December 27, 2010
非コードRNA屋?
ここ最近、某歌舞伎役者がワイドショーを賑わしています。彼の名跡は「市川」ですが「成田屋」という表現もよく耳にします。「ん?市川家と成田屋ってどう違うの?」と思って調べてみますと、歌舞伎の世界では名跡を直接呼ぶのが失礼に当たるので、屋号で「よっ成田屋!」などと呼ぶのが作法とのこと。屋号と名跡がほぼ一体化している噺家とはちょっと違うわけですね(ウィキペディア情報なので間違ってたらご容赦を)。
さて、研究者の世界にも屋号は存在します。
例1:「私は根っからの生化学屋でして…」
例2:「あのAさんってなにやってる人?」「ああ、あの人は発生屋さんだよ」
という感じで、その人のバックグラウンドを(何となく)掴むにはとても便利な表現です。これを使って自己紹介をさせていただきますと、私はゼブラフィッシュ使ってmicroRNAの生理機能と作用機序に興味を持って研究を行っていますので「microRNA屋」ということになるでしょうか。もう少し細かく分類すると「翻訳制御屋」、あとは使ってるモデル生物から取って「ゼブラ屋」なんかも当てはまりそうです。
では周りの皆さんは。。。と領域内を見回しますと、「RNA屋」もちろんのこと「発生屋」、「エピジェネティクス屋」、「構造屋」、などなど非常に多彩な屋号が見受けられます。これはまさに非コードRNAという研究領域の重要性、新鮮さ、アクティブさを表していると思います。一方で、それぞれの確固たるバックグラウンドがあるせいか「非コードRNA屋」というイメージがパッ出てくる方が少ないのもまた事実。特にmicroRNAをやっていますと、一流の研究者ほど軽々と屋号の壁を超えてmicroRNAを取り入れ、そして去って行く傾向にあるように感じます。屋号で研究者を分けるのはもう古いのかも知れません。
伝統を重んじる歌舞伎の世界では一度名乗った屋号を変えるのは非常に稀なようですが、研究の世界では時に屋号の壁を打ち破らねばインパクトのある仕事ができません。「非コードRNA屋」が世間に定着するのかどうか、また自分が「非コードRNA屋」に留まるのかどうか。日本の非コードRNA研究の最先端を走る皆様との交流を通じて、その答えが見出せればいいなと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
それでは皆様、よいお年を!
December 15, 2010
細胞老化と長鎖ncRNA
私はもともと九州大学農学部の細胞制御工学講座という研究室で、研究人生をスタートしました。そこで最初に習った手技が動物細胞培養法でした。二ヶ月間、ただひたすらいろんな種類の細胞株を培養継代していたような気がします。その中で他の細胞株とは異なり、だんだんと増殖スピードが遅くなり、次第に増えなくなってしまった細胞株が現れたのです。当時教わっていた先輩は、それはそれは恐い人(元空手部主将)で、細胞が増えなくなったとはなかなか言い出せなく、血清濃度を上げてみたり、培地を頻繁にかえてみたり、素人ながら試行錯誤したものでした。その後分かった事ですが、その細胞株はTIG-1細胞というヒト胎児肺正常線維芽細胞で、不死化したガン細胞とは異なり、分裂寿命を持つことから細胞老化のモデルとして用いられている細胞株でした。これを知った時、安堵感と共に、細胞が持つ巧妙な老化誘導機構について興味を持った訳です。以来、九州大学の中山敬一先生、ノースカロライナ大学のYue Xiong博士の研究室を経て、現在でも細胞老化の分子基盤の解明に取り組んでいます。
ここ最近の細胞老化の分野は、エピジェネティックな遺伝子制御やDNAダメージ応答機構との関連が明らかとなり、急速に分子レベルでの理解が進んでいます。私もポリコームタンパクがINK4 locus(p16/p15/ARFをコード)に結合し、ヒストンメチル化を介してINK4 locusをエピジェネティックに抑制することによって、細胞老化を抑制していることを明らかとしました。近年、このINK4 locusへのポリコームリクルートメントにmRNA-likeな長鎖ncRNAであるANRILが関与していること、さらにANRILは細胞老化を抑制する機能を持っていることを見出し、ncRNAの分野に足を踏み入れる事となった訳です。現在ではこのANRILの作用マシナリー及び個体の老化/癌化に関与しているか、その生理機能の解明を行っています。miRNAなどの他のsmall ncRNAと比べ、長鎖ncRNAはまだまだ謎に包まれているため、暗中模索状態です。そんな中、この新学術の公募班員に選ばれたのは私にとってかなりの幸運だったと思います。前回の班会議では、他のメンバーのお話が聞けて、今までモヤモヤとしていた部分が幾分クリアに見えてきたような気がします。私も次の班会議では少しでもこの領域に貢献できるようなおもしろい発表ができるように精進したいと思います。
神武 洋二郎
December 12, 2010
BMB2010
ところで、この化け物のように大きい分子生物学会というシロモノ、毎年毎年どの会場に行ったもんだか非常に迷います。興味を共有している人たちの輪の中に入っていた方が心地よいのは間違いないのでやはり一番自分の仕事に近いセッションを聞きに行きたくなりますが、RNA学会という機会もあるわけですし、わざわざパリやニューヨークに行っておでん屋に入るようなことをしなくても、という気がしなくもありません。さてそうなるとせっかくの機会だからとお隣さんの会場を覗いてみたくなるのですが、大変勉強になるときもあれば、ああくるんじゃなかったと、思うときもあります。ある程度こちらに予備知識が無いとトークには全くついて行けないわけで、そうなると何をこの人達はこんなに熱くなって議論しているのだろう?と、どっちにどう失礼なのか良く分かりませんが国会中継を見ているような気分になってきます。ただ、無理をしてでも自分の中の引き出しを増やしてゆく努力を続けていかないと袋小路に入ってしまったときに出られなくなりますし、これだけ多様な分野のセッションが一同に集まっている分子生物学会という場所は近くて遠いちょっと畑違いの研究分野を勉強するまたとない機会を提供してくれているのは間違いありません。
とはいえ、今や数千人が集まる一大イベントである分子生物学会も、その黎明期はこじんまりとした学会で、仲間内の情報交換の意味合いが強かったに違いありません。今の学会の姿はそれとは似て非なるもの。学会の目的や意義も大きく変わってしまったのでしょう。発生学会、RNA学会、細胞生物学会、生化学会、再生医療学会、眼科学会、潰瘍学会、ナノメディシン研究会、など、どっぷりつかっている学会、ちょっと覗いてみただけの学会、ピンポイントで参加した学会、いろいろありますが、X軸に学会の規模、Y軸に学会の英語化の度合いをとって分類すると、なかなか面白いです。はじめは小さい日本語オンリーの学会から始まって、小さいけれども英語を使用する学会に進んでゆくか、大きいけれども基本日本語の学会に進んでゆくか。進化系列上の最終地点はとても大きくて英語が公用語の学会、となるのでしょうが、国内ではまだそこまで行き着いた学会はないでしょう。恒星進化論によれば膨張を続けた星は自らの重力に耐えきれなくなって超新星爆発を起こすわけですが、分子生物学会はどういう方向にすすんでいくのでしょうか。また、いわゆる基礎研究系の場合、学会といえばイコール年会、というイメージが強いですが、そうでない集団もあることでしょう。それぞれの、学会なりの楽しみ方、いろいろあるようです。
中川
December 3, 2010
lncRNAのデーターベース
論文はこちらで、実際のサイトは、こちら。
ノンコーディングRNA関連のデーターベースとしてはNONCODEなどがありましたが、lncRNAdbは特に長鎖のノンコーディングRNAに特化したデーターベースです。論文はこの業界では知る人ぞ知る、オーストラリアのJohn Mattickラボからのものです。
この手のデーターベースはPubmedやBlastが白いご飯だとしたら梅干しかたくあん、といったところで、毎日食卓に上がるわけではないですが、なければないでさみしいものです。特に長鎖ノンコーディングRNAはクマムシなみに(失礼!)マイナーな分野ですから、こういったデーターベースを入り口に興味を持ってくれる人が増えることが何よりだと思います。エントリーされているのはたったの157遺伝子。ざっと眺めるだけで、この分野がなんとなく分かった気になるかもしれません。
中川
December 2, 2010
英語
わたしはアメリカに4年も住んでいたくせに、未だに英語に対する苦手意識が強くあります。当時は英語で考えるのが普通になっていましたが、最近では日本語で考えるのに慣れてしまって、すぐに英単語が出てこないこともしばしばです。昔は使えていた単語を忘れてしまっている、ということもあります。
こういうときに必要なのは何か。第一に準備です。発表に関していえば、ちゃんと準備していればそんなに困ることはありません。原稿を作って丸暗期してしまえば普通に発表できます。今回はそこまでしませんでしたが、practice talk はそれなりにやったので、それなりの発表だったと思います。うまく伝えられなかったとしても、それは準備不足のせいではなく、今の私の英語能力が低いせいだと思って諦めがつきます。
さらに重要なのは開き直ることです。当たり前ですが、いくら日本人が頑張ったところで、native speaker になれるわけではありません。通じないのが当たり前と思えば、何とか頑張って伝えようという気にもなります。中川さんも書いていましたが、こと発表に関しては、発表者が絶対的な立場にあって、聴衆は何とか聞き取ろうとします。質疑応答でもそれは同じことです。片言でも何とか返せばそれなりに理解しようとしてくれます。ともかく言葉を発することが大事です。
最後に、コミュニケーションはすべからく伝えようとする内容が重要です。その場を和らげるようなジョークが言えるほど言葉に自信がある人ならともかく、そうでないフツーの人は、何が言いたいのか自分でわかってないといけません。発表以外のコミュニケーションでは、それがわかっていないと墓穴を掘ります。こう書くと常に緊張しながら話さなければいけないように聞こえますが、実際私は会話を楽しむときもどこか緊張しながら話している気がします(性格によるところも大きいのでしょうけれど)。
これらの点を抑えておけば、外国の研究者とのコミュニケーションは非常に有意義で楽しいものです。なにしろ自分の全く知らない情報を教えてくれたり、それまで考えていなかったようなアイデアを言ってくれたりするわけですから。日本人同士でも同じようなことは言えますが、普段会わない人達からの情報・アイデアはさらに貴重です。
とまぁエラそうに書いてますが、私はよく失敗するので、実は反省することしきりです。上に書いたことは、あぁやっちゃったと思いながら反省することの多い点を並べたものでもあります。会場で見慣れた人たちが普通に話している(ように見える)のをうらやましく横目で眺めながら、もっと自由に話せるようになりたいなぁ、とひとりつぶやいたりしているのでした。
影山裕二/岡崎統合バイオ
November 26, 2010
発表の前に、、、
この、アロンさんというかたは個人的に全く面識もありませんし、その輝かしい業績に関しても恥ずかしながら全く知る機会も無かったのですが、このホームページにある、発表のノウハウ、研究の進め方のノウハウ、に関するYoutubeやらMolCellに書かれたエッセイやらには、いたく心を動かされました。そもそも、大体、この手の説教、といいますかアドバイスというのは、研究者の多くがそうであるへそ曲がりな人間にとって、とうてい素直に受け入れられない物が多いのですが、そうだそうだ、全くその通りである!!と思ったのは、
「聴衆は、あなたが素晴らしいプレゼンをすることを期待しているのだから、心配することはなにもない」
という一節でした。
これは全くそうだと思います。見ていても痛々しいトークはこっそり席を外したくなりますし、席を外すのは失礼だと下手に我慢すれば、尻がむずがゆくなるだけです。発表者が言葉に詰まった瞬間心の中でガッツポーズをとる巨悪な聴衆も中にはいるのかもしれませんが、多くの人は、その逆でしょう。足を運んでわざわざ学会会場まで来ているのは、発表を楽しみたいからであって、批評・批判をしに行っているわけではありません。少し前にここでも話題になりましたが、質問というのもいってみれば「よっ!なりたや!!」みたいなもので、学会発表という一つのエンタテーメントを盛り上げるためのかけがえのない要素のような気がします。ある程度通にならないと声がけは難しいのかもしれませんが、、、
これから学会シーズンです。というか、分子生物学会シーズンです。発表する機会を与えられた幸運をかみしめながら、良き聞き手になり、良き話し手になりたいものです。この新学術の多くのメンバーが二日目のの午前中のセッション「ワークショップ:2W8 非コードRNA作用マシナリー:動作原理の分子基盤と生理機能」で発表します。ポートピアホテル本館の地下の会場のようです。冷やかし歓迎!?
中川
November 17, 2010
雄と雌を比べる!
私は以前から「哺乳類の雌雄の発生はいつから異なり始めるのか?」という、単純な疑問を持っていました。この疑問がきっかけとなり、現在の研究を始めるに至りました。生物学の教科書を読むと、個体の性分化は生殖巣の分化から始まると記されています。この説明が正しければ,生殖巣の分化以前に雌雄の発生に違いは無いはずです。一方、遺伝学上の性は受精時に決まり、性染色体の構成は雌はXXで雄はXYで、明らかに異なります。雌は雄の2倍のX染色体を持つ訳ですが、2本の内1本は不活性化され、実際に働くのは1本のX染色体です。この現象は「X染色体の不活化」と呼ばれており、この様な機構により雄と雌の間で異なる性染色体の構成が補正される訳です。この機構は発生に重要で、機構が働かなくなると2本のX染色体が活性化され、雌は流産してしまいます。この様に重要な機構ですが、Xistと呼ばれる非コードRNAが働く以外、その機構の詳細は殆ど分かっていないのが現状です。X染色体の不活化は受精後まもなくして徐々に始まり、着床直後に完成します。この様に、着床前という時期は雌雄のゲノムの違いが補正され始める重要な時期と考えられます。
そこで、この雌のみの存在するX染色体の不活化機構に興味を持ち、着床前の雌雄の胚盤胞で,遺伝子発現を比べてみることにしました。その結果、着床時期に、雄胚と雌胚の間で遺伝子発現が既に異なっていることを発見しました。更にこれら発現の異なる遺伝子のうち、雌でのみ発現するRhox5遺伝子やFthl17遺伝子といった遺伝子が、父親由来のX染色体からのみ発現するインプリント遺伝子であることを明らかにしました。父親由来のX染色体は雌しか持たない為、これらの遺伝子は,雌のみで発現する訳です。ちょうど、X染色体不活性化に働くことで有名なXistも同様にこの時期インプリントを受け雌でのみ発現することが報告されています。では、我々が新しく発見したインプリント遺伝子は,雌雄の発生にどの様な役割を果たしているのでしょうか?現在、我々はこれら新しいインプリント遺伝子もXist同様X染色体の不活化機構に働く可能性を第一に考え検討しています。更に、上記の蛋白をコードする遺伝子の他に、蛋白をコードしないRNAについても、実は発生の初期から雌でのみ発現するものが複数見つかってきました。今回、非コードRNAの領域研究での私たちの目的は、雌でのみ発現する非コードRNAの機能を明らかすることにあります。我々はこれらのRNAの機能をX染色体の不活化機構に注目しながら解析し、Xistと合わせることにより非コードRNAが哺乳類の発生にどのように働くかを包括的に理解できると期待しています。この様な研究は、雌雄の発生を理解するだけではなく、将来的にはエピジェネティックな発現制御機構の解明により、今注目されているヒトiPS細胞などのエピジェネティックな制御が重要な再生医療にも応用出来ると期待しています。
この様な研究を始め、早いもので6年経ちます。研究の当初、周りの人からは、「そんな早い時期に雌雄差があるかな?チャレンジングなテーマだね。」とコメントをもらいましたが、当時私の頭の中では、雌雄差のある因子についてある程度具体的なイメージがあり、絶対に何か見つかるはずだ!と考えていました。前向きに研究に邁進した結果、幸運なことにいくつも面白いものを見つけることができました。また、周りの研究サポートの体制が充実しており、研究を進める上で恵まれていました。周りの方々のサポートなしでは得られなかった結果です。
我々の研究で、次に重要になることはこれら遺伝子や非コードRNAが何をしているか?という点です。手法としては、これら非コードRNAを潰したノックアウト(KO)マウスを作り、個体発生にどのような影響が出るのかを見るという、reverse geneticsを考えています。ただ、reverse geneticsはforward geneticsと違い、‘面白そうな’遺伝子の機能を明らかにできるか?また、表現型が狙い通りのものか?という大きな関門があります。開けっぴろげに言えば、有名な先生方の話でも、KOマウスを作って期待通りの表現型が出るものはせいぜい3割位という結果です。この様に研究には失敗がつきものですが、出来るだけ失敗の率を下げ、早く幸運をつかめるよう良く考えながら研究の戦略を練りたいと思います。現在の研究は、雌雄の発生を理解する上で非常に重要な現象に注目し、重要な因子が見つかってきていると考えています。また、着床前の雌雄の差に着目し研究を進めているグループは他におらず、競争相手はいないオンリーワンの状態です。オンリーワンの状態はともすると独りよがりの研究になりがちですが、研究における「感動」や「面白み」を大切にしながら、将来的には研究が発展し、教科書に載る様な仕事、更に社会に還元出来る仕事にしたいと考えています。
研究環境については、またの機会に書き込みたいと思います。
小林 慎
東京医科歯科大学
難治疾患研究所
MTTプログラム
November 14, 2010
踏み込み不足の是非
なんて馬鹿な物まねを書いている暇があればすこしでも実験を、、、という気もしますが、業界ネタで少し。
衝撃的な論文というのは、今日び進展の早いサイエンスの世界にいれば2,3年に一回は目にするのが普通であるとは思いますが、実際のところ、いわゆるサーキュレーションの良い有名な雑誌には、毎週の様に大規模な地殻変動が起きてもおかしくない論文が目白押しで載っています。そのインフレぶりは、数年後に日本が破滅することを、知りうる限りここ二十年以上毎週予想しているマスコミのレベルに近づきつつある感もありますが、はたしてその噂の真相は?
先日ラボの論文輪読会でも取り上げられた論文と、JSTさきがけのRNAと生体機能のアドバイザー、5'キャップの発見者の古市先生が風呂場でひっくり返られた(?)論文のリンクを貼っておきます。
http://www.nature.com/nature/journal/v467/n7319/full/nature09465.html
http://genome.cshlp.org/lookup/doi/10.1101/gr.112128.110
前者は、piRNA、すなわちレトロトランスポゾン由来の低分子RNAで生殖細胞におけるゲノムのメチル化等に関わっているRNAが、体細胞では実はmRNAの分解(しかもpoly-A鎖を短くする作用マシナリーによる分解)に関わっているという話、後者は、ゲノムから読まれたRNAが切断を受け、再キャッピングされているという話、です。これら、どちらも、一目ビックリの話です。細かい内容はオリジナルの論文を見ていただきたいのですが、一つ強調しても良いと思うのは、基本的に分子生物学の実験で対象にしている事象は、実際に目で見たわけではない、その「可視化」の仕方次第で、もしくはその解釈次第で、右は左になり、白は黒になるということです。
ヒストンH3K27がメチル化したから、、、(おまえほんとに見たんかい!)
5'にキャップがついたから、、、(見たんかい!)
3'が切断を受けたから、、、(見たんかい!)
RNAが困っているから、、、(話したんかい!)
とこれまた妖しくなってきましたが、この、見てきたわけでもないのに見てきたようにしてストーリーを組み立てなくてはならないということを、強く、認識する必要はあると思います。
であるから、巷にあふれている解釈はどうもウサン臭い、などということを言うつもりは毛頭無く、むしろ逆で、強調したいのは、見えない物を見るときの方法論と言いますか、既存の手法を使うにしても、新しい技術を駆使するにしても、目で見えないものをいかにして解釈可能な土俵まで引っ張ってくるか、そこに研究の面白さなり醍醐味がある、ということです。半世紀前の人は、塩基配列、遺伝子の配列を「目に」見えるようにしてくれました。当新学術領域で研究に携わっている我々は、一体何を見えるように、何を解釈可能にしようとしているのでしょう?昨今の様々な不祥事のあおりで、こういう風に解釈しよう、こういう観点で実験をしてみよう、という踏み込みが、慎重な意見を言えばなんとなくインテリ(死語?)っぽい、という受けの一手に押さえこまれているような気もします。細胞は嘘をつきませんから、思いっきり踏み込んだ失礼な質問をどんどん実験でぶつけていけば良いのだと思います。突撃アナウンサーになったつもりで。火のないところに噂は立たぬか。人の噂も75日か。それはデーターがすぐに証明してくれますから。
中川
November 4, 2010
学会での質問
各種研究集会の感想でよく話題になる「質問」ですが、少し気になったので思うことを書いておこうかと思います。
研究者を目指す学生あるいはポスドクの皆さんには、ほかの人の発表を聞くときは、「どんな質問ができるか」を常に意識することをお勧めします。短時間で全てのデータを総合して的確な質問を組み立てるのは思ったより難しいことなのですが、一つ一つの発表について、常に質問することを意識していればそのうちできるようになるはずです。実際に質問をするかどうかはその場の雰囲気で決めてもよいのですが、それでもいつでも質問に立てるように心がけておく必要はあります。特に自分の研究に直接関係のない発表のときはなおさらです。
たかが質問ですが、きちんと「よい質問」ができるようになると、大きなメリットが二つあります。
一つ目は、自分の研究が岐路に立ったときに、するべきことが見えてくるようになることです。客観的事項が本人にだけ見えていない、なんてことは自分を振り返っても案外あるもんですが、そういう事態を防ぐことができるはずです。他人を建設的に批判できない人が自分の研究を検証できるはずがありません。なにしろ人間というのは自分には甘いようにできてますから。学会というのは他人を批判する絶好の機会です。ぜひ活用したいものです。
もう一つは、学会は自分のプレゼンスを示す場所でもあるので、そのためのスキルが身につきます。これはサイエンスには直接関係のないことなので、自分の研究ができるようになってからでよいのですが、実際に学会での質問で他人の能力を測ることがあるのは事実ですし(そう感じるから物怖じしてしまうのかもしれませんが、学生の間は顔を覚えてもらえることの方が少ないので気にしなくても大丈夫です)、よい質問ができるよう心がけるのは大事なことだと思います。ただし、質問したことがない人がいきなりよい質問ができるようには「絶対に」なりませんので、学会や各種セミナー等で学生のうちに研鑽を積むことが必要だと思います。ラボのセミナーでほとんど質問をしない人は、それだけで自分の可能性を縮めていることを知った方がよいと思います。
以下は蛇足かもしれません。
上記に加え、(こちらはちょっと確信が持てませんが)「ひらめき」を鍛えるという点も大きいかもしれません。ブラックボックスを多く抱えている生き物を相手にしている以上、研究の先を見通すことなど不可能に近いので、生物学の研究というのは、数多の可能性を一つ一つ検証していく地味な作業の積み重ねです。しかしながら、その場で思いついたアイデアがその後の研究を左右することがあります。そういうのは理屈の通用しない、多くの経験と知識からくるひらめきとしかいいようのないものですが、そういったものは、あるいは他人の研究をなぞることによって練習が可能かもしれません。また、他人の研究を突き詰めて考えることで、自分の研究の問題点(あるいは新たな可能性)に思い当たることも実際にあります。論文を読むことによってもこういったことは可能でしょうが、研究発表で研究者の生の声を聞きながら考えることからも、やはり多くのことが得られるような気がします。
いずれにせよ、「的確な質問」(もちろん質問なら何でもいいわけではありません)ができるようになることは、メリットの大きいスキルであると言えるので、若手の研究者の方にはぜひとも頑張っていただきたいと思います。
影山裕二
自然科学研究機構
岡崎統合バイオサイエンスセンター
November 3, 2010
「まさかシャペロンが・・・!?」 その1
http://www.protein.bio.titech.ac.jp/
が出しているニュースレター6号に寄稿させていただきました。
編集長である東工大の田口さんの許可もいただきましたし、せっかくなのでこのブログに転載いたします。
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はじめに: small RNAはややこしい
今や,遺伝子名で検索をすれば「ノックダウン保証付き」のsiRNA(small interfering RNA)が数万円程度で購入でき,それを普通にトランスフェクションすれば,(よっぽど不運でない限り)だいたいどんな遺伝子でも簡単にノックダウンできる時代である.1998 年のMelloとFireによる「例の論文」1から十数年,RNAiはもはや日常のツールとして確固たる地位を獲得したと言って過言ではない.また,1993 年にAmbrosとRuvkunにより発見された当初は,「線虫にだけ存在する変な現象」だと思われていたmiRNA(microRNA)2,3も,その後ヒトを含めた動物・植物・菌類・ウィルスに至るまで広く保存された遺伝子発現制御システムであることが明らかとなり,また最近では癌をはじめとする様々な疾患と関わりも指摘されており,多くの研究者の耳目を集めている.
にもかかわらず,これらのsmall RNAが,どのようなしくみで標的遺伝子の発現を抑制するのか,ということについては,まだまだ不明な点が数多く残されている.その理由の一つして,通常の酵素とは違い,small RNAはそれ自身が触媒活性を持っているわけではなく,small RNAと複数のタンパク質を含むエフェクター複合体を形成してはじめてその機能を発揮できるという点が挙げられる.つまり,small RNAが働くしくみを理解するためには,small RNAのことだけではなく,エフェクター複合体がどのようなタンパク質によって構成されているのか,その複合体がどのようにして組み立てられるか,そしてその複合体全体としてどのような機能を持つのか,ということを考える必要があり,非常にややこしいのであるA.最近我々は,ひょんなことから,このエフェクター複合体の組み立てにHsc70/Hsp90シャペロンマシナリーが重要な働きを果たしていることを明らかにした4.以下はその背景と(紆余曲折の)いきさつである.
1. Fire,A. et al.: Nature,391: 806-811,1998
2. Lee,R. C. et al.: Cell,75: 843-854,1993
3. Wightman,B. et al.: Cell,75: 855-862,1993
4. Iwasaki,S. et al.: Mol Cell,39: 292-299,2010
A. しかしそのややこしさのおかげで我々研究者は飯が食えているとも言える.
RISCの中核因子Argonaute
small RNAのエフェクター複合体のことを,RISC(RNA-induced silencing complex)と呼ぶ.RISCを介し,small RNAは標的mRNAの切断や翻訳抑制を行う.RISCの見かけ上の分子量は百数十kDaから80S程度とばらついており,その構成タンパク質因子(の候補)も数多く報告されている.しかし,それらの因子のほとんどは,具体的な役割がよく分かっていない.唯一,機能がはっきりしているのが,Argonaute(Ago)と呼ばれるタンパク質であるB.Agoタンパク質はsmall RNAに直接結合し,small RNAの一本の鎖を「ガイド」として用い,その鎖に対して相補的な配列を持つ標的RNAを認識する.Agoタンパク質の一部(例えばショウジョウバエやヒトではAgo2)は,RNaseHに似た切断活性を有しており,標的RNAとsmall RNAとの相補性が高い場合は,その切断を直接触媒する.逆にこの相補性が低い場合や,切断活性を持たないAgoタンパク質(例えばヒトではAgo1,3,4)の場合は,標的の翻訳抑制や脱アデニル化を引き起こす一群のタンパク質をリクルートするC. つまり,Agoタンパク質は,RISCの最も中核をなす因子であると言える.
5. Bohmert,K. et al.: EMBO J,17: 170-180,1998
B. ちなみに,Argonauteとは,植物での変異体が(miRNAが機能できないことにより)葉が細長くタコの様な異常な形態を示すことから,殻を持つタコの一種Argonauta(日本語ではアオイガイまたはカイダコ)にちなんで付けられた名前である5.
C. かつては,翻訳抑制などを含めたRNAサイレンシング現象のことを総称してRNAiと呼んでいたが,最近ではRNAiと言えば標的切断反応のことを指す場合が多い.
二本鎖から一本鎖へ
siRNAもmiRNAも,生合成過程において21塩基程度のRNAが二本鎖を組んだ様な中間段階を経る.これらをsiRNA二本鎖,miRNA/miRNA* 二本鎖と呼び,合わせてsmall RNA二本鎖と呼ぶD.しかし,(当然二本鎖のままでは標的RNAと塩基対を組むことは出来ないために)RISCの中で標的認識のガイドとしてはたらくことができるのは,片方の鎖だけである.よって,RISCが形成されるどこかの過程で,二本の鎖が一本ずつに分離され,片方が捨てられる必要がある.small RNA二本鎖のうち,捨てられる方の鎖を「パッセンジャー鎖」,RISCのガイドとして働く方の鎖を「ガイド鎖」と呼ぶ.以前は,small RNA二本鎖は,まず何らかのRNAヘリカーゼにより一本鎖に巻き戻された後に,一本鎖としてAgoに取り込まれると考えられていた6.しかし,最近の研究から,siRNA二本鎖もmiRNA/miRNA*二本鎖も,まず二本鎖のままAgoに取り込まれ,その後Agoの内部において二本鎖が一本鎖に巻き戻されるということが実験的に示されている7-12.このsmall RNA二本鎖のAgoへの取り込み段階を“RISC loading”,Agoの内部で二本鎖が一本鎖に変換される段階を“unwinding”と呼ぶ.
6. Nykanen,A. et al.: Cell,107: 309-321,2001
7. Leuschner,P. J. et al.: EMBO Rep,7: 314-320,2006
8. Matranga,C. et al.: Cell,123: 607-620,2005
9. Miyoshi,K. et al.: Genes Dev,19: 2837-2848,2005
10. Rand,T. A. et al.: Cell,123: 621-629,2005
11. Kawamata,T. et al.: Nat Struct Mol Biol,16: 953-960,2009
12. Yoda,M. et al.: Nat Struct Mol Biol,17: 17-23,2010
D. 通常実験室で使われているsiRNAは,まさに「siRNA二本鎖」のことである.
「まさかシャペロンが・・・!?」 その2
miRNAのRISC 形成過程を解析している中で,我々は,RISC loadingにはATPの加水分解が必要なのに対し,unwindingにはATPが必要ないという意外な事実を見いだした11,12.RISC loading”という,Agoとsmall RNA 二本鎖との一見単純な「結合」になぜかエネルギーが消費され,“unwinding”では20個程度の塩基対が壊されるのにも関わらずエネルギーが必要ないということは,通常の生化学的感覚からすれば非常に不思議なことである.
我々はこの実験事実を合理的に説明するために, 「輪ゴムモデル」を提唱した13.このモデルでは,Agoにsmall RNA 二本鎖が取り込まれるためには,Agoのダイナミックな構造変化が必要であり,この変化にこそATPが消費されるということを想定している.これはちょうど,小さめの輪ゴムに長い二本の棒を入れ込もうとすると,まず(エネルギーを使って)手で輪ゴムを引っ張る必要があるのに似ている.続いて,smallRNA 二本鎖がひとたびAgoに入ると,さらに構造変化が起こりAgoはより閉じた安定構造に戻ろうとする.この時,Ago内部の空間が小さくなることにより,small RNAは二本鎖のままではとどまれなくなり,片方が押し出されると想定すればE,unwindingにATPが必要ないことがうまく説明できる.これは,輪ゴムを引っ張っていた手を離した時を考えると分かりやすい.バクテリアや古細菌のAgoのホモログFの結晶構造解析14,15から,Agoタンパク質に対して,21 塩基程度のsmall RNA二本鎖がA型ヘリックスとったものは大きすぎることが示唆されていることは,このモデルを支持するものである.
13. Kawamata,T. & Tomari,Y.: Trends Biochem Sci,35: 368-376 2010
14. Song,J. J. et al.: Science,305: 1434-1437,2004
15. Wang,Y. et al.: Nature,461: 754-761,2009
E. これまでの知見から,ガイド鎖の5´リン酸基は,Agoに固くアンカーされることが明らかになっていることから,unwindingの際には(アンカーされていない)パッセンジャー鎖が選択的に排除されると考えられる.
F. バクテリアや古細菌にはmiRNAやsiRNAは存在しないため,これらのAgoホモログの生理的機能は不明である.
RISC loading因子の探索(と挫折)
ここで問題になるのは,最初にAgoの構造を広げるために働く“RISC loading 因子”,つまり「輪ゴムを引っ張っている手」の本質が何かということである.幸いなことに,我々はショウジョウバエ胚およびS2細胞,ヒトのHeLa細胞やHEK293細胞等の粗抽出液を用いて,効率良くin vitroでRISC形成を行える実験系を持っていた.さらに,ショウジョウバエAgo2 経路においては,これまでにRISC 形成に必要だということが生化学的に確認されているAgo2,Dicer-2およびR2D2をリコンビナントで作成し,そこにdcr-2;ago2 二重変異体のショウジョウバエ胚粗抽出液Gを加え戻すことで,RISC 形成が再構成できることを見いだした.これは,粗抽出液中に未知のRISC loading 因子が存在することを明確に示すものであった.
実験系は立った.あとは因子を同定するのみである.そこで,我々はショウジョウバエAgo1およびAgo2をモデルとして,既知因子Hをリコンビナントとして調製したところに,粗抽出液をカラム分画したものを加え戻してRISC 活性を確認することで,RISC loading 因子を精製することを試みた.しかし,当初の楽観的な予想に反して,精製作業は困難を極めた.カラム精製を進めると,ピークが複数に分かれてしまい,またどれだけ大量の粗抽出液から始めてみても,3つ以上のカラムをかけるとほぼ活性がなくなってしまうのである.小林さんと岩崎君という二人の学生がそれぞれAgo1とAgo2を担当し,8ヶ月間に渡って何度も低温室で精製を繰り返し,標的切断活性とタンパク質溶出のピークが合うそれらしいバンドを切り出しては,いわゆる「ドーバー海峡」Iを渡り,工学部の鈴木勉さんと坂口さんのところにサンプルを持ち込み,幾度となくMS解析をお願いしたが,結局因子の単離同定には至らなかった.しかし,その過程の中で,Hsp70の恒常的発現ホモログであるショウジョウバエHsc70-4が,しばしば活性のピークと一致することに気がついた.また,試しにAgo1とAgo2を免疫沈降し,結合するタンパク質を調べてみると,Hsc70-4のほか,Hsp90のショウジョウバエホモログであるHsp83,Hsc70とHsp90をつなぐとされるHop,Jドメインタンパク質(Hsp40ホモログ)の一つであるDroj2など,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーの構成要素が釣れてきた.通常であれば,タンパク質精製あるいは免疫沈降実験においてシャペロンが出てきても,非特異的なものとして即座に捨てる場合が多いだろう.我々も,最初に実験結果を見た時は「まさかシャペロンが・・・!?」という思いだった.しかし,「輪ゴムモデル」を考えた時,シャペロンの働きは「ATPを消費してAgoの構造を変化させる」というRISC loadingの反応にピタリと一致するものだったのである.
G. R2D2はDicer-2 非存在下では非常に不安定なため,dcr-2;ago2 粗抽出液は,既知因子であるAgo2, Dicer-2, R2D2の3つすべてを欠損している.
H. Dicer-2とR2D2というRISC loadingに必須な因子が同定されているショウジョウバエAgo2 経路に対し,ショウジョウバエAgo1 経路およびヒトAgo1〜4の経路においてRISC形成に必要なことが明確に示されている因子はAgoタンパク質自身だけである.
I. 東大の本郷キャンパスと弥生キャンパスを隔てる言問通りのことをこう呼ぶらしい.
「まさかシャペロンが・・・!?」 その3
ここからは展開が早かった.Hsp90には特異的阻害剤としてゲルダナマイシンやその誘導体である17-AAGがよく知られている.また,もともとp53の活性を阻害することが知られており,構造が簡単で入手しやすいPifithrin-μ(phenylethynesulfonamide: PES) が,実はHsp70の阻害剤として働くことが最近示されていたJ,16.そこで,これらの阻害剤を購入し,ショウジョウバエAgo1およびAgo2経路,およびヒトAgo2 経路におけるRISC形成過程に対する影響を解析した.その結果,これらすべての経路において,Hsp90阻害剤とHsp70 阻害剤はともに,small RNA 二本鎖がAgoに取り込まれるRISC loadingの段階を特異的に阻害するのに対し,その後Ago内で二本鎖が巻き戻されるunwindingの段階や,さらにその後の標的切断反応,そしてその切断産物の放出には全く影響を与えないことが明らかとなった.また,Hsc70-4のドミナントネガティブ変異体を実験系に加えると,RISC 形成が顕著に阻害されることも分かった.これらの実験結果は,ATPを消費するRISC loadingの際に,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーによるAgo構造変化が必要であることを示唆するものであり,我々が提案した「輪ゴムモデル」を強く支持するものである.ちょうど同じ時期に,農業生物資源研究所の石川先生のグループ,慶応大学の塩見先生のグループも,それぞれ植物のAGO1 経路,ショウジョウバエのAgo2経路において,Hsp90に着目した同様の実験結果を得ていることが分かり,結果的にこの3グループから論文が発表されることになった4,17,18.RISC 形成にシャペロンが必須な働きを果たすという新たなモデルを,日本から世界に向かって発信できたことは,誇るべきことだと思う.
16. Leu,J. I. et al.: Mol Cell,36: 15-27,2009
17. Miyoshi,T. et al.: Nat Struct Mol Biol,17: 1024-1026,2010
18. Iki,T. et al.: Mol Cell,39: 282-291,2010
J. 元の論文では,ほ乳類においてはPESはHsp70特異的に阻害し,Hsc70には作用しないことが示唆されていたが,我々はショウジョウバエHsc70-4とAgo1およびAgo2の結合はPESによって阻害されることを実験的に確認した.
さいごに: RISC 形成の“PURE System”に向けて
以上の様に,本研究から,RISC 形成には,シャペロンを介したAgoタンパク質のダイナミックな構造変化が伴うことが明らかになった.しかし,その具体的な分子メカニズムはまだまだ不明瞭である.実際,我々が免疫沈降で同定したHsc70-4,Hsp83,Hop,Droj2だけではRISC 形成は全く起こらない.よって,良く解析されたステロイドホルモンレセプターの成熟過程同様19,Agoタンパク質にもHsc70/Hsp90と多くのコシャペロンが順序よく作用することが必要なのだろうK.ふたを開けてみれば,最初の精製においてピークが複数に分かれてしまったことも,精製が進むと活性が失われたことも,Hsc70/Hsp90システムが様々なコシャペロンを含む「マシナリー」として働き,様々なクライアントタンパク質に結合していることを考えれば納得がいく.しかし,今後分子レベルの詳細な作用機序を明らかにするためには,RISC 形成過程を完全に再構成することが必要であろう.そして,結局そのためには初心に戻り,既知因子をリコンビナントとして調製し,さらに必要となる因子を精製・同定することを避けては通れないと思われる.「単離と再構成」という愚直な生化学20は,次世代シーケンサが1時間に1,000億塩基読もうとする現代もなお黄金律でありつづけている.RISC 形成の“PURE System”21を構築することは,我々の目標であり,あこがれである.
19. Taipale,M. et al.: Nat Rev Mol Cell Biol,11: 515-528,2010
20. 水島昭二: 蛋白質核酸酵素,38: 2089-2091,1993
21. Shimizu,Y. et al.: Nat Biotechnol,19: 751-755,2001
K. small RNA二本鎖をAgoタンパク質のリガンドだと捉えれば,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーがきちんと作用して成熟化することにより,はじめてリガンドであるステロイドに結合できるようになるステロイドホルモンレセプターの場合と極めてよく似ている.
November 2, 2010
EMBL symposium
会場は、2010年3月に公式オープンしたばかりのThe EMBL Advanced Training Centre (ATC) です。外観はヌクレオソーム構造に似ており、内部には2つのらせん階段がDNA二重らせん構造を模して作られていて大変ユニークな建築物でした(http://www.embl.de/training/eicat/atc/pictures/gallery_exterior/index.html)。らせん階段に沿って、ポスター掲示場所があるので、スロープを登り降りしてポスターを見るような構成でした。このATCでは、様々なミーティングを開催するのみならず、トレーニング施設も併設しており、今回のミーティング中もpre-docコースが開催されていました。プログラムの内容から、小人数でインタラクティブなコースプログラムのようです。このような充実した環境で、かつ現役バリバリ(EMBLのグループリーダーに着任したばかりの知人が講師をしていました)の若手研究者が講師となっており、研究と教育の層の厚さ、そして研究サポート体制・環境の充実を実感しました。
さて、“The Non-Coding Genome”では、47の口頭発表と235のポスターが発表されていました。全体の感想としては、小分子ノンコーディングRNAが多く、私が主に興味を持つ長鎖ノンコーディングに関する研究発表は全体の2割弱程度でした。それも、分化刺激やストレス刺激によって発現変動するノンコーディングの候補を見つけるような発表が多く、長鎖ノンコーディングRNAの生理機能やメカニズムについて踏み込んでいる発表は非常に限られていました。そのような中で、Harvard Medical SchoolのDr. John RinnによるlincRNAの発表(口頭発表)がピカイチだったと思います。Dr. Rinn は、最近Cell誌に発表したp53の遺伝子発現ネットワークにおけるlincRNAの関与を報告しており、そのデータも発表していましたが、さらに、lincRNAが脂肪細胞の分化にも重要である可能性を示す新しいデータも報告していました。lincRNAが生理的に働いて入る可能性を示す大変興味深い発表でしたが、なによりプレゼンテーションが大変上手で、大変勉強になりました。
総じて、発表のレベルは高く、大変有意義なミーティングでした。2年後にも同様なミーティングを開催したいとアナウンスしていましたので、2年後には核局在ノンコーディングRNAの機能を説明する分子機構を是非とも発表したいと思っています。
東京大学アイソトープ総合センター
秋光信佳
October 26, 2010
自己紹介(東大・勝間)
今年度から公募班に入れていただいた東大・農学部の勝間です。
理研の中川さんから「何でもいいから書いて」というメールをいただきましたので、簡単に自己紹介でも書かせていただきます。
たぶん、見た目が老けているので年を食っているように見えますが、昭和48年生まれの37歳です。同級生には、ホリエモンなど変わった奴らが多い学年です。東大農学部の今の研究室で修士まで過ごし、製薬会社の研究所で6年、京大薬学部で助手(COE)を一年半ほど勤め、今に至っています。
専門は、昆虫のウイルス学です。特にバキュロウイルスというよくタンパク質発現系に用いているウイルスを専門にしています。僕の恩師がベクターの開発者なので、その辺りには少し自負があります。もし、バキュロ発現系でお困りの点がありましたらご相談ください。ただ、実際興味を持っているのは、ウイルスによる宿主制御機構で、このウイルスが宿主の行動を制御しているメカニズムの解明を目指しています。ひょっとしたらncRNAが絡んでいるのでは、という結果もあるので、この領域の研究と少し絡んでくるかもしれません。
さて、本題ですが、この領域ではカイコのpiRNAと性決定について研究を行っています。班会議でお話しさせていただいた通り、カイコの性とpiRNAに何らかの関係があるのではと考え、研究を進めてきました。ひょんなことから、この研究が始まったのですが、皆さんご存知の河岡君の加入により、ブルドーザーのごとく開拓、急展開し現在に至っています。カイコは実験動物としては非モデルであり、遺伝子の出し入れなど困難を極めますが、ハエとマウスの中間ぐらいの大きさで生化学的実験には都合がいい輩ではないかと思っています。また、歴史的にもフィブロインcDNAのクローニングやカイコ細胞質多角体病ウイルスからのキャップ構造の発見など、この領域とも関係が深い存在かも、とも思います。少数部隊ですが、この2年間でできるだけ大きな発見をカイコという虫から見いだしたいと思っております。どうぞご指導のほど、よろしくお願いいたします。
勝間
October 20, 2010
(1) RiboClubから色々考えてみる
「書いて」と仰せつかっていたのですが、仕事が遅くて本当にすみません。
タイミングをうかがっていたら、完全に機会を見失いました…。
学生の立場から一言叫びたいのですが、
舞台裏話ってさりげなく物凄いプレッシャーがかかりますね。。
「他にも面白いこと」って!「続きは後日。」って!!
データ出します、ひぃぃ!!って気分です…(苦しむのは多分これから…)
本題ですが、書き出してみたら大分長くなったので、前半と後半に分けます。
RiboClubはもともと、Sherbrooke大学の研究者たちが立ち上げた会のようです。
毎年一回、年会のようなものを開催しているようで、
今回参加させてもらったのがそれに当たります。
"Flavour of the year"という年ごとに変わる特集のようなものがあって
今年のトピックはlong non-coding RNAだったのでした。
あ、ちなみに、今回は初の海外学会参加で
学会外で繰り広げられた諸々のトラブルも凄まじかったのですが
(モントリオール逆走事件、オタワ空港で財布・携帯行方不明事件、など)
あくまで真面目に学会報告を書こうと思います。
まずは要旨集。RiboClubの要旨集は名前入りでした。
プログラムは、やはりカナダの大学の方が多かったですね。
中川さんも書かれていますが、発表者は若いPIの方が多かったです。
というか、学生の発表は特別枠を除いて皆無だったかも。
会場はこんなかんじ。公式ページから転載させていただいています↓
フロンティアミーティング参加記でも話題になっていましたが
学生からあまり質問が出なかった、という点はこちらも共通かもしれません。
参加者にはもちろん学生もたくさんいたのですが。
(ご飯の時、周りにいたのは大抵学生でした)
発表者はPIばかりだったので、うかつに発言できない雰囲気のせいもあったかも?
ただ、写真のとおり会場は平地だったので、カジュアルな雰囲気ではありました。
個人的に、海外の学会ってみんなガツガツしているんじゃないか、
という先入観があったのですが、そんなことはなかったです。
大学のときから「日本の学生はおとなしすぎる」という言葉を
繰り返し聞いていたので、これにはちょっとびっくりしましたね。
かくいう私も、マイクの前での質問は今回一度も出来ませんでした。
言語が切り替わると頭が働かなくなるのは本当にストレスです。
…ただ正直、諸悪の根源は、言葉の違いを言い訳にした
聞き手としての気合い不足と思います。いかん…。
2,3年前、Y山研のS々木さんが「次のセッションでの質問数で勝負しようか」と
びしばし鍛えてくれたのを思い出しました。
英語でもそれをやれば、ちょっとはマシになるかも…。
とにかく、発表を聞く際の本気の出し方が足りなかったな、と反省しています。
自分の研究の進め方と、人の研究に対して質問することって
相互作用し合うようなところがあるな、と最近しみじみ思います。
他人の研究に対して質問を生み出す思考回路を鍛えることは、
自分自身の研究の仕方の探求にもつながるような。逆もしかり。
そんな感じでRiboClub参加を終え、
再びのモントリオール空港で、チーズが山ほどかかった大量のナチョスを
中川さんと廣瀬さんに押しつけ(すみませんでした!)
逃げるように、なぜかイギリス/ヒースロー空港へと飛び立ったのでした。
(2)へつづく…
October 19, 2010
RNA焼き肉の集い
焼肉ジャンボ本郷三丁目店。そのおいしさからY田さんの焼肉に対する考え方を変えたお店です。お店の雰囲気は想像していたものとは異なりかなり綺麗でした。21時から食べ始めたのにも関わらずお店は客でいっぱいでさすがは人気店という感じ。席に付きまずはビールで乾杯し、生レバー、ユッケ、キムチからいただきました。次に塩にいくかと思いきや、ここからたれ+ご飯。Y田さん曰くここの焼き肉はご飯と非常に相性がいいのだそうです。 ハラミや上ロースなど鉄板メニューもいただきましたが、ここのお店は通常はあまり出回らない希少部位も食べられます。トモ三角、ささみ、ミスジ、上(うわ)ミスジ、ザブトンどれもあまり聞き慣れない名前ですが とてもおいしく、新鮮で炙るぐらいで食べられました。お店の人からは「片面4秒4秒で焼いてください」とか「片面10秒、もう片面を15秒で焼いてください」などかなりハイレベルな技術指導を受けるのですが、さすが生化学、分子生物学をやっている人々の集まり、薄い大きな肉をトングと箸を使って破れやすいニトロセルロースメンブレンを扱うように丁寧かつ短時間でひっくり返していました。このお店で初めて出会ったのが「野原焼き」というメニュー。焼いたお肉を生卵に通し、すき焼き風に食べるという逸品です。そのおいしいこと!結局ビールを飲みつつ大ライス2杯も食べてしまいました。
焼き肉を食べると疲れを忘れ、とても愉快な気持ちになります。研究に疲れたら焼き肉を食べにいきましょう!
東大分生研 岩川
October 18, 2010
Xist研究の舞台裏(3)
話が横道にそれてしまいました。Xistに話を戻します。Xistはメス由来の細胞でX染色体を不活性化しているわけですが、この不活性化は発生初期の特定の時期にしか起きません。通常の培養細胞でXistを発現させてやっても、Xistは染色体に貼り付くことは出来るものの、不活性化を誘導することは出来ません。そこで、Xistの不活性化活性についての研究には、ES細胞の分化の系が使われています。つまり、メス由来のES細胞を分化誘導すると、初期発生で起きるX染色体の不活性化のプログラムが再現されるので、そこでいろいろアッセイが組める、というわけです。ところが、この実験がちっとも再現出来ない。論文では分化を誘導すると綺麗なX染色体が形成されているのですが、手持ちのES細胞を分化させても、うんともすんとも言わない。世界中でこの系が使われているわけですから、こちらの実験系に問題があるのは一目瞭然です。学生さんのYHさんは別の細胞を取り寄せたり培養条件を変えたり色々工夫してくれたのですが、せいぜいX染色体の不活性化が起きる割合は0.1%。これでは実験になりません。僕に出来るのはそっと部屋の片隅に塩をまくぐらいでしたが、当然ながら何の効果もありません。
そうこうしているうちにひと月が過ぎ、ふた月が過ぎ、季節は暑い夏から秋、そしていつの間にか分子生物学会を迎える季節になってしまいました。うーん、このプロジェクト、最初ですべての運を使い果たしたんかなあ、などと血を吐きながら実験をしている学生さんが聞いたら激怒しそうな軽口をたたいていた僕もさすがに焦ってきたころ、この学術領域の計画班にも入っておられる佐渡さんから「でしょー。ES細胞で不活性化Xなんて出来ないよねー。でもあいつら出来るっていってんだよねー。」という力強いコメントをもらいました。そうか、そうなのか。でもどうする。すると、「上手くいくっていってる細胞もらったら?オレ持ってないけど。」と、あっさり言われまして、何でそこに頭が行かなかったのだろうと、自分の頭ペンペンしたくなりました。Germ lineにまで落ちるといわれているES細胞を使ってるのだから、細胞は大丈夫、という発想が最初にあって、そこを疑うという発想が全くなかったわけです。考えてみれば、実験がどうしても上手くいかなかったら、細胞を疑え、これ鉄則です。
というわけで、論文でしか名前を知らなかったのですが、当時Xist関連の仕事を連発しておられたJeannie Leeさんに、酔った勢いで「どうやってもうまくいかないんです。うまくいく細胞(PGK 12.1)ください。助けて。おねがい。」とメールしたら、一時間も経たないうちに、「あらその細胞私のとこにはないわ。ニールが持ってるの。間違えちゃったのね。転送しておくわ、じゃね。」と、とても親切な返事が、、、ふつう依頼先を間違えるか!アホアホアホと自分の勘違いに顔から火が吹きましたが、気を取り直して、Neil Brockdorffさんに再依頼。無事細胞を送ってもらえることになりました。この細胞を使ってみたところが、あれほど作れなかった不活性化X染色体がピカピカに出来ているではありませんか。おお、Neil。まさに神。この9ヶ月は何だったのだろう、と思うと同時に、やはり実験系を「作る」ということの難しさ・大切さをしみじみと感じました。最初に系を作った人は、無条件に凄いと思います。ともすると、こういうことは忘れがちであるのですが。
そのほかにもいろいろエピソードはあるのですが、長くなるのでこのあたりでやめておきます。ちなみに、例のライブラリー、他にも当たりがあるかとYHさんは残りのすべてを丁寧に見てくれたのですが、結局Xistが散るのはhnRNP U、たった一つでした。一発ツモで親マンひいたみたいなもんですから、そうそう幸運が続くわけもありません。とはいえ、実は他にもいろいろ面白い事が分かってきまして、続きは後日。この新学術が続いているうちにまた論文にまとめられればよいのですが。。。
中川
October 14, 2010
「非コードRNA作用マシナリー」領域会議を終えて
領域会議ということで、良く有る科研費の班会議のようなスタイルを予想していましたが、全くそんなことはなく、形式にとらわれないフランクな研究発表会となり、良かったと思います。特に若い学生さん達からの発言が多かったのが印象的です。懇親会、二次会も盛り上がりましたね。ただし評価委員の先生方が一番元気だったような・・・
この領域はメンバーの平均年齢が低く、領域全体の雰囲気がとても親密な感じで好感が持てます。(私が平均年齢を上げています。申し訳ございません。)この雰囲気をぜひ続けていきたいですね。そして、お互いに刺激し合って、良い仕事をどんどん世界に発信していきましょう! 私は有機化学者という、この領域では異色の存在ですが、異分野の交流が新しい研究のコンセプトを生み出す原動力であると確信しております。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
和田 猛(東京大学・新領域・メディカルゲノム専攻)
Xist研究の舞台裏(2)
一発ツモ。
例えて言うならば、チベットの秘境にあると言われる幻の草本を探しに出かけようと万全の装備で出発したところが、目的の宝物が玄関先に転がっていた、みたいなものです。「人はラッキーと言うけれども、、、」というテーマでRNA若手の会で塩見(春)さんが講演をされていましたが、強靱な意志に裏打ちされた塩見さんの場合と違い、この場合ただ単にラッキーだったわけです。
とはいえ、hnRNPUをノックダウンするとXistが染色体からはがれる、というところまでは良かったのですが、このあと思わぬ苦労をすることになりました(続く)。
October 13, 2010
Xist研究の舞台裏(1)
学生さんが書いてくれた研究紹介はこちら。
研究の詳細はそちらのサイトを参考にしていただくとして、そもそもこの研究がどこから来たかということなのですが、時計の針を戻せば、2007年の年明け、淡路の夢舞台から三宮までのバスで、京大ウイルス研のO野さん(ほとんど伏せ字にする意味なし)と隣の席になったところまでさかのぼります。ちょうどその時細胞核関連の国際シンポジウムが淡路島でありまして、David Spectorさんやら(結局来ませんでしたが)、Tom Misteliさんやら、Ian Mattajさんやら、当時にわか勉強で核内RNAをかじり始めた人間からみてもとてもスマートな仕事をされておられた方々の名前がinvited speakerに並んでいるポスターを見かけて、前後を顧みず突撃モードで新規核内ノンコーディングRNA、Gomafuを引っさげてほとんど知り合いがいないであろうミーティングに参加申し込みをしてしまいました。その帰りのバスで隣の席に来られたO野さんが席に着くなり、
「中川くん、Gomafuだけやっとったら、あかんのちゃう?」
と、ニコリともせずに、いや、いつものあの満面の笑みを浮かべておっしゃったのですね。ストレートど真ん中。変化球無し。こういうコメントに腰を引いてはいけません。野茂と清原の真剣勝負になれば良いのですが手合いが違いすぎるので一方的に攻め込まれる展開になってしまいましたが、その時のディスカッションの結論は、
(1)ノンコーディングRNAだから面白いというのではダメ。機能が見えなければ面白くない。
(2)核内のRNAに興味があるのなら、生理機能が良く分かっているXistが良いモデルとなるはず。
(3)Xistの核内繋留、染色体局在を制御している因子は分かっていないから、それを同定したら面白い。
というわけで、バスが着くまでになんとか二人でひねり出した勝負手が、siRNAで候補となるRNA結合タンパク質を一つ一つたたいていったときの、XistならびにGomafuの局在を調べる、というプロジェクトでした。和光に戻ってから早速候補遺伝子のリスト作りに入ったのですが、当時大学院生だったソネ氏がPubmed Geneのテキスト検索からRNA結合タンパク質っぽいものを拾ってきて、僕はRRMドメインやらKHドメインやらでBlast検索かけて引っかかってくる物を集めて、それらのリストを合わせたら大体500ぐらいあがってきました。ちなみに、Blastは結構時間がかかったのですが、結局ソネ氏のテキスト検索でほとんどカバーできていました。。。その中からリボゾーム関連タンパク質やsnRNPsの構成分子を捨てて、Y染色体にしかないものや特定の細胞だけでしか発現していない物を捨てて、残ってきたのが300ぐらい。Ambionにいろいろ交渉して値切りに値切って買える限界がプレート2枚分、176遺伝子分だったので、さらに絞り込みをしなくてはなりません。そこで、僕の大学院時代の先輩で、現Duke大学の松波さんが嗅覚受容体のシャペロンを同定したときにおっしゃっていた「もともと発現量が多いタンパク質の制御に関わる物は、発現量が多いはず」という、何とも拍子抜けな、しかしながら合理的な松波さんらしい力強い断言を思い出しまして、XistだってGomafuだって発現量は半端でなく多いのだから、候補リストの中から発現量の多いものから順に選べばよいだろう、ということになりました。ライブラリーを注文したのが3月。届いたのが4月。しかしながらそこからえらく足踏みをしてしまうことになります。ライブラリーを買うだけ買ったはよいけれども、スクリーニングする人がいない。何事も片手間にやるのは良くないことで、僕自身ちょっと手を動かしてみたのですが、そもそもsiRNAによるノックダウンが上手くいかない(ヘタクソなだけ)。というわけで、果報は寝て待て、ではないのですが、じっくりこのプロジェクトに取りかかれる人が現れるまで、ライブラリーにはしばらくフリーザーで寝てもらうことにしました(続く)。
October 10, 2010
CSHLミーティングレポート
話はがらっと変わりますが、CSHLのごはん、、、おいしいとは言えないです。二年前に一度行ったことがあり知っていたのですが、やはりおいしくなかったです。しかし今回は、その衝撃に耐えることができました。なぜなら同行していた藤原さんに炊飯器を持って来ていただき、自分は生米を持参し、毎日ほかほかごはんです。ということで、このほかほかごはんが今回のミーティングでの一番の思い出になってしまいました。すみません。
神戸大学 深尾亜喜良
October 5, 2010
RNAフロンティアミーティング2010への参加と感想
第一に、RNAフロンティアミーティングでは先生と学生の距離が近いということだ。学会で講演される一流の研究者の方々とゼロ距離で交流できることは研究者を志す学生にとってまたとない機会であると言えよう。
第二に、研究者を志す学生が多く、そして意欲に満ちていることだ。学生同士の熱い議論はお互いの研究能力を向上させ、さらなる意欲を生む。また、私が実際得たものとして、同世代の研究者を志す仲間である。とくに博士まで進学するとひしひしと感じるが、研究者は孤独を抱えてしまう。同じ境遇で似た分野である仲間の存在が今の私を勇気付けてくれたと強く感じている。
今年もこのような機会を与えて下さった世話人の方々に深く感謝しつつ、来年再来年とこれからも関わっていきたいと私は考える。関係者のみなさま今年もありがとうございました。来年も楽しみにしております。
名古屋大学大学院理学研究科 池田幸樹
RNAフロンティアミーティング2010
今回、北は北海道から南は熊本まで、そして海外からはドイツのMax Planck Instituteと米国バージニア大学からも参加者がありました。また、企業に所属される研究者も参加され、総勢69名の大変活発な研究会でした。恒例の特別講演では、慶應義塾大学の塩見春彦先生、九州大学の中山敬一先生の大変示唆に富む話を伺い、学生・ポスドクのみならずPIの方々もミーティングを楽しんでいただけた事を大変嬉しく思います。塩見先生、中山先生のご講演のポイントの一つとして、いずれの先生も今後の研究の方向性として、定量的生物学の重要性を指摘されていたのは大変印象深かったことです。
サイエンス以外でも皆さん活発に活動され、二日目の自由討論の時間を利用して、スポーツ(卓球、フットサル、ゴルフ、バスケなど)を堪能していました。また、近場の温泉を堪能されるグループもあり、交流を深めることができたようです。二日目夜には「花火」も行いましたが、皆さん、童心に返って楽しまれていました。私自身もずいぶんと童心に戻ってしまっていました。その後も、夜更け(夜明け?)まで討論・交流が続いたのは言うまでもありません。
最終日のベストプレゼンテーション賞では、学生部門で東大の木村聡さん(最優秀)、理研の石田真由美さん、東大の中條岳志さん、熊大の黒木優太郎さんの4名が受賞しました。ポスドク部門では、東大の谷英典さん(最優秀)が受賞しています。受賞を逃した発表の中にも、大変優秀なものがあり、実力伯仲でしたので、今回受賞を逃した方々も、次回に向けて是非とも頑張ってください。現在はミーティングのホームページに集合写真を掲載していますが、近日中にミーティングを撮影した写真をダウンロードできるようにしますので、楽しみにお待ち下さい。
最後に、今回のミーティングが無事に開催できたのは、本新学術領域を含めて多くの方々のサポートによるものです。心より御礼申し上げると共に、援助してくださった方々の期待に応えるべく、今後とも皆でRNA研究を盛り上げましょう!
RNAフロンティアミーティング2010
世話人
秋光信佳
Journal Club
Cooke A , Prigge A , Wickens M
Journal of Biological Chemistry. 2010 Sep 10;285(37):28506-13.
本論文はデアニレースがploy(A)分解とは別に、翻訳抑制を引き起こすことを初めて示したものです。デアニレースとしてはCCR4-CAF1-NOT複合体、PAN2-PAN3複合体、PARNが知られています。今回はCCR4-CAF1-NOT複合体の一員でRNaseD familyに属するCAF1が翻訳抑制することがわかりました。
著者らはゼノパス未受精卵へのインジェクション系を用いて、標的RNAとCAF1をMS2-tagにより直接結合させた際の標的RNAの挙動について解析しています。
予想されるように、CAF1を作用させるとpoly(A)分解と翻訳効率の低下が観察されます。
一方、poly(A)を持たない標的RNAを用いた場合には、CAF1が標的mRNAの安定性を変化させずに翻訳効率を低下させる現象が見られました。また、poly(A)分解活性を損なった変異型CAF1を作用させた場合にも翻訳効率が低下することから、CAF1はpoly(A)分解とは独立に翻訳抑制を行うことが示されました。
さらに、標的RNAの5’末端G-capをA-capに置換した場合や、cap認識をスキップするIRES付き標的RNAを用いると翻訳抑制が見られないことから、CAF1がcap認識段階周辺に作用していることが示唆されました。
今後の課題はより詳細な作用機構を明らかにすることです。特に、CAF1の翻訳抑制作用ドメインの特定、CAF1相互作用因子の関与の有無、生体内における実際の寄与について慎重に見極める必要があります。また、miRNAによる翻訳抑制に関与するかについては、それを支持するデーターも否定するデーターも無い現状であり、今後十分に検討していくことが必要です。
October 4, 2010
ミーティングレポート
実は私は卒論修論の発表以外での口頭発表の経験がなく、今回が初めて、と言ってよい状況でした。(フロンティアミーティングの参加自体も初めてです。)えらく緊張して会場へ向かい、まさかのトップバッターと知って驚愕し、暗澹たる思いで発表を始めたのですが、まぁ思ったよりは何とかなった、と自己評価しています。練習よりは上手くいったので良しとしましょう。質問・コメント等も大変参考になりましたし、色々と反省点も見つかったので、この先へ生かしていきたいものです。
それはそれとして、発表者には修士や学部の学生も少なからずいて、彼ら彼女らにとっても良い経験になったんじゃないかな、と思います。大きな学会だとなかなか口頭発表なんてできませんし、経験を積む場としてフロンティアミーティングは最適だったのではないでしょうか。D2になるまで口頭発表の経験がなかった私には羨ましい限りです。発表内容も非常に多岐にわたっており、RNAがいかに沢山の生命現象に関わっているか、ということをそのまま体現しているように思いました。普段small RNAを中心にnon-cording RNAの話題にばかり触れている身としては大変刺激的で、もっと視野を広く持たねばならん、と一人反省していました。
残念だったのは(自戒も込めて、ですが)学生による質問が少なかったことでしょうか。勿論先生方の質問・コメントはどれもハイレベルで、聞いているだけでも大変勉強にはなります。しかしせっかくの若手中心の会なので、(秋光先生も仰っていたように)先生方に勝る勢いで学生が質問する、というのが理想形かと思います。私自身も何度かは質問に立たせてもらったのですが、質・量共にまだまだ不十分で、精進せねば、と思う次第です。質はとりあえず量をこなしていけばついてくるかな、なんて…
発表にとどまらず、温泉・スポーツ・懇親会・深夜まで続く飲み会(二日目は徹夜…)と、これでもかと言うくらいに交流できたのも非常に有意義でした。全国から集まった若手研究者(しかも同業者!)達とのつながりは、これからの人生の中で大きな財産となると思います。来年以降も参加して、より強い結びつきにしていきたいものです。
その他の心残りは富士山を一度も見なかったことと、鰻を食べ忘れたことでしょうか。不覚…
最後になりましたが、今回のミーティングの開催に関わった皆様、支援していただいた皆様に深く感謝いたします。ありがとうございました。
東京大学分子細胞生物学研究所 包 明久
October 2, 2010
ミーティングリポート
僕の研究テーマは、プロモーター領域から転写されるncRNAの種間差についてで、small RNAやスプライシング等をメインに研究をしている方が多い中、少しアウェイ感を感じていました。初日のセッションを聴きながら、自分の発表に興味を持ってくれる人はどれくらいいるのか不安でしたが、自分の発表では、皆に興味を持ってもらい、その後の質疑応答では鋭い質問やコメントばかりで、とても嬉しかったのを覚えています。他の方々の発表も独創的で面白いものが多く、RNA研究の奥深さとその面白さを再発見しました。
一日目は夕食後に、塩見春彦教授と中山敬一教授の特別講演があり、世界トップクラスの研究者の話が聴けることにワクワクしていました。話の内容はここに書けないほど濃いものであり、また、想像以上に楽しいものでした。塩見教授のお話では、自分のスタイルを確立することの重要性、中山教授のお話では、時代を引っ張っていこうとする熱意に感銘を受けました。塩見教授とは飲み会の席でも、一緒にお話をさせていただき、いろいろ勉強させてもらいました。
プログラム上は、自由討論は23時半で終わりですが、飲み会は終わるわけがありません。場所を男子学生の部屋の前に移し、盛り上りました(翌日発表がある人もいるのに)。僕はM1のひよっこなので、日本各地の優秀なドクターの先輩やポスドクの方々のリアルな話ができるこの時間が大好きです。知らない人ばかりでしたが、積極的に絡みに行き、沢山の収穫を得ました。二日目の午後の温泉やスポーツ、その後の飲み会等で、色々な考えを持つ研究者と非常に近い距離で話す機会が持てました。
この会を一言で表すと「濃密」でした。ここで得た沢山の事はこれからの研究において、プラスになると確信しています。来年の国際RNA学会やRNAフロンティアミーティングでここで会った方々に再び会えることを楽しみにしています。
最後に、このRNAフロンティアミーティングに参加させていただいたことを、関係者の方々に感謝いたします。ありがとうございました。
京都大学大学院理学研究科 上坂将弘
October 1, 2010
RNAフロンティアミーティング2010を終えて
“RNA”と一言でいっても、様々な研究分野に分かれます。small RNAやlong noncoding RNAを研究する人、クロマチンを研究する人、スプライシングや翻訳、安定性、局在を研究する人。これだけを見ても、いかにRNAが多様性を有しているかがわかります。そして、このミーティングに集まった人たちは、このようなRNAの魅力に引きつけられた人たちなのではないかと思います。近年のRNA研究で私が特に面白いと思う点は、未だ明らかにされていないRNAの発現制御や機能などを見出すために、様々な新しいアイディアを提唱し、様々な手法を利用することによって新たな発見を積み重ねていることです。概念的に新しいことが次々と報告されているのは、近年は特にRNAの分野が目立って多いのではないかと私は感じています。今回のミーティングでも、small RNAの発現機構や、分解メカニズム、RNAと結合するタンパク質の構造およびその機能解析などについて、新しくこんなことが言えるのではないかという、ユニークな考えを提唱する発表が多かったように思いました。研究者に重要な発想の豊かさを鍛える上でも、RNAの研究は非常に重要だと改めて感じました。
RNAの発現異常や機能異常などが、がんなどの重大な疾患に関わることは、近年多く報告されています。従って、私たちが行っているRNA研究は、そのような疾患解明のためにも必要不可欠な基礎研究と言えると私は思います。今回のミーティングで議論したことが、RNA研究としての成果のみならず、将来の疾患解明に役立てられなければなりません。
また、今回参加した若手研究者にとっては、このミーティングで発表し、議論して考え、習得したことが、今後の研究者人生の土台となると思います。ただ、今回の口頭発表における討論では、学生同士の議論がやや少なかった点は反省すべき点であると思いますが、そのような反省も踏まえ、このミーティングで勉強したこと、経験したことを活かし、今後の新たな発見に貢献したいと私は思います。
最後に、私たち若手研究者のために、発表および討論する機会を与えて下さいました、東京大学秋光信佳先生、慶應義塾大学齋藤都暁先生をはじめ、多くの先生方に感謝申し上げます。そして、「非コードRNA作用マシナリー」をはじめとする後援の方々に深く感謝致します。
東京大学アイソトープ総合センター 田埜 慶子
September 27, 2010
Torontoの人々(3)
Blencoweさんは、ロンドン大学のImperial Collegeの出身です。大学院ではとにかくスプライシングの研究をしたかったらしいのですが近隣にRNA研究をしているところがないということで、海を渡ったEMBLのAngus Lamondさん(現ダンディー大学)のところでPhDをとっています。Lamondさんは当時Chemistと共同研究をしていて、ちょうどラボの冷凍庫に当時は珍しかった修飾オリゴがあったとか。それを使ってUsnRNPsを個別に精製、depletionして行った一連の実験はとてもエレガントです。いやあ、あのときはラッキーだったよ。向こうに行って、冷凍庫を空けて、2ヶ月の実験でCell2本なんて、今じゃあり得ないからね。とか言っていましたが、海を渡った時点で成功は約束されていたような気もします。カエサルの、来た、見た、勝った、みたいなものです。
特に欧米の研究室では、学生・ポスドクが活発に動いて文化をうまいこと攪拌しているのが、大きな強みであることは間違いないでしょう。BlencoweさんのところでSR100の大変良い仕事をされた学生さんのJohn Calarco君は、同じくトロントのMount Sinal Hospitalで線虫の神経発生をやっているMei Zhengさんのところでも仕事をして、彼女の研究室にスプライシングの息吹を吹き込んでます。大学ー研究所・企業、国内ー海外、分野内ー分野外、そういった境界をまたげばまたぐほど、自分にとっても、周りにとっても、良い環境が拡がってゆくのだと思います。
Blencoweさんの話に戻ります。その後、大西洋を渡ってMITのPhil Sharpさんのところでポスドク。「核マトリクス」とスプライシングについてやりたい!と言ったら、Sharpさんから「おまえアホか!!」みたいな扱いを受けたとかなんとか。核マトリクスというのは何かと問題のある概念で、この言葉を口に出した時点で多くの人の逆鱗に触れ、論文は蹴られ、職を追われ、何もかも失い放浪するハメになる、、、、なんてことはないですが、ともあれ、核マトリクスに存在することになっているSRタンパク質の機能解析について一連の仕事を出されています。このときのデーターのほとんどは、in vitroのスプライシング。クロスリンクやら免疫沈降やら、これでもかというドロドロのRI実験の嵐。最近のスマートな論文からはあまり想像できませんが、、、
その後トロント大学にポジションを得て、最初のうちこそコテコテのRNA実験をされていたようですが、ほどなくして今につながる怒濤の共同研究が始まるわけです。こうしてみてみると、その時その時で環境を変え、ラボを変え、いろいろなテクノロジーを使いながらも、常に「RNAスプライシング」という1本の芯がずどんと真ん中に通っていることが良く分かります。「スプライシング、命」、なんですね。
こだわりといえば、彼の自宅の仕事部屋には、いつの時代の物なのか、活字を組んで印刷する骨董の印刷機がありまして、それで名刺を刷っているとか。良い研究をする人は良き趣味人でもあるのだなあと、つくづく思いました。
中川
September 26, 2010
Torontoの人々(2)
これだけいろんな人がRNAがらみの論文を出しているのだからトロント大学ではさぞかしRNA研究が盛んなような気がしていたのですが、Blencoweさんによれば、いやそれほどでもないよ、アメリカの大学にくらべればずっと数は少ないし、例えばスプライシングの研究をしているのはカナダでは僕の所とSherbrook大学のChabot Benoitの所ぐらい。トロント大学で最初っからRNAを中心に置いた研究をしているのは僕のとこぐらいだよ。だそうです。Timothyさんは2001年のアジレント社のNature Biotechnology論文の1st author、Morrisさんはもともと転写因子の結合サイト予測の人、Freyさんのバックグラウンドに至っては機械学習!だそうです。こういったコンピューターを多く使う人との共同研究が今の彼の仕事の成功の大きな要因になっている気がするのですが、やはり分野が大きく違うだけに、なかなか一筋縄ではいかなかったようです。最近Natureの表紙を飾ったスプライシングコードの論文など圧巻なのですが、実験とコンピューターの両方の分野をつなぐポスドクを探すのに2年、アレイデーターを集めるための条件を最適化するのに2年、さらに解析にも相当の時間がかかったとか。いずれにせよ、Donnelly Centerでは最高のバイオインフォマティシャンをヘッドハンティングし、ベンチで実験をするチームと強力なタッグを組みながら、いわゆる大規模シークエンサーのデーターを次々と解析できるパイプラインを作り上げていっています。
Interdisciplinaryな連携というのは口で言うは易し、行うは難し、です。結局の所、だれかハブ空港になれる人がいないと、本当の意味での連携など有り得ないのでしょう。
September 23, 2010
Torontoの人々(1)
RNA事情、といっても、そもそも僕はこの業界に足を踏み入れて間もないですし、そんなに事情通でもないので、むしろ今回訪れたBen Blencoweさんとその仲間、という感じでしょうか。
彼がいるのは、こちらの建物。ウェブサイトから勝手に引っ張ってきてます。
いやまたファンシーなビルディングですね。これはドイツ人の親子の建築家、Baenisch & Baenischの作品だそうです。この写真からは良く分かりませんが、実は左の方にある煉瓦造りっぽい建物とガラス張りの建物が融合しています。トロントの町は新旧の建物が混在しているところがとても印象的だったのですが、その究極の姿と言いますか、ガラスの建物に入っていくと、隣の建物の壁が見えるーというとても不思議な体験をします。しかも、古い建物の庭がそっくりそのまま新しい建物に組み込まれていて、この建築家のコンセプトというか、主張というか、心意気がびんびん伝わってきます。この庭は竹藪で、なかなか壮観だったそうですが、日当たりが悪くなったせいかなんなのか、2005にオープンしてすぐに枯れてしまったそうです。現在は膝ぐらいの笹がちらほら生えているだけ、、、これからどんな植物相に遷移していくんでしょうか。カメラを持ってくるんでした。
ちなみにトロントの博物館ROMも、同様に、ガラス張りの新しい建物と、古い建物がくっついています。同じ建築家の作品かと思いきや、こちらはDaniel Liebskindさんの作品とか。知ってるだろ、グランドゼロのcompetitionに参加した、あのDanielだよ、とかBlencoweさんは言うのですが、普通、知らないですよね。彼、こだわりの人です。
このビルがDonnelly Centerで、古い方の建物はトロント大学のMedical Centerのビルになります。古い方のビルにはほとんど窓がなく、そこにいるとある教授がその建物に入った時に最初にしたことは、壁をぶち抜いて窓を作ることだったとか。全く窓がないなんてひどいこった、でもいつだったか大雪が降ったときにDonnelly centerのガラスの天井がぶっ壊れて落ちたんだよ。僕らのビルはほとんど窓がなくてよかったよ。はっはっはっ。と、この大変気さくなおじさんは、実は1987にショウジョウバエのBithoraxoid (bxd)領域の遺伝子間領域からノンコーディングRNAが転写していることを初めて報告した、Howard Lipshitzさんでした。彼は神経細胞の非対称分裂を制御するNumbの仕事をしていて、そちらのほうの仕事は僕も少し知っていたのですが、まさかノンコーディングRNAの草分け的仕事をした人だったとは。現在のノンコーディング研究の隆盛、特にクロマチン修飾とノンコーディングRNAに関しては、彼自身積極的に関わろうとしているわけではないそうですが、我が子の成長を見るような思いで、ちょっと距離を置きつつ、ずっと興味を持ちつづけているそうです。
とまあ、なんだか建物の話ばかりになってしまいましたが、サイエンスに関しては、次回。
September 18, 2010
英語のプレゼンの磨き方
英語には皆さん色々苦労されていると思いますが、やはり一番手っ取り早いのは実践、ですね。良くガイジンの恋人を作ればすぐにペラペラになるとかいう話を聞きますが、たしかに日常会話やケンカは上手になるかもしれませんが、実のあるディスカッションの進め方やら論理的にこちらの考えを伝える方法とか、そういったことは全く身につかないでしょう。そもそも論理的な話し方ばかりしていたら、折角の恋も興ざめ、ではないですか。日常会話というのは恐ろしい物で、「あなたのそういう食べ方は私の感覚からするとちょっと違和感があるので、もう少し改善していただいた方が良いと思います」、なんていうのが、「いやんっ、もう」で解決してしまったりするわけです。そういう表現を学びたいならまた話は別ですが、仕事の英語を磨くなら仕事の英語を聞くのが一番。ScienceやNature、CellのPodcastなどはとても役に立つ教材であるのですが、プレゼンテーション、ということになると、今ひとつ参考にならないのが実情です。
で、ちょうどCellのPodcastネタでこちらのSabine Cordesさんと話をしていたときに教えてもらったのがhttp://neuroseries.info.nih.gov/。
RNA関連ではRob Darnellさんの秀逸なトークがhttp://videocast.nih.gov/Summary.asp?File=14215から見ることが出来ます。
壮々たる研究者の名演が見れる上に、ファイルをダウンロードして携帯することも出来ます。便利な時代になった物です。
中川
September 14, 2010
Journal Club
Guo H, Ingolia NT, Weissman JS, Bartel DP.
Nature. 2010 Aug 12;466(7308):835-40.
miRNAは自身と相補的な配列をもつ標的遺伝子の発現を負に制御することが知られている。miRNAによる標的遺伝子の抑制は、翻訳効率の低下またはmRNAの不安定化のどちらか、または両方によって起こるが、この二つの現象の相対的寄与度はほとんどわかっていない。そこでこの論文では、外来のmiRNAを細胞に導入した場合と内在のmiRNAをノックダウンした場合に応答しておこるタンパク質量の変化を、『リボソームプロファイリング』という手法を用いて網羅的に解析した。リボソームプロファイリングでは、翻訳中のリボソームに保護されたフラグメントと、total RNAからpolyA(+)のmRNAをとってきてランダムに断片化したmRNAのプロファイリングを比較することで、mRNA量の変化と翻訳効率を直接比較することができる。
その結果、HeLa細胞にmiR-155またはmiR-1を導入した場合(二つとも内在には発現していないmiRNA)、3’UTRにmiRNAのターゲットサイトを1つ以上もつ遺伝子では、mRNA量の減少が見られた。またマウスの好中球中に発現している内在のmiR-223をノックダウンした場合は、そのターゲットサイトを3’UTRに1つ以上もつ遺伝子においてmRNA量の増加が見られた。それに対し、各々の翻訳効率をリボソームプロファイリングにより調べると、若干の減少または増加はあるもののmRNA量の変化ほどではなかった。このことから、この論文では『翻訳抑制は起きていない訳ではないが、miRNAによるタンパク質減少のほとんどはmRNAの不安定化で説明ができる』という結論を出している。
ここで注意しなければならない点は、この実験ではある時点でのスナップショットを見ており、そこに至る過程については観察できないということである。最終的にはmRNAの分解に行き着く運命であっても、その過程でmRNA本体の分解を伴わない翻訳抑制が起きている可能性は大きい。また、通常脱アデニル化が起きたmRNAは翻訳されず分解へと進むが、ある状況においてはそのようなmRNAも再度ポリアデニル化され翻訳されるようになる、という報告もある。さらに、観察した時点でmRNAの分解を伴わない翻訳抑制が起きていたとしても、それが少数だった場合、この解析法ではノイズなどに埋もれてしまいそれが見えてこないことも考慮しなければならない。
議論の絶えないmiRNAによる翻訳抑制であるが、今後の進展を期待する。
September 8, 2010
ライフサイエンス 新着論文レビュー
「ライフサイエンス 新着論文レビュー」
http://first.lifesciencedb.jp/
以下はサイトの説明文からの引用です。
-----ここから-----
「新着論文レビュー」とは
この「ライフサイエンス 新着論文レビュー」は,文部科学省委託研究開発事業「統合データベースプロジェクト」における日本語コンテンツのひとつとして,Nature,Science,Cell などに代表されるトップジャーナルに掲載された日本人を著者とする生命科学分野の論文について,論文の著者自身の執筆による,専門分野の異なる生命科学研究者にむけた日本語によるレビューを,だれでも自由に閲覧・利用できるようWeb上にていち早く無料で公開するものです.最新の研究成果を,日本語で,その背景からわかりやすく紹介・解説すること,そして,それらコンテンツの自由な引用・転載・再利用を可能とすることで,生命科学分野のサイエンスコミュニティ全体に寄与することをめざしています.
-----ここまで-----
要は、CNS とその姉妹紙に載った論文を日本語で著者自身が解説する、というもので、今月の2日に公開されたばかりのウェブサイトです。編集担当は先頃休刊となった蛋白質核酸酵素の編集長をしていた飯田さんが務めています。興味がある方は、時間のあるときに覗いてみたらよいかもしれません。ちなみにわたしや泊研の岩崎さんも寄稿しています。
影山裕二
Malat1 (3)
このへんの一見矛盾する現象を理解する鍵は、SRタンパク質のダイナミックな振る舞いにあると考えられます。核スペックルにSRタンパク質は貯蔵されていますが、実際に働くときはそこから離れて転写部位まで出張してゆくと考えられています。羽田空港のA社のコンピュータートラブルで、地方開催の会議が大混乱、みたいなものでしょうか。この場合も羽田空港の建物自体がぶっ壊れるわけではありません。また、J社やS社の飛行機は平気で飛んでいるわけですね。Malat1のノックダウンの場合も、核スペックルの中の特定のSRタンパク質のみが大きな影響を受け、その特定のSRタンパク質に大きく依存したスプライシング反応がおかしくなっている、と考えることが出来るでしょう。核スペックルと転写サイト間のSRタンパク質のサイクルを回すためにはこれらのタンパク質のリン酸化が重要な役割を果たしていることが知られていますが、Malat1のノックダウンによって、局在がおかしくなるSRタンパク質の脱リン酸化のフォームが異常に増加することも示されています。
これらMol Cellの論文の方の結果は全て細胞株を用いた実験ですが、EMBOの論文の方では、海馬の培養細胞を用いた表現型の解析を行っています。それによれば、Malat1のノックダウンでシナプスの数が減るそうです。シナプス形成には通常1週間から10日かかりますから、そんな長いことMalat1が無ければ当然変なことが起きるだろう、と思うのが普通の感覚だと思いますが、普通の感覚というのは、多くの場合サイエンスの進歩にとって足を引っ張ることになりがちです。根性のエラーバーでMalat1が実際に生理的な現象に関わっていることを示した意義はとても大きいでしょう。ただ、細胞株の影響に比べると余りにも表現型がマイルドなのに驚かされるのは事実ですね。一点だけ個人的に気にくわないのはMalat1の海馬における発現の変化で、僕自身はembryonicな時期に特に強く、生後はだんだん弱くなっていく(それども強い発現には変わりははないのですが)という印象を持っているのですが、EMBOの論文では逆にP0からP28にかけて増加してゆくというデーターを出しています。
いずれにせよ、これらの論文の出現でこれからますますMalat1が注目を浴びることになるのは間違いないでしょう。今後の展開が非常に楽しみです。
September 2, 2010
Malat1 (2)
これは核内でのMalat1の局在で、ホルスタインのぶちみたいに見えるのがSRタンパク質などのスプライシングの貯蔵庫と言われている「核スペックル」と呼ばれる構造体です。綺麗だなあ、というのが僕自信初めてMalat1の局在を見たときの最初の印象で、綺麗なものに心惹かれるのは、男の、もとい、人の常でしょう。マウスでは約7 kbの大きさのこのノンコーディングRNA。核内に数千分子はあるといいますから、核酸の量としてはかなりのものになります。
1. 切っても切ってもMalat1
では、Malat1のどの部分がこの核スペックルへの局在に必要なのでしょうか。とりあえず4分割したフラグメントを放り込むと、2番目と4番目のフラグメントは核スペックルに行きます。1番目と3番目は核内にあるものの、別のドメイン。従って、2番目と4番目のフラグメントはMalat1を核スペックルにつなぎ止めるのに必要で、1番目と3番目はそれ以外の機能を持っていると考えられます。興味深いのはこの1番目と3番目のフラグメントは、内在のSRタンパク質の一つ、SRSF1の局在を変化させる(つまりドミネガみたいに効いている)ということです。イメージとしてはこんな感じ。
SRSF1 SRSF1
Malat1: 111111111--222222222--333333333--44444444
(speckle) (speckle)
それにしても、ちぎってもちぎっても核に局在するところは、Gomafuそっくりです。一般的に核内の長鎖ノンコーディングRNAは体全体に核内繋留シグナルを持っているんでしょうか。
2.Malat1を寄せるタンパク質
もう少し詳しくMalat1の核スペックルへの繋留をみてみましょう。彼らは決め打ちでPrp6とSONというタンパク質に注目しています。このあたりは研究者としての感とセンスの良さが問われるところですが、プラシャンはセンス抜群ですから、すぐ正解にたどり着くわけですね。実際はセンスというのは失敗にめげない不屈の意志だと思いますが。Prp6をsiRNAでたたいてやると、Malat1は不安定化して核全体に散らばります。SONをたたいた場合はちょっと様子が違って、安定性は変わりませんが、核スペックルから外れて核全体に散らばります。ですので、核スペックルにつなぎ止めているのはおそらくSON、Prp6も何らかの形で関わっている、ということになります。イメージとしてはこんな感じ。
SRSF1 SRSF1
Malat1: 111111111--222222222--333333333--44444444
SON SON
(speckle) (speckle)
3.Malat1に寄せられるタンパク質
では、Malat1は、スペックルにいて何をしているんでしょうか。ここで核内ノンコーディングRNAのノックダウンの登場です。通常核内にはRNAiを司るAgoの複合体は存在しないとされているので、世間一般でよく使われるsiRNAは切れ味が悪い。ところがDNAオリゴを入れてやると、核内に豊富に存在しているRNAseHの活性で、ターゲットのRNAを分解することが出来ます。これは産総研の廣瀬さんのこの論文に詳しいです。この手法でMalat1をたたいてやると、綺麗にSRP1の局在が変わります。のみならず、SF1やらU2AF65やらSF3a60やらといったスプライシング反応に関わるSRタンパク質以外の局在もめちゃめちゃに変化します。凄いぞMalat1。
表現型や、分子メカニズムに関しては、また次回。
August 31, 2010
Malat1 (1)
Mol cellの論文
EMBOの論文
ここで両論文の最重要プレーヤーであるPrasanth Kannanganattuさんについてちょっと紹介です。彼は僕にとっては吹雪のシベリア平原で出会ったコサック兵みたいなもので、興味が重なって戦々恐々薄氷を踏むがごとしみたいなところもあるのですが、個人的には一緒にこのノンコーディングRNAというマイナーな業界を盛り上げていきたい(おもいっきり背伸びした表現)、というか彼が盛り上げていったところに負けずに必死でついていきたい、と思っています。記憶力の良い方はそういえば分子生物学会・生化学会合同年会のBMB2008のシンポジウムに来ていたな、と思い出していただけるかもしれませんが、そんな超人的な記憶力を持ち合わせているのはGoogleだけなので補足いたしますと、もともとはインドのショウジョウバエのラボのLakhotiaさんのところでヒートショックに応じて誘導を受ける核内ノンコーディングRNA、hnr[omega]の研究で学位を取った後、コールドスプリングハーバーのDavid Spectorのところでポスドクをしてパラスペックルに繋留されるターゲット遺伝子、CTN-RNAを同定し、その後イリノイ大学でテニュアトラックのポジションに若くして就任した元気な元気な若手PIです。
ホームページはこちら。
ちなみにファーストネームはKannanganattuなので「Hey! Kannnan!(心の中では艱難)」とか酔いにまかせてメールをしたら全くレスポンスが無く、なんかやなやつだなあとか思っていたら、学会で実際に会ってみるとそんなことは全く無くとても友好的な人でしたし(講義の準備でそれどころではなかったらしい)、論文そのまま、さすがトークも質問も鋭く、力石のカミソリアッパーのような頭の回転の鋭さにフラフラになってしまいました。Kannanganattuは英語できちんと発音することは極めて困難らしく、欧米人にとってはまだちゃんと発音できる「Prasanth(ぷらシャン、「ャ」にアクセント)」を使っているそうです。日本人には普通に発音できるファーストネームなんですが。暑いですよね。2010年のこの夏。「かなわんわ夏っーー!!(夏の「つ」にアクセント)」と言えば、ほぼ完璧な発音らしいです。仏教偉大なり。
論文の詳しい内容について、整理も兼ねて、これからちょっとまとめてみたいと思います。
中川
August 23, 2010
閑話休題
というわけで、閑話休題というのもよかろうかと、
個人的な話をするのはあまり好きではないのですが、実は先日休暇を取っておりまして、そこでブヨの襲撃を受けました。ブヨ、というのは厄介な生き物で、なんかかゆいな、と思ってスネを見ると黒ゴマ模様が見え、なんじゃいやこれと、はたいてこすると血がにじんでたりして、でもその時はそれほどでもないからといってほっておくと、ムヒやらキンカンで収まるような生やさしい程度を100倍ぐらい超えた激しい痒みに、翌日からその後2-3週間にかけて苦しむハメになると言う、とんでもないものです。
ブヨのまともな襲撃を受けたのは20年ぶりだったので、昔を思い出して戦慄すると共に、当時最も効果のあった冷たいシャワーを浴びても、効果無し。抗ヒスタミン剤効果無し。ステロイド剤効果無し。まあそれがブヨってもんよ、なんて高楊枝でいられればよいのですが、そんな程度を越えた痒みが襲ってくるわけです。
患部は熱いわかゆいわ部屋は暑いわ寝られたもんではない。というわけで、もしかしたら今の時代だし、という淡い期待を込め、藁にもすがる思いで、ネットをGoogle検索してしまったところ、出てくるわ出てくるわ。ブヨの体験談。本当に知りたいことは何一つ分からないけれども何でも知ることが出来得るインターネット。と思いきや、NHKで言うところろの某インターネットの巨大掲示板、要は2chがトップヒットで出てくるではないですか。
ブヨってどうよ、何刺され目、みたいな掲示板で、「熱いシャワー、最強」みたいな感じで書いてあって、余計ひどくなる処置をおもしろがって騙そうとしているのかな、と思ったのですが、なんだか、熱いシャワー、神、みたいな雰囲気なのです。握っているだけですべてのストレスが解放される石を買うヒトの気持ちが良く分かるのですが、余りの痒さに、ポットのお湯を湯飲みに入れ、ブヨに指された傷口に押し当てて数分。。。
サイエンティストは、何となく合理的な説明に弱いのです。ブヨの毒は熱に弱いらしいです。つまり、加熱すると熱変性して、もはや毒物としての活性を失うと。なので、低温やけどになるかならないぐらいの熱を加えると、直ると。熱いシャワーでも、暑いドライヤーでも、直ると。多分、ホカロンみたいな携帯用カイロが夏に馬鹿売れするきっかけになるのではないかと。
という、無責任な掲示板の論調に救われた日として、8月18日は永遠に僕の記憶に残ることでしょう。
中川
August 9, 2010
lincRNAとp53
Huarte M, Guttman M, Feldser D, Garber M, Koziol MJ, Kenzelmann-Broz D, Khalil AM, Zuk O, Amit I, Rabani M, Attardi LD, Regev A, Lander ES, Jacks T, Rinn JL.
Cell. 2010 Jul 29. [Epub ahead of print]
またまた心臓に悪い論文です。自分のやっている仕事と非常に近い内容の論文がよその研究室から出たときに素直に喜べるかどうかで人間の器の大きさがわかるというもので、ナンダコンチキショーとか悪態をついているようではいかんのですが、まあタクラマカン砂漠で同志に出会ったということで、素直にこの分野の隆盛を喜びましょう。かつてスタンフォード大学のHoward Changさんの研究室でHOTAIRを見つけた、現在Broad instituteのJohn Rinnさんのところからの仕事です。
p53は有名なガン抑制遺伝子ですが、彼らはアレイを用いてその下流で発現量が大きく変動するノンコーディングRNAを探索し、p21に隣接する領域から発現するノンコーディングRNAを見つけて、linc RNA-p21と名付けました。この遺伝子が実際にp53によって引き起こされる遺伝子発現の変化に関わっているかどうかをノックダウン&アレイ解析で調べ、さらにp53が引き起こす細胞死の誘導という生理現象を下流で制御しているかどうかもノックダウン&過剰発現で調べています。次から次へと出てくるアレイ解析のデーターは、さながらハエ一匹退治するのにバズーカ砲をぶっ放している感もありますが、非常に綺麗に彼らの主張をサポートする結果になっています。
では実際にどのようにしてターゲットの遺伝子の発現を制御しているのか。彼らはシンプルなpull-downの実験でlinc RNA-p21の結合パートナーとしてhnRNP Kを同定し、この結合と実際の機能との関連を検証するためにhnRNP Kのノックダウンとp53やlinc RNA-p21のノックダウンが似たような効果があることをまたまたマイクロアレイ解析で示しています。結果は勿論ポジティブ。さらにはhnRNP Kがp53なりlinc RNA-p21で制御される遺伝子の上流に結合しているかどうかを、Chipアレイで調べています。アレイ解析の嵐。ここまでインフレが進むとバズーガ砲も竹槍ぐらいに思えてくるのが不思議ですが、いずれにせよ、hnRNP Kとlinc RNA-p21の複合体がターゲットの遺伝子の上流にまだ未知の機構によってリクルートされ(おそらくはlinc RNA-p21の塩基対形成の助けを借りて?)、これまた未知の機構によってhnRNP Kを介したクロマチン修飾が行われる、という仮説を提唱しています。
ただ、どうも一つ引っかかるのは、たびたびここでも言及していますが、発現量に関する話です。アレイのデーターのヒートマップは近頃は目にしないことがないぐらいおなじみの図ではありますが、コントロールと比べてウン十倍の発現量、という記載はあっても、ではもともとその遺伝子はどれぐらいの発現量があったのか、それがどれぐらいまで増えた・減ったのか、という記載はまれです。たとえばlinc RNA-p21をマウスのゲノム上で見てみますと、、、
これはNCBIのMapViewerで、ゲノムにぺたぺたいろんなESTを貼り付けてある図ですが、上の方にずらっと並んでいるのがSfrs3というSRタンパク質の、下にずらっと並んでいるのがp21のESTです。真ん中あたりにちょろちょろ見えているのがlinc RNA-p21ですが、だいぶ発現量は低そうです。また、これらのESTはごく限られた組織、内耳と肺由来のものしかありません。
また、ヒトのホモログがあるのかないのか、は良く議論されるところですが、ヒトのシンテニー領域を見てみると、、、
ほとんどESTは貼り付いていません。Unigeneもこの領域には登録されていません。
つまり、この遺伝子はヒトには相同遺伝子が存在せず、マウスにおいても発現量がものすごく低いか、ものすごく一部の細胞でしか発現していないか、どちらかである可能性が高いということになります。発現量が低いからといって機能していないことにはなりませんし、いやむしろ世を動かすリーダーは数少ないのが世の常ではありますが、このような低発現量遺伝子の解析に良く踏み切ったなあと言うのが、正直な感想です。もちろん事前の機能解析実験で、これはいけるという感触をつかんだからバズーカ砲を持ち出したのでしょうが。
この論文。一応新規遺伝子の同定の論文でもあるのですが、ノザンブロットのデーターはありません。一昔前までは新規遺伝子の同定の際の必須データー三点セットの一つだっただけに、隔世の感があります。
中川
追記:
発現量が低いからと言って機能していない訳ではない良い例として、発生生物学ではスーパースターである遺伝子、Wnt1などがあります。Unigeneのデーターベースで登録されているESTはわずか13個。linc RNA-p21の7個とそう変わりません。ESTのデーターはガン組織や培養細胞、生体の組織が圧倒的に多く、比較的マイナーな研究フィールドである胎生期のサンプル由来のデーターが少ないのだと思います。よしんば胎生期のサンプルを使っていたとしても、胚全体をサンプルとすることが多いわけです。パターン形成に関わる、ごく一部のオーガナイザーの細胞で発現している遺伝子は、UnigeneにおいてESTを構成する数、という視点で見ると、どんなに重要な遺伝子でも見劣りします。そういう意味では、細胞死に関わるというlinc RNA-p21の発現量が「一見」少ない、というのは、胎生期並びに生体組織で細胞死をおこす細胞はごく一部ですから、理にかなっていると言えます。
August 5, 2010
Journal Club
Dicer’s helicase domain is required for accumulation of some, but not all, C. elegans endogenous siRNAs
NOAH C. WELKER, DEREK M. PAVELEC, DAVID A. NIX, THOMAS F. DUCHAINE, SCOTT KENNEDY, and BRENDA L. BASS
RNase III型酵素Dicerは長い二本鎖RNAやstem-loop型RNAから短い二本鎖RNAを切り出す酵素であり、endogenous-siRNA、exogenous-siRNA、miRNAの生合成に重要な役割を果たすが、piRNAの生合成経路には関わらないことが知られている。複数のドメインを持つタンパク質であるが、特にhelicaseドメインの機能は不明なままである。本論文では、線虫C.elegansにおける唯一のDicerであるDicer-1(DCR-1)のhelicaseドメインについて機能解析を行い、一部のendo-siRNAの生合成に重要な役割を果たすことを報告した。
筆者らは DCR-1のhelicase ドメイン変異体3種 (K39A, D145N, G492R)を作製した。これら及び野生型のDCR-1をそれぞれdcr-1(-/-)C.elegans に導入し、そのフェノタイプを比較することでhelicaseドメインの機能を調べている。
1. dcr-1(-/-) C.elegansを微分干渉顕微鏡により観察すると、生殖細胞の異常が認められる。この異常は野生型、helicaseドメイン変異型DCR-1どちらの導入によっても回復した。但し変異型DCR-1を導入した場合、通常(16℃-20℃)よりも高温(25℃)での培養により生殖能が失われた。
2. ノーザンブロットによる解析では、helicaseドメイン変異型DCR-1の導入により、miRNA, enxo-siRNA, piRNAの発現に差は見られなかったが、endo-siRNAの発現量は劇的に減少した。これらのendo-siRNAがターゲットとする遺伝子のmRNAレベルは上昇していた。
3. 線虫や植物におけるendo-siRNA生合成では、primary siRNAの産生に続き、RdRPによるsecondary siRNAの増幅が行われる。Illumina sequencingによる解析により、endo-siRNAの中でも特に26G RNAと呼ばれるクラスのprimary siRNAの減少が顕著に認められた。
以上により、筆者らはDCR-1のhelicaseドメインは26G siRNAの生合成に重要であることを見いだした。しかしながらhelicaseドメインの具体的な働きについては依然として謎のままであり、今後の解析が待たれる。
August 3, 2010
Journal Club
Unique functionality of 22-nt miRNAs in triggering RDR6-dependent siRNA biogenesis from target transcripts in Arabidopsis.
Cuperus JT, Carbonell A, Fahlgren N, Garcia-Ruiz H, Burke RT, Takeda A, Sullivan CM, Gilbert SD, Montgomery TA, Carrington JC.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Jul 19. [In press]
22-nucleotide RNAs trigger secondary siRNA biogenesis in plants.
Chen HM, Chen LT, Patel K, Li YH, Baulcombe DC, Wu SH.
植物では、small RNA(miRNA等)にターゲットされた転写産物から、RNA dependent RNA polymerase 6 (RDR6) 及びDicer like protein 4 (DCL4)依存的にsecondary siRNAが作りだされることが知られています。
しかしsmall RNAにターゲットされた全ての転写産物からsecondary siRNAが生成されるのではなく、限られたsmall RNA-ターゲットRNAの間でのみsecondary siRNAは生成されます。
これまでsecondary siRNAが生成される「ルール」は謎でしたが、Cuperusら及びChenらは、次世代シークエンス技術と分子生物学的証明により、典型的な21塩基のmiRNAやtrans acting siRNA (tasiRNA)でなく、22塩基の比較的珍しいmiRNA及び tasiRNAでのみsecondary siRNA生成が促されることを明らかにしました。
この論文の面白い点は「取り込まれたsmall RNAの長さによってRISCの機能が変わる」ことを示唆している点です。
21塩基、22塩基のmiRNAはアラビドプシスAGO1に取り込まれ、どちらもターゲットRNAの切断を促すにも関わらず、22塩基のmiRNAのみターゲットRNAからのsecondary siRNA生成を促すことができます。これまでsmall RNAは長さに関係なく、相補的な塩基を持った特異的なターゲットRNA上にRISCを導くことが主な役割であると考えられてきましたが、この二本の論文より、ちょっと長い(22塩基の)small RNAはsecondary siRNAを生成する機能をRISCに付与する可能性が示唆されました。
今後の課題は、22塩基のsmall RNAを取り込んだRISCはどのようにしてRDR6及びDCL4を介したsecondary siRNA生成を可能にするのか、その機構を解明することです。22塩基のsmall RNAはAGO1の構造を変えるのか? その構造変化がRDR6またはその関連因子を引き寄せるのか?謎はたくさんありますが、おもしろい分子機構であることは間違いなさそうです。
RNA学会年会
その他驚くような話も満載で、この新学術領域の班員の研究室からも多数演題が出ていました。そのうちホームページでも公開されるものと思います。学会発表ぐらいで成果だと思うな!とかいう話もありますが、ことRNA学会の場合は論文が出る前のワクワク状態の話が満載なのが魅力でもあり、「今後大いに発展が見込まれる」、ということにしておきましょう。あまりよい表現ではないかもしれませんが。
今後の発展性という点においては、懇親会などであらためて周りを見渡したときの平均年齢の低さは嬉しいですね。僕なぞ、明らかに平均より上に属する世代でしょう。健全な社会の証拠です。これから若い世代にガンガン突き上げられるのでしょうが、幸か不幸か、今回もまだそれほどその突き上げを感じることはありませんでした。RNA学会に参加したのはまだ5回目なのですが、N村さんとY久さんで質問の時間の8割が占められているという構図はこの5年で全然変わっていません。以前当ブログで啖呵を切ってくれた某K君の参加がなかったのが残念ですが、この40代の2強の一角を崩すスラッガーは平成生まれに期待しなければいけないのでしょうか。頑張れ!昭和生まれ!
ともあれ素晴らしい学会を主催して頂いた鈴木研のスタッフの方々、本当にお疲れ様でした。あれだけの会が全くの手作りというのは、信じられないことです。ありがとうございました。
中川
July 23, 2010
Journal Club
A coding-independent function of gene and pseudogene mRNAs regulates tumour biology.
Poliseno L, Salmena L, Zhang J, Carver B, Haveman WJ, Pandolfi PP.
【論文の要旨】 がん抑制遺伝子である PTEN は、ハプロ不全を示すことからその量の調節ががん抑制に重要であることが知られている。 また PTEN の発現は複数の miRNA により制御されていることがこれまでに明らかになっている。PTEN にはプロセス型 偽遺伝子 (mRNA が逆転写によりゲノムに挿入され生じた偽遺伝子) PTENP1 が存在し、両者は 3’UTR の miRNA 標 的配列を含め塩基配列が高度に保存されている。PTENP1 はタンパク質をコードしない ncRNA であるが、ほとんどの組 織で発現している。本論文では PTENP1 が PTEN を標的とする miRNA のデコイとなって PTEN の発現に影響を与え る可能性を検証した。 PTENP1 の 3’UTR 領域を高発現させると PTEN の発現が mRNA、タンパクレベルで上昇し、細胞増殖が抑制された (PTEN 発現亢進の効果は Dicer 依存的であることから、miRNA を介したものであることも示している)。一方、PTENP1 ノックダウンにより PTEN の発現が低下し、細胞増殖が亢進した。正常およびがん組織において PTENP1 と PTEN の発 現は正の相関があり、がん組織のサンプルにおいて PTENP1 遺伝子座の欠失と (それに対応するように) PTEN 発現 の低下が認められた。がん関連遺伝子のいくつかには PTEN と同様な miRNA 標的配列が保存された偽遺伝子が存 在する。そのひとつである K-Ras においても偽遺伝子の 3’UTR の高発現で K-Ras の発現、および細胞増殖が亢進し たことから、PTEN-PTENP1 の関係と同様な偽遺伝子による miRNA のデコイメカニズムがはたいていることが示唆さ れる。上記の結果から、偽遺伝子由来の転写物が内在的な miRNA のデコイとして機能遺伝子の発現に影響を与えて いること、さらにそれががん化・がん抑制に寄与していることが明らかとなった。
年会事務局の片隅から
今年の年会は今のところ最大の参加者数と演題数が見込まれています。昔の人は「有朋自遠方来不亦楽乎」と言ったそうですが、本当か嘘か、"朋"には学問上の同じ志を持つ者という意味があり、互いの学問上の進展を知ることができるのは嬉しいことだ、という解釈もあるのだとか。これはちょっと出来過ぎた話な気がしますが、昔(?)と変わらず活気と熱気にあふれた年会になればと思っています。
ところで初日の夜に"ポスター&ビア"という謎の項目があり、結局はタイトル通りで謎も何もないのですが、正式には何のお知らせも説明もしてないため敢えて野暮ったく解説しますと、2日間では物足りないポスターセッションを、"ポスターセッション0"とでも称すべきフリーな形式で設け(軽飲食付で)盛り上がっていただこうということになります。早々に議論の場が会場から夜の街に移ってしまい気づけば人が少なくなってしまうのでは?と多少の自戒も込めた懸念もあります。が、ここにも書きましたし心配無用といったところでしょう。 (もちろん何かしらアナウンスもしますので)
昔の人は「人不知而不慍不亦君子乎」とも言ったそうです。人間の活動の本質は昔から大して変わってないのかもしれませんが、今の時代に置き換えてみると色々考えさせられる点は多いです。
ということで、貴重な体験をさせていただいたことに感謝すると共に、今年の日本の夏、"東京RNA祭り"で皆さまとお会いできることを楽しみにしています。
鈴木
July 22, 2010
Journal Club
Aravin AA, van der Heijden GW, Castañeda J, Vagin VV, Hannon GJ, Bortvin A.
PLoS Genet. 2009 Dec;5(12):e1000764. Epub 2009 Dec 11
マウスの雄の生殖細胞では、piRNA 経路やde novo DNA methylationによりトランスポゾンの活動が抑制される。piRNAはPIWI タンパクと相互作用し、トランスポゾンに対する防御機構として働くと言われているが、その生合成過程や詳細な機能などは未知の部分が多い。
今回のBortvinらの研究により、雄のマウスの胎生期始原生殖細胞において①piRNA経路が空間的、機能的に区分されていること、②トランスポゾン抑制への関与が示唆されているMAELが、piRNA経路において重要な働きをしていることが明らかとなった。
① 胎生期のpiRNA経路で働く主要な因子であるMIWI2とMILIの局在を調べた結果、MIWI2-TDRD9-MAELとMILI-TDRD1は細胞質において異なるコンパートメントに存在することが明らかとなり、前者をpiP-body、後者をpi-bodyと名付けた。piP-body とpi-bodyは近接した領域に存在していた。また、piP-bodyはmRNAの分解やタンパク質の翻訳抑制に関わる因子も含んでおり、piRNA経路がmRNA分解/タンパク質翻訳抑制と協調して働いている可能性が示唆された。
② Mael mutantの生殖細胞では、MIWI2の局在異常、piRNAの減少、de novo DNA methylationの遅れなどが見られ、MAELがpiRNA経路のうちMIWI2依存的な段階に関わっていることが明らかとなった。また、Mael mutantでは、トランスポゾンの一つであるL1にコードされているORF1pタンパクの発現に影響が見られた。このことから、MAELがトランスポゾンの発現抑制に関与する因子であることが示唆された。
July 19, 2010
Long noncoding RNA探し
Chodroff RA, Goodstadt L, Sirey TM, Oliver PL, Davies KE, Green ED, Molnar Z, Ponting CP.
Genome Biol. 2010 Jul 12;11(7):R72.
こういうタイトルの論文は大変心臓に悪いのですが、その一方、アフリカのサバンナで同志に出会ったような心強さも感じます。
以前泊さんが紹介されていた論文にもありましたが、これだけ時代が進んでも、「大きなRNA」、すなわち高等真核生物のゲノムから大量に転写されているとされるmRNA-likeなノンコーディングRNAがいったいどれぐらい重要な生理機能を持っているか、ということについては、いろんな人がいろんなことを言っていて、きちんとしたコンセンサスはありません。研究者人口が少ないというのがその一番の理由だと思いますが、やっている人がふがいないというのも大きな理由かもしれません。反省。
この論文でも、3種類のノンコーディングRNAを報告していますが、機能的なことには言及はありません。ただ、論文の骨子としては、ヒトとマウスのように進化的に非常に近い種間では、あまり機能的に重要でなくても、ある程度の配列の保存が見られてしまうだろう。従って、多少進化的に離れた脊椎動物を比較して、それでたとえば配列なり発現パターンが似ているものがあれば、機能的に重要なのではないか。ということを主張しているわけです。オポッサムとニワトリの脳の同じような領域に発現しているノンコーディングRNAを面白い!と思うかどうかはともかくとして、引いてしまう人の方が多いとは思うのですが、こういった知見が積み重ねられていくことは重要だと思います。
ちなみになんで3種類なの?という疑問が当然わいてくるわけですが、Fantom3 clone set で「ノンコーディング」として登録されている3122種類のうち、種間で保存された予想タンパク質を「コード」しているものをはずし、タンパク質をコードしている遺伝子のそばにある物をはずし、しかもトリなどの進化的に離れた種でも保存されているもの、といった絞り込みをすると3種類になるそうです。性格の悪い僕はこの絞り込みで重要な物が落ちていますように、なんて思ってしまうのですが、そういうことを思っているから天罰が下って仕事がすすまないのでしょうか。。。
中川
July 11, 2010
学会ネタで、、、
もうすぐRNA学会ですが、学会ってなんなんなのだろう、と思ったりする人は多いのではないでしょうか。論文を出していれば学会なんて出なくても良い、みたいなかたくなな人もいるでしょうし、学会さえ出ていれば論文なんて出さなくても良い、なんて人も、こちらはありえないでしょうか。ともあれ、影山さんがいみじくも書かれているとおり、学会は、人との出会い、これ以上でも以下でもないと思います。新しい人に出会わなくっても、人と話をして、漠然としていた思いが形になる、ということはとても多いですし(後述)、何よりもまず、客観的にどう思うか、というナマの声が聞けるというのは大きいです。サイエンスと関係のない話で恐縮なのですが、キャッツアイ、、思春期の中学生には丁度良いぐらいの刺激度の漫画がかつてありまして、そのイメージと、最近都内の電車に乗る機会があって、その車窓に貼ってあったレオタード姿が、なかなか一致しなかったのです。知らなくても別に困らないことは必ずWikiで分かるので、またそういうことは面白かったりするのでいろいろ調べてみたのですが、分かったような分からなかったような。こういうときは、知り合いに聞いてみて、初めて納得の行く、答えが得られるのだと思います。特にそれが信用の厚い人であれば。早世の村山八段がかつて詰むと言ったら控え室の検討が終わったそうです。学問に関してはその辺の是非は難しいところなのでしょうが、つまりえらい人でもたまには間違えるでしょうから一概に検討終了、とはいえないのでしょうが、色々な形での「断言」、これは生の声でないと、聞けないのですね。そのあたりが、最近になって分かってきたと言いますか。学会なんて、自分の発表だけ終わったらとっととズラかって、、、なんて思っていたのは事実のような気がしますし、そのあたりは、忸怩たる思いがあります。比べるのもおこがましいですが、ビールみたいなものでしょうか。高校生なぞ、ビール、美味しいよね、やっぱりクラッシクラガーだよね、なんて、飲んだこともないのに嘘八百を見栄で並べたりするわけですが、いや、本当に美味しいのですよ。時が来れば。
中川
July 8, 2010
RNA 2010 +α
RNA meetingのレポート・・・ふむふむ。
影山さんがいい感じに書いていますね。
内容がちょっとかぶりますけど・・・いいですか。いいですよね。
“Plenary Session”の意味が良く理解できておらず、「演題が書いてないよ。不親切。」と思っていましたが、「一人30分1テーマで、現在までのハイライトと、これから解決すべきQuestionを簡潔に話す」という離れ業っぽいSession だということに気付き、ちょっと驚き。
海外の大学の授業ってああいう感じなのでしょうか。オーラルやポスターは「同じような研究している人はいないのか・・」とちょっとがっかり。自身の発表に関しては、人の入りはまずまず。食い つきはよろしい。いろいろSuggestionを もらうが、「その実験をするためには、全然データが足りないよ・・・」うーむ。もっと実験しないと・・。あとは、
「あんたの研究はおもしろいから、がんばって。」という励まし。・・はい、がんばります。
これ以上書いても、やっぱりかぶってしまいそうなので、別の話題に。
ポスター発表だと(国際学会なのに)油断して、いきな り本番、一発勝負 !して、たびたび挙動不審になります。ですので、最近 ウォーミングアップと称して、
最初に”好みのタイプが発表しているポスターを聞きにいく”を実行しています。
大抵、プログラムは事前に見ることができるので、
①気になる ポスターをチェックする
②会場入りしたら、チェックしておいたポスターを実 際に見て、内容を大体把握しておく(ポスターセッション前が望ましい)
③セッショ ンが始まったら、ざっくりとチェックしておいたポスターを見てまわる(ここでは発表者をチェック)
④チェックした中で、一番自分好みの人が発表しているポスターを聞きに行く
あくまでウォーミングアップなので、
・好みの人が複数いても、欲張らないこと(時間がなくなります)。
・いきなり③、④だと、内容が理解できなかった場合、気まずくなるので要注意。
幸運にもディスカッションが弾んだ場合(あるいは熱意が伝わった場合)は、「私のポスターも見に来てね」というアピールは可です。
注意点を守って、このウォーミングアップをすると、良い精神状態で自身のポスター発表に臨むことができます。
挙動不審になる原因は、「通じない!」とか、「理解できない!」と自分が一方的にパニックにな るからだと分析しています。わざわざ海を越えて来たのだから、自分も最大限の情報を伝えたいし、相手からも最大限の情報を受け取りたい(引き出したい)。 そこで、最初に「好みの人と話す」ことをしておくと、意識を内側から外側へ向けることができるわけです。
ちなみに、「好みのタイプ」の性別はどちらでも良いです。念のため。
・・・ミーティングレポートより長々書いてしまいました。でも、どうでしょう? いい方法だと思うのですが。誰か試してくれ ないかなぁ。
イナガキ
June 30, 2010
RNA 2010
シアトルで行われたRNA Meeting 2010から帰ってきました。時差のおかげで日本-デンマーク戦も快適な時間(ちょうどお昼休み)で観ることができ、思わぬ得をした気分です。
それはともかく。
せっかくなので感想を少し。
RNA Meeting は国際RNA学会の年会ですが、参加するのは4年振りです。もともと若手研究者に向けた試みを積極的にするところでしたが、今回は特にそれを強く感じました。
午前中に毎日行われる基調講演は各分野の歴史的な背景から始まり、現時点での研究の動向がわかるように各人工夫されており、そのまま大学院の授業として使えそうなくらい充実していました。もともとRNA Meetingでは、各セッションの冒頭で、座長がその分野の動向と各発表の位置付けを説明すると言う慣習があったのですが(日本のRNA学会はそれを真似ています)、それがさらに進められた感じです。
また、若手研究者向けに以下のプログラムが行われました。
・Career Development Workshop(講演中心のものとグラント申請の2回)
・Junior Scientists Social
・Mentor-Mentee Lunch
出不精なわたしはどれにも参加しませんでしたが、それぞれ1時間から2時間かけて行われるプログラムで、気合いが感じられます。学会の存在意義は研究者間のコミュニケーションにつきますが、ここではそれに加えて人材の育成を標榜しているのがわかります。研究活動においては、何事も人が基本ですから。
肝心の研究発表ですが、RNAスプライシング、RNAプロセシング、RNA品質管理、翻訳、リボザイム、RNA構造解析、RNAサイレンシングと多岐にわたっており、個々の研究内容の紹介はここではやめておきますが、RNA研究の今がそのまま反映されていると言ってよいと思います。歴史的経緯からか、スプライシングとリボザイムが充実しているのもこの学会の特徴かもしれません。今回は以前にも増してバイオインフォマティクスの発表が多かったのが印象的でした。
ただし、残念ながら、高分子量ノンコーディングRNAの発表は必ずしも多くはありませんでした。おそらくは、スプライシングや翻訳といった典型的なRNA研究とは違うところから高分子量ノンコーディングRNAの研究が出てきたことも関係しているのでしょう。もちろん研究者人口が絶対的に少ないことも一因と思います。
ポスドクの稲垣さんのポスター発表を手伝っていて気がついたのは、直接関係する仕事をやっている人は少ないと思われにもかかわらず、高分子量ノンコーディングRNAに対する関心が思ったよりも高いことです。
4年前には興味本位で来る人の方が多かったという印象があるのですが、最近になっていくつか高分子量ノンコーディングRNAに関するよい論文が出ているせいか、熱心に聞いてくれる人もいて、高分子量ノンコーディングRNAが市民権を得つつあるように感じました。
あとはよいデータを出すだけですね。それが大変なんですけど。
June 28, 2010
新潮流
June 17, 2010
不都合な事実?
June 15, 2010
涙
昨日は、TVの前で日本代表を応援した方が多かったのではないでしょうか?
僕は、ONOのユニフォームを着て実験していた岩崎さんに対して、試合というだけでいつも嬉しそうな深谷くんに対して、僕と同じく悲観的な感じだった依田さんに対して、あまり興味のなさそうな包くんに対しても、「どうせ勝てないよ、負けるんだよ」と悪態をついておりました。
いやあ、あきらめるものではないですね(現金)。
そんなにサッカー詳しくないですが、現状考えれば、こういう勝ち方をするしかない、という勝ち方だったのでは、と思いました。
さんざん悪態ついてすいませんでした、という感じです。
魂をゆさぶっていただきました。
さて、時はさかのぼって、先週金曜日、都内某所でRNAな飲み会がありまして、とても楽しい会でした。
研究つながりしかないと思っていたさるお方と、(衝撃的なことに互いに全く気がついていなかったのですが)過去に草野球でバッテリーを組んだことがあったという奇妙な縁を発見して、これまたびっくらこいたわけですが。
世の中、狭いですね。
よーし、今日はがんばるぞ!!!
河岡慎平
June 14, 2010
発現量の多いノンコーディングRNA,,,
このアレイでは、大体39,000種類の遺伝子に対して合計約45,000種類のプローブがデザインされています。このうち、機能が推定できるタンパク質をコードしていない、いわゆるRIKENXXXXXGeneという名前が付いている遺伝子に約7000種類のプローブがデザインされています。広範な神経系で強く発現しているNカドヘリンが2,136番目に強いプローブだったので、これよりも発現量が多いRIKENXXXX遺伝子の数を数えてみると、93種類でした。でも、それらをよくよく見直しててみると、多くのものは既知のタンパク質をコードしていて、有意な読み枠が見つからない、もしくは長い読み枠が見つかるけれども既知のタンパク質に相同性を示さない物は24種類でした。ちなみにその中で3番目に強い遺伝子がGomafuです。
この数をどう見るか、微妙なところです。おおざっぱに言うと、マウスの脳における発現量上位5%の遺伝子をとってくると、そのうちの99%は既知のタンパク質をコードしている、ということになります。たった1%「しか」ノンコーディングRNAの候補がない、と考えるのか、1%「も」あると考えるのか。もちろんAffymetrixのexpression arrayにのっていない遺伝子も沢山あるわけで(そもそも3' expression arrayではmiRNAには基本的にプローブがデザインされていない)、RNAseqをやっている人の実感はどうなのでしょう。
ヒトやマウスで見られる大量のノンコーディングRNAは、種類としては沢山あるけれども、発現量の多いものはそれほど無い、けれどもそれらは高等脊椎動物特異的な重要な機能を果たしている、というのが目下の僕の作業仮説なのですが、ほんとのところはどうなのでしょう。それほど無いのなら全部ノックアウトマウスを作って表現型を調べてしまえ、という単純な発想しかできないところが悲しいところなのですが、まあ、そういう仕事をやる人も必要でしょう。でも、この手の「高発現量ノンコーディングRNA」が酵母や線虫やショウジョウバエでどれぐらいあるのか、恥ずかしながら良く知らないです。どなたか知っている人がいたら教えて下さい。遺伝学的な仕事にマウスがそれほど向いているわけではありませんから。。。
中川
Journal Club 6/14
Molecular Cell. 2009 Sep 24;35(6):868-80. PMID: 19716330
[2] The silencing domain of GW182 interacts with PABPC1 to promote translational repression and degradation of microRNA targets and is required for target release.
Molecular and Cellular Biology. 2009 Dec;29(23):6220-31. PMID: 19797087
[3] Structural insights into the human GW182-PABC interaction in microRNA-mediated deadenylation
Nat Struct Mol Biol. 2010 Feb;17(2):238-40. PMID: 20098421
[4] CCR4-NOT deadenylates mRNA associated with RNA-induced silencing complexes in human cells.
Molecular and Cellular Biology. 2010 Mar;30(6):1486-94. PMID: 20065043
真核生物のmRNAは3’末端に長いアデニンヌクレオチド鎖(poly(A))を持ち、その構造を安定化しています。poly(A)分解はmRNAの分解経路における最初のステップです。はじめにPAN2/PAN3脱アデニル化酵素がゆっくりと同調的にpoly(A)を~110nt程度に分解し、続いてCCR4/Caf1/NOT脱アデニル化酵素複合体が残りのpoly(A)をすばやく除去します。脱アデニル化されたmRNAの5’Capは脱キャップ化酵素であるDCP2により除かれ, 5’→3’エキソヌクレアーゼXrn、もしくはエキソソームによって3’→5’側からmRNA本体が分解されると考えられています。
今回紹介した論文は、miRISCがCCR4/Caf1/NOT脱アデニル化酵素複合体を動員し、標的mRNAの脱アデニル化を誘導する過程を詳細に解析したものです。以下、各論文の要点をまとめます。
[1]の論文では主にマウスKrebs-2細胞のライセートを用いたin vitroの実験を行っています。はじめに質量分析を行い、Ago2結合タンパクとしてPABPやCaf1が候補として上がってきました。ライセート中からCaf1を除くとAgo2を介した脱アデニル化が進行しないこと、翻訳抑制が解除されることが示されました。次に、ドミナントネガティブ型のGW182をライセート中に加える、もしくはライセート中からPABPを除くと脱アデニル化が阻害されることから、GW182、PABPを介したものであることが示唆されました。GW182はそのDUFドメインにPAM2モチーフを持ち、PABPのC末端ドメイン(PABC)と結合していることから、Ago2-GW182-PABP相互作用がCCR4/Caf1/NOT脱アデニル化酵素複合体を動員して脱アデニル化を進行するのに必要であることが示されました。
[2]の論文ではショウジョウバエのGW182がPABPと結合する際に必要なドメインを同定しました。ショウジョウバエのGW182は、PABPとの結合様式がヒトやマウスと異なり、主にDUF/RRM以降のC末端ドメインがPABPのRRM1-4ドメインと結合していることが示されました。また、GW182は脱アデニル化以降の段階でmiRISCから解離することが示されました。
[3]の論文ではヒトTNR6CのDUFドメインと、PABPのC末端(PABC)の結晶構造を明らかにし、結合に関わるアミノ酸残基を同定しました。DUFドメイン中のPAM2モチーフにおいて同定されたアミノ酸をアラニンに置換するとPABPとの結合が阻害されること、さらに脱アデニル化誘導能が大きく損なわれることが示されました。
[4]の論文ではHeLa細胞を用いて、Agoを介した脱アデニル化に関わる酵素を同定しました。ドミナントネガティブ型をトランスフェクションした実験により、CCR4/Caf1/NOT脱アデニル化酵素複合体がこの経路に大きく寄与しており、その一方でPAN2/PAN3やPARN脱アデニル化酵素はほとんど関わっていないことが示されました。さらにCCR4/Caf1/NOT脱アデニル化酵素複合体中において脱アデニル化活性を持つCCR4とCaf1のうち、Caf1の関与がより大きいことが示されました。ヒトにはCaf1のパラログであるPOP2が存在しますが、siRNAを用いたノックダウンの実験によりPOP2ではなくCaf1が主に働いていることが明らかになりました。また、Ago1-4を標的mRNAにテザリングする実験において、Ago1-4がそれぞれ同等の脱アデニル化誘導能を有することが示されました。
June 9, 2010
June 8, 2010
ノンコーディングRNAの普通さ加減
マウスやヒトではpoly A(+)のmRNA型の転写産物のうち、種類としては半分ぐらいがタンパク質をコードしないRNAである、というのは良く耳にするし、実感も伴っているのですが、はて、ショウジョウバエではどうだったか、ということを考えたら、自信がなくなってきました。数時間後には講義。知らなくても良い知識に関してはバッチリ教えてくれるはずのGoogleを慌てて検索するもヒットせず。こりゃやはり知らなくては困る知識なのだなあと妙なところで関心、、、している場合でなく、すがる思いで影山さんに電話するも非情の留守電。基本に戻ってPubmed検索に戻って事なきを得ました。
要するに、転写産物の半分ぐらいがタンパク質をコードしていないというのは、珍しいのだ、ということが良く分かりました。ショウジョウバエでも、線虫でも、転写産物の9割方はタンパク質をコードしているのですね。
ゲノムのサイズは漠然と生物に対して抱いている複雑さの感覚とマッチしているところがあって、大腸菌、酵母、ショウジョウバエ、マウス、とたどっていくと、おおまかにいうと10の6乗、7乗、8乗、9乗とちょうど一桁づつ大きくなる、というのは、僕が学部生の時から、言われていました。当時はトランスクリプトーム解析など始まる前で、常識として感覚的にすり込まれてはなかったのですが、普段余りにもノンコーディングRNAに身近に接している分、ノンコーディングRNAが他の生物でも当たり前にある物だと、ましてや高度な体制を持つショウジョウバエでもマウスぐらいに普通にある物だと錯覚していました。恥をさらすようですが。
もちろん、不安定な転写産物を入れたり、近年大ブレークしているRNA seqの技術を使って見えてくる転写産物のことを考えれば、ノンコーディングRNAは広く生物界にありきたりの存在なのでしょう。しかしながら、「普通に」長いRNAをとってきて、「普通に」そういうものがある、半分ぐらいある、というのは10の9乗オーダーのゲノムサイズを持つ生き物だけと言ってよいのでしょうか。いい加減なことを言っていたらごめんなさい。
ちなみに、この手のノンコーディングRNAの多くは、エンハンサーがらみの配列から転写されているもの、と、これまた勝手に解釈しています。比較ゲノム解析から特定の遺伝子のエンハンサーをディープに解析しておられる方からの又聞きですが、迷ったときにはESTが貼り付いているエンハンサーを使え、だそうです。転写されているから使われているゲノム領域なのか、使われているから転写されているのか、良く分かりませんが、いずれにせよ、ノンコーディング領域のゲノムをpolIIに解放している生き物は、それなりにゲノムサイズに余裕がある生き物だけ、なのかもしれません。
中川
June 7, 2010
Journal Club 6/7
Dunoyer P, Schott G, Himber C, Meyer D, Takeda A, Carrington JC, Voinnet O.
Science. 2010 May 14;328(5980):912-6. Epub 2010 Apr 22.
Small silencing RNAs in plants are mobile and direct epigenetic modification in recipient cells.
Molnar A, Melnyk CW, Bassett A, Hardcastle TJ, Dunn R, Baulcombe DC.
Science. 2010 May 14;328(5980):872-5. Epub 2010 Apr 22.
植物ではcell-to-cellあるいは組織を超えてサイレンシングのシグナルが移行することが知られていた。しかしながら、具体的にどのような分子が他の細胞あるいは組織に移行するかは明らかになっていなかった。
Voinnetらのグループは15-20細胞間のサイレンシングシグナルの移行は長いdouble stranded RNAやAgo1に結合したsmall RNAではなく、21ntのsmall RNA duplexが移行することによって起こるということを示した。
またBaulcombeらのグループはshoot/root間の接ぎ木を行い、長いdouble stranded RNAではなく22-24ntのsmall RNAがshootからrootへの比較的長距離の移行をしていることを示した。また、この移行された22-24ntのsmall RNAがroot側で標的遺伝子のDNAのメチル化を誘導するということを示した。
June 4, 2010
コメントをしたのに
June 3, 2010
最近読んだ本
「女性科学者に一筋の光を - 猿橋賞30年の軌跡」
猿橋賞はすぐれた研究を(現在形で)行っている女性研究者に贈られる賞です。私達の世代(40代半ば)のほんの少し前までの女性研究者は本当に大変だったようで、綺羅星のごとき猿橋賞受賞者でさえ、当時の偏見による苦労をしのばせる言葉を多々書かれてます。ただし、この点に関していえば、今は随分と変わったのではないかと思います。優秀な女性研究者が多数活躍されており(この領域にも昨年の猿橋賞受賞者である塩見さんをはじめ、何人も参加されています)、個人的には「女性研究者」という言葉そのものに多少の抵抗さえ感じます。年配の女性研究者が少ないこともあって、偏って男性研究者が多いことも事実ですが、差は減少する方向にあると思いますし、誤解を恐れずに言えば、将来的にはおそらく解消されると思います。
さりとて、社会は変わったか。どうでしょうね。少なくとも男性側がまだまだ甘えている部分はあると思います。わたし自身、色々と言い訳をしながら専業主婦である妻に頼りっきりで、彼女の全面的なヘルプがなければ研究を続けることはおろか、三人の子供を育てることも適わない(ただいま奮闘中です)というていたらくです。ただし、今はそういう甘っちょろい考えの男性は少なくなりつつあるような気がします。共働きという言葉が死語になるくらいに女性の就業率が高くなれば、そして十分な数の保育園があれば(子供手当よりも大事だと思うんだけど)、もっとはっきりと変わってくるでしょう。社会がもっとまともになるまで男女共同参画という言葉にはまだまだ意味があるし、そういう意識を持っていることは大事ではないかと思います。猿橋賞は、女性研究者という枠が取り払われ、取り立てて顕彰する必要がなくなれば終了するという趣旨だそうですが、少なくとも社会的にはもう少しの間必要なのかもしれません。
影山裕二
May 30, 2010
繋がりを思う
先週、色々思う出来事がありまして、
卒研生だった頃のことをふと思い出しました。
おそらく、実家のおかんや、
企業戦士として一足先に社会で一生懸命働いている友人には
うまく伝えて面白がってもらうことが
ちょっと難しい話題のような気がするので
自分と似たような環境に身を置いているみなさんにぶちまけさせてください。
筑波大学の学部4年生だったころ、卒研生として
粘菌cDNAプロジェクトを担っていた、漆原研究室に身を置いていました。
研究室に入る前に、漆原先生とお話をする機会がありまして
「大学の授業はどれもちっともまじめに受けませんでしたが
細胞同士がくっつく、という話を本で読んだ時はとても感動したのです」
と言ったら(何を言ってるんだ、という感じですが)
「あら、カドヘリンは私がやってたのよ」
と、漆原先生がおっしゃいまして、えらく驚いた覚えがあります。
先生のご担当講義はゲノム生物学だったので、
まさかそんな研究に携わっていたとは思いませんでした。
(でも学部生が、自分の学部の教授の研究の変遷を知る機会がなかった
というのは、もったいないことですね)
今思うと、不思議な縁です。
中川さんと漆原先生は竹市研という点でリンクしています。
そして、私の卒業研究テーマは
今、中川研で隣の隣のデスクに座っているポスドク・石田さんが
博士課程でやっていたテーマを引き継いだものでした。
(石田さんも漆原研出身者です)
私が漆原研究室に入った年は
大きなプロジェクトの終わったあとの、
研究室としての移行期間だったように思います。
長年働いていた人が抜けたりして、ラボは比較的静かな雰囲気でした。
スタッフは先生以外おらず、博士学生はひとり。
「自分で一年間しっかり考えてやってね」
というのが、たしか実験を始めるにあたっていただいた言葉です。
研究室唯一の博士課程の学生さんは当時D3でした。
右も左も分からない卒研生でも、
しっかり仕事の出来る先輩かそうじゃないかの判断はなんとなくつきます。
優秀で、行動力のある先輩でした。
「もっと何か、違うことができるんじゃないかって思うんだよね」
と、いつかおっしゃっていた記憶があります。
漠然と、分かる気がしました。
当時は、この言葉に新しいことへの希求をぼんやりと嗅ぎつけました。
で、5年後の今、今度は私がD3(正確にはD2半ですが)です。
ふいにその先輩に連絡を取る機会があって
何となしに興味を持ってPubMedを動かしてみたら、こんな論文が出ていました。
Methylation of H3K4 Is required for inheritance of active transcriptional states.
Muramoto T, Müller I, Thomas G, Melvin A, Chubb JR.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20188556
Fig 1と2を見て、あぁ、そうだったのか、と思いました。
5年前、ぼんやりと嗅ぎつけた希求がはっきり形をとって
ぶん殴られた気分です。(しかもエピジェネって…!)
どんな過程を経て、この仕事に辿り着いたんだろう。
あの頃、ぼけーっとした卒研生だったことが悔やまれます。
きっと先輩は色々考えていたんでしょう。
もやもやした感じを抱えていたかもしれない。
ああもったいないことをした…。
もっと、意識的な卒研生であったら、
先輩のそういう一面から、もっとたくさんのことを学べたのに。
…まあそんな、個人的な回想録はこれくらいにしまして。
意識の高い論文を読むと、わくわくする反面、不穏な気持ちにもなりますが
やっぱりちゃんと論文に日々出会うって大事なことなのですよね。
理想的には休日、優雅にコーヒーでも飲みながら
論文読みを楽しみたいところですが
現実には、寝坊→コンビニ→ツタヤ→ラボ→気が付いたらサザエさんの時間
てなところです。
ついぞ、博士過程も後半になっても、
日常的に論文を読むくせがつきませんでした…。
同年代の皆さんとか、普段どんな感じで
論文読む時間をつくっているんでしょうか?
そして忘れられない論文や、はたまた研究人との出会いってあります?
この前、CDBミーティングの帰りに新幹線で同列だった岩崎くん、依田さん、
そして泊研ニューメンバーの岩川さん、どうですか?(と話をふってみる)
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May 26, 2010
再び河岡慎平です。
書籍紹介でもしてみようと思います。
今日のおすすめは、
サイモン・シン著 青木薫訳
ビッグバン宇宙論 (上・下)
です!
サイモン・シンは物理学の博士号をもったサイエンスジャーナリストです。
「フェルマーの最終定理」や「暗号解読」なんかも有名ですね。
シンの本は構成がすばらしく、ある命題に関して科学がどのように動いていったかということを知ることができるところが、好きです。
登場する科学者たちがいきいきと描かれ、まるで、その場に自分がいたような錯覚に陥ることもしばしばです。
上のビッグバン宇宙論もその例にもれず、地動説vs天動説の時代からビッグバン理論にたどり着くまでの変遷、これからの展望が、アバターばりの迫力で描かれています(アバターみてないですけど)。
実験に疲れたりしたときにぜひ、読んでみてください。
最近、アマゾンで本を衝動買いしてしまうことが多いです。
いちばん最近買った「カオスの中の秩序」という本を前にして、DFラインでパスをまわすしかなかったサッカー日本代表の気持ちがよく分かりました。
拙文、失礼しましたー。
May 16, 2010
サッカーで言うところの
中川先生からのパスということもあり、どうにか枠に飛ばさないといけません。
というわけで、僕も、CDBで行われた先のmeetingに参加しました。
諸事あって初日午後からの参加でしたが、大変楽しめました。
反省としては、最近はどうも守りに入るときが多く、ちょっと前であれば目立ちたい一心で挙手していたところを、こう、まわりをちらりと見渡すあいだに、機会を失ってしまうようなことがよくあった、ということです。
あげく、質問は、今回はいいや、などと勝手に決めて、外のテレビジョンで発表をきいたり、、、
あまり褒められた姿勢ではなかったと思います。
本来虫虫していたこともあってか、RNAまわりの学会、シンポジウムに出ると、どうしても、守りに入ってしまうことが多いんですね。
しかし、そういう自分は好きではありません。
正直言えば、目立ちたい、という感情のかたまりのようなタイプであるところに、中川先生のばしっとした指摘がきましたので、今度からは、全ての口頭発表に対して質問する意気込みで臨もうと思います。
河岡が参加した全演題数に対する質問回数が1/3を下回った場合には、罰ゲームをやらせていただきます。
上のような反省もありますが、一方で、とてもたくさんの収穫があったシンポジウムでした。
僕は常に、こういった会に参加するときは、「飲み会がいちばん大事だ!」と考えています。
飲み会は、いろいろな方とコミュニケーションをとり、和を広げる最大のチャンスを与えてくれるからです。
実際、とても多くの新しい知り合いができ、大変嬉しかったです。
新しい関係を築く瞬間は、いつだってすばらしいものです。
また、いろいろな分野の方の’ポリシー’に触れられることも、こういったシンポジウムの良いところですよね。
自分のポリシーのよいところ、わるいところ、とてもよく分かります。
ポスタも出しましたが、車マイケルさんをはじめ多くの方に自分の研究をきいてもらうことができました。
海外の研究者の方は、発表をきくときの相づちがのりのりなのでで、すぐに気持ちよくなってしまいます(笑)。
影山先生に、「仮説が美しい場合は、たいてい正しい!」と言われたことが印象に残っています。
自分の仮説は、もう、子どもみたいにかわいがってますので、もとより親バカになんてすてきな仮説だ、と思ってるわけですが、美しい、と言われるともう、飛び上がりたいような気分でした。
以上を要するに、全体の場での質問をしなかったことが情けないかぎりですが、それは次回必ず改善するとして、意義ある楽しいシンポジウムでした。
中川先生の記事にもありましたが、運営に携わってくださった方々にこの場をかりて御礼申し上げます。
追記として。
二日目の夜、モノポリで圧勝、まさに圧勝しました。
河岡慎平
May 15, 2010
CDB meeting
この会、理研CDBの中村さんと中山さん、それから当新学術の代表の泊さん、もう一つRNA関連の新学術の代表の稲田さん、それから京大の大野さんや神大の井上さんらの企画ではじまったもので、海外からの参加者が30名余り、うち招待スピーカーが13名、ポスター演題100題越え、呼んでもいないのに(?)EMBOのエディターが飛んでくるという、とっても国際色が豊かで、かつ内容の濃いものでありました。個人的には、憧れのCarmichaelさんにも会えましたし、初っぱなのトークでいきなり会のテンションをトップギアに入れたスプライシングのBlencoweさん、おしゃべり好きでいつも皆が食べ終わっているのにお昼のお弁当が一人だけ残っていたおちゃめなXist研究者Gribnauさんら、個性豊かな研究者と話が出来てとても嬉しかったです。このような会が日本で開催される、そしてそこに学生さんがどんどん参加できる(なんとCDB meetingの参加費はタダ!)ということに、よき時代を感じずにはおれません。
この会に参加して、何点か思ったこと。
今回の参加者は、特に海外からの招待講演者は、かならずしも世間的に名の売れた超著名の人ではなかったかもしれません。ただ、みなさん全部バリバリ現役、しかも会に参加することに貪欲な若い人が多かったのがミーティングをものすごく盛り上げたのは間違いないと思います。自分の発表だけその場にいてあとは神戸観光、なんてひと、一人もいませんでしたから。交流に熱心になってビールを飲み過ぎて二日酔いになっていた人はいたようですが。。。大御所はいらん。若い人を、熱心な人を、というオーガナイザーの方々の一貫した方針があったおかげで、この会がこうも「盛り上がった」のは間違いないでしょう。そこかしこで、この会はおもろい、CSHLのミーティングより面白い、とかいう声がきこえてました。
日本人の若い学生さん達。参加するだけじゃダメだというのは良くわかっているとは思うのですが、その割には質問が少なかったですねー。ただ、休み時間やポスターなど、頑張っている人は頑張っていたようです。まあ、なんでもよいから質問しろ、岡田節人先生などWhat is DNA?でも良いから質問しろ、などとおっしゃられていたようですが、ちょっと時代は変わってきているのかもしれません。かつて日本で行われていた「国際会議」はちょっとお祭りみたいなところがあって、英語が苦手な学生さんの発表や質疑応答もご愛敬みたいなところがあったような気もしますが、で、そういう場で皆練習を積んだもんですが、最近はあきらかに全体のレベルが高すぎて、かつては名物だったご愛敬質問がむしろ場に合わない、みたいに思ってしまうのかもしれません。ただ、恥をかくのは若者の特権。突撃と撃沈をもっと見たかったような気もします。
これは会全体の話とは違うのですが、大学院の教育について。僕自身は大学院教育にはほとんど関わっていないのですが、海外からのゲストと話をしていてよく出ていたのは、「大学院生はすぐ目の前の実験に夢中になるからねー」ということ。これ、ネガティブな意味なのですね。PIとしては目の前の実験に夢中になってバンバン結果を出してくれればこの上ありませんが、そりゃいかんのではないか、とそろそろ業界全体が再考しても良いような気はします。恥ずかしながら、僕自身、RIの再教育訓練や大学院の講義に全く出ずに自分の実験ナンバーワン、なんて思っていましたが、今からすると全くもって忸怩たる重いです。自分の将来の可能性をわざわざ狭くすることはないし、サイエンス全体として考えたときにより多くのバックグラウンドを持つ人がどんどん出てくることは大きなプラスです。先述のBlencoweさんの研究室がある建物。各階に異分野の研究室がわんさか集まっていて、しかもその研究室同士を直接つなぐ形で階段があるみたいなんですね。誰が設計したんでしょう。そのほか、面白い仕事をしている人はバックグラウンドが広いなあ、というのを痛感した会でもありました。
ちなみにこのCDB meeting。驚くべくことに事務仕事はほとんど遠山さんと高橋さんという、二人の方でやられているのですよね。和光の理研ではこの手の会議を開くたびに研究室全体がてんてこ舞い、なんてことになるようですが。雲泥の差です。理研CDBがうらやましー、のはそうなのですが、そんなことを言っておらずに、自分らの組織でもこういう人を持てるように努力せねばならんと、思った次第です。誰も文句を言わない実績を組織のみんなが出し続けていれば、自然とそういうふうな人を雇えるようにもなってくるでしょうから。
だらだらになってしまいましたが、ともあれ、関係者の皆様、素晴らしいミーティングをありがとうございました。
K岡君。あんまり質問してなかったから、もしこれを読んでいたら、ミーティングの参加記ぐらい書きなさい。と、ふっておきます。
中川
April 28, 2010
基幹研究所チュートリアル科学道場ー拙者と切磋琢磨いたさぬか?
http://www.riken.jp/lab-www/nakagawa/dojo/
前にもすこしここに書き込んだのですが、理研にも学生さんが若干ながらいます。理研には三島にある遺伝研や岡崎にある基生研・生理研とちがって大学院がないので、当然ながらそれら学生さんは本職といいますか、所属先の大学院があります。とはいえその所属先の大学院の講義なりセミナーなりに毎回出席するというのは物理的にも精神的にも大変なので、ついつい、目の前の研究に没頭してしまうことになります。研究に没頭すること、それ自体は悪いことではありませんが、自分の研究室のボス以外のPIを知る機会が全くないというのはほめられたことではありません。一方、大学院の講義なぞ体をなしているんだかいないんだか、という牧歌的な時代もあったようですが、近頃ではそれなりにしっかりしているみたいです。これはとても良いことで、例えば他大学の大学院に進学した場合、大学院の講義がないと、所属研究室以外のPIに身近に触れる機会がぐっと少なくなってしまいます。ところが、きちんと大学院でも講義があれば、食堂で見かける辛気くさいおっさんが、実はとんでもなく難しい数式を魔法のように操るマイスターだった、しかもその人は隣の研究室の人だった、なんてことを知る機会が用意されているわけです。秋深き隣は何をする人ぞ。そうなるとよそ者でも中に入りやすくなるといいますか、この大学院の授業のおかげで他大学の研究室を選びやすくなっている効果は絶対あると思いますし、せっかくの学者さんの卵たちが蛸壺化してしまう危険性を大いに減らしている効果もあるでしょう。
さて、話は戻って理研なのですが、いわゆる講義という物が全く無いので、せっかく研究に参加してもらっている学生さんに、所属先以外の研究室を知る機会がハッキリ言って皆無なんですね。もちろん各種セミナーはありますからそれに参加すりゃあ良い、という理屈はあるわけですが、ぶっちゃけた話、いきなり異分野のセミナーに飛び込んでいって「面白い」と思えるかといえば、そうではないでしょう。まずは異分野のキーワードだけでも理解する、そういう講義シリーズがあってもよいのではないか。いや、そういうシリーズを作ってみましょう。また、学生さんやういういしいポスドクさんに、理研基幹研にはこんな研究分野がある、こんなPIがいる、ということをもっともっと知ってもらおう、ということで始まったのがこのチュートリアルシリーズです。
とはいえ、理研の基幹研、これがカバーしている分野がべらぼうに広いのです。いわゆる物理、化学、生物、すべての分野がごっちゃになっていますから、良く言えば分野を超えた連携が可能、悪く言えば、まったく方向性無し、協調性なし、なんてことになりかねません。学問には階層性があって、例えばハミルトニアンと行動生理学をわざわざ結びつける必要は全く無いわけですし、無理して連携連携と連呼しても、耳ざわりのよい美麗美句に終わってしまうのが関の山でしょう。余りにも分野が違う若手研究者を対象にした「チュートリアルシリーズ」をやることにどれだけの意味があるのか、正直言って僕も良く分からんとこはあります。でも、古典的な「發生学」が遺伝学や生化学、そして分子生物学と出会ってモダンな「発生生物学」へと変身した例を持ち出すまでもなく、連携が美麗美句に終わらん例も多々あるわけです。個人的には、次世代シークエンサーやらマイクロアレイからはき出される大量の情報を前に呆然と立ち尽くすしかない我々迷える子羊を、一見意味のない大量の加速器を使った観測データーを数理的に解析して宇宙の誕生の謎に迫っている物理学者が救ってくれたり何かしてくれたりしないだろうか、と、夢想したり、しています。
このチュートリアルシリーズ、特に非公開というわけではないので、ご興味のある方は是非いらして下さい。前期は生物系なのでいまさら聞くまでもないという方が大半かもしれませんが、後期は物質科学系、期待できますよー。と宣伝しておきます。
またちなみにRNA。「RNAやってます」というのは「ラクロスやってます」ぐらいに微妙にむずがゆい表現なのですが、RNAというキーワードだけで、凄く広い分野の研究者が一体となれるのは凄いことだと思います。敢えて死語を使いますが、ビバ、RNA!
中川