今回はChandra Kanduriさんの紹介です。
長鎖ノンコーディングRNAの生理機能として最も良く調べられているのは、エピジェネティックな発現制御に関わる一群の遺伝子でしょう。この研究分野のさきがけとなったのはX染色体の不活性化を制御するXistで、これはもう超有名なスーパースター、印籠を見せるだけで人々がひれ伏す水戸のご老公なのですが、助さん格さんなみに有名なのが、インプリンティング領域から転写されている長鎖ノンコーディングRNA、AirnとKncq1ot1です。
母方のゲノムと父方のゲノムで遺伝子の発現が違う、いわゆるインプリンティングを受ける遺伝子座は現在マウスで100ぐらいが知られていますが、興味深い事に、そのような領域ではしばしば長鎖ノンコーディングRNAが転写されています。AirnはII型のIGF受容体のアンチセンスRNAとして、Kcnq1ot1は電位依存性KチャネルのアンチセンスRNAとして、それぞれ同定されていますが、どちらもその領域の母方、もしくは父方ゲノム特異的な遺伝子発現を制御しています。KanduriさんはKncq1ot1遺伝子についてこれまで詳細な解析をしてきており、レポーターのベクターを用いてインプリンティングに必要なドメインを同定してきたり、そのノックアウトマウスを使った解析をしてきたり、最近ではKncq1ot1がクロマチン制御因子であるG9aやPRC2と相互作用していることを示したり、と、まさにKncq1ot1とともに歩んできた、方であります。長鎖ノンコーディングRNAはクロマチン制御因子をゲノムに呼び込むことで遺伝子発現制御をしているーこの考え方は最近広く受け入れられつつあると思うのですが、そのアイデアの確立に、間違いなく大きな貢献をされたのが、Kanduriさんであるといって良いかと思います。
ちなみにKncq1ot1って、どう読むのでしょう。僕自身は「けーしーえぬきゅーわんおーてぃーわん」と言っていますが、見るからに舌をかみそうな名前ですよね。ところが不思議なもので、けーしーえぬきゅーわんおーてぃーわん、けーしーえぬきゅーわんおーてぃーわん、けーしーえぬきゅーわんおーてぃーわん、と念仏を唱えるように繰り返していると、いつの間にかこの名前がしっくりと来るようになるのです。九九を覚えるようなものですね。で、やっと覚えたこの名前、Kanduriさんが全然違う呼び方をしていたら、、、ちょっとショックです。
ちなみに、Kncq1ot1は転写産物が大事なのではなくて、その領域をRNA polymerase IIが走ることが大事だ、と言っている論文もあります。Kanduriさんらのノックアウトマウスを使った論文やクロマチン制御因子との相互作用を示した論文を真っ向から否定しているような論文ではありますが、実際のところ、転写産物そのものが大事なのか、転写されること自体が大切なのか、を見分けるのは非常に難しいことではあります。この論文では例のごとくRNA干渉を使ってKncq1ot1(ほら、すらっと言えたでしょう?)をノックダウンしているのですが、一体真実はどうなんでしょうか。Xistについても、これだけ論文が色々発表されているのに、まだ統一見解が出ていないところも色々とあるようです。学問とはかく奥深し、といったところでしょうか。
その他にも、第9回Tokyo RNA Clubには様々なゲストが来られます。小さなncRNA関係では、Elissa Leiさん、Isidore Rigoutsosさん、Markus Hafnerさん、と、あれっ?どこかで聞いたことのある名前だな、という方々がわんさかわんさか。国内からは東工大の相澤康則さんが来られます。懇親会もありますし、皆さんぜひお越し下さい。
中川
転写なのか、転写産物が大事なのかについて、KanduriさんはMol. Cell論文(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18951091)で「kcnq1ot1にc-fosの3'UTRをつけて転写産物を不安定化させるとsilencing効果がなくなる」という、工夫を凝らしたアプローチをされています。個人的にぐっと来たデータだったのでこの場を借りて補足させてください。
ReplyDeleteあと、これは非常に蛇足ですが、Kanduriさんはベジタリアンだったので四ッ谷で軽食を取る場所を探すのにちょっと困りました。。事前チェック、大事ですね。長旅をして来てくださったせっかくのゲストですから。。反省しました。
長谷川(中川研)