December 24, 2011
ncRNAネイティブ
長鎖ノンコーディングRNAがらみのシンポジウムは最終日の午後だったこともあり、どれぐらい人が集まるか心配だったのですが、予想外、のたくさん方々に足を運んでいただいて、正直ビックリしました。特に海外スピーカーの方のネームバリューというのがかなり大きかったのかなと思いますが、生マティックさん見れると思ってきたのにいないじゃねーかよー、別枠すっぽかしてきたのにどーしてくれんだよー、という不満の声もちらほらと聞こえてきましたが、Mattick研のバイオインフォを一手に行き受けてきたDingerさんが来てくれたということで、ご勘弁を。実際、レビューばっかり書いているけどあの人誰?、という失礼な印象をもたれがちなMattickさんのところからばんばんオリジナル論文が出始めたのは、彼が加入してからのような気がします。
リッキー黒川さんがいみじくも最後の締めでまとめておられましたが、長鎖ノンコーディングRNAの面白い特色の一つは、様々なバックグラウンドを持った人たちが集まってきてああでもないこうでもない、とやっているところのような気がします。ちなみに学会のシンポジウムのclosing remarkというのはほとんどの場合わらわらと席を立つ人が多く、なんとも落ち着かない雰囲気になるのが常なのですが、さすがは黒川さん。骨太の締めの言葉にほとんどの人が耳を傾けてました。このあたりの貫禄というのはなかなか身につけようと思っても身につかないですね。
様々なバックグラウンドは全くその通りで、それぞれの人にこの分野に入ったきっかけというのをお伺いして、結構興味深かったです。Dingerさんは、なんと古細菌の生化学がオリジン。全然バイオインフォじゃありません。ニュージーランド出身の彼は、大学院時代は地元の海の鉱泉にすまう古細菌の研究をしていて、進化に興味があって、おとなりはオーストラリアのMattick研に飛び込んだとか。Mattickさんはイントロンの研究をしていて、イントロンが捨てられてしまう、というのが気に食わなかったとか。それでタンパク質をコードしない領域に目が向いていったそうです。Kanduriさんはクロマチンの研究。太田さんはDNA修復。黒川さんは転写。廣瀬さんはじつはいろいろ隠れた過去が、、、あるわけではありませんがRNAプロセシングのin vitroの系の研究。僕はニワトリ屋。そもそも研究分野としてもかなり新しいのでまったくもってその道の専門家、というのは居ないわけですし、だれでもそこに飛び込んでいけるというのが魅力の一つなのかな、という気もしています。誰も母国語を話していない国で研究している感じです。
とはいえ、これからはノンコーディングRNAネイティブ、の人たちがどんどん入ってくるのでしょう。個人的には、John RInnさんやHoward Changさんたちは、ncRNAネイティブ、というような気がします。古くさい常識にとらわれないあたり特に。若い学生さんたちの中にもすくすくと人材が育っていっていると思います。あと10年ぐらいしたら、すっかりncRNAネイティブの人たちの時代になっているのかもしれません。
中川
December 16, 2011
第8回 Tokyo RNA Clubのレポートその2
12月8日(木)に開催された第8回Tokyo RNA Clubは大盛況でした."Tokyo" RNA Clubであるにもかかわらず,わざわざ京都からトークを聞きに来られた方もいると聞いてびっくりです.そろそろ,Japan RNA Clubと呼び名を格上げしてみてはどうでしょうか? 会場には熱気があふれ,人があふれ,コーヒーブレイクのコーヒーがあっという間になくなって,僕は飲みそびれました.無念です(注3).
さてさて,脅されたもう一人=岩崎君が各トークの内容をしっかりまとめてくれたので,僕はちょっと違う視点から今回のTRCをレビューしたいと思います.
今回のTRCはメインゲストの一人,David Bartelさんの講演で始まりました.実はトークの前に,僕と岩崎くん,中川さんは,BartelさんとガールフレンドのSabbyさんを交えて,5人でランチを食べに行ってきました.中川さんとBartelさんのlincRNA話に,論文誌のエディターをつとめるSabbyさんもいくつも質問を飛ばし,非常に盛り上がった結果,気づけば「トークの開始時刻に間に合わないんじゃ……?」という時間に.みんな小走りで会場に戻り,そのまますぐにBartelさんはトークを始めることになったのですが,そこはさすがのBartelさん.慌てて帰ってきたばかりなどとは微塵も感じさない発表なのでした(注4).
学会で,セミナーで,あるいは授業で誰かの話を聞く時に,皆さんはどんなことを楽しみにしていますか? こんなことを聞くと「トークの内容に決まってんだろ!」と怒られてしまいそうなのですが,僕はひそかに「どんなスライドなのか?」ということを楽しみにしています.スライドのデザインや構成には,発表者のパーソナリティがはっきりと浮かび上がると思っているからです.Bartelさんのスライドは,白背景に黒のゴシック体フォント(注5)という,パワーポイントのデフォルト設定でした.背景に写真や色をつけることもなく,タイトルもスライド上部に最大2行で書いているのみ.シンプルで奇をてらわないオーソドックスなデザインは,しかし,Bartelさんの研ぎ澄まされたロジックに呼応するものだったと思います.
そういえば,懇親会の場で学生に囲まれて質問攻めにあっていたBartelさんは,意外にも質問に流暢に答えていたわけではありませんでした.むしろ,自分の話を何度も途中で止め,考え込み,少しの沈黙の後に言い直す,という姿が印象的でした.1つ1つの論理的なつながりを考えながら,ゆっくりと言葉を紡ぐBartelさんの姿から,常にシンプルな答えを導こうとする強い意志を感じた第8回Tokyo RNA Clubなのでした.
佐々木
注1:ボス.無類の辛い物好き.
注2:東大・分生研の泊研究室で日夜,生体高分子とにらめっこしています.
注3:でも懇親会の料理は非常に豪華でした.満足です.
注4:しかも,始まるまでのわずかな時間にスライドを差し替えていました.
注5:たぶんHelveticaだったと思うのですが,自信はありません.
December 15, 2011
第8回 Tokyo RNA Clubのレポートその1
先日のTokyo RNA Club(12月8日)のレポートを仰せつかりました、分生研泊研のいわさきです。個人の独断と偏見が多少コンタミしているかと思いますがご了承ください。
まずはいわずと知れたRNAサイレンシング界の大御所David Bartelさんの発表がありました(僕から見ればボスのボスのボスにあたります)。彼の発表はDroshaがどのような基質特異性をもっているかの最新の知見を紹介されていたのですが、その手法がなんとも賢い。Droshaとその基質としていろんな種類のRNAを一気に混ぜ、反応させます。その後に反応が上手く進んだRNAだけをシーケンス出来る様な手法を用いて、もはやおなじみdeep sequencerでババッと読んでしまう。そうするとDroshaで上手く反応が進んだ基質の特徴がわかるという寸法です。生化学とインフォマティクスの美しい組み合わせ。うーんカッコイイです。
2番目の発表は菅先生です。環状人工ペプチドを合成させる人工翻訳系を駆使し、特定のタンパク質に強く結合する環状ペプチドをスクリーニングする仕事とその応用例に関しての仕事です。これまた圧倒的な仕事の数々。もうこれだったら、どんなタンパク質に対しても阻害剤、薬剤が作れちゃうじゃん、とわくわくしてしまいます。特に僕個人が感動したのは、目指す「系」を構築するのに10年かかった、という話です。そこの10年があったからこそ今のものすごい成果があるわけだと思いますが、もし自分だったらそのような忍耐と信念をもって研究できるか、ということを思うと頭が下がりっぱなしです。うーん、カッコイイですね。
3人目は東大宮園研の鈴木さんです。ヌクレアーゼの一種であるMCPIP1というタンパク質がpre-miRNAのループ部分を分解することでmiRNAの生合成を負に制御するというお話を発表されていました。(詳細は最近Mol Cellに発表されています。)これまでもいつくかのRNA結合タンパク質が直接miRNAの前駆体に結合し、miRNAの生合成を阻害したり促進したりという例は知られているので、MCPIP1のように今後もたくさん見つかるのではないかなと、またそれらが疾患に関係づけられるのではないかなーと期待させていただける発表でした。
4人目は我らが研究室の岩川さんです。植物のmiRNAは当初標的RNAの切断しかしない、と思われてきました。しかしながら最近の研究によって動物の様に翻訳抑制も引き起こすのではないか、ということを示唆する報告がされています。それではそのメカニズムを研究してやろう、ということでmiRNAによる翻訳抑制を再現できるin vitro系を自分でつくって解析したというお話です。自分で系をつくって、自分で解析する、という言わば生化学の王道です。
5人目はValerio Orlandoさんです。ショウジョウバエやヒトでRNAサイレンシングは細胞質内で転写「後」に働くものである、というのは誰もが疑いない所となっていますが、酵母や植物で起こるように転写レベルも制御しうるのではないかというお話でした。確かに以前から、ショウジョウバエやヒトで転写レベルにサイレンシングが起こるということを支持する報告はいくつかあるのですが未だあまり市民権を得られていないなーというのが現状だったと思います。Valerio Orlandoさんの報告(最近Natureに発表されています)でさらにこのあたりの議論が活発なってくるのでしょう。
当研究室佐々木氏が「いわさきくんが真面目なことを書くなら、僕はちょっと違った視点で書いてみるよ」とのことなので、そちらの方もご覧になっていただければと思います。(近日アップ予定?)
いわさき
December 13, 2011
班会議
平成23年11月25日―26日に東京大学で班会議があり,昨年(2010)に引き続き出席させていただきました。偉い先生方がお越しになられていましたが,とてもフランクな雰囲気の中で執り行なわれて,大きな学会には無いものでした。
一日目;武田先端知ビルというところが会場でした。発表が始まると,なぜか同じスライドが左右2つ並んで投影してあり,右のスクリーンを見ながら説明を聞いていても,レーザーポインターで示してくれない。で,ふと左のスクリーンに目をやると,ポインターがせわしなく動いていてそれに気づくまで数分間。当然発表者はどちらかにだけしかレーザーポインターをあてられないですが,発表者によって左か右かが変わるので,どっちを見なくてはならないのか,始めの一歩が肝心でした。そして,座長が佐渡さんに代わり,ある発表が終わったあと,数秒間の沈黙。あれ?座長は?と思った瞬間,佐渡さんが慌てて壇上へ。久しぶりに慌てる姿を見ました。続いてポスター発表。non coding RNAのテーマとはちょっとずれた研究内容について発表させていただきました。興味を示してくれた人に感謝です。一日目の終わりの懇親会。お酒が入りながらのポスターの説明は,シラフの時でさえまともな日本語をしゃべれないので更に拍車がかかり,何を言っているのか自分でもよくわからなくなり,今後の課題としようと思いました。懇親会後は,東大の中の洒落たBARと学外の居酒屋に行きまして,普段なら朝4-5時までのところ,佐渡さん,N山さん,Deレックさん,ジンムさんが次の日に発表ということで,おとなしく12時にお開きとしました。
二日目;きれいな銀杏並木を見ながら会場である工学部の講堂へ向かいます。講堂へ入ってスクリーンを見ると今日は1つ。これなら惑わされなくて済みます。発表は滞りなく進行し,時間はプログラムどおり,ほぼ定刻。会議終了後は,飲み会に誘っていただき,これからという時に,飛行機の時間の関係で18時半においとましました。
今回が2回目の班会議出席ですが,昨年同様non coding RNAの分野は現在とても熱く,そしてこれからもっと熱くなるのは間違いなく,時代の流れに乗り遅れないようにしなくては,と思いました。
来年は佐渡さんが世話役とのこと,サポートがんばります。