July 4, 2011
学会の英語化は必要か?
本郷三丁目の飲み屋での一言から始まったこのblogも、気がつけば31,000ページビューとなりました。試験運用から20ヶ月ですので、一日あたり50ページビューです(最近に限ればもっと多いですけれど)。これを多いと見るか少ないと見るかは見方によりますが、非コードRNA領域のホームページが通算で40,000ページビューであることを考えると、まずまずの数字ではないかと思います。
それはさておき、このところ国際学会あるいは英語化された国内学会に参加する機会が多くなり(残念ながら RNA meeting には参加できませんでしたが)、そのときに感じたことを書いてみます。あらかじめ書いておきますが、自分なりの答があるわけではありませんので、いつも通り書きっぱなしです。
英語化のメリットはたくさんありますが、運営する側から言えば、外国からのゲストスピーカーを呼びやすくなることがまず挙げられます。日本語一辺倒の学会は来て下さいとお願いするのはやはり心苦しいものがあり、来てもらう際には相手側にも何らかのメリットがあるように気を配らなければなりません。この点、学会が英語化されていれば、学会そのものを楽しんでもらうことも出来るわけで、それほど気を遣わなくてもいいことになります。安直かもしれませんが、たくさん有名人(=各分野のリーダーサイエンティスト)を呼ぶことが出来れば、それだけで学会のクオリティが上がる(=学会の存在価値が高まる)ので、この点は結構重要であると思います。
一方、一般参加者にとっては、外国の参加者が増えるために発表の認知度が上がる(≒論文を通しやすくなる)というメリットがあります。RNA meeting などは最たるもので、その分野の大御所をはじめとした多くの人達にアピールできるのですから、その効果は絶大でしょう。
また、学生を含む 若い人達にとっては、英語で自分の研究内容を説明するよい機会になります。だったら海外の学会に参加した方がよいと言われそうですが、海外の学会に参加する場合は自分の英語の拙さだけを実感して終わることもあるのに比べ(経験あり)、日本(あるいは他のアジア諸国)で行われる学会の場合は、参加者のほとんどが non-native ですから、まわりに気後れせずに存分に broken English(Janglish)を話すことが出来る、というメリットは、確かにあると思います。
デメリットの方はどうかというと、なにより知らない分野の話について行けないという点が挙げられるでしょう。何となく聞いているとすぐにおいていかれてしまいます。日本に住んでいる限り、日本語の情報量の方が多いのは仕方ないので、特になじみの薄い分野は日本語の方がわかりやすいというのは事実であるように思います。学会を楽しむ、あるいは視野を広げるという観点からすれば、これは学会の存在意義にも関わる大きな損失であろうと思われます。また、英語でのコミュニケーションには気合いが必要という人には、気楽に参加するという気分ではなくなるのも確かです。プレゼンターの力量にもよりますが、自分の専門分野以外の話題が気軽に楽しめないのはやはり困ります。
なお、質問がしにくい、議論が深まらないと思う方もいるかもしれませんが、よく言われるように、そういう人は日本語でやってもおそらく質問しないと思いますし、深い議論をしたいときには英語は大して妨げにならないと思います。その発言は捨てておけないとか、何とか留学先を見つけたいとか、どうしても論文を通したいとか、本気で伝えたいときには、英語であろうが日本であろうが必ず伝わるもんです。
学会の英語化がよいのかどうかについては、相反する要素を含んでいるのも確かで、実際のところよくわからないでいるのですが、積極的に英語化のメリットを利用しようとしている学生の姿がこのところ目に付くようになったような気がしています。それが気のせい(年のせい?)でないとすれば、最近減少しつつある海外への留学機会を補うものになるのかもしれません。もしもそうならば、英語化にやや偏重しつつある最近の風潮もあながち間違いではないのかも、と思います。
影山裕二/岡崎統合バイオ
June 26, 2011
Science is so social
初めまして、東京大学大学院新領域創生科学研究科メディカルゲノム専攻 RNA機能研究分野 博士課程1年の吉川真由と申します。めくるめくRNA week を終えても、いまだ余韻冷めやらぬ状態です。私は、6月13日に開催されたTokyo RNA Clubおよび6月14日から18日にかけての国際RNA学会に参加しました。これまでの人生で最も多くのscientistsと交流した一週間であり、”Science is so social” (James Watson)という言葉を、身をもって体験しました。
Tokyo RNA Clubは当研究室の泊さんが主催者ということもあり、講演者の方々を空港に迎えに行くことから始まりました。私は、Molecular Cellの編集者であるJohn Pham氏をお迎えし、ホテルまでお送りしました。贅沢にも、成田エクスプレスの中でじっくりと、RNA研究やPham氏のキャリアパス、米国での研究生活の話を伺うことができました。翌朝、Tokyo RNA Club当日は、講演者の方々をホテルまでお迎えに上がりました。「ボスのボスを、ボスと迎えに行く」という貴重な機会に恵まれ、ロビーでのPhillip Zamore氏と泊さんは本当の親子のようで、素敵なツーショットを見ることができました。Zamore氏に ”Do you often argue with Yuki?” と聞かれ、もっとdiscussionしに行かねばなぁ、と反省した次第です。その後のnon coding RNA関連の講演、特にsmall RNA関係の発表については、発表も非常にクリアで興味深いものでした。Non coding RNAというテーマでこのような大規模な会が開かれることから、あらためてnon coding RNA研究の注目の高さを実感しました。
引き続いて行われた国際RNA学会は、2年前から楽しみにしていたものでした。私自身は、口頭発表はもちろん、ポスター発表も無かったのですが、このような大きな学会に参加させていただくことは初めてでしたし、少しでも目標とする方々のいらっしゃる環境に身を置くことで、自分を鼓舞しようと考えて参加しました。ひょんなエピソードとしては、Welcome dinner開始の15分後に到着したのに、すでにdinnerがほぼなくなっていて、学会のfood distributionを心配しましたが、3日目以降からは改善されたので安心しました。といっても、振り返ってみれば、もともと私は学会中に食事が提供されることを把握していなかったので、食事があっただけで満足しなければと、自分自身を無理矢理納得させましたが。
Mentor/Menteeランチでは私たちのテーブルにRoy Parker氏(RNA翻訳研究の大家)が来てくださり、非常に考え深いメッセージを残してくださいました。ポスドクでアプライする際には、実績は勿論だが、Letterや面接を重視するとの事。数あるアプライのほとんどの書類は読んでもらえない可能性があるので、10分程度の自分のプレゼンをビデオに録画し、添付してメールすると良いと。さらにはしばしば陥る命題にもアドバイスを下さいました。「自分は科学者に向いているのか」「向いていないと思う」「なぜ?」「ん・・・頭が悪いし、不器用だし不注意だしetc…」
“Let me ask one thing, do you have strong curiosity?”
なるほど!出来ない理由を挙げるより、自分の好奇心を信じるべきなのですね。
発表については、特にポスター発表が刺激的でした。一枚のポスターに何人も殺到し、順番も気にせず投げかけられる質問の嵐は、発表者泣かせではなかったでしょうか。私自身も、自分の分野に関係のあるポスターに張り付いて質問をしていました。印象的だったのは、一般的に “competitor” とされる研究室の方々も、情報を提供してくださり、私の研究に対しても丁寧にアドバイスしてくださったことです。ポスター発表での質問の時間は、非常に有意義でした。
最終日のBanquetは一力茶屋の芸妓さん、舞妓さんの舞に始まり、樽開きの後は「RNA 2011」と入った升酒が振る舞われました。食事後の交流会では、今まで自分が読んできた論文の著者の方々とお話しする事ができました。あらためて、 “Science is so social”。RNA研究の門戸を叩いたに過ぎない一大学院生とお話ししてくださった先生方、先輩方に心から感謝いたします。今回の学会のような交流の中で新しいアイディアが生まれ、また研究に勤しむ原動力が沸いてくるのではないでしょうか。そして牽制し合うのではなく、切磋琢磨することで、RNA研究分野全体として人類の生命科学研究を一歩前に進められれば素晴らしいことだと思います。
次回投稿する際にはRNA meetingの内容に関してレポートできるよう、日々精進していきたいと思います。最後に、今回の学会である方が紹介して下さったSydney Brenner氏の言葉を紹介して、この文章を終えようと思います。
“The whole idea that science is conducted by people working alone in rooms and struggling with forces of nature is absolutely ridiculous. It is a social activity of the highest order.”
東京大学 大学院新領域創生科学研究科メディカルゲノム専攻 RNA機能研究分野
博士課程1年 吉川 真由
June 19, 2011
浦島太郎、および、実験医学と細胞工学
一般に、学会に参加していると逆浦島太郎効果、といいますか、密度の濃い時間を過ごす分、一週間ラボを離れただけでまるで一年ぐらい留守にしたような気分になるものですが、今回は諸般の事情でラボを離れられず逆の立場に身を置き、一週間程度ではなにも仕事が進まないということが良くわかりました。学会の長期出張から帰ってきたPIは異常に活性化されていることが多く、しかも逆浦島太郎効果のせいで、これだけ長いことラボを留守にしているのだからよっぽど仕事は進んでいるだろう。あの実験はどうなった。この実験はどうした。なにー、まだやっとらんだとー、、、気合いが足らんのじゃ気合いが!!、と、そっと「取り扱い注意」と背中にはってあげたくなるような人もしばしば見かけるのですが、いや自分自身その典型なのですが、逆の立場の人間はたまったものではありません。しかし多くの場合、人間というのは弱いものでともすれば楽な方に楽な方に流れてしまいますから、こういう機会ごとに緩んでいたタガを閉め直すのは大切なことのような気もします。また明日から心を入れ替えて仕事をしようと。浦島太郎にならないように。
さて、それはともかくとして今月、実験医学と細胞工学の特集は、どういう偶然かどちらもノンコーディングRNAです。本領域に参加している研究者も顔を出しております。手前味噌ですが、僕自身もかなり気合いを入れて書いたので、もうこれで思い残すことは無い、、、いや、全く逆で、これだけ謎だらけの状況で仕事が中断したら死んでも死にきれない、ヒトダマになってコールドルームに毎晩出てやるうー、ぐらいに感じています。熱い、暑くるしい研究者たちの雄叫びがみっちりとつまった両特集。ぜひ読み比べてください。少なくとも長鎖ncRNA研究の現況については、両者でほぼひととおりカバーできているのではないかと思います。細胞工学の監修をされた佐渡さん。おつかれさまでした。
そういえば、昔はこれに加えて蛋白質核酸酵素という日本語の総説の雑誌もありました。ともすると日本語の総説は英文の雑誌に比べると一ランク下に見られがちで、Nature reviewsから総説の執筆依頼がきたらそれは名誉なことです、と、二つ返事で引き受ける大教授も、日本語の総説となると、ん、うちの学生のなになに君あたりに書かせようかー、ぐらいになっているのが実情なのではないでしょうか。実際問題、日本語の総説は日本語を解する人しか読めないので、世界の研究者の数パーセントかそれ以下の人しか情報にアクセスできません。また、多くの場合、ピアレビューも無い。その一方で、これら日本語の総説誌を出している出版社の日本語のプロトコール本は非常に良く出回っているような気がします。一昔前、「まいどー。本屋ですー。」と、怪しげなオヤジが売り回っていた海賊版のMolecular Cloning やCurrent Protocolはすっかり見かけなくなりました。日本語プロコール本が広まって自然淘汰されたのか、とうとうあのオヤジがお縄になったのか知る由もありませんが。ともあれ、母国語で専門知識が手に入るというのは、ある意味奇跡的です。英語というのがサイエンスへの壁を高くしているのは間違いありません。夕刊フジや日刊ゲンダイを読む感覚でNatureやScienceを読むことが出来たら、、、というか、そういう感覚で彼らは読んでいる訳ですが、もっと気軽にサイエンスを、というのは、なんとなく、常々思うところではあります。
June 12, 2011
5th Tokyo RNA Club (2)
長鎖のノンコーディングRNAの世界はXistやインプリンティングに関わる一部の遺伝子を除いては、非常に長いこと単なる配列の記載に終始していた感があるのですが、その中でキラリ、Evf-2というノンコーディングRNAの生理的な機能をきちんと報告したのが2006年にGenes and Developmentに報告されたKohtzさんのこの論文です。そもそもどうやってこの遺伝子に巡り会ったのかというのが興味深いのですが、Kohtzさんはもともと発生屋さん。発生生物学の世界では千両役者、スター級のシグナル分子にSonic Hedgehogという遺伝子があるのですが、この遺伝子は神経系の腹側の正中線で発現し、神経管の腹側に存在するいくつかの神経細胞のサブタイプの運命決定に関わることが分かっています。Kohtzさんはこの神経系のパターン形成の仕事をしている中で、腹側に存在する特定のサブタイプの神経細胞で発現している遺伝子を同定し、embryonic ventral forebrain-1と名付けています。この仕事は1998年のDevelopment誌に掲載されているのですが、当時は単なる神経細胞のマーカーとしてしか使っていなかったようです。ちなみにこのDevelopmentという雑誌。オソロシク同業者の間で評価が高く、業界外ではそれほどでもない、イブシ銀の雑誌で、いうならば長島、落合も認める天才打者、カープの前田、といったら分かっていただけるでしょうか。それはともかくとして、当時は単なるマーカーだったEvf-1、ならびに同じく腹側の神経細胞で発現するマーカーのEvf-2がノンコーディングRNAであること、またそのすぐ近傍のゲノム領域に同様に神経系のパターン形成を制御するDlx遺伝子が存在するところから話は急展開していきます。先述の2006年のG&Dでは、Evf-2が近傍の遺伝子発現の転写活性化因子としてはたらいていることを非常に綺麗な一連の実験で示しておられます。当時、僕自身ノンコーディングRNAの研究を始めたばかりのころでしたが、この美しい仕事に非常に感銘を受けたのを良く覚えています。すこし大げさな言い方をすれば、海のものとも山のものともつかぬ長鎖ノンコーディングRNA群でも、個別の遺伝子の機能をきちんと解析してゆけば必ず新しいことが分かるということを、極めて明確な形で明らかにしてくれた初めての論文ではないでしょうか。もちろんインプリンティング関連、Xist関連のノンコーディングRNAの論文はそれまでもあったわけですが。
つい最近になって、Kohtzさんはさらにこの仕事を発展させ、Evf-2によって制御される遺伝子発現制御が海馬におけるGABA依存性の神経回路形成に関わっていることをNature Neuroscienceに発表しています(論文はこちら)。この辺りの話が中心になるのかもしれませんが、もっと新しい話も聞けるかもしれません。乞うご期待!
中川
June 7, 2011
5th Tokyo RNA Club
この弥生講堂というのは檜の無垢材がふんだんに使われた大変瀟洒な建物で、ここって大学?とおもわず何処にいるのか分からなくなってしまうぐらいです。センスが無くて汚くて暗いのが大学の代名詞だった20年前とは隔世の感があります。新聞やテレビでは昔は良かった、今は閉塞感が満ちあふれ息苦しいとか言いますが、あーゆー暗くて汚い場所に戻りたいなら戻って下さい、僕は今の方がよっぽどマシだと思いますよ、と声を大にして言いたいものです。とはいえ自虐的な喜びを感じる人というのは世の中にはいるもので、暗くて汚い地下室で貧乏くさく引きこもってやるのが学問と信じて疑わない人々もいるから世の中面白いものです。そりゃ学問じゃなくて黒魔術でしょう、という気もしますが。
例によってだいぶ話がそれてしまいましたが、今回は新学術のテーマに沿ったnoncoding RNA (ncRNA) を中心としたTokyo RNA Clubになります。長鎖のncRNAの話題が6題、小さなRNAの話が13題。長鎖ncRNAはマイナーな分野ですので、簡単に海外のゲストの方の紹介をしておきます。
まず最初はArcha Foxさん。パラスペックルがらみでここに何回か名前を出しましたが、イギリスはダンディー大学、Lamondさんの研究室でポスドクをしているときに、核小体のプロテオミクスを勧めている過程で取れてきた複数のタンパク質が核内で共局在していることを見つけた、パラスペックルの発見者です。ラボのホームページはこちら。
現在は旦那さんと共に西オーストラリア大学でラボを持っておられますが、ずっと継続してパラスペックルに局在するタンパク質、および骨格成分であるMENε/βの研究をしておられます。世代的にはまだ30半ば。特に若い学生さんやポスドクにとっては身近な存在に感じられるのではないでしょうか。京都のRNA meetingにも出られますので、学会に行かれる方はいろいろ人生相談など出来るかもしれません。個人的にArchaさんがスゴイなあとおもうのは、抗体染色のパターンを見て、これは新しい核内構造体に違いない、と信じて、解析を進めて行った、というところです。実際のところ、核を染色する抗体の多くは、べったりと染まるのではなく、ところどころに輝点が見えることが多いです。ただ、普通は、ああ、なんかざらざらそまっているなあ、ぐらいでほっておいてしまうような気がします。実際問題、現在パラスペックルマーカーと呼ばれている抗体の染色パターンを見ても、パラスペックルを知らない人にとっては、おそらくいきなり心臓がバクバクするようなものではありません。憧れの紺野美沙子さんを日比谷公園のチャリティーイベントで見かけたことがあるのですが、スタッフの間に紛れている間は意外と普通の人とかわらないのですよね。ところがいったん気づいてしまうと気になって仕方がない。こう、光り輝くオーラみたいなものがそこにあって、なんでさっきまで気がつかなかったのだろうと。Archaさんが発見した当時はパラスペックルは一部の愛好者のみぞしるマイナーな存在だったのが、いまやすっかり一流スターの仲間入りです。パラスペックルを有名にした仕事の全てに彼女が必ずしも名を連ねているわけではありませんが、最初にあの構造体に気づいた、その感性は、本当に凄いなあ、と思います。
もう一人の長鎖ncRNA関連の海外ゲスト、Jhumku Kohtzさんについては次回。
中川
May 29, 2011
パラスペックルの話(7)
・MENεの発現は比較的いろいろな組織で見られるが、それでも特定の細胞タイプでしか発現していない。
・MENβはMENεを発現する細胞のうち、さらにごく一部の細胞でしか発現していない。
・明確なパラスペックルはMENβを発現している細胞でしか見られない。
・生体内でMENβを発現していない細胞でも、培養条件に持ってくるとMENβの発現が誘導され、パラスペックルが形成される。
・MENβを発現する場所は、細胞が死んでゆくところ、脱落してゆくところが多く、そういった細胞ではパラスペックルが見られる。
そう、まるで生体内では、死んでいく細胞が最後の記念にパラスペックルを作っている、というような感じであったのです。パラスペックルは細胞の遺書か?!
ちなみに、Genome Browserなどを見るとすぐに分かるのですが、マウスゲノムのMENβの領域にはほとんどESTが貼り付いていません。

ヒトではMENβにも多少はESTが見られますが、圧倒的にMENεの領域が多く転写されています。廣瀬研の実験では確かにMENβが重要ということが示唆されていた訳ですが、短いフォームのMENεでパラスペックルが出来る、と言っている人たちはいるので(Mol Cellの論文)、世間ではそう思っている人の方が多いかもしれません。恥ずかしながら、僕自身長いことマウスではMENβは機能していないものと思っていました(ほとんど発現していないから)、、、ヒトのMENβのESTが多いのは、ヒトではガン細胞の研究が盛んで、培養細胞ではMENβの発現が誘導されるから、ということなのかもしれません。
ともあれ、パラスペックルというものが思ったよりも奥が深いと言うことが分かってきましたが、ノックアウトマウスでは全く表現型が見つからなかったので、これらの知見を論文にしたものかどうかえらく迷っていました。そんな折、このブログでもちょっと紹介したカナダで開催されたRiboClubという会で、パラスペックル発見者のFoxさん、これまたTokyo RNA Clubがらみで紹介したことのあるカーマイケルさんとご一緒した際、マウスを作ってみたんですが表現型が無くて、でもそもそも発現パターンが奇妙なんですよ、まったくなにしてんでしょうパラスペックルは、というような話をしたら、それは驚きだ、ぜひ論文にしたら?みたいに言われ、これは一つまとめてみるか、ということになりました。ホモ個体が生まれたから2年ほど経ってのことです。in situのデーターは古すぎたり写真の露出がばらついていたりで結局ほとんど実験をやり直すことになってしまったのですが、2年間で分かったことの追試は2週間で出来る、という誰が作ったのかよくわからん格言通り、それほど苦労せず論文の投稿までは行ったのですが、レフリーからはさすがに鋭い突っ込みがやってきました。
いろいろあったコメントのうち急所を突いていたのは、「肝臓でもパラスペックルが無いって言っているけれども、他の論文ではあることになっているでしょうが。どうなってんの。」というものでした。まさにその点はこちらも不思議に思っていたところで、さらっと見過ごしてくれるかと思っていたのですが、同業者というのはさすが見る目が違います。その後、性別やらステージやらいろいろ条件の異なる肝臓を見ていくと、原因はよくわからないけれども肝臓におけるパラスペックルの有無には個体差があることが分かってきました。まったくもってレフリーさまさまです。その他のコメントを含め、論文の質は当初よりだいぶ改善されたと思うのですが、実はそれよりももっと重大なヒントをレフリーからいただいているのです。これが。それはまた数年後の続編、ということにしたいと思います。。
長々と書いてきた割には全然パラスペックルの解説になっていなくて忸怩たる思いはあるのですが、そろそろこのシリーズも終わりにしたいと思います。ともあれ、この「パラスペックル」という核内構造体、いろいろな意味で長鎖ノンコーディングRNA研究のcase studyになっているような気がします。核内の構造体って、結局単なる贅沢品だったのか。贅沢品って本当に不必要なものなのか。よくわかりません。パラスペックルが生体内ではほとんど見られないのに、培養条件にもっていったらなぜすぐ出来るのか。よくわかりません。でも、分からなければ分からないほど燃えてくる。恋ですねこれは。距離が下手に詰まると飽きがくるのかもしれませんが、なかなか本質的な姿を見せてくれないパラスペックルに翻弄され振り回される研究者たち。それでも皆幸せそうな顔をしているように思えるのは、単なる気のせいだけでは無いでしょう。
May 15, 2011
パラスペックルの話(6)
2002年:新規核内構造体パラスペックルが登場。PSP1, PSP2, PSFが共局在するドメインとして。University of DundeeのArcha Foxらが報告。JCB誌。
2005年:パラスペックル論文続報。p54nrbが新たなコンポーネントの仲間に。再びFoxら。MCB誌。
2005年:イノシン化修飾を受けたmRNAがパラスペックルに繋留されているとの驚きの報告。ストレスが加わると繋留がはずれ核外へ。CSHLのPrasanthらが報告。Cell誌。
そして2007年、BMC Genomicsに発表された、Chessらの高発現量ノンコーディングRNA、NEAT1 (MENε)、NEAT2 (Malat-1) の細胞内局在報告が続く訳ですが、どういうわけか、この論文ではMENεの核内の輝点がパラスペックルであるという記載はありません。核スペックルの近傍にドットが見える、という記述があるので(パラスペックルとはそもそも核スペックルの近傍、という意味)気づいていなかった訳は無いと思うのですが、今から考えると、想像にすぎませんが、NEAT1をノックダウンするとパラスペックルが壊れるという予備的な結果が出ていたので、その機能解析論文を仕上げるまではヒ・ミ・ツ、ということだったのかもしれません。
さて、MENε/βのノックアウトマウス。ヘテロマウスを増やしてガンガン掛け合わせをして、片っ端からメンデル比を調べていったのですが、、、
E (embryonic day) 8.5:ホモ個体あり。外見異常なし。
E10.5:ホモ個体あり。外見異常なし。
E14.5:ホモ個体あり。外見異常なし。
こりゃノックアウトマウスのデザインが間違えていたかな、と、念のためE14.5胚から初代培養細胞MEFを作ったところMENε/βの発現はなく、パラスペックルマーカーPSFの集積も見られず、ほっと一息。つづいて。
E16.5:ホモ個体なし。
E18.5:ホモ個体なし。
うりゃ、きたきた、と、この時点ではembryonic lethalであることを全く疑っていなかったのですが、
P (post natal) 0: ホモ個体あり。外見異常なし
P14: ホモ個体あり。外見異常なし
なんだ、ただの偶然か、とちょっと落胆。と、ここで、もしかするとノックアウトMEFではパラスペックルはできていないけれども、生体内ではMENε/βの発現が失われていないのかもしれない、と思い当たり、背中にじっとりと脂汗が浮かんできました。このノックアウトマウスはちょっと手抜きのデザインをしていて、MENε/βの転写開始点の直下にpoly-A配列をタンデムで並べているだけなので、MENε/βの本体はしっかり残っています。ですので、たとえば生体内でalternativeな転写開始点が使われたりしたときは、もしくはせっかく挿入したpoly-A配列が完全に無視されてスルーされてしまったときは、普通にMENε/βが発現してきたとしても不思議ではないのです。
E10.5の個体のサンプルを切片にして、おそるおそるin situをしたところ、ホモ個体では全くMENε/βの発現が見られず、胸を撫で下ろしたのですが、別の切片を見たところ、
なんだこれ。野生型でもMEMε/βの発現がないではないか、、、
それまで文献的にはMENε/βの発現は「ubiquitous」と言うことになっていたのであえて生体内での発現を調べたことは無かったのですが、どれだけ目を皿にしてもMENε/βの発現は見られません。発現が無いのならば表現型が出ないのは当たり前で、それはそれで納得がいくのですが。通常ノックアウトマウスを作る前に詳細な発現解析をするのが鉄則なので、こんなおっちょこちょいなことをしていることを知られたら師匠に破門されそうですが、MENε/βの発現は実は思っていたよりもダイナミックなのではないか、という興味深い可能性が出てきた訳です。
(次回最終回です)