領域代表のコメント、まさに正鵠をえた言でありまして、長鎖ノンコーディングRNA研究の現状と問題点はまさにそこにあると思います。すなわち、
1)既に発表されている様々な生化学的なアッセイはstoichiometryの観点から見て正しい条件でなされているのか。
2)そもそも長鎖ノンコーディングRNAの機能を見るための生化学的なアッセイというものが存在するのか。
1)に関してはオープンな議論がいつしか必要になると思います。昔から免疫沈降は念力沈降とも呼ばれておりまして、どんなタンパク質でも条件さえそろえば結合するわけです。ですから、たとえば酵母のtwo-hybridで網羅的に拾われてくる結合因子が本当に生理的に意味のあるものであるのかどうか、とう点については、様々な角度からの検証がなされてはじめて受け入れられるというのが常識だと思います。矢継ぎ早に追加実験を要求してくるレビューアーも、意地悪が楽しくてやっている訳では、いや、ちょっぴりそういう邪悪な気持ちもあるのかもしれませんが、やはり学問を守りたくてそういうコメントを要求してくるのでしょう。現在、長鎖ノンコーディングRNAに「結合している」と言われている多くのクロマチン修飾因子。これ、ほとんど、既に有名な因子ばっかりです。野球選手で言えばFA選手。既に十分に名が売れた、ストーリとしてありそうな因子をつれてきて、はい、くっつきましたと。逆に、新規の因子がとれてきて、その機能をよくよく調べてみたらクロマチン修飾活性があった、などという話は今までにいちども聞いた事ありません。敢えて例を挙げるとするのならばSmchd1とXistの関係でしょうか。これも、生化学的にとれてきた、というよりは遺伝学的にとれてきた因子です。抗体染色にせよ、DNAをちぎったりはったりのコンストラクト作りにせよ、免疫沈降の実験にしても、多くの反応は「4℃オーバーナイト」で作業を止めておく事が出来ます。つまり、各ステップはとことんまで反応を進めたところで次ぎに行くと。これを僕は「saturation反応」の実験と言っているのですが、分子生物学的なデータのほとんどが、その作業の積み重ねで出てくる。そこにはstoichiometryの観点はちっともない。少々突っ込んだ言い方をすれば、「saturation反応」の実験に骨までどっぷりと浸かった発生屋や遺伝屋やスーパードライな人々が、反応速度なり濃度なりが重要な因子となる生化学的なデータを出してくる場合、専門家による慎重な検証がいるのではないかと。あ、ちなみにこういう事をかいている僕自身は、濃縮還元100%「saturation反応」型の実験屋です。
2)に関してですが、長鎖のノンコーディングRNAの多くはco-transcriptionalに働くという印象があります。核内ボディを形成するNeat1についても、自己組織的に構造体が出来るのか、それとも転写とともに構成因子が組み立てられて段階的に作られるのか、ということであれば、後者である、というコンセンサスが業界では出来上がっています。そうなると、いわゆる、基質を用意して、ライセートと混ぜて、、、という古典的な「生化学」の実験とは本質的になじまない、という可能性はあると思います。しかしながら、「なじまないからやらない」、なんて泣き言ばかり言っていては学問は止まってしまいますから、多分我々がやらなければいけない事は、きちんと新しいアッセイ系を組み立てる事なのだと思います。そもそも、どんな「古典的な」生化学にしても、いろいろなレべルで地道に新しいアッセイ系が組み立てられてきたからこそ、発展を遂げてきたのだと思います。長鎖ノンコーディングRNAの機能をきちんと試験管の中で見える形にする。ちょっと本気で取り組みましょう。というか、本気で取り組みます。はい。長鎖ノンコーディングRNAの機能解析には遺伝学的アプローチが最強であるという常識を変える事が出来れば、世の中がほんの少し変わるかもしれません(それはないか)。いずれにせよ、小分子RNAでうまくいったやり方を長鎖ノンコーディングRNAに適用するだけでは、いつまでたってもそこを越えられません。常識を疑う事で可能性は大きく広がるはずですので、ちょっと非常識な実験を組んでみましょうか。
中川
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