May 26, 2010

再び河岡慎平です。

ブログ、リニューアルということで、盛り上がると良いですね。
書籍紹介でもしてみようと思います。

今日のおすすめは、

サイモン・シン著 青木薫訳
ビッグバン宇宙論 (上・下)

です!
サイモン・シンは物理学の博士号をもったサイエンスジャーナリストです。
「フェルマーの最終定理」や「暗号解読」なんかも有名ですね。
シンの本は構成がすばらしく、ある命題に関して科学がどのように動いていったかということを知ることができるところが、好きです。
登場する科学者たちがいきいきと描かれ、まるで、その場に自分がいたような錯覚に陥ることもしばしばです。

上のビッグバン宇宙論もその例にもれず、地動説vs天動説の時代からビッグバン理論にたどり着くまでの変遷、これからの展望が、アバターばりの迫力で描かれています(アバターみてないですけど)。
実験に疲れたりしたときにぜひ、読んでみてください。

最近、アマゾンで本を衝動買いしてしまうことが多いです。
いちばん最近買った「カオスの中の秩序」という本を前にして、DFラインでパスをまわすしかなかったサッカー日本代表の気持ちがよく分かりました。

拙文、失礼しましたー。

May 16, 2010

サッカーで言うところの

いきなりボールがきたから驚いた、という感じの、河岡慎平です。
中川先生からのパスということもあり、どうにか枠に飛ばさないといけません。

というわけで、僕も、CDBで行われた先のmeetingに参加しました。
諸事あって初日午後からの参加でしたが、大変楽しめました。
反省としては、最近はどうも守りに入るときが多く、ちょっと前であれば目立ちたい一心で挙手していたところを、こう、まわりをちらりと見渡すあいだに、機会を失ってしまうようなことがよくあった、ということです。
あげく、質問は、今回はいいや、などと勝手に決めて、外のテレビジョンで発表をきいたり、、、
あまり褒められた姿勢ではなかったと思います。
本来虫虫していたこともあってか、RNAまわりの学会、シンポジウムに出ると、どうしても、守りに入ってしまうことが多いんですね。
しかし、そういう自分は好きではありません。
正直言えば、目立ちたい、という感情のかたまりのようなタイプであるところに、中川先生のばしっとした指摘がきましたので、今度からは、全ての口頭発表に対して質問する意気込みで臨もうと思います。
河岡が参加した全演題数に対する質問回数が1/3を下回った場合には、罰ゲームをやらせていただきます。

上のような反省もありますが、一方で、とてもたくさんの収穫があったシンポジウムでした。
僕は常に、こういった会に参加するときは、「飲み会がいちばん大事だ!」と考えています。
飲み会は、いろいろな方とコミュニケーションをとり、和を広げる最大のチャンスを与えてくれるからです。
実際、とても多くの新しい知り合いができ、大変嬉しかったです。
新しい関係を築く瞬間は、いつだってすばらしいものです。

また、いろいろな分野の方の’ポリシー’に触れられることも、こういったシンポジウムの良いところですよね。
自分のポリシーのよいところ、わるいところ、とてもよく分かります。

ポスタも出しましたが、車マイケルさんをはじめ多くの方に自分の研究をきいてもらうことができました。
海外の研究者の方は、発表をきくときの相づちがのりのりなのでで、すぐに気持ちよくなってしまいます(笑)。
影山先生に、「仮説が美しい場合は、たいてい正しい!」と言われたことが印象に残っています。
自分の仮説は、もう、子どもみたいにかわいがってますので、もとより親バカになんてすてきな仮説だ、と思ってるわけですが、美しい、と言われるともう、飛び上がりたいような気分でした。

以上を要するに、全体の場での質問をしなかったことが情けないかぎりですが、それは次回必ず改善するとして、意義ある楽しいシンポジウムでした。
中川先生の記事にもありましたが、運営に携わってくださった方々にこの場をかりて御礼申し上げます。

追記として。

二日目の夜、モノポリで圧勝、まさに圧勝しました。

河岡慎平

May 15, 2010

CDB meeting

5/10-12まで神戸であったCDB meeting "RNA Sciences in Developmental Biology" ですが、大変盛況な会で、改めてこの業界の活発さを実感しました。

この会、理研CDBの中村さんと中山さん、それから当新学術の代表の泊さん、もう一つRNA関連の新学術の代表の稲田さん、それから京大の大野さんや神大の井上さんらの企画ではじまったもので、海外からの参加者が30名余り、うち招待スピーカーが13名、ポスター演題100題越え、呼んでもいないのに(?)EMBOのエディターが飛んでくるという、とっても国際色が豊かで、かつ内容の濃いものでありました。個人的には、憧れのCarmichaelさんにも会えましたし、初っぱなのトークでいきなり会のテンションをトップギアに入れたスプライシングのBlencoweさん、おしゃべり好きでいつも皆が食べ終わっているのにお昼のお弁当が一人だけ残っていたおちゃめなXist研究者Gribnauさんら、個性豊かな研究者と話が出来てとても嬉しかったです。このような会が日本で開催される、そしてそこに学生さんがどんどん参加できる(なんとCDB meetingの参加費はタダ!)ということに、よき時代を感じずにはおれません。

この会に参加して、何点か思ったこと。

今回の参加者は、特に海外からの招待講演者は、かならずしも世間的に名の売れた超著名の人ではなかったかもしれません。ただ、みなさん全部バリバリ現役、しかも会に参加することに貪欲な若い人が多かったのがミーティングをものすごく盛り上げたのは間違いないと思います。自分の発表だけその場にいてあとは神戸観光、なんてひと、一人もいませんでしたから。交流に熱心になってビールを飲み過ぎて二日酔いになっていた人はいたようですが。。。大御所はいらん。若い人を、熱心な人を、というオーガナイザーの方々の一貫した方針があったおかげで、この会がこうも「盛り上がった」のは間違いないでしょう。そこかしこで、この会はおもろい、CSHLのミーティングより面白い、とかいう声がきこえてました。

日本人の若い学生さん達。参加するだけじゃダメだというのは良くわかっているとは思うのですが、その割には質問が少なかったですねー。ただ、休み時間やポスターなど、頑張っている人は頑張っていたようです。まあ、なんでもよいから質問しろ、岡田節人先生などWhat is DNA?でも良いから質問しろ、などとおっしゃられていたようですが、ちょっと時代は変わってきているのかもしれません。かつて日本で行われていた「国際会議」はちょっとお祭りみたいなところがあって、英語が苦手な学生さんの発表や質疑応答もご愛敬みたいなところがあったような気もしますが、で、そういう場で皆練習を積んだもんですが、最近はあきらかに全体のレベルが高すぎて、かつては名物だったご愛敬質問がむしろ場に合わない、みたいに思ってしまうのかもしれません。ただ、恥をかくのは若者の特権。突撃と撃沈をもっと見たかったような気もします。

これは会全体の話とは違うのですが、大学院の教育について。僕自身は大学院教育にはほとんど関わっていないのですが、海外からのゲストと話をしていてよく出ていたのは、「大学院生はすぐ目の前の実験に夢中になるからねー」ということ。これ、ネガティブな意味なのですね。PIとしては目の前の実験に夢中になってバンバン結果を出してくれればこの上ありませんが、そりゃいかんのではないか、とそろそろ業界全体が再考しても良いような気はします。恥ずかしながら、僕自身、RIの再教育訓練や大学院の講義に全く出ずに自分の実験ナンバーワン、なんて思っていましたが、今からすると全くもって忸怩たる重いです。自分の将来の可能性をわざわざ狭くすることはないし、サイエンス全体として考えたときにより多くのバックグラウンドを持つ人がどんどん出てくることは大きなプラスです。先述のBlencoweさんの研究室がある建物。各階に異分野の研究室がわんさか集まっていて、しかもその研究室同士を直接つなぐ形で階段があるみたいなんですね。誰が設計したんでしょう。そのほか、面白い仕事をしている人はバックグラウンドが広いなあ、というのを痛感した会でもありました。

ちなみにこのCDB meeting。驚くべくことに事務仕事はほとんど遠山さんと高橋さんという、二人の方でやられているのですよね。和光の理研ではこの手の会議を開くたびに研究室全体がてんてこ舞い、なんてことになるようですが。雲泥の差です。理研CDBがうらやましー、のはそうなのですが、そんなことを言っておらずに、自分らの組織でもこういう人を持てるように努力せねばならんと、思った次第です。誰も文句を言わない実績を組織のみんなが出し続けていれば、自然とそういうふうな人を雇えるようにもなってくるでしょうから。

だらだらになってしまいましたが、ともあれ、関係者の皆様、素晴らしいミーティングをありがとうございました。

K岡君。あんまり質問してなかったから、もしこれを読んでいたら、ミーティングの参加記ぐらい書きなさい。と、ふっておきます。

中川

April 28, 2010

基幹研究所チュートリアル科学道場ー拙者と切磋琢磨いたさぬか?

 ncRNAとは少し離れた話題なのですが、理研の基幹研のチュートリアルシリーズのご案内です。
http://www.riken.jp/lab-www/nakagawa/dojo/

 前にもすこしここに書き込んだのですが、理研にも学生さんが若干ながらいます。理研には三島にある遺伝研や岡崎にある基生研・生理研とちがって大学院がないので、当然ながらそれら学生さんは本職といいますか、所属先の大学院があります。とはいえその所属先の大学院の講義なりセミナーなりに毎回出席するというのは物理的にも精神的にも大変なので、ついつい、目の前の研究に没頭してしまうことになります。研究に没頭すること、それ自体は悪いことではありませんが、自分の研究室のボス以外のPIを知る機会が全くないというのはほめられたことではありません。一方、大学院の講義なぞ体をなしているんだかいないんだか、という牧歌的な時代もあったようですが、近頃ではそれなりにしっかりしているみたいです。これはとても良いことで、例えば他大学の大学院に進学した場合、大学院の講義がないと、所属研究室以外のPIに身近に触れる機会がぐっと少なくなってしまいます。ところが、きちんと大学院でも講義があれば、食堂で見かける辛気くさいおっさんが、実はとんでもなく難しい数式を魔法のように操るマイスターだった、しかもその人は隣の研究室の人だった、なんてことを知る機会が用意されているわけです。秋深き隣は何をする人ぞ。そうなるとよそ者でも中に入りやすくなるといいますか、この大学院の授業のおかげで他大学の研究室を選びやすくなっている効果は絶対あると思いますし、せっかくの学者さんの卵たちが蛸壺化してしまう危険性を大いに減らしている効果もあるでしょう。

 さて、話は戻って理研なのですが、いわゆる講義という物が全く無いので、せっかく研究に参加してもらっている学生さんに、所属先以外の研究室を知る機会がハッキリ言って皆無なんですね。もちろん各種セミナーはありますからそれに参加すりゃあ良い、という理屈はあるわけですが、ぶっちゃけた話、いきなり異分野のセミナーに飛び込んでいって「面白い」と思えるかといえば、そうではないでしょう。まずは異分野のキーワードだけでも理解する、そういう講義シリーズがあってもよいのではないか。いや、そういうシリーズを作ってみましょう。また、学生さんやういういしいポスドクさんに、理研基幹研にはこんな研究分野がある、こんなPIがいる、ということをもっともっと知ってもらおう、ということで始まったのがこのチュートリアルシリーズです。

 とはいえ、理研の基幹研、これがカバーしている分野がべらぼうに広いのです。いわゆる物理、化学、生物、すべての分野がごっちゃになっていますから、良く言えば分野を超えた連携が可能、悪く言えば、まったく方向性無し、協調性なし、なんてことになりかねません。学問には階層性があって、例えばハミルトニアンと行動生理学をわざわざ結びつける必要は全く無いわけですし、無理して連携連携と連呼しても、耳ざわりのよい美麗美句に終わってしまうのが関の山でしょう。余りにも分野が違う若手研究者を対象にした「チュートリアルシリーズ」をやることにどれだけの意味があるのか、正直言って僕も良く分からんとこはあります。でも、古典的な「發生学」が遺伝学や生化学、そして分子生物学と出会ってモダンな「発生生物学」へと変身した例を持ち出すまでもなく、連携が美麗美句に終わらん例も多々あるわけです。個人的には、次世代シークエンサーやらマイクロアレイからはき出される大量の情報を前に呆然と立ち尽くすしかない我々迷える子羊を、一見意味のない大量の加速器を使った観測データーを数理的に解析して宇宙の誕生の謎に迫っている物理学者が救ってくれたり何かしてくれたりしないだろうか、と、夢想したり、しています。

 このチュートリアルシリーズ、特に非公開というわけではないので、ご興味のある方は是非いらして下さい。前期は生物系なのでいまさら聞くまでもないという方が大半かもしれませんが、後期は物質科学系、期待できますよー。と宣伝しておきます。

 またちなみにRNA。「RNAやってます」というのは「ラクロスやってます」ぐらいに微妙にむずがゆい表現なのですが、RNAというキーワードだけで、凄く広い分野の研究者が一体となれるのは凄いことだと思います。敢えて死語を使いますが、ビバ、RNA!

中川

April 20, 2010

TRC 2010

みなさまお待ちかね(?)東京RNA clubのご案内です。勝手にリンク作って貼っておきます。
http://www.riken.jp/lab-www/nakagawa/TRC2010.pdf

慶応大学の塩見研と産総研の廣瀬さん主催のミーティングです。前回の分子生物学会の時は諸般の事情でスピーカーを交えたミキサーの時間があまりなかったみたいですが、今回は、きっと、十分にあるはずですよね。学生さんや若いポスドクの方々にとってきっと良い会になるはずです。もちろんシニアな方も。。。

大地の恵み

この新学術が誕生した(つまりプレゼンの審査があった)のは、昨年の6月末、忘れもしない第67期将棋名人戦最終局第7局の直後だったか直前だったかのはずです。領域の立ち上げにゲロ吐かんばかりに精進していたKさんやTさんの苦労を知ってや知らずか、郷田か羽生か、と手に汗握る矢倉戦のネット中継に貼り付き、いやいや、出張先のシンポジウムの白熱したトークに時を忘れ、まだまだ高い北の大地の初夏の夕日を見ながらの贅沢な夕食も、あまりにも濃厚なディスカッションのせいでほとんど喉元を通らなかったのを良く覚えています。北の大地と言えば、北大、北大でノンコーディングRNAといえば高木信夫先生ですね。個人的には存じ上げていないのですが、 mRNA型ノンコーディングRNA(もしくはlong noncoding RNA、もしくは高分子ノンコーディングRNA)のスーパースターXistが制御するX染色体の不思議な挙動を、それこそ僕が生まれる前からずっと追い続けておられる高木先生の研究の履歴、一度お伺いしたいものです。で、そのXistですが、これはノンコーディングRNAに興味を持っている人でなくても、一度その話を聞けば何とも奇妙なその振る舞いに心動かされずにはおれんという人が多いのではないでしょうか。なんと言っても、転写産物のRNAが染色体に貼り付いてそれを覆い尽くすなどというおよそmRNAにあるまじき振る舞いを示します。それに引き続いて染色体を丸ごと不活性化するという機能もさることながら、X染色体が何本あろうともかならず一本だけ不活性化しない染色体を残しておくという機構などは、まさに神のなせる技であり、この不可思議に真っ向から挑戦している人たちは数多くいます。本blogシリーズ(そう、シリーズのはずなんです。バトンは次に。駒はマス目の真ん中に。)に既に登場した佐渡さんなどは、まさに本邦が誇る研究者なのですが、来たるCDBミーティングには、新進気鋭のXist研究者、Joost Gribnauさんが来られます。どうやって二本あるうちの一本だけが不活性化する道を選ぶのか。その不活性化プロセスで中心的な役割を果たすXistの発現がどのように制御されているのか。きらきら光るデーターをばんばん出されていますね。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19945382
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18267073
どんな発想で仕事をしておられるのか。世代的にも近いので、お話しするのが今から非常に楽しみです。

さて、話は思い切りそれて冒頭に戻るのですが、ほぼ一年を経て、今、ちょうど第68期将棋名人戦が行われています。今日は第二局、我が心のふるさと、悠久の青春の地、遠野での対局です。理論上指し手は全て予想できるのに、なぜここまで人は魅了されるのか。そういう意味で、とても将棋は興味深いです(ほとんど駒の動かし方しか知りませんが)。すべての俳句も、小説も、理論上は全て予測できるのに事実上同じものは無く、そのそれぞれにそれぞれの読み方響き方があるのと同じなのでしょうか。ATCGで情報が決まっている生き物の可能性などたかがしれていると思うのに、その稚拙な予測をあざ笑うかのように思いもよらぬ顔がいつも飛び出してくる。深いですねー。

中川

April 9, 2010

車マイケルさん(2)とTokyo RNA Clubの宣伝

Carmichaelさんといえば、やはり2001年のこの論文が有名でしょうか。ウイルスに対する防御機構として、ウイルス由来の二本鎖RNAが「細胞質」でインターフェロン応答をおこすことは教科書にも載っている周知の事実です。では「核内」においてウイルスが作る二本鎖RNAはどういう生理反応を引き起こすのでしょう?という疑問に、極めて明確に応えてくれた論文ですね。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11525732

答えは、、、見てのお楽しみ、なんてもったいぶらずに明かしてしまいますと、二本鎖RNAは核内でADAR、つまりアデノシンを脱アミノ化してイノシンに変換する酵素で認識されるために、いわゆるイノシン化修飾を受けます。一方、核内にはp54nrbなるイノシン結合タンパク質が存在します。従って、イノシン化されたウイルスのRNAはp54nrbのはたらきでしっかりと核内に繋留され、細胞質に移行できない。ウイルスの増殖が抑制される、という非常に明確な話です。この論文のキモは、イノシン化された二本鎖RNAに特異的に結合するp54nrbをいわゆるpull downで精製してきた、というところです。コントロールは修飾を受けていない二本鎖RNA。アイデアがシンプル明快。目の付け所が絶品チーズバーガーです。

さて、このイノシン化修飾を受けた二本鎖RNAの核内繋留メカニズムが、ウイルスが作る二本鎖RNAにしかはたらかないのか、というところが気になるわけですが、それに関してはPrasanthらによる次の論文が一世を風靡したのが記憶に新しいです。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16239143

高等脊椎動物においてはレトロトランスポゾンが大量に挿入されています。遺伝子によっては複数個挿入されていて、そのうちの一部では逆位に二つ挿入されている物があります。するとどうなるか。分子内で二本鎖を形成してしまいます。そうすると、そこがあたかもウイルスが生活環の過程で作る二本鎖RNAがごとく認識され、イノシン化され、あとは一緒です。つまり細胞質に運ばれずに核内に繋留され、普段は発現抑制を受けています。ところが細胞にストレスがかかると、メカニズムはまだ良く分かっていないのですが、このUTRに挿入されたレトロトランスポゾンの部分の手前でmRNAが切断されてしまうらしいです。そうすると、イノシン部分が切られてしまうわけですから、結果として核内繋留が外れる。晴れて細胞質に輸送され、翻訳されるようになる。しかもこのような制御を受けているmRNAは、ストレス時に必要なタンパク質をコードしている。なんだか出来すぎた話のような気がしますが、およそ生物学が明らかにしたことは、出来すぎた話ばかりです。神は偉大なり。

さて、Prasanth論文の続編とも言えるのが、再びCarmichaelさんのとこからでてきた次の論文で、これまた愁眉です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19716791

ここでやっと、本新学術の研究領域とつながってくるのですね。イノシン化されたRNAはパラスペックルと呼ばれる核内構造体に繋留されているのですが、このパラスペックルの構造を維持しているのがノンコーディングRNA、MENbetaです。このノンコーディングRNAが無いと、パラスペックルは出来なくなってしまいます。産総研の廣瀬グループをはじめとして同時に3グループから報告されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19188602
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19106332
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19217333

Carmichaelさんらが発見したのは、ES細胞ではMENが発現しておらず、従ってパラスペックルも無い。そうなる逆位レトロトランスポゾン挿入を受けた遺伝子の核内繋留もおこらず、そのことがES細胞の多分化能を制御している、というお話しです。

イノシン化二本鎖RNA結合タンパク質の同定>新規mRNA核内繋留機構の解明>核内繋留がおこる核内構造体の発見>核内構造体のより高次な生理機能の解明

という、研究の流れが明確に読み取れます。

ところでこのCarmichaelさん、実は非常に古くからRNA結合タンパク質のpulldownによる同定の試みを行っていまして、年代から推し量るにその草分け的存在とも言えるのではないでしょうか。どうやってRNAをビーズに固相化するか。そういうところから自分で工夫しておられます。当時の実験風景、ぜひ直接会ったときに聞いてみたいものです。実は同姓同名の別人の人の実験だったりするかもしれませんが、、、Carmichaelさんがそもそも二本鎖RNAの研究を始めたきっかけというのは、Polyomaウイルスの初期遺伝子から後期遺伝子への発現スイッチの制御機構の研究であったみたいです。ウイルスとホスト細胞の戦いのような場では生物が持つポテンシャルが最大限に発揮されていて、そこで見られるメカニズムは何らかの形でもっと高次の生命現象にも反映されているのが面白いですね。また、僕自身が特に感動を覚えるのが、Carmichaelさんの研究をずっと貫いている、RNA研究の生化学という一本の糸です。こういう一貫性というのは、見ていて、すがすがしく、羨ましく、目指さなくてはいけないことだと、つくづく感じます。自分自身だいぶん浮気性なので、この辺とても恥ずかしいです。

いずれにせよ、今回の話の全て、僕自身が論文上でしか知らないことなので、直接その研究を生きてきたご本人の生の話を聞けるというのが、大変楽しみです。Carmichaelさんは5月の7日に慶応大学の塩見研で行われるTokyo RNA Clubにも来てくれるそうなので、興味を持たれた方は是非いらして下さい。こちらは自由参加です。

中川