こんばんは、河岡です。
ここまでの7話(!?)で、カイコでpiRNAをはじめた経緯、BmN4という相棒の発見、そしてそれを使ったin vitroにおけるpiRNA生合成研究の進展、をお話してきました。
今回以降は、カイコを使ったin vivoの研究についてお話させていただきたいと思います。
**************************************
ある段階で、カイコならではの研究をしよう、と強く思った、というのは前述の通りです(http://ncrnablog.blogspot.com/2011/07/2.html)。
BmN4細胞はpiRNA研究におけるカイコの明確な「ならでは」を提供してくれたわけですが、他にも「ならでは」はたくさんあったのです。
カイコ生体の良さのひとつ、それは、大きい、ということです。
修士のときにある講義で、カイコのたまご1個の上にショウジョウバエの成虫がちょこん、と乗っている写真を見たのですが、そのくらい違います。
piRNAが発現している生殖巣の大きさも、カイコの卵巣1個体ぶん=ハエの卵巣数百個体(以上?)ぶんなのではないでしょうか (1.5mLチューブに1個体ぶんいれたら、250ulのところくらいまで埋まるでしょうか)。
エレガントな遺伝学やゲノム情報の充実といった面ではハエのほうがまったくすごいですが、カイコにはカイコの良さ。
その大きさ故に、細かなステージングをしたり、(僕はやっていないですけれど)生理学をしたり、ということにはとても適しているのです。
余談ですが、材料の手に入り易さというのは本当に重要で、有名な脱皮ホルモンであるエクダイソンなども、カイコをはじめとする「大きな」鱗翅目昆虫が良き材料としてはたらいて、その同定に至りました。
さて、僕がカイコの生体を使ってやったことのひとつは、受精後時間によってステージングしたカイコの卵におけるpiRNAの特徴の変化を追った、ということです。
昆虫遺伝研究室では、やすはらくん、あらいくん、はらさん、そしていまはしょうじくんといった学部、修士の面々とともに研究をしています。
この研究では、あらいくんと一緒に実験をしました。
この実験は、何か大きな目標があった、というよりはむしろ、面白いことが分かりそうな気がしてやってみた、というタイプの実験です(本当は、心の底では性決定関連のプロジェクトとの絡みを狙っていたのですが、それはまた後述します)。
というわけで、やったことはいたってシンプル、受精後0時間、6時間、12時間、24時間の卵に存在するpiRNAの配列を網羅的に決めて、その特徴を調べました。
同一ステージの群に含まれる卵同士の受精後時間は、かなりの精度でぴっちり揃っています。
どうしても話がそれて長くなってしまいます(まあ、そもそも、論文では読めない余談が趣旨ということで)。
大量に配列を決定してその特徴を解析する、というステップには、どうしてもバイオインフォマティクスなる分野に関連した手法が必要になります。
はじめは、以前登場した友人(http://ncrnablog.blogspot.com/2011/07/2.html)と一緒にやっていたのですが、彼が卒業してしまってからは、彼の残したデータベースをMySQLで解析するくらいのことはしていたものの、新規なデータベースは扱えませんでした。
そこで、勝間ボスとともに東大農学生命科学研究科のアグリバイオインフォマティクス教育研究プログラム所属の門田先生に共同研究のお願いをし、解析をしていただくことにしました。
自分でできないことを共同研究としてお願いする場合、そこに自ら赴き、最終的にはある程度自分でできるようになれ、というのが勝間ボスの教育方針です(僕がふらふらできるのはこのためです)。
インフォマティクスの場合、高度なコードを作ることはできなくても、人様の作ったコードを理解し、コードを走らせ、結果を見てコードを微調整する、くらいのことはできるように、というわけです。
実験をしていて思いますが、実験の途中ではいろんなことが起こります。
そのいろんなことによって、あたらしい疑問が想起されたり、あたらしい展開がうまれることがあります。
インフォマティクス解析だって、その途中段階でいろいろな思いつきがあるはずだし、何より、思いついたことを気軽に自分で試せたほうが気分が良いです。
そこで、門田先生には申し訳なかったのですが、もうほんとにうしろに張り付いて、先生がコードを書けば、先生、これはどういう意味ですか、とか、直せば、どうしてそこをこう直したんですか、という具合に、勝手に、インフォマティクススーパー講義を作って、修行をしました(このときは、昆虫遺伝、泊研、そしてアグリバイオインフォマティクス教育研究プログラムの3カ所をうろうろしていたということになります)。
こんな僕につきあってくださった先生にはとても感謝しています。
それまでもインフォマティクスを勉強しようと思って本を買ったり読もうとすれど、どうにもうまくいかなかったのですが、プロの仕事をみる、というのは最高の教科書で、結構、ポイントが分かるようになりました。
扱うデータセットがいかに大きくとも、1ステップ1ステップ、高度なコードに頼らず、自分の目で自分が行った作業のアウトプットを確認すること、がかなり大事でした。
実験とまったく一緒ですね。
そんなこんなで、アマチュアなれど、piRNAに関する解析に関しては一通りの手技を(たぶん)身につけることに成功したわけです。
さて。
生化学の実験で痛感したことですが、反応のタイムコースをとる、ということはそれ単独でとても重要です。
ここでは、受精後のタイムコースをとったことによって、生体においてpiRNAが作られていくさまをこの目で捉えることに成功したのです。
だいぶ長くなってしまったので、詳細は次回紹介させていただきます。
(つづく)
July 31, 2011
July 27, 2011
カイコドラマチック(7)
こんばんは、河岡です。
あと2,3回で打ち止めでしょうか。
**************************************
ブレイクスルーはひょんなところから。
細胞を壊した液をきれいにしないで実験に使う、というのがキモでした。
その後、この活性は、1,000gの遠心でも溶けない画分にしずむこと、そして、可溶化するのがものすごく難しいことが分かったわけです。
さて、問題は、
この反応によってうまれた27塩基のRNAが、ほんとうに成熟型piRNAにあたるものなのか?
ということです。
生体に存在するpiRNAは、3'末端にメチル化修飾が入る、ということが知られています。
in vitroでつくったpiRNA'らしきもの'の3'末端を調べてみると、メチル化修飾が確かに入っている、ということが分かりました。
この実験の結果、当時泊研にいたかわまたさんと一緒に結果をみたのをよく覚えています。
結構夜遅かったのですが、携帯で写真を撮って、速攻で泊さんにメールをしたのが懐かしいです。
このときのゲルは割れませんでした。
と、いうわけで、この時点で、in vitroでpiRNAをつくることができた、ということを確信しました。
こうなるとやること、やれることはたくさん出てくるわけで、いろいろなことが比較的つぎつぎと明らかになっていきました。
要約すると、以下のようになります。
• おしりをかじる反応は、3'から5'方向へのエキソヌクレアーゼ反応である
• おしりをかじる反応にはマグネシウムが必要である
• おしりをかじる反応が起こらないと、3'末端の修飾がはいらない
• 3'末端の修飾がなくてもpiRNAの長さは勝手に決まる
こう、さくっと書いてしまうと若干あじけないかも分かりません。
しかし、自分で言うのも何ですが、大事なことほど、ひとたび分かってしまえばすとんと、自明なことであるかのように思えてしまうものではないでしょうか。
さて、ここではじめて明らかになったpiRNAがつくられるしくみ。
(5-7)で記したことを、いまいちど最初から述べてみます。
1番目の塩基がUであるRNAがカイコのPIWIであるSiwiに取り込まれます。
しかるのちに、はみ出たRNAの3'側が、エキソヌクレアーゼ反応によって'トリミング'されます。
トリミングが完了すると、それと連動するかたちで3'末端にメチル化が入ります。
これで、PIWIとpiRNAの複合体の完成です。
言い換えれば、1番目がUのRNAはだれだってpiRNAになれる、ということです。
これは、現在までに知られている二本鎖型中間体を経てつくられる低分子RNAとはまったく異なる、まったくもって無骨なものでした。
2009年、昆虫遺伝研究室で行った研究によって、カイコという非モデル生物の培養細胞が、piRNAという新しいRNAの研究に有用であることが分かりました。
その後、さまざまな縁、幸運に恵まれて、泊さんの指導のもとにこの手でBmN4細胞を調理し、piRNAという低分子RNAがどうやってできるのか、ということを明確に明らかにすることができました。
まだ研究をはじめてそんなに時間は経っていませんが、なんとまあ良い体験をしたな、と思うばかりです。
BmN4は本当に有用なヤツで、もしかしたら、piRNA研究のために生まれてきたのかもしれません(ウイルスの宿主として使っている勝間ボスに怒られそうですが(笑))。
BmN4細胞を使ったその他種々のお話については、またいずれ。
さてさて、もういいよ、という声もあるかもしれませんが、いけているのはBmN4細胞だけではありません。
そう、カイコ生体だって、使いようによっては面白い知見を与えてくれるのです。
次回は、カイコ生体を材料として展開した研究について、またまたいろいろな縁に関することを交えながら、簡単にお話しようと思います。
(つづく)
あと2,3回で打ち止めでしょうか。
**************************************
ブレイクスルーはひょんなところから。
細胞を壊した液をきれいにしないで実験に使う、というのがキモでした。
その後、この活性は、1,000gの遠心でも溶けない画分にしずむこと、そして、可溶化するのがものすごく難しいことが分かったわけです。
さて、問題は、
この反応によってうまれた27塩基のRNAが、ほんとうに成熟型piRNAにあたるものなのか?
ということです。
生体に存在するpiRNAは、3'末端にメチル化修飾が入る、ということが知られています。
in vitroでつくったpiRNA'らしきもの'の3'末端を調べてみると、メチル化修飾が確かに入っている、ということが分かりました。
この実験の結果、当時泊研にいたかわまたさんと一緒に結果をみたのをよく覚えています。
結構夜遅かったのですが、携帯で写真を撮って、速攻で泊さんにメールをしたのが懐かしいです。
このときのゲルは割れませんでした。
と、いうわけで、この時点で、in vitroでpiRNAをつくることができた、ということを確信しました。
こうなるとやること、やれることはたくさん出てくるわけで、いろいろなことが比較的つぎつぎと明らかになっていきました。
要約すると、以下のようになります。
• おしりをかじる反応は、3'から5'方向へのエキソヌクレアーゼ反応である
• おしりをかじる反応にはマグネシウムが必要である
• おしりをかじる反応が起こらないと、3'末端の修飾がはいらない
• 3'末端の修飾がなくてもpiRNAの長さは勝手に決まる
こう、さくっと書いてしまうと若干あじけないかも分かりません。
しかし、自分で言うのも何ですが、大事なことほど、ひとたび分かってしまえばすとんと、自明なことであるかのように思えてしまうものではないでしょうか。
さて、ここではじめて明らかになったpiRNAがつくられるしくみ。
(5-7)で記したことを、いまいちど最初から述べてみます。
1番目の塩基がUであるRNAがカイコのPIWIであるSiwiに取り込まれます。
しかるのちに、はみ出たRNAの3'側が、エキソヌクレアーゼ反応によって'トリミング'されます。
トリミングが完了すると、それと連動するかたちで3'末端にメチル化が入ります。
これで、PIWIとpiRNAの複合体の完成です。
言い換えれば、1番目がUのRNAはだれだってpiRNAになれる、ということです。
これは、現在までに知られている二本鎖型中間体を経てつくられる低分子RNAとはまったく異なる、まったくもって無骨なものでした。
2009年、昆虫遺伝研究室で行った研究によって、カイコという非モデル生物の培養細胞が、piRNAという新しいRNAの研究に有用であることが分かりました。
その後、さまざまな縁、幸運に恵まれて、泊さんの指導のもとにこの手でBmN4細胞を調理し、piRNAという低分子RNAがどうやってできるのか、ということを明確に明らかにすることができました。
まだ研究をはじめてそんなに時間は経っていませんが、なんとまあ良い体験をしたな、と思うばかりです。
BmN4は本当に有用なヤツで、もしかしたら、piRNA研究のために生まれてきたのかもしれません(ウイルスの宿主として使っている勝間ボスに怒られそうですが(笑))。
BmN4細胞を使ったその他種々のお話については、またいずれ。
さてさて、もういいよ、という声もあるかもしれませんが、いけているのはBmN4細胞だけではありません。
そう、カイコ生体だって、使いようによっては面白い知見を与えてくれるのです。
次回は、カイコ生体を材料として展開した研究について、またまたいろいろな縁に関することを交えながら、簡単にお話しようと思います。
(つづく)
July 24, 2011
カイコドラマチック(6)
こんばんは、河岡です。
またまた間が空いてしまいました。
前回のエントリに書いた、
「まず、成熟型のpiRNAよりも長い、1UのRNAがSiwiにくっついて、しかるのちに3'側が削られる」
この仮説に対して、どんな実験を行っていったのか、書きたいと思います。
**************************************
ここまでで、カイコのPIWI、Siwiが、1番目がU(1U)のRNAが好き、ということが分かっていました。
そこでまず、RNAの長さを、成熟型piRNAを模した26塩基から、50塩基に変え、Siwiをくっつけてみました。
面白いことに、50塩基の長さにしても、やはりSiwiは1Uが好き、ということが分かりました。
もっと長いRNAが適当に分解されると、当該RNAの塩基の組成に偏りがないとして、25%の確率で1UのRNAができてくることになります。
この実験結果から、これがSiwiにくっついて、piRNA前駆体となる、というシナリオが、いよいよもっともらしく思えてきました。
50塩基というのは成熟型のpiRNAよりも長いわけですから、何となく、RNAの3'側のおしりがSiwiからはみだしたような状況がイメージできます。
もし、たてた仮説が合っているとするならば、ここにタンパク質抽出物(ライセート)を入れたら、おしりがかじられて、成熟型piRNAができる、ということになります。
わくわくしながら、この予想が正しいかどうか、試してみました。
はたして。
おしりはまったくかじられませんでした。
じっと待っても、50塩基は50塩基のままでした。
しつこいですが、その段階で、piRNAがどのように作られるか、ということは全く分かっていませんでした。
つまり、仮説が正しい、という保証はどこにもなかったのです。
実験が「うまくいかない」ことが「正しい」のかもしれません。
まあ、そんな簡単じゃないよね、というような気もしました。
ここで実験は一時ストップして(1,2回しかトライしていませんが)、手を広げがちな僕は別のプロジェクトにずいぶん時間を使うことになります(別のプロジェクトについては後述します)。
しかし、心のなかでは、仮説が正しくないからうまくいかない、ということはないのではないか、と感じていました。
自分たちの仮説は、そのくらい、ものすごく合理的に思えたのです。
もし仮説が正しいのであれば、実験の方法が間違っているということになります。
ここで、泊さんに最初に言われたことが思い出されました。
「それこそ、ライセートの作り方から検討しなきゃいけないねえ」
このことを考えると、ことによると、僕のライセートの作り方が良くないのかもしれないー仮説は正しい、つまり、Siwiに結合した長いRNAのおしりをかじる活性はあるのだけれども、その活性が、使っているライセートには存在しない、あるいは活性が失われている、可能性が考えられたのです。
ここで、ライセートなるものについて、簡単なバックグラウンドをお話します。
ライセートというのは、なにがしかの方法でバッファー中で細胞を壊したあとに、遠心分離によってバッファーに溶け出してきた画分と、溶けなかった画分に分離してつくります。
いわゆる溶け出してきた画分をライセート、と呼んでいるのです。
すなわち、ライセートにした時点で、細胞のもっていた一部のものを「捨てて」いることになります。
さてさて、もう、オチが分かった方もいるのではないでしょうか?
ある昼下がり、別の実験の相談をしていたときだったのではないかと思いますが、泊さんに、
「例の実験だけれど、遠心しない状態で仮想piRNA複合体とまぜてみたら」
ということを言われました。
細胞を壊したぐじょぐじょの液は、細胞のあらゆるものが入っていて汚くて、これで実験するひとはあまりいません(たぶん)。
しかし、何も捨てていないわけですから、そこにはすべてが入っているはずです。
よしゃ、と思って、だめもとで、そのぐじょぐじょの液を仮想piRNA複合体とまぜてみました。
その日のことはよく覚えています。
僕は実験(?)が下手で、ゲル板からゲルがもれてゲルを作り直したり(いまだにもれますが、ピーターによって画期的な解決法が提示され、作り直すことは減りました)、ゲルがわれることもしばしばしば、です。
その実験のゲルも、乾燥機から取り出したあとにビキビキに割れてしまい、あーあ、またやっちゃった、とへらへらしていました。
しかし、そのゲルこそが、最初に実験が「うまくいった」ゲルとなったのでした。
ビキビキに割れてはいたけれど、はっきりと分かりました。
そう、ぐじょぐじょの液とまぜると、Siwiに結合した50塩基のRNAの3'側が削られて、27塩基くらいの長さになったのです。
(つづく)
またまた間が空いてしまいました。
前回のエントリに書いた、
「まず、成熟型のpiRNAよりも長い、1UのRNAがSiwiにくっついて、しかるのちに3'側が削られる」
この仮説に対して、どんな実験を行っていったのか、書きたいと思います。
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ここまでで、カイコのPIWI、Siwiが、1番目がU(1U)のRNAが好き、ということが分かっていました。
そこでまず、RNAの長さを、成熟型piRNAを模した26塩基から、50塩基に変え、Siwiをくっつけてみました。
面白いことに、50塩基の長さにしても、やはりSiwiは1Uが好き、ということが分かりました。
もっと長いRNAが適当に分解されると、当該RNAの塩基の組成に偏りがないとして、25%の確率で1UのRNAができてくることになります。
この実験結果から、これがSiwiにくっついて、piRNA前駆体となる、というシナリオが、いよいよもっともらしく思えてきました。
50塩基というのは成熟型のpiRNAよりも長いわけですから、何となく、RNAの3'側のおしりがSiwiからはみだしたような状況がイメージできます。
もし、たてた仮説が合っているとするならば、ここにタンパク質抽出物(ライセート)を入れたら、おしりがかじられて、成熟型piRNAができる、ということになります。
わくわくしながら、この予想が正しいかどうか、試してみました。
はたして。
おしりはまったくかじられませんでした。
じっと待っても、50塩基は50塩基のままでした。
しつこいですが、その段階で、piRNAがどのように作られるか、ということは全く分かっていませんでした。
つまり、仮説が正しい、という保証はどこにもなかったのです。
実験が「うまくいかない」ことが「正しい」のかもしれません。
まあ、そんな簡単じゃないよね、というような気もしました。
ここで実験は一時ストップして(1,2回しかトライしていませんが)、手を広げがちな僕は別のプロジェクトにずいぶん時間を使うことになります(別のプロジェクトについては後述します)。
しかし、心のなかでは、仮説が正しくないからうまくいかない、ということはないのではないか、と感じていました。
自分たちの仮説は、そのくらい、ものすごく合理的に思えたのです。
もし仮説が正しいのであれば、実験の方法が間違っているということになります。
ここで、泊さんに最初に言われたことが思い出されました。
「それこそ、ライセートの作り方から検討しなきゃいけないねえ」
このことを考えると、ことによると、僕のライセートの作り方が良くないのかもしれないー仮説は正しい、つまり、Siwiに結合した長いRNAのおしりをかじる活性はあるのだけれども、その活性が、使っているライセートには存在しない、あるいは活性が失われている、可能性が考えられたのです。
ここで、ライセートなるものについて、簡単なバックグラウンドをお話します。
ライセートというのは、なにがしかの方法でバッファー中で細胞を壊したあとに、遠心分離によってバッファーに溶け出してきた画分と、溶けなかった画分に分離してつくります。
いわゆる溶け出してきた画分をライセート、と呼んでいるのです。
すなわち、ライセートにした時点で、細胞のもっていた一部のものを「捨てて」いることになります。
さてさて、もう、オチが分かった方もいるのではないでしょうか?
ある昼下がり、別の実験の相談をしていたときだったのではないかと思いますが、泊さんに、
「例の実験だけれど、遠心しない状態で仮想piRNA複合体とまぜてみたら」
ということを言われました。
細胞を壊したぐじょぐじょの液は、細胞のあらゆるものが入っていて汚くて、これで実験するひとはあまりいません(たぶん)。
しかし、何も捨てていないわけですから、そこにはすべてが入っているはずです。
よしゃ、と思って、だめもとで、そのぐじょぐじょの液を仮想piRNA複合体とまぜてみました。
その日のことはよく覚えています。
僕は実験(?)が下手で、ゲル板からゲルがもれてゲルを作り直したり(いまだにもれますが、ピーターによって画期的な解決法が提示され、作り直すことは減りました)、ゲルがわれることもしばしばしば、です。
その実験のゲルも、乾燥機から取り出したあとにビキビキに割れてしまい、あーあ、またやっちゃった、とへらへらしていました。
しかし、そのゲルこそが、最初に実験が「うまくいった」ゲルとなったのでした。
ビキビキに割れてはいたけれど、はっきりと分かりました。
そう、ぐじょぐじょの液とまぜると、Siwiに結合した50塩基のRNAの3'側が削られて、27塩基くらいの長さになったのです。
(つづく)
July 13, 2011
カイコドラマチック(5)
こんばんは、河岡です。
若干途切れてしまいました。
見る人が見たら、これを書く時間があるなら論文を早くしろ、と言われそうですが、論文より大事なことだってあるのです。
全編通してそうですが、より分かり易いエントリを目指して、明らかになったことの時系列が前後している場合があることをご了承ください。
こんなふうにすんなりすべてがうまくいったらしあわせです(つまらないかも)。
**************************************
かくして、この手でpiRNAをつくるべく、生化学の実験がスタートしました。
まずはともあれ、タンパク質抽出物(以下ライセート)を作って、系を構築することになります。
まさにこれが要のステップであり、御大将、泊さんに最初に言われたことが深く印象に残っています。
「それこそ、ライセートの作り方から検討しなきゃいけないねえ」
一通りの分子生物学実験は勝間ボスに仕込まれていたものの、そういうことはやったことが(考えたことが)ありませんでした。
すなわち、キットか、論文か、そういうリファレンスに、こうやるとうまくいくで、と書いてあることをやっていたことがほとんどだったわけです。
そもそも、やりたいことをやるのにそれでじゅうぶんでした。
確かに、どうやってできるか分かっていないものを作ろう、というのですから、その材料たるライセートの作り方を検討する、というのは至極もっともだな、と納得したわけです。
ところが、僕は相当のめんどくさがりで、いわゆるハードワーカーでもありません。
そこで、いまや好敵手であり心友という、まさにジャンプ的な関係だと勝手に思っているいわさきさんがいつもやっている方法をならって、常法にてライセートを調製し、それでまずは遊んでみることにしました。
話はそれますが、僕といわさきさんの会話は、ときにシリアス (15%)、ときに高尚 (2%)、ほとんど漫才 (83%)、という内容で、(あの)よださんにあきれられるくらいで、一緒に実験していると、口ばっかり動いてしまいます。
そのせいで(?)起こした事件は数知れず、セミドライのブロッタを落として破壊したり、ウェットのブロッタを高熱にさらしてしまったり、、、思い出せばきりがありません。
実験室にひとあらば必ず口が動くのが僕なのですが、事件が起きるのはいわさきさんspecificなので、お互いに何かあるのだと考察しています。
さて、とにかく最初につくったライセート、いちおう、FlagタグをくっつけたカイコのPIWI、Siwiは、そのなかで心地よく過ごしているようでした。
ちょっとバックグラウンドを書かなければなりません。
piRNAの生合成経路はとにかく不明な点だらけなのですが、2007年に、ひとたびpiRNA複合体ができると、piRNA複合体による標的の切断を通して新しいpiRNAがどんどんできる、という、Ping-pong modelと呼ばれる魅力的なモデルがSiomi lab、そしてHannon labから発表されています。
が、「最初のpiRNA複合体」がどうやってできるか、という情報はほとんどありませんでした。
このことを考えるにあたって使えそうだった情報は以下のふたつ。
1) 二本鎖RNAからつくられるsiRNAやmiRNAとちがって、piRNAは一本鎖RNAからつくられる
2) ある種のPIWIは1番目の塩基がU (1U)であるRNAに好んで結合する
これだけです。
カイコの場合、Siwiは1Uが好きで、BmAgo3はそうではない、ということが、deep sequencingの結果から分かっていました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19460866)。
というわけで、まず最初に、一本鎖のRNAをライセートにまぜるとSiwiとくっつくのかどうか、そして、1U RNAが好き、ということを再現できるのか、ということを試しました。
すると、確かに、生化学的にもSiwiは1U RNAが好きで、BmAgo3はそうではない、ということが分かりました。
生体内で起こっていることを生化学的に再現できるというのは美しいものです。
またまた話がそれるのですが、現泊研のささきさんが、「僕がタンパク質だったら、よほどちゃんと教えてくれないと1Uが好きとか分からない」みたいなことを言っていて、やけに納得したのを覚えています。
なにはともあれ、これで一歩前進です。
上述の通り、
1) siRNAやmiRNAとちがって、piRNAの前駆体は一本鎖RNAである
わけです。
一本鎖のRNAから成熟型のpiRNAができる、という反応は、「両端をどうやって決めるか」、ということに他なりません。
成熟型のpiRNAの5'側がどう決まるか、ということに関しては、シンプルに、Siwiが1Uを好きだから、ということによって説明できそうです。
3'側はどうでしょう?
Deep sequencingのデータをよく見てみると、piRNAの3'側は非常にヘテロ、すなわち、同じ5'末端でありながら、3'側の長さが異なるものがたくさんある、ということが分かります。
5'側は1Uでかっちり決まっているようにみえるのに、3'側は適当に決まっているようにみえたのです。
このことから、つぎのような作業仮説を立てました。
「まず、成熟型のpiRNAよりも長い、1UのRNAがSiwiにくっついて、しかるのちに3'側が削られる」
1U好き実験で使っていたRNAの長さは、成熟型piRNAを模した26塩基でした。
そこで、オリゴの値段と相談しつつ、適当に、1Uで50塩基のRNAを使って、上記仮説を検証してみることにしました。
つづく
若干途切れてしまいました。
見る人が見たら、これを書く時間があるなら論文を早くしろ、と言われそうですが、論文より大事なことだってあるのです。
全編通してそうですが、より分かり易いエントリを目指して、明らかになったことの時系列が前後している場合があることをご了承ください。
こんなふうにすんなりすべてがうまくいったらしあわせです(つまらないかも)。
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かくして、この手でpiRNAをつくるべく、生化学の実験がスタートしました。
まずはともあれ、タンパク質抽出物(以下ライセート)を作って、系を構築することになります。
まさにこれが要のステップであり、御大将、泊さんに最初に言われたことが深く印象に残っています。
「それこそ、ライセートの作り方から検討しなきゃいけないねえ」
一通りの分子生物学実験は勝間ボスに仕込まれていたものの、そういうことはやったことが(考えたことが)ありませんでした。
すなわち、キットか、論文か、そういうリファレンスに、こうやるとうまくいくで、と書いてあることをやっていたことがほとんどだったわけです。
そもそも、やりたいことをやるのにそれでじゅうぶんでした。
確かに、どうやってできるか分かっていないものを作ろう、というのですから、その材料たるライセートの作り方を検討する、というのは至極もっともだな、と納得したわけです。
ところが、僕は相当のめんどくさがりで、いわゆるハードワーカーでもありません。
そこで、いまや好敵手であり心友という、まさにジャンプ的な関係だと勝手に思っているいわさきさんがいつもやっている方法をならって、常法にてライセートを調製し、それでまずは遊んでみることにしました。
話はそれますが、僕といわさきさんの会話は、ときにシリアス (15%)、ときに高尚 (2%)、ほとんど漫才 (83%)、という内容で、(あの)よださんにあきれられるくらいで、一緒に実験していると、口ばっかり動いてしまいます。
そのせいで(?)起こした事件は数知れず、セミドライのブロッタを落として破壊したり、ウェットのブロッタを高熱にさらしてしまったり、、、思い出せばきりがありません。
実験室にひとあらば必ず口が動くのが僕なのですが、事件が起きるのはいわさきさんspecificなので、お互いに何かあるのだと考察しています。
さて、とにかく最初につくったライセート、いちおう、FlagタグをくっつけたカイコのPIWI、Siwiは、そのなかで心地よく過ごしているようでした。
ちょっとバックグラウンドを書かなければなりません。
piRNAの生合成経路はとにかく不明な点だらけなのですが、2007年に、ひとたびpiRNA複合体ができると、piRNA複合体による標的の切断を通して新しいpiRNAがどんどんできる、という、Ping-pong modelと呼ばれる魅力的なモデルがSiomi lab、そしてHannon labから発表されています。
が、「最初のpiRNA複合体」がどうやってできるか、という情報はほとんどありませんでした。
このことを考えるにあたって使えそうだった情報は以下のふたつ。
1) 二本鎖RNAからつくられるsiRNAやmiRNAとちがって、piRNAは一本鎖RNAからつくられる
2) ある種のPIWIは1番目の塩基がU (1U)であるRNAに好んで結合する
これだけです。
カイコの場合、Siwiは1Uが好きで、BmAgo3はそうではない、ということが、deep sequencingの結果から分かっていました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19460866)。
というわけで、まず最初に、一本鎖のRNAをライセートにまぜるとSiwiとくっつくのかどうか、そして、1U RNAが好き、ということを再現できるのか、ということを試しました。
すると、確かに、生化学的にもSiwiは1U RNAが好きで、BmAgo3はそうではない、ということが分かりました。
生体内で起こっていることを生化学的に再現できるというのは美しいものです。
またまた話がそれるのですが、現泊研のささきさんが、「僕がタンパク質だったら、よほどちゃんと教えてくれないと1Uが好きとか分からない」みたいなことを言っていて、やけに納得したのを覚えています。
なにはともあれ、これで一歩前進です。
上述の通り、
1) siRNAやmiRNAとちがって、piRNAの前駆体は一本鎖RNAである
わけです。
一本鎖のRNAから成熟型のpiRNAができる、という反応は、「両端をどうやって決めるか」、ということに他なりません。
成熟型のpiRNAの5'側がどう決まるか、ということに関しては、シンプルに、Siwiが1Uを好きだから、ということによって説明できそうです。
3'側はどうでしょう?
Deep sequencingのデータをよく見てみると、piRNAの3'側は非常にヘテロ、すなわち、同じ5'末端でありながら、3'側の長さが異なるものがたくさんある、ということが分かります。
5'側は1Uでかっちり決まっているようにみえるのに、3'側は適当に決まっているようにみえたのです。
このことから、つぎのような作業仮説を立てました。
「まず、成熟型のpiRNAよりも長い、1UのRNAがSiwiにくっついて、しかるのちに3'側が削られる」
1U好き実験で使っていたRNAの長さは、成熟型piRNAを模した26塩基でした。
そこで、オリゴの値段と相談しつつ、適当に、1Uで50塩基のRNAを使って、上記仮説を検証してみることにしました。
つづく
July 10, 2011
カイコドラマチック(4)
こんばんは、河岡です。
どこまで続くか連続投稿。
**************************************
時系列的にはBmN4/piRNAの論文が世に発表される前のお話になります。
東大で、東京大学生命科学ネットワークシンポジウムなるものが開催されました。
毎年やっているイベントで、学部/研究科を越えて、学内の研究交流を深めよう、というものです。
そこで僕は、BmN4/piRNAに関するポスタを出しました。
運命というのはあるもので、そのシンポジウムに、泊研のいわさきさんがポスタを出していたんですね。
いわさきさんのポスタはキイロショウジョウバエArgonaute1, 2の翻訳抑制メカニズムに関するものでした(参照: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19268617)。
昨日紹介したお気に入りのレビュー(piRNAs-- the ancient hunters of genome invaders: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17639076)の著者である泊さんのところにいる学生さんらしい、ということで、話してみたいな、と思っていたところにさらなる偶然があって、いわさきさんは修士時代、僕のサークル時代の後輩と同じラボで研究をしていたのです。
これはラッキィ、ということで、彼に渡りをつけてもらったりして、いわさきさんと話をすることができました(別に普通に話しかけりゃいいのですけど(笑))。
最初、このひといけずやわ、と思った、というのは内緒の話で、後日いわさきさんと東大の近くでごはんを食べていろいろ話して、泊さんと話してみたらどうか、という話になりました。
早速泊さんにメールをして、勝間ボスと、泊研におじゃましてみたわけです。
驚いたのが、その近さでした(笑)。
僕のデスクがあった居室と泊研は、建物こそ違うものの、歩いて2分もかからない距離にあったのです。
BmN4をうまく利用して生化学をやりたい、生化学のノウハウを教授してもらえないか、というお願いをしてみたところ、泊さんは快く引き受けてくれました(やった!)。
以降、昆虫遺伝研究室と泊研を行ったり来たりする生活がはじまります。
当時泊研は発足してそれほど時が経っていなかったころで、メンバも、泊さんを含めて5,6人、でしたでしょうか。
いまも一緒に切磋琢磨しているよださんや、ポスドクのかわまたさんなどがいて、少数ながらも非常にアクティビティの高い研究室で、RNA-induced silencing complex、いわゆるRISCがどうやって組み立てられるか、そして、どうやってはたらくか、という方向に、皆で向かっている感じがしました。
昆虫遺伝研究室は扱うテーマが多様で(昆虫なら何でもアリ)、皆がいろんな方向に向かっていたので、面白いコントラストでした。
その後、泊さんにつれられてRNAiまわりの国際学会にも顔を出すようになり、僕は、Insect、RNAi、両方の領域に顔を出すようになったわけです。
そう、このとき、異なる分野に顔を出すことの重要性に気がつきました。
どの分野にも良いところがありますし、その分野の一線で活躍している研究者には哲学があります。
一生の友人も得られるかもしれません。
ふたつのタイプの研究室/研究領域を「同時に」体験できたことはほんとうに素晴らしいことで、そこで得たこと、考えたことは、僕がサイエンスというものを考えるときのひとつの礎になっているように思います。
さて、本筋に戻りましょう。
そんなこんなで、機は熟せり。
かわいいBmN4細胞を材料にして、どう料理しようか。
昨日紹介した「RNAi A GUIDE TO GENE SILENCING : edited by Greg. Hannon」の5章に記されている通り、というか科学一般に、対象を「つくることができる」、というのはすごく重要です。
つくることができれば、かなりのことを理解できるはずです。
そう、お料理の名前は、「in vitroでつくったpiRNA」、でした。
つづく
どこまで続くか連続投稿。
**************************************
時系列的にはBmN4/piRNAの論文が世に発表される前のお話になります。
東大で、東京大学生命科学ネットワークシンポジウムなるものが開催されました。
毎年やっているイベントで、学部/研究科を越えて、学内の研究交流を深めよう、というものです。
そこで僕は、BmN4/piRNAに関するポスタを出しました。
運命というのはあるもので、そのシンポジウムに、泊研のいわさきさんがポスタを出していたんですね。
いわさきさんのポスタはキイロショウジョウバエArgonaute1, 2の翻訳抑制メカニズムに関するものでした(参照: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19268617)。
昨日紹介したお気に入りのレビュー(piRNAs-- the ancient hunters of genome invaders: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17639076)の著者である泊さんのところにいる学生さんらしい、ということで、話してみたいな、と思っていたところにさらなる偶然があって、いわさきさんは修士時代、僕のサークル時代の後輩と同じラボで研究をしていたのです。
これはラッキィ、ということで、彼に渡りをつけてもらったりして、いわさきさんと話をすることができました(別に普通に話しかけりゃいいのですけど(笑))。
最初、このひといけずやわ、と思った、というのは内緒の話で、後日いわさきさんと東大の近くでごはんを食べていろいろ話して、泊さんと話してみたらどうか、という話になりました。
早速泊さんにメールをして、勝間ボスと、泊研におじゃましてみたわけです。
驚いたのが、その近さでした(笑)。
僕のデスクがあった居室と泊研は、建物こそ違うものの、歩いて2分もかからない距離にあったのです。
BmN4をうまく利用して生化学をやりたい、生化学のノウハウを教授してもらえないか、というお願いをしてみたところ、泊さんは快く引き受けてくれました(やった!)。
以降、昆虫遺伝研究室と泊研を行ったり来たりする生活がはじまります。
当時泊研は発足してそれほど時が経っていなかったころで、メンバも、泊さんを含めて5,6人、でしたでしょうか。
いまも一緒に切磋琢磨しているよださんや、ポスドクのかわまたさんなどがいて、少数ながらも非常にアクティビティの高い研究室で、RNA-induced silencing complex、いわゆるRISCがどうやって組み立てられるか、そして、どうやってはたらくか、という方向に、皆で向かっている感じがしました。
昆虫遺伝研究室は扱うテーマが多様で(昆虫なら何でもアリ)、皆がいろんな方向に向かっていたので、面白いコントラストでした。
その後、泊さんにつれられてRNAiまわりの国際学会にも顔を出すようになり、僕は、Insect、RNAi、両方の領域に顔を出すようになったわけです。
そう、このとき、異なる分野に顔を出すことの重要性に気がつきました。
どの分野にも良いところがありますし、その分野の一線で活躍している研究者には哲学があります。
一生の友人も得られるかもしれません。
ふたつのタイプの研究室/研究領域を「同時に」体験できたことはほんとうに素晴らしいことで、そこで得たこと、考えたことは、僕がサイエンスというものを考えるときのひとつの礎になっているように思います。
さて、本筋に戻りましょう。
そんなこんなで、機は熟せり。
かわいいBmN4細胞を材料にして、どう料理しようか。
昨日紹介した「RNAi A GUIDE TO GENE SILENCING : edited by Greg. Hannon」の5章に記されている通り、というか科学一般に、対象を「つくることができる」、というのはすごく重要です。
つくることができれば、かなりのことを理解できるはずです。
そう、お料理の名前は、「in vitroでつくったpiRNA」、でした。
つづく
July 9, 2011
カイコドラマチック(3)
こんばんは、河岡です。
前回の連載は打ち切りになってしまいましたが、今回はまだクレームはありませんので、続けたいと思います。
**************************************
「カイコだからこそ」をやるぞ、と意気込んではみたものの、どんな方向に進めば良いか、なんてことがすぐ分かるはずもありません。
そこで、piRNAの論文をいまいちどさらってみると、piRNAに関する知見の多くは、
(1) PIWI遺伝子の変異体の表現型を解析する
(2) piRNAの配列を次世代シーケンサで大量に決める
というものが多数派である、ということに気がつきました。
そして、ふと、修士1年生のときに自費で購入した「RNAi A GUIDE TO GENE SILENCING : edited by Greg. Hannon」の日本語版に記されていた、とある章を思い出したのです。
それが、第五章 「小さなRNAの大きな生物学 : RNAiの生化学的解析 (by Gregory J. Hannon and Philip D. Zamore)」でした。
この章には、RNAiという研究分野において、キイロショウジョウバエの胚抽出物、あるいはS2細胞をはじめとする培養細胞由来のタンパク質抽出物を用いたin vitroの生化学が、いかに大きな貢献をしたか、ということが魅力的に記述されていました。
さらに、当時お気に入りだったpiRNAに関するこのレビュー(piRNAs-- the ancient hunters of genome invaders: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17639076)は、こんなふうに締めくくられていました。
Genetic experiments and large-scale sequencing have been extremely informative, but the next breakthrough may well come from biochemical experiments that recapitulate the loading of Piwi subfamily proteins, and maybe even the biogenesis of piRNAs, in vitro.
確かにそうやな、と思いました。
逆に、どうして、そういう論文がたくさんでてこないのだろう?と感じたわけです。
カイコでもやっぱりそうでしたが、piRNAの発現は生殖巣にかなり特異的です。
モデル生物たるキイロショウジョウバエの生殖巣はカイコよりも全然小さくて、ガチ生化学には厳しそうだな、と感じました。
さらに、どうも、piRNA経路を発現しているような培養細胞がないらしい、ということを知りました。
つまり、in vitroの研究は絶対大事なのだけれども、それをやるのに良い材料がない、ということなんだな、という結論に達しました。
クドクド書いてきて、ようやく、このエントリのヤマにたどり着きました。
そう、うちの研究室はカイコの研究室で、卵巣由来の培養細胞であるBmN4という培養細胞が、とくに勝間ボスの専門であるバキュロウイルス絡みのプロジェクトで、普通に使われていたのです。
卵巣由来、卵巣由来、、、おお、卵巣由来!!!
スットコドッコイ、これ、BmN4細胞がpiRNA経路もっていれば、こんないい材料はないんじゃないか??
勝間ボスとそんな話になり、じゃ、BmN4細胞をきちんと調べてみよう、ということになりました。
.....
いろいろあって、結局、BmN4細胞は、piRNA経路の全てをもっているように見える、ということが分かりました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19460866)。
ここもさらっと書きましたが、PIWIタンパク質を認識する抗体を作ってみたり、免疫沈降物からpiRNAライブラリを作って次世代シーケンサで配列を決めて解析したり、、、piRNAラボなら普通なことでも、やるのはとても大変でした。
次世代シーケンサに由来するデータが、まさに「piRNA生合成」がBmN4細胞で起こっていることを示していると理解したときは、本当に興奮しました。
論文は、いろんな雑誌にふられふられて(昔からふられるのには慣れていたので別に、という感じでしたが)、レフェリーにはthis work is surprisingly incompleteとかいわれたりして、もうハチャメチャでしたが、苦難の果てに、ようやっと、piRNA研究の材料としてのBmN4細胞、を世に売り出すことができました。
書いてみると、この後僕が体験した進展は、少しずつ、少しずつ試行錯誤しながら研究をしたこの時期なくしては語れない、ということを改めて実感します。
さてさて、そんな感傷は置いといて、こんなかわいい愛着のある材料でも、うまく料理してやらねば、宝のもちぐされです。
どう料理したものか。
純粋にどんな科学的事実を明らかにしたか、という話として、おお!、となっていくのはまさにここからです。
そして、ここから先のお話は、みなさんご存知の泊さん、泊ラボとの出会いなくしては、語ることができないのです。
次回は、この運命的な出会いについて語りたいと思います。
つづく
前回の連載は打ち切りになってしまいましたが、今回はまだクレームはありませんので、続けたいと思います。
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「カイコだからこそ」をやるぞ、と意気込んではみたものの、どんな方向に進めば良いか、なんてことがすぐ分かるはずもありません。
そこで、piRNAの論文をいまいちどさらってみると、piRNAに関する知見の多くは、
(1) PIWI遺伝子の変異体の表現型を解析する
(2) piRNAの配列を次世代シーケンサで大量に決める
というものが多数派である、ということに気がつきました。
そして、ふと、修士1年生のときに自費で購入した「RNAi A GUIDE TO GENE SILENCING : edited by Greg. Hannon」の日本語版に記されていた、とある章を思い出したのです。
それが、第五章 「小さなRNAの大きな生物学 : RNAiの生化学的解析 (by Gregory J. Hannon and Philip D. Zamore)」でした。
この章には、RNAiという研究分野において、キイロショウジョウバエの胚抽出物、あるいはS2細胞をはじめとする培養細胞由来のタンパク質抽出物を用いたin vitroの生化学が、いかに大きな貢献をしたか、ということが魅力的に記述されていました。
さらに、当時お気に入りだったpiRNAに関するこのレビュー(piRNAs-- the ancient hunters of genome invaders: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17639076)は、こんなふうに締めくくられていました。
Genetic experiments and large-scale sequencing have been extremely informative, but the next breakthrough may well come from biochemical experiments that recapitulate the loading of Piwi subfamily proteins, and maybe even the biogenesis of piRNAs, in vitro.
確かにそうやな、と思いました。
逆に、どうして、そういう論文がたくさんでてこないのだろう?と感じたわけです。
カイコでもやっぱりそうでしたが、piRNAの発現は生殖巣にかなり特異的です。
モデル生物たるキイロショウジョウバエの生殖巣はカイコよりも全然小さくて、ガチ生化学には厳しそうだな、と感じました。
さらに、どうも、piRNA経路を発現しているような培養細胞がないらしい、ということを知りました。
つまり、in vitroの研究は絶対大事なのだけれども、それをやるのに良い材料がない、ということなんだな、という結論に達しました。
クドクド書いてきて、ようやく、このエントリのヤマにたどり着きました。
そう、うちの研究室はカイコの研究室で、卵巣由来の培養細胞であるBmN4という培養細胞が、とくに勝間ボスの専門であるバキュロウイルス絡みのプロジェクトで、普通に使われていたのです。
卵巣由来、卵巣由来、、、おお、卵巣由来!!!
スットコドッコイ、これ、BmN4細胞がpiRNA経路もっていれば、こんないい材料はないんじゃないか??
勝間ボスとそんな話になり、じゃ、BmN4細胞をきちんと調べてみよう、ということになりました。
.....
いろいろあって、結局、BmN4細胞は、piRNA経路の全てをもっているように見える、ということが分かりました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19460866)。
ここもさらっと書きましたが、PIWIタンパク質を認識する抗体を作ってみたり、免疫沈降物からpiRNAライブラリを作って次世代シーケンサで配列を決めて解析したり、、、piRNAラボなら普通なことでも、やるのはとても大変でした。
次世代シーケンサに由来するデータが、まさに「piRNA生合成」がBmN4細胞で起こっていることを示していると理解したときは、本当に興奮しました。
論文は、いろんな雑誌にふられふられて(昔からふられるのには慣れていたので別に、という感じでしたが)、レフェリーにはthis work is surprisingly incompleteとかいわれたりして、もうハチャメチャでしたが、苦難の果てに、ようやっと、piRNA研究の材料としてのBmN4細胞、を世に売り出すことができました。
書いてみると、この後僕が体験した進展は、少しずつ、少しずつ試行錯誤しながら研究をしたこの時期なくしては語れない、ということを改めて実感します。
さてさて、そんな感傷は置いといて、こんなかわいい愛着のある材料でも、うまく料理してやらねば、宝のもちぐされです。
どう料理したものか。
純粋にどんな科学的事実を明らかにしたか、という話として、おお!、となっていくのはまさにここからです。
そして、ここから先のお話は、みなさんご存知の泊さん、泊ラボとの出会いなくしては、語ることができないのです。
次回は、この運命的な出会いについて語りたいと思います。
つづく
ちょっと休憩に
河岡君の渾身の自戦記の合間に、、、
こんな論文が出ています。発生生物学の業界では知る人ぞ知る。ノックアウトマウス作製技術と組換え技術を自在に使ってしてホメオボックス遺伝子の機能を突き詰めているDenis Dubouleさんの仕事です。
PLoS Genet. 2011 May;7(5):e1002071. Epub 2011 May 26.
Structural and functional differences in the long non-coding RNA hotair in mouse and human.
Schorderet P, Duboule D.
長鎖のノンコーティングRNAの中でも最近大きな注目を浴びているのは、次世代シークエンサーなどの最新の技術を駆使して機能が明らかとなってきた「クロマチン制御因子と相互作用することで遺伝子発現を制御する低発現量の遺伝子群」であるわけですが、その代表選手、宝塚だったら後ろに大きな羽がひらひらしているうんちゃら組のトップHOTAIRを含む遺伝子領域を欠失したノックアウトマウスの表現型の解析です。
彼らの主張はアブストラクトに明確に書かれているのでそちらを参考にしていただきたいのですが、「ヒトとマウスってやっぱり違うんかねえ」というものです。HOTAIRはHOX-Cクラスターから転写されてHOX-Dクラスターの遺伝子の発現をトランスに制御しているところが一つの売りな訳ですが、ヒトの培養細胞を用いた実験で見られていたクロマチン修飾の変化も見られないし、遺伝子発現の変化も見られない。そこでHOTAIRなんておとぎ話につきあわされたオレの青春を返せー、とか言っている訳では決して、決してなく、慎重に、結果の違いについてサイエンティフィックに検証を重ねています。非常にクオリティーの高い論文です。
僕自身は次世代シークエンサーやマイクロアレイを駆使した解析は追試不可能なのでHOTAIRを始めとした最近のアイドルたちは少し距離を置いて見ているのですが、一番大切なことは、こうして実験的な証拠を重ねていきながら(できれば遺伝学的な検証を重ねながら)、結果の差異について慎重に検証を重ねていくことだと思っています。かつて、ニワトリの神経冠細胞の業界では、オレゴンとパリでは水が違うんだとか言う良くわからない結論になったりしたこともあったようです???それはちょっと、、、という気もしますが、先日も取り上げた、「チャオ」ゼッペさん。「いやむかし、このラボと、このラボで、このタンパク質がCajal bodyにあるか、ないか、議論になったんだ。でもね、お互い、使ってる細胞を交換して、みてみたんだ。何が起きたと思う?」(3歩後退)「彼らの結果は!」(2歩後退)「なんと!!!完全にお互いにお互いの結果を再現したんだ!!!!」
こういうことがあるからサイエンスは面白いと思うのです。大事なことは、やはり実験的な検証を加えてゆくこと。ただ単に実験のやり方が悪かったり、もしくは同じ結果が出ているのにそれに気づかない、見る目が無いために結果が再現できないことはありますが、何かしら底に真実は隠されているはずです。個人的に思うのは、次世代シークエンサーを用いた解析は感度が高すぎるし、僕が日常的に使っている古典的なノックアウトマウス作製と組織学の解析は、感度が低すぎる、その中間ぐらいで、うまいこと感覚的に違和感が無い解析方法があれば、スッキリするのになあ、ということですが。
ともあれ、一石を投じる論文であることは間違いありません。今後も目が離せません!
中川
こんな論文が出ています。発生生物学の業界では知る人ぞ知る。ノックアウトマウス作製技術と組換え技術を自在に使ってしてホメオボックス遺伝子の機能を突き詰めているDenis Dubouleさんの仕事です。
PLoS Genet. 2011 May;7(5):e1002071. Epub 2011 May 26.
Structural and functional differences in the long non-coding RNA hotair in mouse and human.
Schorderet P, Duboule D.
長鎖のノンコーティングRNAの中でも最近大きな注目を浴びているのは、次世代シークエンサーなどの最新の技術を駆使して機能が明らかとなってきた「クロマチン制御因子と相互作用することで遺伝子発現を制御する低発現量の遺伝子群」であるわけですが、その代表選手、宝塚だったら後ろに大きな羽がひらひらしているうんちゃら組のトップHOTAIRを含む遺伝子領域を欠失したノックアウトマウスの表現型の解析です。
彼らの主張はアブストラクトに明確に書かれているのでそちらを参考にしていただきたいのですが、「ヒトとマウスってやっぱり違うんかねえ」というものです。HOTAIRはHOX-Cクラスターから転写されてHOX-Dクラスターの遺伝子の発現をトランスに制御しているところが一つの売りな訳ですが、ヒトの培養細胞を用いた実験で見られていたクロマチン修飾の変化も見られないし、遺伝子発現の変化も見られない。そこでHOTAIRなんておとぎ話につきあわされたオレの青春を返せー、とか言っている訳では決して、決してなく、慎重に、結果の違いについてサイエンティフィックに検証を重ねています。非常にクオリティーの高い論文です。
僕自身は次世代シークエンサーやマイクロアレイを駆使した解析は追試不可能なのでHOTAIRを始めとした最近のアイドルたちは少し距離を置いて見ているのですが、一番大切なことは、こうして実験的な証拠を重ねていきながら(できれば遺伝学的な検証を重ねながら)、結果の差異について慎重に検証を重ねていくことだと思っています。かつて、ニワトリの神経冠細胞の業界では、オレゴンとパリでは水が違うんだとか言う良くわからない結論になったりしたこともあったようです???それはちょっと、、、という気もしますが、先日も取り上げた、「チャオ」ゼッペさん。「いやむかし、このラボと、このラボで、このタンパク質がCajal bodyにあるか、ないか、議論になったんだ。でもね、お互い、使ってる細胞を交換して、みてみたんだ。何が起きたと思う?」(3歩後退)「彼らの結果は!」(2歩後退)「なんと!!!完全にお互いにお互いの結果を再現したんだ!!!!」
こういうことがあるからサイエンスは面白いと思うのです。大事なことは、やはり実験的な検証を加えてゆくこと。ただ単に実験のやり方が悪かったり、もしくは同じ結果が出ているのにそれに気づかない、見る目が無いために結果が再現できないことはありますが、何かしら底に真実は隠されているはずです。個人的に思うのは、次世代シークエンサーを用いた解析は感度が高すぎるし、僕が日常的に使っている古典的なノックアウトマウス作製と組織学の解析は、感度が低すぎる、その中間ぐらいで、うまいこと感覚的に違和感が無い解析方法があれば、スッキリするのになあ、ということですが。
ともあれ、一石を投じる論文であることは間違いありません。今後も目が離せません!
中川
July 8, 2011
カイコドラマチック(2)
こんばんは、河岡です。
ひまなわけでは決してないのですが、第二部です。
今日の金曜ロードショーは魔女の宅急便ですよ!
**************************************
学生としての公式テーマをpiRNAに据えたのは2007年、修士1年生のときでした。
駆け出しの学生にできることと言えばそれはもう限られているわけでして、、、
まずは、カイコのPIWI遺伝子とpiRNAってどんな感じなのだろう、ということで、カイコのPIWIをクローニングして、その性状を解析してみました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18191035)。
後に、この事実がカイコのpiRNA経路に関する議論を分かり易くする一助となるわけですが、Piwi, Aubergine, Ago3という3つのPIWI遺伝子を持っているキイロショウジョウバエに対して、カイコはPIWI遺伝子をふたつしか持っていませんでした。
マウスのPIWIはMiwi, Mili, Miwi2、その響きのおしゃれ感に影響されて、ふたつの遺伝子のひとつをSilkworm PiwiでSiwi、そして、カイコの学名であるBombyx moriも残してやるか、ということで、もうひとつをBmAgo3、と名付けたわけです。
ホモログとっただけ、と言ってしまえばそれまでなのですが、flybaseのような素晴らしいウェブサイトがあるわけでもなく、比較的研究者人口の少ないカイコ界にあって、遺伝子ふたつとるのは、RACEしたり、EST解析したりして、結構大変だったことが懐かしく思い出されます。
加えて、カイコのボディの大きさを活かして、こまかーく遺伝子発現のプロファイルを調べたりもしました。
調べるべきステージが多いと、解剖してRNAとってcDNAつくってqPCRして、というのも結構な労働で、ひとりで作業するのが寂しかったので、いたいけな学部学生の後輩を捕まえて、一緒に実験していました。
さて、今度は、肝心のpiRNAです。
実は、前述の博士課程の先輩が卵巣のトランスクリプトーム解析をしているさなか、30塩基くらいの小さいRNAが発現してるよ、ということを明らかにしていました。
では、ということで、ぴかぴか光るそれらの小さなRNAをクローニングして、「前」世代シーケンサで一生懸命4万リードくらい配列を決めました(僕が4万リード読んだわけではありません)。
配列を決めたら、今度はなかみを解析する必要があります。
piRNAは、配列が異常に多様で、読んでも読んでも新しい配列が出てくることが知られています。
とてもとても、人力のみで解析できる代物ではありませんでした。
そんな事情もあって、別の研究室で研究をしていたコンピュータ好きな同期の友達を捕まえて、彼の力を借りて、一緒になってわいわい解析をしてみたわけです。
さてさて、コンピュータができる彼の力を借りたとて、どんなガイドラインでものを調べればいいか、ということがさっぱり分かりません。
piRNAを研究している人がまわりにいなかったので、続々出てくるショウジョウバエ、マウスなどの論文を読みながら、ああでもない、こうでもない、といろいろ試行錯誤する必要がありました。
苦難のはてに、どうやらとったものはpiRNAだ、カイコにもこのパスウェイはあるんだ、という、結論っぽいものを得ることができました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18801438)。
書いてみるとなんやねんという感じですが、こんな小さなことでも言うのは大変だなあ、学ぶは真似ぶとも言う、なんていうけど、真似するってのも大変なもんだな、と強く感じたことを覚えています。
このときすでに、本研究領域の課題ともなっている、性決定染色体由来のpiRNAの存在には気がついていたわけですが、それは後述します。
さてさてさて、そんなこんなで、もう、2008年になっていました。
個人的には、カイコでpiRNAをやる、という土台はできたなあ、と、一定の満足を覚えていたように記憶しています。
が、上で述べたような研究には、そこに、「カイコだからできたんだ」という売りがほとんどありませんでした。
そのことを認識して、自分に対して、強烈な不満を感じ、いらいらしたりしていました。
論文を読んで真似るだけではなく、カイコを材料にして、いや、したからこそ、こんな研究ができたんだ、と胸をはれる研究をしよう、と思ったのは、このときです。
つづく
ひまなわけでは決してないのですが、第二部です。
今日の金曜ロードショーは魔女の宅急便ですよ!
**************************************
学生としての公式テーマをpiRNAに据えたのは2007年、修士1年生のときでした。
駆け出しの学生にできることと言えばそれはもう限られているわけでして、、、
まずは、カイコのPIWI遺伝子とpiRNAってどんな感じなのだろう、ということで、カイコのPIWIをクローニングして、その性状を解析してみました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18191035)。
後に、この事実がカイコのpiRNA経路に関する議論を分かり易くする一助となるわけですが、Piwi, Aubergine, Ago3という3つのPIWI遺伝子を持っているキイロショウジョウバエに対して、カイコはPIWI遺伝子をふたつしか持っていませんでした。
マウスのPIWIはMiwi, Mili, Miwi2、その響きのおしゃれ感に影響されて、ふたつの遺伝子のひとつをSilkworm PiwiでSiwi、そして、カイコの学名であるBombyx moriも残してやるか、ということで、もうひとつをBmAgo3、と名付けたわけです。
ホモログとっただけ、と言ってしまえばそれまでなのですが、flybaseのような素晴らしいウェブサイトがあるわけでもなく、比較的研究者人口の少ないカイコ界にあって、遺伝子ふたつとるのは、RACEしたり、EST解析したりして、結構大変だったことが懐かしく思い出されます。
加えて、カイコのボディの大きさを活かして、こまかーく遺伝子発現のプロファイルを調べたりもしました。
調べるべきステージが多いと、解剖してRNAとってcDNAつくってqPCRして、というのも結構な労働で、ひとりで作業するのが寂しかったので、いたいけな学部学生の後輩を捕まえて、一緒に実験していました。
さて、今度は、肝心のpiRNAです。
実は、前述の博士課程の先輩が卵巣のトランスクリプトーム解析をしているさなか、30塩基くらいの小さいRNAが発現してるよ、ということを明らかにしていました。
では、ということで、ぴかぴか光るそれらの小さなRNAをクローニングして、「前」世代シーケンサで一生懸命4万リードくらい配列を決めました(僕が4万リード読んだわけではありません)。
配列を決めたら、今度はなかみを解析する必要があります。
piRNAは、配列が異常に多様で、読んでも読んでも新しい配列が出てくることが知られています。
とてもとても、人力のみで解析できる代物ではありませんでした。
そんな事情もあって、別の研究室で研究をしていたコンピュータ好きな同期の友達を捕まえて、彼の力を借りて、一緒になってわいわい解析をしてみたわけです。
さてさて、コンピュータができる彼の力を借りたとて、どんなガイドラインでものを調べればいいか、ということがさっぱり分かりません。
piRNAを研究している人がまわりにいなかったので、続々出てくるショウジョウバエ、マウスなどの論文を読みながら、ああでもない、こうでもない、といろいろ試行錯誤する必要がありました。
苦難のはてに、どうやらとったものはpiRNAだ、カイコにもこのパスウェイはあるんだ、という、結論っぽいものを得ることができました(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18801438)。
書いてみるとなんやねんという感じですが、こんな小さなことでも言うのは大変だなあ、学ぶは真似ぶとも言う、なんていうけど、真似するってのも大変なもんだな、と強く感じたことを覚えています。
このときすでに、本研究領域の課題ともなっている、性決定染色体由来のpiRNAの存在には気がついていたわけですが、それは後述します。
さてさてさて、そんなこんなで、もう、2008年になっていました。
個人的には、カイコでpiRNAをやる、という土台はできたなあ、と、一定の満足を覚えていたように記憶しています。
が、上で述べたような研究には、そこに、「カイコだからできたんだ」という売りがほとんどありませんでした。
そのことを認識して、自分に対して、強烈な不満を感じ、いらいらしたりしていました。
論文を読んで真似るだけではなく、カイコを材料にして、いや、したからこそ、こんな研究ができたんだ、と胸をはれる研究をしよう、と思ったのは、このときです。
つづく
July 7, 2011
カイコドラマチック(1)
こんばんは、東大・昆虫遺伝研究室所属の河岡です。
書こう、書こう、と思っていて、機を逸していましたが、中川さんの一連の投稿に触発されて、カイコを材料としたpiRNAの研究について、ちょっとずつ書いていきたいと思います。
昆虫遺伝研究室という、昆虫メインの研究室にいながらにして、なぜpiRNAという分野に入っていくことになったのか、、、そこには、さまざまな出会い、縁がありました。
**************************************
さて、僕が所属している昆虫遺伝研究室は、1906年に動物でメンデルの法則を発見した外山亀太郎が在籍していた、歴史の古い研究室です。
研究室には、昆虫好きな人や、昆虫を操るウイルスが好きな人が集まっていて、多様な研究が展開されています(バキュロに操られたカイコの行動は必見です)。
僕はいまから6年前に研究室に参加したのだと記憶していますが、参加当時は、研究室の流れにのって、カイコが持っている抗菌タンパク質の機能(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18076111)とか、鱗翅目昆虫が持っているグロビン遺伝子について(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19059317)とか、まさに昆虫!というような研究をしていました。
そこから低分子RNA、というのはずいぶんギャップがあるなあ、と我ながら思いますが、当時博士課程に在籍していた先輩によって、僕はpiRNAという低分子RNAの存在を知りました。
2006年当時、piRNAはトランスポゾンに相補的な配列を持っていて、トランスポゾンをやっつけてゲノムを守っているのだ、というコンセプトがどんどん出てきていたときでした。
低分子RNAに関する知識があったわけではないのですが、ムシムシした研究をしていた僕にとって、それはずいぶん「おしゃれな」感じのする研究だったのです。
当時は明確なビジョンを持っていたわけでは決してなくて、何となく、かっこよさそうだったので、やってみよかな、と思った、そんなところです。
指導教員の勝間ボスも、ちゃんとやるならどんどんやんなさい、と言ってくれるボスで、恐いもの知らずで、とりあえず先人の真似をしながら自分でできそうなことをやってみることにしました。
つづく
書こう、書こう、と思っていて、機を逸していましたが、中川さんの一連の投稿に触発されて、カイコを材料としたpiRNAの研究について、ちょっとずつ書いていきたいと思います。
昆虫遺伝研究室という、昆虫メインの研究室にいながらにして、なぜpiRNAという分野に入っていくことになったのか、、、そこには、さまざまな出会い、縁がありました。
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さて、僕が所属している昆虫遺伝研究室は、1906年に動物でメンデルの法則を発見した外山亀太郎が在籍していた、歴史の古い研究室です。
研究室には、昆虫好きな人や、昆虫を操るウイルスが好きな人が集まっていて、多様な研究が展開されています(バキュロに操られたカイコの行動は必見です)。
僕はいまから6年前に研究室に参加したのだと記憶していますが、参加当時は、研究室の流れにのって、カイコが持っている抗菌タンパク質の機能(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18076111)とか、鱗翅目昆虫が持っているグロビン遺伝子について(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19059317)とか、まさに昆虫!というような研究をしていました。
そこから低分子RNA、というのはずいぶんギャップがあるなあ、と我ながら思いますが、当時博士課程に在籍していた先輩によって、僕はpiRNAという低分子RNAの存在を知りました。
2006年当時、piRNAはトランスポゾンに相補的な配列を持っていて、トランスポゾンをやっつけてゲノムを守っているのだ、というコンセプトがどんどん出てきていたときでした。
低分子RNAに関する知識があったわけではないのですが、ムシムシした研究をしていた僕にとって、それはずいぶん「おしゃれな」感じのする研究だったのです。
当時は明確なビジョンを持っていたわけでは決してなくて、何となく、かっこよさそうだったので、やってみよかな、と思った、そんなところです。
指導教員の勝間ボスも、ちゃんとやるならどんどんやんなさい、と言ってくれるボスで、恐いもの知らずで、とりあえず先人の真似をしながら自分でできそうなことをやってみることにしました。
つづく
6th Tokyo RNA Club
怒濤のRNAweekが終わり、余韻(?)のTokyo RNA Club 6th meetingも無事終了しました。前回の5th Tokyo RNA Clubは当新学術の総力(?)を結集した華々しいものでしたが、今回のTokyo RNA ClubもGiuseppe Biamontiさんをお迎えして、これぞscientific communicationと言った感じの、ほっこりとした会になりました。
Biamontiさん。そもそもは細胞生物学会のシンポジウムでRNA学会会長のS見さん(ほとんど伏せ字にする意味なし)がゲスト講演者に招待されて、そのついでに東京に立ち寄ってくださったのですが、さすがレオナルドダビンチの国。挨拶からして「チャオ」ですから違います。ハローとかヘイとかヨーとかオラァッなら慣れていますが、いきなりチャオです。今度から使ってみたいな、慣れない人間が使ったらやけどする挨拶だな、と思いつつ。
またこのBiamontiさん、質疑応答のときの振る舞いが面白くて、だんだん、一歩ずつ下がっていって、マイクから離れて、下がるたびに熱がこもってきて、声が大きくなるのですね。それは別に壇上だけでなく、普通に会話していてもスイッチが入ると、後ずさり。トータルで言うと「距離に比例して大きくなる声/距離の二乗に反比例して小さくなる声=だんだん小さくなる声」を拾うのが大変だったのですが、こだわりと言いますか、研究対象に関する「愛」がとても強く感じられて、これだけの愛を持っているだろうかと、ふと我が身を振り返ってしまった次第です。
最新の結果は勿論のことなのですが、僕が一番印象的だったのは、以下の下りです。
「hnRNPってあるだろ。チャオ。でも、こいつら、別になんか保存されたドメインが有るとか、そういうんじゃないんだよね。でも、同じ名前がついている。機能的にも共通なのはRNAに結合しているってだけなのに。でも、なんで同じカテゴリーに入っているか知ってるかい。こいつら、免疫沈降すると、全部一緒に落ちてくるんだ。AからUまで。ん、もちろん分解しないようにそーっと落としたときだけね。そーっと、そーっとね。分解したら、狙ったタンパク質だけ。そーっと落とすと、全部、いっつも一緒に落ちてくる。それがhnRNPsなんだ。」
「でもHuRとhnRNPAって、ほっとんど同じドメイン構造持っているじゃないですか。RRMの配列とか、違ったりするんですか?」
「ふっつふっつふ。しらんけどね。なんか違うんかね。不思議だね。でも、一緒に落ちてくるのがhnRNPsなんだ。生体内で同じコンプレックスを作っているか、それは知らんよ。じゃ、またね。チャオ。」
これほど明快なhnRNPsの説明を聞いたことがかつてあったでしょうか。hnRNPsという名称は、ゆとり世代とか、僕らの世代だと新人類とか、なんか適当にくくってみました、おいおいそんなに単純なもんではないでしょう、でも一分の真理は含んでいますね、みたいな曖昧なものなのかもしれません。サイエンスとしては、この、何か共通なものがありそうでそれが何か分からない、というところに、この上ない魅力を、感じでしまいます。ncRNAも、やっぱりhnRNPsと複合体を作っているのでしょうか。そもそもhnRNP-RNA複合体は、lysateを作るための生化学的な操作できる副産物に過ぎないのでしょうか。ものすごくきれいなhnRNPsのオートラジオグラフィーのスライドが、いまだに目の底に焼き付いています。
中川
Biamontiさん。そもそもは細胞生物学会のシンポジウムでRNA学会会長のS見さん(ほとんど伏せ字にする意味なし)がゲスト講演者に招待されて、そのついでに東京に立ち寄ってくださったのですが、さすがレオナルドダビンチの国。挨拶からして「チャオ」ですから違います。ハローとかヘイとかヨーとかオラァッなら慣れていますが、いきなりチャオです。今度から使ってみたいな、慣れない人間が使ったらやけどする挨拶だな、と思いつつ。
またこのBiamontiさん、質疑応答のときの振る舞いが面白くて、だんだん、一歩ずつ下がっていって、マイクから離れて、下がるたびに熱がこもってきて、声が大きくなるのですね。それは別に壇上だけでなく、普通に会話していてもスイッチが入ると、後ずさり。トータルで言うと「距離に比例して大きくなる声/距離の二乗に反比例して小さくなる声=だんだん小さくなる声」を拾うのが大変だったのですが、こだわりと言いますか、研究対象に関する「愛」がとても強く感じられて、これだけの愛を持っているだろうかと、ふと我が身を振り返ってしまった次第です。
最新の結果は勿論のことなのですが、僕が一番印象的だったのは、以下の下りです。
「hnRNPってあるだろ。チャオ。でも、こいつら、別になんか保存されたドメインが有るとか、そういうんじゃないんだよね。でも、同じ名前がついている。機能的にも共通なのはRNAに結合しているってだけなのに。でも、なんで同じカテゴリーに入っているか知ってるかい。こいつら、免疫沈降すると、全部一緒に落ちてくるんだ。AからUまで。ん、もちろん分解しないようにそーっと落としたときだけね。そーっと、そーっとね。分解したら、狙ったタンパク質だけ。そーっと落とすと、全部、いっつも一緒に落ちてくる。それがhnRNPsなんだ。」
「でもHuRとhnRNPAって、ほっとんど同じドメイン構造持っているじゃないですか。RRMの配列とか、違ったりするんですか?」
「ふっつふっつふ。しらんけどね。なんか違うんかね。不思議だね。でも、一緒に落ちてくるのがhnRNPsなんだ。生体内で同じコンプレックスを作っているか、それは知らんよ。じゃ、またね。チャオ。」
これほど明快なhnRNPsの説明を聞いたことがかつてあったでしょうか。hnRNPsという名称は、ゆとり世代とか、僕らの世代だと新人類とか、なんか適当にくくってみました、おいおいそんなに単純なもんではないでしょう、でも一分の真理は含んでいますね、みたいな曖昧なものなのかもしれません。サイエンスとしては、この、何か共通なものがありそうでそれが何か分からない、というところに、この上ない魅力を、感じでしまいます。ncRNAも、やっぱりhnRNPsと複合体を作っているのでしょうか。そもそもhnRNP-RNA複合体は、lysateを作るための生化学的な操作できる副産物に過ぎないのでしょうか。ものすごくきれいなhnRNPsのオートラジオグラフィーのスライドが、いまだに目の底に焼き付いています。
中川
July 4, 2011
学会の英語化は必要か?
RNA meeting など、イベントづくしの感があった6月も終わり、気がつけば夏真っ直中の暑い日が続きます。皆様お元気でしょうか。
本郷三丁目の飲み屋での一言から始まったこのblogも、気がつけば31,000ページビューとなりました。試験運用から20ヶ月ですので、一日あたり50ページビューです(最近に限ればもっと多いですけれど)。これを多いと見るか少ないと見るかは見方によりますが、非コードRNA領域のホームページが通算で40,000ページビューであることを考えると、まずまずの数字ではないかと思います。
それはさておき、このところ国際学会あるいは英語化された国内学会に参加する機会が多くなり(残念ながら RNA meeting には参加できませんでしたが)、そのときに感じたことを書いてみます。あらかじめ書いておきますが、自分なりの答があるわけではありませんので、いつも通り書きっぱなしです。
英語化のメリットはたくさんありますが、運営する側から言えば、外国からのゲストスピーカーを呼びやすくなることがまず挙げられます。日本語一辺倒の学会は来て下さいとお願いするのはやはり心苦しいものがあり、来てもらう際には相手側にも何らかのメリットがあるように気を配らなければなりません。この点、学会が英語化されていれば、学会そのものを楽しんでもらうことも出来るわけで、それほど気を遣わなくてもいいことになります。安直かもしれませんが、たくさん有名人(=各分野のリーダーサイエンティスト)を呼ぶことが出来れば、それだけで学会のクオリティが上がる(=学会の存在価値が高まる)ので、この点は結構重要であると思います。
一方、一般参加者にとっては、外国の参加者が増えるために発表の認知度が上がる(≒論文を通しやすくなる)というメリットがあります。RNA meeting などは最たるもので、その分野の大御所をはじめとした多くの人達にアピールできるのですから、その効果は絶大でしょう。
また、学生を含む 若い人達にとっては、英語で自分の研究内容を説明するよい機会になります。だったら海外の学会に参加した方がよいと言われそうですが、海外の学会に参加する場合は自分の英語の拙さだけを実感して終わることもあるのに比べ(経験あり)、日本(あるいは他のアジア諸国)で行われる学会の場合は、参加者のほとんどが non-native ですから、まわりに気後れせずに存分に broken English(Janglish)を話すことが出来る、というメリットは、確かにあると思います。
デメリットの方はどうかというと、なにより知らない分野の話について行けないという点が挙げられるでしょう。何となく聞いているとすぐにおいていかれてしまいます。日本に住んでいる限り、日本語の情報量の方が多いのは仕方ないので、特になじみの薄い分野は日本語の方がわかりやすいというのは事実であるように思います。学会を楽しむ、あるいは視野を広げるという観点からすれば、これは学会の存在意義にも関わる大きな損失であろうと思われます。また、英語でのコミュニケーションには気合いが必要という人には、気楽に参加するという気分ではなくなるのも確かです。プレゼンターの力量にもよりますが、自分の専門分野以外の話題が気軽に楽しめないのはやはり困ります。
なお、質問がしにくい、議論が深まらないと思う方もいるかもしれませんが、よく言われるように、そういう人は日本語でやってもおそらく質問しないと思いますし、深い議論をしたいときには英語は大して妨げにならないと思います。その発言は捨てておけないとか、何とか留学先を見つけたいとか、どうしても論文を通したいとか、本気で伝えたいときには、英語であろうが日本であろうが必ず伝わるもんです。
学会の英語化がよいのかどうかについては、相反する要素を含んでいるのも確かで、実際のところよくわからないでいるのですが、積極的に英語化のメリットを利用しようとしている学生の姿がこのところ目に付くようになったような気がしています。それが気のせい(年のせい?)でないとすれば、最近減少しつつある海外への留学機会を補うものになるのかもしれません。もしもそうならば、英語化にやや偏重しつつある最近の風潮もあながち間違いではないのかも、と思います。
影山裕二/岡崎統合バイオ
本郷三丁目の飲み屋での一言から始まったこのblogも、気がつけば31,000ページビューとなりました。試験運用から20ヶ月ですので、一日あたり50ページビューです(最近に限ればもっと多いですけれど)。これを多いと見るか少ないと見るかは見方によりますが、非コードRNA領域のホームページが通算で40,000ページビューであることを考えると、まずまずの数字ではないかと思います。
それはさておき、このところ国際学会あるいは英語化された国内学会に参加する機会が多くなり(残念ながら RNA meeting には参加できませんでしたが)、そのときに感じたことを書いてみます。あらかじめ書いておきますが、自分なりの答があるわけではありませんので、いつも通り書きっぱなしです。
英語化のメリットはたくさんありますが、運営する側から言えば、外国からのゲストスピーカーを呼びやすくなることがまず挙げられます。日本語一辺倒の学会は来て下さいとお願いするのはやはり心苦しいものがあり、来てもらう際には相手側にも何らかのメリットがあるように気を配らなければなりません。この点、学会が英語化されていれば、学会そのものを楽しんでもらうことも出来るわけで、それほど気を遣わなくてもいいことになります。安直かもしれませんが、たくさん有名人(=各分野のリーダーサイエンティスト)を呼ぶことが出来れば、それだけで学会のクオリティが上がる(=学会の存在価値が高まる)ので、この点は結構重要であると思います。
一方、一般参加者にとっては、外国の参加者が増えるために発表の認知度が上がる(≒論文を通しやすくなる)というメリットがあります。RNA meeting などは最たるもので、その分野の大御所をはじめとした多くの人達にアピールできるのですから、その効果は絶大でしょう。
また、学生を含む 若い人達にとっては、英語で自分の研究内容を説明するよい機会になります。だったら海外の学会に参加した方がよいと言われそうですが、海外の学会に参加する場合は自分の英語の拙さだけを実感して終わることもあるのに比べ(経験あり)、日本(あるいは他のアジア諸国)で行われる学会の場合は、参加者のほとんどが non-native ですから、まわりに気後れせずに存分に broken English(Janglish)を話すことが出来る、というメリットは、確かにあると思います。
デメリットの方はどうかというと、なにより知らない分野の話について行けないという点が挙げられるでしょう。何となく聞いているとすぐにおいていかれてしまいます。日本に住んでいる限り、日本語の情報量の方が多いのは仕方ないので、特になじみの薄い分野は日本語の方がわかりやすいというのは事実であるように思います。学会を楽しむ、あるいは視野を広げるという観点からすれば、これは学会の存在意義にも関わる大きな損失であろうと思われます。また、英語でのコミュニケーションには気合いが必要という人には、気楽に参加するという気分ではなくなるのも確かです。プレゼンターの力量にもよりますが、自分の専門分野以外の話題が気軽に楽しめないのはやはり困ります。
なお、質問がしにくい、議論が深まらないと思う方もいるかもしれませんが、よく言われるように、そういう人は日本語でやってもおそらく質問しないと思いますし、深い議論をしたいときには英語は大して妨げにならないと思います。その発言は捨てておけないとか、何とか留学先を見つけたいとか、どうしても論文を通したいとか、本気で伝えたいときには、英語であろうが日本であろうが必ず伝わるもんです。
学会の英語化がよいのかどうかについては、相反する要素を含んでいるのも確かで、実際のところよくわからないでいるのですが、積極的に英語化のメリットを利用しようとしている学生の姿がこのところ目に付くようになったような気がしています。それが気のせい(年のせい?)でないとすれば、最近減少しつつある海外への留学機会を補うものになるのかもしれません。もしもそうならば、英語化にやや偏重しつつある最近の風潮もあながち間違いではないのかも、と思います。
影山裕二/岡崎統合バイオ
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