ncRNAの話題とは少しずれてしまうのですが、昨日、和光の理研にOISTの柳田充弘さんをお招きして、研究について、そして今の日本の現状について大いに語っていただくという空恐ろしい(?)企画がありました。
僕自身が学部生の頃、挑発的な言葉で若者の自尊心を刺激する柳田さんの講義を聞いた後はいつもムキになって勉強したことをよく覚えているのですが、おそらく今回の講義を聞いた学生さんや若いポスドクの方々も同様の刺激を受けたのではないでしょうか。特に僕にとって印象深かったのは、柳田さんが学生時代、1週間実験してデーターを見て考えるのは5分で良い、という教育を受けてきたが、ケンブリッジのMBLに共同研究で短期滞在した時、当時そこにおられたアーロン・クルグさんの、とにかく一つのデーターについてとことんとことん議論するというスタイルに触れたことが研究人生の上で大きな転機になった、というお話でした。そういえば僕も、留学先で、チョーク一本で(スライドはなし!!)1時間ディスカッションするというチョークトークというセミナーがあることにおったまげた記憶があるのですが、そういった伝統がかの国にはあるのかもしれません。ああでもない、こうでもない、と日がな一日議論しているよりはとにかく実験。そういう風潮に染まりがちなところは特に実験生物学の分野ではありがちだとは思うのですが、長いスパンで考えたときにはやはり腰を据えてとことん考えてみるということも時には必要なのかもしれません。
今回の柳田さんのお話のメインテーマは「学問の継承」で、現在の日本には個別のベクトルとしては非常に優れた研究がたくさんがるが、それが大きな流れとなって歴史として残るところまで行っていないのではないか、という問いかけをされていました。なぜそうなのだろう。ということですね。鈴木梅太郎や高峰譲吉などキラ星のように輝く偉大なる先陣がいたにもかかわらず、なぜ世界から尊敬される科学大国にいまだになっていないのだろう。今なっていないとするのならば、これからなることは出来るのだろうか。そう聞かれれば、たぶんそれはないと思っている日本人が多いのではないですか。その一方で、中国はこれから世界に冠たる科学大国になるのか?と聞かれれば、なんかそうなりそうな気がする、と思う人は多いのではないですか。それはなぜなのでしょう。歴史を知りましょう、そのためにも年の離れた研究者と話をしましょう。みんなで考えましょう。
いやー、実にいろいろ考えさせられるお話です。柳田さんのブログの方にスライドの一部が出ているようです。ぜひご覧下さい(というかあのブログの読者の集合にこのブログの読者は完全に含まれているような気もしますが、、、)
http://mitsuhiro.exblog.jp/18192407/
懇親会でもおおいに気を吐き、駅前の車道を堂々と横断して帰っていかれる柳田さんは、まさにロックンローラーの趣でした。上の世代からいずれは下の世代にバトンは渡ってきます。とてつもなく大きな宿題が残されているようです。
中川
なぜ、日本が科学大国になっていないのか、という問いに対するわたしの個人的な答は、「もう既になっている」です。十分な数の論文が出ていますし、生物学関係はともかくとしても、科学分野全体ではノーベル賞を取るような重要な成果も上がっています。アメリカのように、総合力で世界でトップクラスの国かと言われるとそれは確かに違うのですが、人口や科学予算の点から考えれば、決して見劣るするものではないと思います。少なくとも科学の面でも先進国と言ってよいです。ただし、GDP第三位の国としては少々物足りないのも事実なので、現状よりもう少し頑張ってもいいとは思いますが、個人的には、日本のアカデミアの将来は明るいと思っています。
ReplyDeleteおそらく大事なのは、実際には科学大国と呼んで差し支えない状況にあるにもかかわらず、それを国民が理解していないのは何故か、ということのような気がします。おそらく、予算獲得と広報活動が一致していないことが原因の一つでしょう。この点はおそらく将来的には改善されると思いますが、少なくとも科学研究の大事さ・面白さを今の中高生から大学生に伝える必要は強く感じます。
また、私自身は日本の科学者が、国際会議等で積極的に発言しない傾向があることも少し気になっています(自分自身への反省も含まれています)。あれこれと意見を言うのは簡単なのですが、言い出しっぺが責任をとるのが世の常ですので、時間的・予算的余裕のない場合は、どうしても尻込みしてしまうのではないかと想像しています(もちろん、欧米との距離やコミュニケーションの問題も関係あるでしょう)。これを解消するのはあまり簡単ではない気がします。
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影山裕二@神戸大学