March 31, 2013

Keystone symposiumに参加して


今年のKeystoneはバンクーバーオリンピック会場の一つでもあったWhistlerで開催されました。美しい雪山に囲まれた会場の近くにはバーやレストランが立ち並び、歩いて数分でゲレンデという、学会会場として最高の立地であったと思います。
私は今年で3年連続Keystoneに参加しましたが、今回もハイレベルなトークと活発なポスターセッションに大いに刺激を受けました。しかし今回なにより印象に残ったことは発表の内容ではなく、あるQ and Aでの一幕でした。発表者は有名ながん研究者であるP、その発表に対してコメントしたのはsmall RNA界の大物Zです。

背景を少し話しましょう、P2010年にがんに関わる内因性miRNAスポンジを発見しトップジャーナルに発表しました。彼はmiRNA response element (MRE) を持つすべてのmRNAMREを介して「会話」をしている(相互作用している)というセオリーを提案し、それらのRNAを「Competing endogenous RNA (ceRNA)」と名付けました。

今回Pは最近発表されたcircular RNAceRNAであり、自分が考えたセオリーの広がりを情熱的に語ったわけです。またシンプルな系を用いてmiRNA ターゲット同士が競合し、互いの遺伝子発現に影響し合うという結論をだし、ceRNAセオリーの証明を試みていました。初めて彼のtalkを聴いた他領域に属する人は単純にすごい!新しいセオリーだ!と興奮するのでしょうが、皆様御存知の通りこのセオリー、そしてそれらの研究は別に新しいものではありません。

Q and Aに移り、Zはマイクを持ち、ゆっくり落ち着いた声でコメントしました。「私はこれほど過去の研究を無視した発表を聴いたことがない」。
1、2分間miRNAターゲットとmiRNAデコイに関するこれまでの研究の歴史を滔々と語り、Pがやっていることは別に新しくはないということをわかりやすく皆に、そしてPに伝えたわけです。怒りを込めて。

先程まで情熱的であったPは小さい声で「そのとおりだ」と一言。

Zさんの一刀両断コメントには賛否があるかもしれませんが、私は感動しました。

新しい言葉を作り、過去の研究をないがしろにし、まるで全く新しいアイデアを提唱したかのように振る舞うというのは良くない。やはり先行研究には最大限敬意を払うべきだと思います。それは実験材料や実験系でも同じですね。

トップ研究者のこんな激アツなやり取りを見られるのもKeystoneならでは。来年も是非参加できたらなとおもいます。

岩川 (泊研)

March 28, 2013

神Neilさんの神レビュー

神Neilさんが渾身の素晴らしいレビューを書かれています。とりあえずアブストラクトをコピペしますが、以前このブログでもディスカッションされていた、こんな疑問とか、こんな疑問とか、つまるところ、長鎖ノンコーディングRNAの研究ってこれで良いの?という研究現場サイドの戸惑いや疑問をぐぐっと濃縮して、非常に分かりやすく、as such満載で、書かれています。

本気でこの業界で仕事をしようとしている人は必見!!です。こういう素晴らしいレビューをきっかけにサイエンスは発展するのだと思います。Xistってややこしい、と思っていた人も、一気に多くの疑問が氷解することでしょう。


Noncoding RNA and Polycomb recruitment
Neil Brockdorff
RNA 2013; 19: 429-442
A plethora of noncoding (nc) RNAs have been revealed through the application of high-throughput analysis of the transcriptome, and this has led to an intensive search for possible biological functions attributable to these transcripts. A major category of functional ncRNAs that has emerged concerns those that are implicated in coordinate gene silencing, either in cis or in trans. Xist and other ncRNAs have been shown to bind to PRC2, a repressive chromatin modifying complex. Silencing has been proposed to involve direct interaction between PRC2 proteins and the different ncRNAs. This review discusses the evidence for and against this hypothesis, in the process highlighting alternative models and discussing experiments that in the future will help to resolve existing discrepancies.


中川

March 24, 2013

評価と評価

大河ドラマついに始まりましたが、大河ドラマだけあって、毎日更新とはいかないようです。月にいっぺんぐらいでしょうか。暖かく、見守ってください。現在進行形でのバイオインフォマティシャン誕生物語になるか!とも思ったのですが。そもそも、まだ「成っていない」人が、現状を語るというのは、結構ハードルが高いのでしょう。

とは言え、先人の偉大な回顧録を聞く機会は多いですが、人生の糧にはなっても、実践的にはあまり役に立たない事が多い、なんてことはないでしょうか。いや昔は苦労しましてね、こんな材料を、こんなところで手に入れましてね、というのは、話としては面白いのですが、また、明日へのモチベーションは高くなるのですが、直接役立つという話ではありません。僕の世代の苦労話と言えば縮重プライマーを用いたファミリー分子取りやサブトラクションスクリーニングにまつわる話でしょうが、ゲノムが解読されて次世代シークエンサーがある今の若い世代の人には、100%、役に立たんでしょう。仕事の価値というのは、時代によって変わるものです。昔の事をずっとやっていてもダメ。それは当然ですが、変化の早いこの時代、仕事の評価というのは、とてつもなく難しものだと思います。

論文の価値も、評価不可能です。インパクトファクター、引用数、いろいろありますが、ある一面を切り取っていますが、万能な評価ではないのは明らかです。インパクトファクターは論外ですが、引用数だけ見ても、それが学問的な価値を反映しているとは僕には到底思えません。少なくとも、僕自身がほんのちょっぴりサイエンスの世界で積み重ねてきた数少ない業績を振り返ってみても、自己評価(多分ピアレビューと言う意味ではかなり正確なはず)と、インパクトファクターは一致しないのはもちろんの事、引用数ですらあまり相関はありません。

話はそれますが、昨日、実に嬉しい出来事がありました。そう。第2回電王戦第一局。見事、コンピューターに、阿部光瑠4段が完勝しました。印象的だったのは、プロの解説者が口を揃えてこれは無理攻めだろうというコンピューター側の攻撃を、多くのコンピュータソフトの評価関数では「良し」としていた点です。プログラムの穴と言えば穴なのでしょうが、要は20手ぐらいはずっと形勢が良いけれどもそのあとぱたりと形勢が悪くなる、という一手を、コンピューターは先を読めずに選んでしまっているのですね(それ以上先を読もうとすると組み合わせの数が指数的に増大するので宇宙の年齢ぐらい時間がかかってしまう)。将棋の場合は王さまが取られたら負けなので研究とは全く比較できませんが、コンピューターのプログラム上の評価関数の根本をくつがえすような阿部光瑠4段の差し回しは、同じ人類として快哉を叫びたいとともに、評価って言うのは一体なんなんだろう、ということを改めて思い返してしまいました。

野依さんは蓮舫さんに「歴史の法廷に立つ覚悟があるのか!!!!」と一喝されました。多くの研究者も同感だったに違いありません。僕もそうでした。が、正直、(科学技術を取り巻く諸問題に対する)日々の行動に関して歴史の法廷に立つ覚悟は、僕自身、あまりありません。人間、いろいろ弱いものですから。ただ、実験の結果だけは、これは真実ですから、信じられるし、覚悟もあるんですよね。残酷な事に多くの実験結果は「ふふふ、まだまだおぬし、未熟じゃのう」と今日もまた不適な笑いを浮かべているのですが。

中川