しいと言っていないと存在価値が無くなる人たちだけが言っていることかと思っていたら、色々な人が、それぞれの思惑を持って、状況を憂いたり、制度を改革しようとしたり、改革に文句を言ったり、議論を始めたり、そういうところでは往々にしてある結論の先送りがあったり、結論を出しても大きな流れが変わる訳でもなく無力感だけ感じたり、しているみたいで、いろいろややこしい訳です。そのややこしさの余韻を感じながら、飛行機に乗り、空港や現地ではサイエンスの会話以外の言葉が通じない不自由を感じ、朝ご飯どうしよう、誰の隣に座ろうとミーティング特有のこれまたややこしいコミュニケーションに不安な気持ちを抱きながらセッションに突入したところ、アカデミックな事に関しては「饗応」というにふさわしい高レベルの話の数々。ああ、自分はこういうところに来たかったのだなと至極の喜びに浸る一方、ふと、日本に残して来た(一週間なのに大げさな)家族の事やら、ラボの事やら、理研を取り巻く状況やら、生物系で良くささやかれている様々な問題を思い出しているうちに、
ガガーリン
の気持ちになってしまいました。なかなかうまく伝えられないのですが、宇宙飛行士になって地球を眺めているような気持ちというのでしょうか。僕が子供の頃、某朝日新聞の朝刊の漫画はフジ三太郎だったのですが、冷戦のころ、サトウサンペイさんが書いた漫画に、しかめっ面をしたブレジネフさんと、レーガンさん。お互いに脅し合いのスピーチをしている二人が、同じ飛行船で宇宙に行って、青い地球を見て涙を流し、握手して喜び合って仲良くなる、というものがありました。本当に自分が大切にしたいものに出会えたときにはその他の争い事がどうでも良くなってくるはず、というメッセージが込められていたのでしょうが、当時中学生だか小学生だかひねくれていた僕はこんな「分かりやすい」漫画ちっとも面白くはないなどと思っていたのですが、たしかに分かりやすいけれども、その「分かりやすい経験」を、自分はした事はなかったのだなあと、つくづく今になって思います。経験というのは、それを実際に経験した人でなくては分からないもので、初恋を知らない人に初恋の甘酸っぱさを説明をするのは、リンゴとミカンしか食べた事の無い人に梅干しのあの独特の酸っぱさを説明するようなものです。
ともあれ、なんだかいろいろ自分では頑張って来たつもりでいたこの2、3年だったのですが、仕事に集中しているつもりがそうでもないところに結構労力を使っていたような気が、強力にしてきたわけです。「取り残される」。こんな事をしておってはいかん。もう一度ギアチェンジして頑張らないかん。と。会期の後半は、一刻も早く帰りたい。帰って実験したい。そればかり思っておりました。
なかなかサイエンスの内容には入れないのですが、次回こそ。多分数行で終わってしまいそうな気もしますが、、、
中川
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