せっかく再会したカイコの連ドラの直後の投稿すいません。旬のある話なので、、、ぜひページの下の方のエントリーの方から先にお読みください。
さて。
世の中の至る所に壁はあります。我々の業界ならば、まずは自分の心の壁、研究室の壁、研究領域の壁、分野の壁、などなど。かつては助手、助教授、教授、と同じ箱の中でキャリアを重ねながら研究を進めてゆく文化もあったようですが、このごろではそのような道筋を辿る人はかなりレアで、いろいろな研究室で経験を積んでゆくことが、己の視野を広げるためにも、また自分の関わる分野を発展させるためにも必要である、ということが広く受け入れられつつあるような気がします。そもそも研究室を変わらなかったにせよ、次々と開発される新しい技術なり解析手法なりを積極的に導入してゆかなければ、なかなか新しいことが分からないというのが現実です。また、いろいろな研究室を渡り歩いて多様な文化を吸収したとしても、いざラボを持ってから自分の研究室の中に閉じこもってしまったら何の意味もありません。
いろいろある壁のなかでも、研究室の壁というのは意外と大きいような気がします。特に学生さんが10人も20人もいる大きな研究室の場合、その研究室の中だけでそれなりに多様な社会が出来てますから、あえて外に空気を吸いに出かけなくても息苦さを感じることは少ないかもしれません。メンバーが二人でお互い仲悪かったらいやでも外に友達を作るでしょうが。そういう剣呑な雰囲気でなければ、他の研究室の人と交流するとしても、せいぜいソフトボール大会や駅伝大会ぐらい、という人は珍しくはないのではないでしょうか。同じ学部であったり教室であったりすればその手の交流会で顔をあわす機会がなんとかあるにせよ、学部を超えて、さらには大学を超えて交流、ということになると、かなりこれは難しいことになってきます。
交流というのは社交的な人の場合自然に生まれるものですが、人見知りが激しかったり、孤独僻があったりすると、そうそう生まれるものではありません。また困ったことに研究者には、自分がそうだから良くわかるのですが、そういう傾向を持った人が、またそういう傾向を持っていることをむしろ誇りに思っている厄介な輩が、特にオス個体で実に多い。交流の場というものを無理矢理にセッティングしないと、きっかけすら生まれないことが多いのが現実です。
そういう意味では、新学術であったり、ちょっと前でしたら特定領域であったりといったグループグラントは、この上ない交流の環境を提供してくれているような気がします。お金に群がるだけなら樹液に群がるカナブンと変わりませんが、こちとら人間様。同じサイエンスを志すものが集まれば、やはりそこには様々な交流が生まれるはずです。かつて、RNAのアの字も知らなかった頃に特定領域のRNA情報網に参加させてもらって、どれだけ色々なことを教えてもらったか。大きなカテゴリーでは同じ分子生物学に属していても、それぞれの研究分野ではデーターの並べ方や実験の進め方に特定の作法があります。裏千家と表千家みたいなものですね。思いもしなかったテクを持っている人がいたり。自分の中ではほとんど役立たずと思っていた知識や手技が他のラボではどうやら役に立つこともあるらしいことが分かったり。当新学術でも、着実に共同研究の芽は生まれ始めているような気がします。
秋、公募の季節です。どのような新しいメンバーが参加してくださるのか、今からとても楽しみです。僕自身も壁を越えて、色々なことに挑戦してゆきたいと思っています。
中川
September 30, 2011
September 29, 2011
カイコドラマチック(10)
だいぶ間があきました。
コンプリートせずに終わるのもなんなので、不定期更新。。。
問題集はさいごの1ページを必ずやらない、というタイプでした。
宣伝ですが、トリミング論文オープンです!!ぜひご覧ください(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21925389)。
**************************************
今回は性染色体に由来するpiRNAのお話です。
カイコの性はW染色体という性染色体の存否によって強力に決定されます。
Wがひとつあると、Zがいくつあろうと雌になります。
そこで、多くの研究者が、「Wのには雌決定遺伝子がある!」と考え、精力的に研究を行ってきました。
ところが現在まで、Wに存在するはずの雌決定遺伝子はおろか、単一のタンパク質コード遺伝子さえも見つかっていません。
それどころか、Wに由来する転写物さえ、ひとつも見つかっていませんでした。
なぜか?実は、Wには厄介な特徴があります。
Wは、トランスポゾンや反復配列に占拠された染色体なのです。
Wの断片配列をのぞいてみると、トランスポゾンのなかのトランスポゾンのなかのトランスポゾンのなかにトランスポゾンがはいっている、なんていう、とんでもなく複雑ないれこ構造になっていることが分かります。
しかも、似たような配列が常染色体にも散らばっているために(トランスポゾンですねえ)、雌ゲノムDNAをゲノム解析に供してしまうと、配列のアセンブリが困難になります(なので、カイコゲノム情報は、雄DNAに由来しています)。
piRNAの多くはトランスポゾンに由来していますので、Wが実はpiRNAのソースなのではないか?というのはそう難しいアイデアではありませんでした。
そこでまず、雄と雌のpiRNAをシークエンスして、単純にその組成を比較してみました。
すると、見つかるわ見つかるわ、雌にたくさんあって雄には少ない、あるいはないpiRNAがやまのように見つかりました。
そして、それらは、Wに存在するトランスポゾンに由来することが多いことが、すぐに分かりました。
逆にいえば、piRNAの組成をみると、そのトランスポゾンがWにいるかどうかが分かりそうだ、ということをがいえます。
そこで、カイコの遺伝資源を活用しよう、ということで、Wが小さくなった系統とか、Wの一部が雄の染色体に転座した系統などのpiRNA情報をみることで、性を決める領域に偏って存在するpiRNA、トランスポゾンの存在を突き止めました。実は、これらのpiRNAがどのような役割を持ちうるか、ということに関しては、弱いながらも種々の傍証があって、それらを含めたもりだくさん論文を投稿していたのですが、蹴られに蹴られました。
piRNA屋さんにはカイコわからね、といわれ、カイコ屋にはpiRNAよくわかりません、と言われる感じで、もちろん、論文書きの能力のせいも(多々)あるのでしょうが、ぼこぼこでした。
しょうがないのでなるべくデータをへらして、メッセージをシンプルにして、もういいや、何部作、みたいな感じにしよう、ということで、ついこのあいだようやく第一部が受理されて、いまin pressです(領域のHPにはアップされています)。
いまだ謎だらけのW染色体ですが、piRNAという方向から、すこしだけその実体が分かってきました。はてさて、性を決める、という大きな能力が何によって達成されているか、というのはいつ分かるのでしょうか。。。
ほんとうはここで終わりかな、と思っていたんですけど、もうすこし書けることがありそうです。随時、不定期更新ということにします。
(たぶんつづく)
コンプリートせずに終わるのもなんなので、不定期更新。。。
問題集はさいごの1ページを必ずやらない、というタイプでした。
宣伝ですが、トリミング論文オープンです!!ぜひご覧ください(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21925389)。
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今回は性染色体に由来するpiRNAのお話です。
カイコの性はW染色体という性染色体の存否によって強力に決定されます。
Wがひとつあると、Zがいくつあろうと雌になります。
そこで、多くの研究者が、「Wのには雌決定遺伝子がある!」と考え、精力的に研究を行ってきました。
ところが現在まで、Wに存在するはずの雌決定遺伝子はおろか、単一のタンパク質コード遺伝子さえも見つかっていません。
それどころか、Wに由来する転写物さえ、ひとつも見つかっていませんでした。
なぜか?実は、Wには厄介な特徴があります。
Wは、トランスポゾンや反復配列に占拠された染色体なのです。
Wの断片配列をのぞいてみると、トランスポゾンのなかのトランスポゾンのなかのトランスポゾンのなかにトランスポゾンがはいっている、なんていう、とんでもなく複雑ないれこ構造になっていることが分かります。
しかも、似たような配列が常染色体にも散らばっているために(トランスポゾンですねえ)、雌ゲノムDNAをゲノム解析に供してしまうと、配列のアセンブリが困難になります(なので、カイコゲノム情報は、雄DNAに由来しています)。
piRNAの多くはトランスポゾンに由来していますので、Wが実はpiRNAのソースなのではないか?というのはそう難しいアイデアではありませんでした。
そこでまず、雄と雌のpiRNAをシークエンスして、単純にその組成を比較してみました。
すると、見つかるわ見つかるわ、雌にたくさんあって雄には少ない、あるいはないpiRNAがやまのように見つかりました。
そして、それらは、Wに存在するトランスポゾンに由来することが多いことが、すぐに分かりました。
逆にいえば、piRNAの組成をみると、そのトランスポゾンがWにいるかどうかが分かりそうだ、ということをがいえます。
そこで、カイコの遺伝資源を活用しよう、ということで、Wが小さくなった系統とか、Wの一部が雄の染色体に転座した系統などのpiRNA情報をみることで、性を決める領域に偏って存在するpiRNA、トランスポゾンの存在を突き止めました。実は、これらのpiRNAがどのような役割を持ちうるか、ということに関しては、弱いながらも種々の傍証があって、それらを含めたもりだくさん論文を投稿していたのですが、蹴られに蹴られました。
piRNA屋さんにはカイコわからね、といわれ、カイコ屋にはpiRNAよくわかりません、と言われる感じで、もちろん、論文書きの能力のせいも(多々)あるのでしょうが、ぼこぼこでした。
しょうがないのでなるべくデータをへらして、メッセージをシンプルにして、もういいや、何部作、みたいな感じにしよう、ということで、ついこのあいだようやく第一部が受理されて、いまin pressです(領域のHPにはアップされています)。
いまだ謎だらけのW染色体ですが、piRNAという方向から、すこしだけその実体が分かってきました。はてさて、性を決める、という大きな能力が何によって達成されているか、というのはいつ分かるのでしょうか。。。
ほんとうはここで終わりかな、と思っていたんですけど、もうすこし書けることがありそうです。随時、不定期更新ということにします。
(たぶんつづく)
September 15, 2011
第7回 Tokyo RNA Clubが開催されました
力のこもった宮田さんの投稿に続いて、もうひとり若手の会に参加した学生さんからのメッセージ、近日中に掲載予定です。
ちょっとその前に、、、
先日、東京は信濃町で第7回目のTokyo RNA Clubが開催されました。今回のホストはおなじみ慶応大学の塩見の春さん美喜子さん。お題は、侵略者への対抗策としての小さなRNA。ショウジョウバエでRNAサイレンシングがウイルスに対抗する「免疫」として働いているという一連の仕事をしてこられたUCSFのラウルさんのトークを皮切りに、農業生物資源研の吉川さん、名大の佐藤(豊)さん、川沿いの照英さん、いやUC RiversideのShou-weiさんたちが、背骨の無い生き物(含植物)でのRNAサイレンシングについて最新の持ちネタをいろいろ話してくださいました。小さなRNAの話は毎週のように新発見が相次ぎなかなかフォローしきれない、というか全くフォローしていないのが実情なのですが、たまにこのようにまとまった話を聞くと今更ながらそのアクティビティーの高さに驚いたり感心したり。長鎖のノンコーディングRNAもいつの日かそれだけでまとまった会が開かれれば、と常々思っていましたが、来る12月の分子生物学会で、埼玉医科大学のリッキー黒川さんが長鎖ノンコーディングRNAの話題に絞ったシンポジウムを開催されます。ドンキホーテの8階で応援していたアイドルがテレビデビューするのを見るというのは多分こういう気分なのだろうなあ、と、何となく思っているのですが、それは余談。
Tokyo RNA Clubは元々は塩見春さん美喜子さんの声かけで首都圏のRNA研究者が定期的に集まって親交を深めましょう、その中でなにかしらの文化が生まれれば良いですね、という趣旨で始まり、今のところ日本で開催される何らかの学会や研究会に来日された海外ゲストとの親睦会を兼ねた国内の若手研究者の登竜門、みたいな感じで回が重ねられているようです。一昔前は海外のゲストと本当の意味で膝を突き合わせて話をする機会などというのは良くて一年に一回、僕自身の大学院生活を振り返ってみても2、3回しかなかったような気がするのですが、このごろでは様々な催しで海外の一流研究者の息遣いを間近に感じられる機会が圧倒的に増えてきました。非常に素晴らしいことだと思うのですが、そのぶん希少価値は薄れてきてしまったという見方もあるのかもしれません。とはいえ、研究者同士の交流に希少価値という要素を持ち込むというのも変な話ではあります。
大変個人的な話で恐縮ですが僕自身思春期を男子校というかなり異常な環境で過ごしたので、大学に入って同じ生活空間に女性がいるというその状況、ただその状況に舞い上がって、今から思えば何をあんなに必死こいていたのだろうと思う無理をあちらこちらで重ねていたような気がします。NHKラジオのフランス語講座のテキストも、毎年購入していました。4月号だけですが。かわいいもんと言えばかわいいもんなのですが、全ての行動基準が、本来の目的をはずれているというのは、あまり健全な姿とは言えません。さすがに大学院に入る頃にはそのような状況には慣れてきましたが、今度は逆にサイエンスにおける欧米という、また別の希少価値が待っていました。
希少価値に対するときめきというのは非常に大きなモティベーションにはなりますが、それほど長く続くものではありません。物事が当たり前になってから何が出来るか、何をするか、というところが結局のところ一番大事なことであるような気がします。良い仕事をされている方々の「凄み」というのは、日常の中で当たり前のように高いモティベーションを持続して持っておられるところだと思います。大学院に進学することも珍しいことではなくなってきましたし、博士号を取るということも、それほど珍しいことではなくなってきました。海外の研究者とも、機会を求めさえすれば、国内に居ながらにしていろいろ接触できる時代にもなってきました。Skypeなんてものもありますし。technology greatです。分かりやすい刺激が無いということは、むしろ本当の意味で自分のやりたいことを見つめるための、最高のコンディションなのかもしれません。
中川
ちょっとその前に、、、
先日、東京は信濃町で第7回目のTokyo RNA Clubが開催されました。今回のホストはおなじみ慶応大学の塩見の春さん美喜子さん。お題は、侵略者への対抗策としての小さなRNA。ショウジョウバエでRNAサイレンシングがウイルスに対抗する「免疫」として働いているという一連の仕事をしてこられたUCSFのラウルさんのトークを皮切りに、農業生物資源研の吉川さん、名大の佐藤(豊)さん、川沿いの照英さん、いやUC RiversideのShou-weiさんたちが、背骨の無い生き物(含植物)でのRNAサイレンシングについて最新の持ちネタをいろいろ話してくださいました。小さなRNAの話は毎週のように新発見が相次ぎなかなかフォローしきれない、というか全くフォローしていないのが実情なのですが、たまにこのようにまとまった話を聞くと今更ながらそのアクティビティーの高さに驚いたり感心したり。長鎖のノンコーディングRNAもいつの日かそれだけでまとまった会が開かれれば、と常々思っていましたが、来る12月の分子生物学会で、埼玉医科大学のリッキー黒川さんが長鎖ノンコーディングRNAの話題に絞ったシンポジウムを開催されます。ドンキホーテの8階で応援していたアイドルがテレビデビューするのを見るというのは多分こういう気分なのだろうなあ、と、何となく思っているのですが、それは余談。
Tokyo RNA Clubは元々は塩見春さん美喜子さんの声かけで首都圏のRNA研究者が定期的に集まって親交を深めましょう、その中でなにかしらの文化が生まれれば良いですね、という趣旨で始まり、今のところ日本で開催される何らかの学会や研究会に来日された海外ゲストとの親睦会を兼ねた国内の若手研究者の登竜門、みたいな感じで回が重ねられているようです。一昔前は海外のゲストと本当の意味で膝を突き合わせて話をする機会などというのは良くて一年に一回、僕自身の大学院生活を振り返ってみても2、3回しかなかったような気がするのですが、このごろでは様々な催しで海外の一流研究者の息遣いを間近に感じられる機会が圧倒的に増えてきました。非常に素晴らしいことだと思うのですが、そのぶん希少価値は薄れてきてしまったという見方もあるのかもしれません。とはいえ、研究者同士の交流に希少価値という要素を持ち込むというのも変な話ではあります。
大変個人的な話で恐縮ですが僕自身思春期を男子校というかなり異常な環境で過ごしたので、大学に入って同じ生活空間に女性がいるというその状況、ただその状況に舞い上がって、今から思えば何をあんなに必死こいていたのだろうと思う無理をあちらこちらで重ねていたような気がします。NHKラジオのフランス語講座のテキストも、毎年購入していました。4月号だけですが。かわいいもんと言えばかわいいもんなのですが、全ての行動基準が、本来の目的をはずれているというのは、あまり健全な姿とは言えません。さすがに大学院に入る頃にはそのような状況には慣れてきましたが、今度は逆にサイエンスにおける欧米という、また別の希少価値が待っていました。
希少価値に対するときめきというのは非常に大きなモティベーションにはなりますが、それほど長く続くものではありません。物事が当たり前になってから何が出来るか、何をするか、というところが結局のところ一番大事なことであるような気がします。良い仕事をされている方々の「凄み」というのは、日常の中で当たり前のように高いモティベーションを持続して持っておられるところだと思います。大学院に進学することも珍しいことではなくなってきましたし、博士号を取るということも、それほど珍しいことではなくなってきました。海外の研究者とも、機会を求めさえすれば、国内に居ながらにしていろいろ接触できる時代にもなってきました。Skypeなんてものもありますし。technology greatです。分かりやすい刺激が無いということは、むしろ本当の意味で自分のやりたいことを見つめるための、最高のコンディションなのかもしれません。
中川
September 10, 2011
RNAフロンティアミーティング2011(若手の会)と“脱皮”
初めてこのブログに登場させていただきます。京大ウイルス研・大野研究室・博士課程学生の宮田淳美と申します。
私は、8/30から9/1まで、愛知で行われた「RNAフロンティアミーティング2011(若手の会)」に参加させていただきました。特別講演も入れて63個のトークがあり、うち39個は学生によるものでした。学生の皆さんの発表は、みな完成度が高く、同じ学生として大変刺激を受けました。また先生方のハイクオリティな質問が飛び交うなか、学生の皆さんも果敢に良い質問をしていて、すごいと思うと同時に、自分も頑張ろうという気持ちが生まれました。
私はM1で初めて若手の会に参加したときから思っていますが、学生の皆さんは、是非とも若手の会に参加すべきです。特に“質問する姿勢を身につける”という点において、非常に良いトレーニングになります。若手の会には学生の質問をencourageする雰囲気があり、周りが「我も、我も!」と質問しているのを見ていると、自然と「自分も質問したい(できる)」という気持ちになってきます。私は今回、M1で出席して以来、7年ぶりの参加でしたが、7年前と比べて、学生の皆さんが自ら質問する姿が自然になっていました。これはきっと、企画者の先生方が長い年月かけて、学生の皆さんをencourageしてこられた結果だろうと思います(質問することの大切さについては、November 4, 2010, 影山先生の「学会での質問」をご参照ください)。
さて、今回私は、中川先生からブログへの投稿を依頼していただき、「私だからこそ書けることは何だろうか」と考えました。“M1で初めて若手の会に参加してから7年ぶり”。先でこう書いたので、もうおわかりだと思いますが、私はD6です。そして実は、今回が初めての学会口頭発表でした。今回のブログでは、こんな出来の悪い、そして諦めの悪い私が、人生初の学会口頭発表を終えたいま考えていることを、中川先生が前回のブログ「夏休み」で書かれた“脱皮”という言葉をキーワードにお話ししてみることにします。
私は今回、「マウス細胞内における28S rRNA上に生じた紫外線損傷の修復」という演題で発表させていただきました。RNAには変異原によってDNAと同様の損傷が生じます。また変異が入ったDNAを元に異常なmRNAが合成されたりもします。これらの異常なRNAに対処する機構として、細胞はNMD, NSD, NGD, RTD, NRD etc…といった多様な分解機構を備えています。しかし修復機構については、まだ数例しか報告されておらず、Mammalにおけるin vivoでの報告例は見当たりません(もしご存じでしたら、教えていただければありがたいです。よろしくお願い致します)。私は今回、「マウス線維芽細胞(NIH3T3)に紫外線を照射したとき、28S rRNA上に紫外線損傷が生じ、その一部が修復されている可能性がある」という新しいRNA修復の現象を見つけたので、その解析結果をご報告させていただきました。そして皆様に興味を持っていただくことができ、光栄にも、ベストプレゼンテーション賞をいただくことができました。
しかし今回の報告に至るまでの日々は、本当に大変なものでした(私が「新しいRNA修復機構を見つけたい」と考えるに至った経緯や、今回の発表までに経験した苦労などは、いつか書かせていただく機会があるかもしれないので、今回は省かせていただきます)。
今回の特別講演でお話しくださった、渡邉嘉典先生と塩見美喜子先生のお話も、たくさんの素晴らしい研究成果の裏に多くの困難があったことがうかがわれるお話でした。また、美喜子先生がお話しされた、「Joan SteitzがFrancis Crickのラボに居たとき、Crickから『ベンチは男のものだ』と言われて、ベンチを与えてもらえなかった」というエピソードも、非常にショッキングなものでした。
しかし、先生方は、どんな困難に遭っても、研究することを諦めませんでした。
『知りたいことがあるから、とにかく諦めない。』
渡邉先生は、とにかく興味を持った“減数分裂”という現象を、どんな困難に遭っても諦めずに追い続けてこられたのだとわかりました。美喜子先生は、数年間のテクニシャン時代や、“結婚・出産・子育てと研究の両立”という難しい問題を経験されても、柔軟に対応し、かつ、ひたすら真摯に研究に打ち込んでこられたのだと感じました。Joan Steitzも、ベンチを与えられないという、あまりに酷い目に遭いながらも、研究をやめず、素晴らしい研究成果を発表し続けています。皆さん、なんとすごいのだろうかと感動します。
私自身も、自分のこれまでを振り返ってみて、「これまでよく研究テーマ・研究自体を諦めなかった」と思うほど辛かったですが、それでもなお今、「やっぱり、私はこの研究に出会えて幸せだ」と思っています。私に関していえば、もちろん自分に至らないところがあるから苦労してきました。でも、「やはり苦しい経験から何かを学んで、“脱皮”をして大きくなることこそに意味がある」、「またそういう姿勢を保たなければならない」というのが、私の得た結論です。「自分には能力が無いかもしれないけれど、それでも、この現象について知りたい」、「この現象を追究していくだけの研究能力を身につけたい」、今はそう思います。“脱皮”を繰り返しながら、少しずつでも大きくなっていけば、一生を終える瞬間までに、何かを成し遂げられているかもしれません。またこの世界について、自分なりの理解が深まっているかもしれません。研究することは、哲学を構築していくことに通じますから。
最後に素敵な話を一つ。
京大名誉教授の由良隆先生(1992年退官)、伊藤維昭先生(2007年退官)は、今も場所を探して、自ら実験されています。由良先生は、「老眼でよく見えないんだよ~」とおっしゃりながら、大腸菌プレートをつつかれていました。伊藤先生は、ウイルス研のRI室で毎日のように実験されていました。先生がRI室を使う頻度が高かったため、掃除当番が当たってしまうほどでした。さらに由良先生は、2007年にFirst AuthorでPNASに論文を発表されました。私が由良先生に「この前First AuthorでPNASに論文出されていましたね!すごいですね。」と言うと、「そうなんだよ~、これから面白くなりそうで。」とニコニコしていらっしゃいました。いつまでも研究に夢中な先生方の姿は、とても素敵でした。
私以外の学生の皆さんも、きっとそれぞれ、大変な辛さ、挫折感を味わってこられたことと思います。でも、私たちから見て完璧に見える先生方でも、中川先生のブログ「夏休み」からうかがわれるように、今なお一生懸命、成長しようと頑張っていらっしゃいます。由良先生も、伊藤先生も、今なお研究に情熱的に取り組んでおられます。私たち学生も、そんな先生方の背中から色々なことを学ばせていただきながら、どんな困難があっても諦めずに、頑張っていこうではありませんか!そして、まだまだわからないことだらけで、面白い発見がたくさん隠されているRNAの世界を、共に開拓していこうではありませんか!開拓には、困難に負けない強い情熱が必要です。
私は、8/30から9/1まで、愛知で行われた「RNAフロンティアミーティング2011(若手の会)」に参加させていただきました。特別講演も入れて63個のトークがあり、うち39個は学生によるものでした。学生の皆さんの発表は、みな完成度が高く、同じ学生として大変刺激を受けました。また先生方のハイクオリティな質問が飛び交うなか、学生の皆さんも果敢に良い質問をしていて、すごいと思うと同時に、自分も頑張ろうという気持ちが生まれました。
私はM1で初めて若手の会に参加したときから思っていますが、学生の皆さんは、是非とも若手の会に参加すべきです。特に“質問する姿勢を身につける”という点において、非常に良いトレーニングになります。若手の会には学生の質問をencourageする雰囲気があり、周りが「我も、我も!」と質問しているのを見ていると、自然と「自分も質問したい(できる)」という気持ちになってきます。私は今回、M1で出席して以来、7年ぶりの参加でしたが、7年前と比べて、学生の皆さんが自ら質問する姿が自然になっていました。これはきっと、企画者の先生方が長い年月かけて、学生の皆さんをencourageしてこられた結果だろうと思います(質問することの大切さについては、November 4, 2010, 影山先生の「学会での質問」をご参照ください)。
さて、今回私は、中川先生からブログへの投稿を依頼していただき、「私だからこそ書けることは何だろうか」と考えました。“M1で初めて若手の会に参加してから7年ぶり”。先でこう書いたので、もうおわかりだと思いますが、私はD6です。そして実は、今回が初めての学会口頭発表でした。今回のブログでは、こんな出来の悪い、そして諦めの悪い私が、人生初の学会口頭発表を終えたいま考えていることを、中川先生が前回のブログ「夏休み」で書かれた“脱皮”という言葉をキーワードにお話ししてみることにします。
私は今回、「マウス細胞内における28S rRNA上に生じた紫外線損傷の修復」という演題で発表させていただきました。RNAには変異原によってDNAと同様の損傷が生じます。また変異が入ったDNAを元に異常なmRNAが合成されたりもします。これらの異常なRNAに対処する機構として、細胞はNMD, NSD, NGD, RTD, NRD etc…といった多様な分解機構を備えています。しかし修復機構については、まだ数例しか報告されておらず、Mammalにおけるin vivoでの報告例は見当たりません(もしご存じでしたら、教えていただければありがたいです。よろしくお願い致します)。私は今回、「マウス線維芽細胞(NIH3T3)に紫外線を照射したとき、28S rRNA上に紫外線損傷が生じ、その一部が修復されている可能性がある」という新しいRNA修復の現象を見つけたので、その解析結果をご報告させていただきました。そして皆様に興味を持っていただくことができ、光栄にも、ベストプレゼンテーション賞をいただくことができました。
しかし今回の報告に至るまでの日々は、本当に大変なものでした(私が「新しいRNA修復機構を見つけたい」と考えるに至った経緯や、今回の発表までに経験した苦労などは、いつか書かせていただく機会があるかもしれないので、今回は省かせていただきます)。
今回の特別講演でお話しくださった、渡邉嘉典先生と塩見美喜子先生のお話も、たくさんの素晴らしい研究成果の裏に多くの困難があったことがうかがわれるお話でした。また、美喜子先生がお話しされた、「Joan SteitzがFrancis Crickのラボに居たとき、Crickから『ベンチは男のものだ』と言われて、ベンチを与えてもらえなかった」というエピソードも、非常にショッキングなものでした。
しかし、先生方は、どんな困難に遭っても、研究することを諦めませんでした。
『知りたいことがあるから、とにかく諦めない。』
渡邉先生は、とにかく興味を持った“減数分裂”という現象を、どんな困難に遭っても諦めずに追い続けてこられたのだとわかりました。美喜子先生は、数年間のテクニシャン時代や、“結婚・出産・子育てと研究の両立”という難しい問題を経験されても、柔軟に対応し、かつ、ひたすら真摯に研究に打ち込んでこられたのだと感じました。Joan Steitzも、ベンチを与えられないという、あまりに酷い目に遭いながらも、研究をやめず、素晴らしい研究成果を発表し続けています。皆さん、なんとすごいのだろうかと感動します。
私自身も、自分のこれまでを振り返ってみて、「これまでよく研究テーマ・研究自体を諦めなかった」と思うほど辛かったですが、それでもなお今、「やっぱり、私はこの研究に出会えて幸せだ」と思っています。私に関していえば、もちろん自分に至らないところがあるから苦労してきました。でも、「やはり苦しい経験から何かを学んで、“脱皮”をして大きくなることこそに意味がある」、「またそういう姿勢を保たなければならない」というのが、私の得た結論です。「自分には能力が無いかもしれないけれど、それでも、この現象について知りたい」、「この現象を追究していくだけの研究能力を身につけたい」、今はそう思います。“脱皮”を繰り返しながら、少しずつでも大きくなっていけば、一生を終える瞬間までに、何かを成し遂げられているかもしれません。またこの世界について、自分なりの理解が深まっているかもしれません。研究することは、哲学を構築していくことに通じますから。
最後に素敵な話を一つ。
京大名誉教授の由良隆先生(1992年退官)、伊藤維昭先生(2007年退官)は、今も場所を探して、自ら実験されています。由良先生は、「老眼でよく見えないんだよ~」とおっしゃりながら、大腸菌プレートをつつかれていました。伊藤先生は、ウイルス研のRI室で毎日のように実験されていました。先生がRI室を使う頻度が高かったため、掃除当番が当たってしまうほどでした。さらに由良先生は、2007年にFirst AuthorでPNASに論文を発表されました。私が由良先生に「この前First AuthorでPNASに論文出されていましたね!すごいですね。」と言うと、「そうなんだよ~、これから面白くなりそうで。」とニコニコしていらっしゃいました。いつまでも研究に夢中な先生方の姿は、とても素敵でした。
私以外の学生の皆さんも、きっとそれぞれ、大変な辛さ、挫折感を味わってこられたことと思います。でも、私たちから見て完璧に見える先生方でも、中川先生のブログ「夏休み」からうかがわれるように、今なお一生懸命、成長しようと頑張っていらっしゃいます。由良先生も、伊藤先生も、今なお研究に情熱的に取り組んでおられます。私たち学生も、そんな先生方の背中から色々なことを学ばせていただきながら、どんな困難があっても諦めずに、頑張っていこうではありませんか!そして、まだまだわからないことだらけで、面白い発見がたくさん隠されているRNAの世界を、共に開拓していこうではありませんか!開拓には、困難に負けない強い情熱が必要です。
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