KO大学の塩見(春)さんからとっておきのラボホームページを教えていただきました。
この、アロンさんというかたは個人的に全く面識もありませんし、その輝かしい業績に関しても恥ずかしながら全く知る機会も無かったのですが、このホームページにある、発表のノウハウ、研究の進め方のノウハウ、に関するYoutubeやらMolCellに書かれたエッセイやらには、いたく心を動かされました。そもそも、大体、この手の説教、といいますかアドバイスというのは、研究者の多くがそうであるへそ曲がりな人間にとって、とうてい素直に受け入れられない物が多いのですが、そうだそうだ、全くその通りである!!と思ったのは、
「聴衆は、あなたが素晴らしいプレゼンをすることを期待しているのだから、心配することはなにもない」
という一節でした。
これは全くそうだと思います。見ていても痛々しいトークはこっそり席を外したくなりますし、席を外すのは失礼だと下手に我慢すれば、尻がむずがゆくなるだけです。発表者が言葉に詰まった瞬間心の中でガッツポーズをとる巨悪な聴衆も中にはいるのかもしれませんが、多くの人は、その逆でしょう。足を運んでわざわざ学会会場まで来ているのは、発表を楽しみたいからであって、批評・批判をしに行っているわけではありません。少し前にここでも話題になりましたが、質問というのもいってみれば「よっ!なりたや!!」みたいなもので、学会発表という一つのエンタテーメントを盛り上げるためのかけがえのない要素のような気がします。ある程度通にならないと声がけは難しいのかもしれませんが、、、
これから学会シーズンです。というか、分子生物学会シーズンです。発表する機会を与えられた幸運をかみしめながら、良き聞き手になり、良き話し手になりたいものです。この新学術の多くのメンバーが二日目のの午前中のセッション「ワークショップ:2W8 非コードRNA作用マシナリー:動作原理の分子基盤と生理機能」で発表します。ポートピアホテル本館の地下の会場のようです。冷やかし歓迎!?
中川
November 26, 2010
November 17, 2010
雄と雌を比べる!
東京医科歯科大学・難治疾患研究所の小林です。理研の中川さんから、ブログのお誘いを受け始めて書き込みをしようと思います。一般の方にも読んでもらえるよう、簡単な研究内容を自己紹介がてら書き記したいと思います。
私は以前から「哺乳類の雌雄の発生はいつから異なり始めるのか?」という、単純な疑問を持っていました。この疑問がきっかけとなり、現在の研究を始めるに至りました。生物学の教科書を読むと、個体の性分化は生殖巣の分化から始まると記されています。この説明が正しければ,生殖巣の分化以前に雌雄の発生に違いは無いはずです。一方、遺伝学上の性は受精時に決まり、性染色体の構成は雌はXXで雄はXYで、明らかに異なります。雌は雄の2倍のX染色体を持つ訳ですが、2本の内1本は不活性化され、実際に働くのは1本のX染色体です。この現象は「X染色体の不活化」と呼ばれており、この様な機構により雄と雌の間で異なる性染色体の構成が補正される訳です。この機構は発生に重要で、機構が働かなくなると2本のX染色体が活性化され、雌は流産してしまいます。この様に重要な機構ですが、Xistと呼ばれる非コードRNAが働く以外、その機構の詳細は殆ど分かっていないのが現状です。X染色体の不活化は受精後まもなくして徐々に始まり、着床直後に完成します。この様に、着床前という時期は雌雄のゲノムの違いが補正され始める重要な時期と考えられます。
そこで、この雌のみの存在するX染色体の不活化機構に興味を持ち、着床前の雌雄の胚盤胞で,遺伝子発現を比べてみることにしました。その結果、着床時期に、雄胚と雌胚の間で遺伝子発現が既に異なっていることを発見しました。更にこれら発現の異なる遺伝子のうち、雌でのみ発現するRhox5遺伝子やFthl17遺伝子といった遺伝子が、父親由来のX染色体からのみ発現するインプリント遺伝子であることを明らかにしました。父親由来のX染色体は雌しか持たない為、これらの遺伝子は,雌のみで発現する訳です。ちょうど、X染色体不活性化に働くことで有名なXistも同様にこの時期インプリントを受け雌でのみ発現することが報告されています。では、我々が新しく発見したインプリント遺伝子は,雌雄の発生にどの様な役割を果たしているのでしょうか?現在、我々はこれら新しいインプリント遺伝子もXist同様X染色体の不活化機構に働く可能性を第一に考え検討しています。更に、上記の蛋白をコードする遺伝子の他に、蛋白をコードしないRNAについても、実は発生の初期から雌でのみ発現するものが複数見つかってきました。今回、非コードRNAの領域研究での私たちの目的は、雌でのみ発現する非コードRNAの機能を明らかすることにあります。我々はこれらのRNAの機能をX染色体の不活化機構に注目しながら解析し、Xistと合わせることにより非コードRNAが哺乳類の発生にどのように働くかを包括的に理解できると期待しています。この様な研究は、雌雄の発生を理解するだけではなく、将来的にはエピジェネティックな発現制御機構の解明により、今注目されているヒトiPS細胞などのエピジェネティックな制御が重要な再生医療にも応用出来ると期待しています。
この様な研究を始め、早いもので6年経ちます。研究の当初、周りの人からは、「そんな早い時期に雌雄差があるかな?チャレンジングなテーマだね。」とコメントをもらいましたが、当時私の頭の中では、雌雄差のある因子についてある程度具体的なイメージがあり、絶対に何か見つかるはずだ!と考えていました。前向きに研究に邁進した結果、幸運なことにいくつも面白いものを見つけることができました。また、周りの研究サポートの体制が充実しており、研究を進める上で恵まれていました。周りの方々のサポートなしでは得られなかった結果です。
我々の研究で、次に重要になることはこれら遺伝子や非コードRNAが何をしているか?という点です。手法としては、これら非コードRNAを潰したノックアウト(KO)マウスを作り、個体発生にどのような影響が出るのかを見るという、reverse geneticsを考えています。ただ、reverse geneticsはforward geneticsと違い、‘面白そうな’遺伝子の機能を明らかにできるか?また、表現型が狙い通りのものか?という大きな関門があります。開けっぴろげに言えば、有名な先生方の話でも、KOマウスを作って期待通りの表現型が出るものはせいぜい3割位という結果です。この様に研究には失敗がつきものですが、出来るだけ失敗の率を下げ、早く幸運をつかめるよう良く考えながら研究の戦略を練りたいと思います。現在の研究は、雌雄の発生を理解する上で非常に重要な現象に注目し、重要な因子が見つかってきていると考えています。また、着床前の雌雄の差に着目し研究を進めているグループは他におらず、競争相手はいないオンリーワンの状態です。オンリーワンの状態はともすると独りよがりの研究になりがちですが、研究における「感動」や「面白み」を大切にしながら、将来的には研究が発展し、教科書に載る様な仕事、更に社会に還元出来る仕事にしたいと考えています。
研究環境については、またの機会に書き込みたいと思います。
小林 慎
東京医科歯科大学
難治疾患研究所
MTTプログラム
私は以前から「哺乳類の雌雄の発生はいつから異なり始めるのか?」という、単純な疑問を持っていました。この疑問がきっかけとなり、現在の研究を始めるに至りました。生物学の教科書を読むと、個体の性分化は生殖巣の分化から始まると記されています。この説明が正しければ,生殖巣の分化以前に雌雄の発生に違いは無いはずです。一方、遺伝学上の性は受精時に決まり、性染色体の構成は雌はXXで雄はXYで、明らかに異なります。雌は雄の2倍のX染色体を持つ訳ですが、2本の内1本は不活性化され、実際に働くのは1本のX染色体です。この現象は「X染色体の不活化」と呼ばれており、この様な機構により雄と雌の間で異なる性染色体の構成が補正される訳です。この機構は発生に重要で、機構が働かなくなると2本のX染色体が活性化され、雌は流産してしまいます。この様に重要な機構ですが、Xistと呼ばれる非コードRNAが働く以外、その機構の詳細は殆ど分かっていないのが現状です。X染色体の不活化は受精後まもなくして徐々に始まり、着床直後に完成します。この様に、着床前という時期は雌雄のゲノムの違いが補正され始める重要な時期と考えられます。
そこで、この雌のみの存在するX染色体の不活化機構に興味を持ち、着床前の雌雄の胚盤胞で,遺伝子発現を比べてみることにしました。その結果、着床時期に、雄胚と雌胚の間で遺伝子発現が既に異なっていることを発見しました。更にこれら発現の異なる遺伝子のうち、雌でのみ発現するRhox5遺伝子やFthl17遺伝子といった遺伝子が、父親由来のX染色体からのみ発現するインプリント遺伝子であることを明らかにしました。父親由来のX染色体は雌しか持たない為、これらの遺伝子は,雌のみで発現する訳です。ちょうど、X染色体不活性化に働くことで有名なXistも同様にこの時期インプリントを受け雌でのみ発現することが報告されています。では、我々が新しく発見したインプリント遺伝子は,雌雄の発生にどの様な役割を果たしているのでしょうか?現在、我々はこれら新しいインプリント遺伝子もXist同様X染色体の不活化機構に働く可能性を第一に考え検討しています。更に、上記の蛋白をコードする遺伝子の他に、蛋白をコードしないRNAについても、実は発生の初期から雌でのみ発現するものが複数見つかってきました。今回、非コードRNAの領域研究での私たちの目的は、雌でのみ発現する非コードRNAの機能を明らかすることにあります。我々はこれらのRNAの機能をX染色体の不活化機構に注目しながら解析し、Xistと合わせることにより非コードRNAが哺乳類の発生にどのように働くかを包括的に理解できると期待しています。この様な研究は、雌雄の発生を理解するだけではなく、将来的にはエピジェネティックな発現制御機構の解明により、今注目されているヒトiPS細胞などのエピジェネティックな制御が重要な再生医療にも応用出来ると期待しています。
この様な研究を始め、早いもので6年経ちます。研究の当初、周りの人からは、「そんな早い時期に雌雄差があるかな?チャレンジングなテーマだね。」とコメントをもらいましたが、当時私の頭の中では、雌雄差のある因子についてある程度具体的なイメージがあり、絶対に何か見つかるはずだ!と考えていました。前向きに研究に邁進した結果、幸運なことにいくつも面白いものを見つけることができました。また、周りの研究サポートの体制が充実しており、研究を進める上で恵まれていました。周りの方々のサポートなしでは得られなかった結果です。
我々の研究で、次に重要になることはこれら遺伝子や非コードRNAが何をしているか?という点です。手法としては、これら非コードRNAを潰したノックアウト(KO)マウスを作り、個体発生にどのような影響が出るのかを見るという、reverse geneticsを考えています。ただ、reverse geneticsはforward geneticsと違い、‘面白そうな’遺伝子の機能を明らかにできるか?また、表現型が狙い通りのものか?という大きな関門があります。開けっぴろげに言えば、有名な先生方の話でも、KOマウスを作って期待通りの表現型が出るものはせいぜい3割位という結果です。この様に研究には失敗がつきものですが、出来るだけ失敗の率を下げ、早く幸運をつかめるよう良く考えながら研究の戦略を練りたいと思います。現在の研究は、雌雄の発生を理解する上で非常に重要な現象に注目し、重要な因子が見つかってきていると考えています。また、着床前の雌雄の差に着目し研究を進めているグループは他におらず、競争相手はいないオンリーワンの状態です。オンリーワンの状態はともすると独りよがりの研究になりがちですが、研究における「感動」や「面白み」を大切にしながら、将来的には研究が発展し、教科書に載る様な仕事、更に社会に還元出来る仕事にしたいと考えています。
研究環境については、またの機会に書き込みたいと思います。
小林 慎
東京医科歯科大学
難治疾患研究所
MTTプログラム
November 14, 2010
踏み込み不足の是非
チェックを怠っていたら、いつの間にか、というか案の定、元通り閑古鳥が鳴いていました。ちょっとさみしいかも。
なんて馬鹿な物まねを書いている暇があればすこしでも実験を、、、という気もしますが、業界ネタで少し。
衝撃的な論文というのは、今日び進展の早いサイエンスの世界にいれば2,3年に一回は目にするのが普通であるとは思いますが、実際のところ、いわゆるサーキュレーションの良い有名な雑誌には、毎週の様に大規模な地殻変動が起きてもおかしくない論文が目白押しで載っています。そのインフレぶりは、数年後に日本が破滅することを、知りうる限りここ二十年以上毎週予想しているマスコミのレベルに近づきつつある感もありますが、はたしてその噂の真相は?
先日ラボの論文輪読会でも取り上げられた論文と、JSTさきがけのRNAと生体機能のアドバイザー、5'キャップの発見者の古市先生が風呂場でひっくり返られた(?)論文のリンクを貼っておきます。
http://www.nature.com/nature/journal/v467/n7319/full/nature09465.html
http://genome.cshlp.org/lookup/doi/10.1101/gr.112128.110
前者は、piRNA、すなわちレトロトランスポゾン由来の低分子RNAで生殖細胞におけるゲノムのメチル化等に関わっているRNAが、体細胞では実はmRNAの分解(しかもpoly-A鎖を短くする作用マシナリーによる分解)に関わっているという話、後者は、ゲノムから読まれたRNAが切断を受け、再キャッピングされているという話、です。これら、どちらも、一目ビックリの話です。細かい内容はオリジナルの論文を見ていただきたいのですが、一つ強調しても良いと思うのは、基本的に分子生物学の実験で対象にしている事象は、実際に目で見たわけではない、その「可視化」の仕方次第で、もしくはその解釈次第で、右は左になり、白は黒になるということです。
ヒストンH3K27がメチル化したから、、、(おまえほんとに見たんかい!)
5'にキャップがついたから、、、(見たんかい!)
3'が切断を受けたから、、、(見たんかい!)
RNAが困っているから、、、(話したんかい!)
とこれまた妖しくなってきましたが、この、見てきたわけでもないのに見てきたようにしてストーリーを組み立てなくてはならないということを、強く、認識する必要はあると思います。
であるから、巷にあふれている解釈はどうもウサン臭い、などということを言うつもりは毛頭無く、むしろ逆で、強調したいのは、見えない物を見るときの方法論と言いますか、既存の手法を使うにしても、新しい技術を駆使するにしても、目で見えないものをいかにして解釈可能な土俵まで引っ張ってくるか、そこに研究の面白さなり醍醐味がある、ということです。半世紀前の人は、塩基配列、遺伝子の配列を「目に」見えるようにしてくれました。当新学術領域で研究に携わっている我々は、一体何を見えるように、何を解釈可能にしようとしているのでしょう?昨今の様々な不祥事のあおりで、こういう風に解釈しよう、こういう観点で実験をしてみよう、という踏み込みが、慎重な意見を言えばなんとなくインテリ(死語?)っぽい、という受けの一手に押さえこまれているような気もします。細胞は嘘をつきませんから、思いっきり踏み込んだ失礼な質問をどんどん実験でぶつけていけば良いのだと思います。突撃アナウンサーになったつもりで。火のないところに噂は立たぬか。人の噂も75日か。それはデーターがすぐに証明してくれますから。
中川
なんて馬鹿な物まねを書いている暇があればすこしでも実験を、、、という気もしますが、業界ネタで少し。
衝撃的な論文というのは、今日び進展の早いサイエンスの世界にいれば2,3年に一回は目にするのが普通であるとは思いますが、実際のところ、いわゆるサーキュレーションの良い有名な雑誌には、毎週の様に大規模な地殻変動が起きてもおかしくない論文が目白押しで載っています。そのインフレぶりは、数年後に日本が破滅することを、知りうる限りここ二十年以上毎週予想しているマスコミのレベルに近づきつつある感もありますが、はたしてその噂の真相は?
先日ラボの論文輪読会でも取り上げられた論文と、JSTさきがけのRNAと生体機能のアドバイザー、5'キャップの発見者の古市先生が風呂場でひっくり返られた(?)論文のリンクを貼っておきます。
http://www.nature.com/nature/journal/v467/n7319/full/nature09465.html
http://genome.cshlp.org/lookup/doi/10.1101/gr.112128.110
前者は、piRNA、すなわちレトロトランスポゾン由来の低分子RNAで生殖細胞におけるゲノムのメチル化等に関わっているRNAが、体細胞では実はmRNAの分解(しかもpoly-A鎖を短くする作用マシナリーによる分解)に関わっているという話、後者は、ゲノムから読まれたRNAが切断を受け、再キャッピングされているという話、です。これら、どちらも、一目ビックリの話です。細かい内容はオリジナルの論文を見ていただきたいのですが、一つ強調しても良いと思うのは、基本的に分子生物学の実験で対象にしている事象は、実際に目で見たわけではない、その「可視化」の仕方次第で、もしくはその解釈次第で、右は左になり、白は黒になるということです。
ヒストンH3K27がメチル化したから、、、(おまえほんとに見たんかい!)
5'にキャップがついたから、、、(見たんかい!)
3'が切断を受けたから、、、(見たんかい!)
RNAが困っているから、、、(話したんかい!)
とこれまた妖しくなってきましたが、この、見てきたわけでもないのに見てきたようにしてストーリーを組み立てなくてはならないということを、強く、認識する必要はあると思います。
であるから、巷にあふれている解釈はどうもウサン臭い、などということを言うつもりは毛頭無く、むしろ逆で、強調したいのは、見えない物を見るときの方法論と言いますか、既存の手法を使うにしても、新しい技術を駆使するにしても、目で見えないものをいかにして解釈可能な土俵まで引っ張ってくるか、そこに研究の面白さなり醍醐味がある、ということです。半世紀前の人は、塩基配列、遺伝子の配列を「目に」見えるようにしてくれました。当新学術領域で研究に携わっている我々は、一体何を見えるように、何を解釈可能にしようとしているのでしょう?昨今の様々な不祥事のあおりで、こういう風に解釈しよう、こういう観点で実験をしてみよう、という踏み込みが、慎重な意見を言えばなんとなくインテリ(死語?)っぽい、という受けの一手に押さえこまれているような気もします。細胞は嘘をつきませんから、思いっきり踏み込んだ失礼な質問をどんどん実験でぶつけていけば良いのだと思います。突撃アナウンサーになったつもりで。火のないところに噂は立たぬか。人の噂も75日か。それはデーターがすぐに証明してくれますから。
中川
November 4, 2010
学会での質問
科研費の申請でブログのチェックを怠っていたら、いつの間にかエントリーがいっぱい増えてました。楽しみが増えてちょっとうれしいかも。
各種研究集会の感想でよく話題になる「質問」ですが、少し気になったので思うことを書いておこうかと思います。
研究者を目指す学生あるいはポスドクの皆さんには、ほかの人の発表を聞くときは、「どんな質問ができるか」を常に意識することをお勧めします。短時間で全てのデータを総合して的確な質問を組み立てるのは思ったより難しいことなのですが、一つ一つの発表について、常に質問することを意識していればそのうちできるようになるはずです。実際に質問をするかどうかはその場の雰囲気で決めてもよいのですが、それでもいつでも質問に立てるように心がけておく必要はあります。特に自分の研究に直接関係のない発表のときはなおさらです。
たかが質問ですが、きちんと「よい質問」ができるようになると、大きなメリットが二つあります。
一つ目は、自分の研究が岐路に立ったときに、するべきことが見えてくるようになることです。客観的事項が本人にだけ見えていない、なんてことは自分を振り返っても案外あるもんですが、そういう事態を防ぐことができるはずです。他人を建設的に批判できない人が自分の研究を検証できるはずがありません。なにしろ人間というのは自分には甘いようにできてますから。学会というのは他人を批判する絶好の機会です。ぜひ活用したいものです。
もう一つは、学会は自分のプレゼンスを示す場所でもあるので、そのためのスキルが身につきます。これはサイエンスには直接関係のないことなので、自分の研究ができるようになってからでよいのですが、実際に学会での質問で他人の能力を測ることがあるのは事実ですし(そう感じるから物怖じしてしまうのかもしれませんが、学生の間は顔を覚えてもらえることの方が少ないので気にしなくても大丈夫です)、よい質問ができるよう心がけるのは大事なことだと思います。ただし、質問したことがない人がいきなりよい質問ができるようには「絶対に」なりませんので、学会や各種セミナー等で学生のうちに研鑽を積むことが必要だと思います。ラボのセミナーでほとんど質問をしない人は、それだけで自分の可能性を縮めていることを知った方がよいと思います。
以下は蛇足かもしれません。
上記に加え、(こちらはちょっと確信が持てませんが)「ひらめき」を鍛えるという点も大きいかもしれません。ブラックボックスを多く抱えている生き物を相手にしている以上、研究の先を見通すことなど不可能に近いので、生物学の研究というのは、数多の可能性を一つ一つ検証していく地味な作業の積み重ねです。しかしながら、その場で思いついたアイデアがその後の研究を左右することがあります。そういうのは理屈の通用しない、多くの経験と知識からくるひらめきとしかいいようのないものですが、そういったものは、あるいは他人の研究をなぞることによって練習が可能かもしれません。また、他人の研究を突き詰めて考えることで、自分の研究の問題点(あるいは新たな可能性)に思い当たることも実際にあります。論文を読むことによってもこういったことは可能でしょうが、研究発表で研究者の生の声を聞きながら考えることからも、やはり多くのことが得られるような気がします。
いずれにせよ、「的確な質問」(もちろん質問なら何でもいいわけではありません)ができるようになることは、メリットの大きいスキルであると言えるので、若手の研究者の方にはぜひとも頑張っていただきたいと思います。
影山裕二
自然科学研究機構
岡崎統合バイオサイエンスセンター
各種研究集会の感想でよく話題になる「質問」ですが、少し気になったので思うことを書いておこうかと思います。
研究者を目指す学生あるいはポスドクの皆さんには、ほかの人の発表を聞くときは、「どんな質問ができるか」を常に意識することをお勧めします。短時間で全てのデータを総合して的確な質問を組み立てるのは思ったより難しいことなのですが、一つ一つの発表について、常に質問することを意識していればそのうちできるようになるはずです。実際に質問をするかどうかはその場の雰囲気で決めてもよいのですが、それでもいつでも質問に立てるように心がけておく必要はあります。特に自分の研究に直接関係のない発表のときはなおさらです。
たかが質問ですが、きちんと「よい質問」ができるようになると、大きなメリットが二つあります。
一つ目は、自分の研究が岐路に立ったときに、するべきことが見えてくるようになることです。客観的事項が本人にだけ見えていない、なんてことは自分を振り返っても案外あるもんですが、そういう事態を防ぐことができるはずです。他人を建設的に批判できない人が自分の研究を検証できるはずがありません。なにしろ人間というのは自分には甘いようにできてますから。学会というのは他人を批判する絶好の機会です。ぜひ活用したいものです。
もう一つは、学会は自分のプレゼンスを示す場所でもあるので、そのためのスキルが身につきます。これはサイエンスには直接関係のないことなので、自分の研究ができるようになってからでよいのですが、実際に学会での質問で他人の能力を測ることがあるのは事実ですし(そう感じるから物怖じしてしまうのかもしれませんが、学生の間は顔を覚えてもらえることの方が少ないので気にしなくても大丈夫です)、よい質問ができるよう心がけるのは大事なことだと思います。ただし、質問したことがない人がいきなりよい質問ができるようには「絶対に」なりませんので、学会や各種セミナー等で学生のうちに研鑽を積むことが必要だと思います。ラボのセミナーでほとんど質問をしない人は、それだけで自分の可能性を縮めていることを知った方がよいと思います。
以下は蛇足かもしれません。
上記に加え、(こちらはちょっと確信が持てませんが)「ひらめき」を鍛えるという点も大きいかもしれません。ブラックボックスを多く抱えている生き物を相手にしている以上、研究の先を見通すことなど不可能に近いので、生物学の研究というのは、数多の可能性を一つ一つ検証していく地味な作業の積み重ねです。しかしながら、その場で思いついたアイデアがその後の研究を左右することがあります。そういうのは理屈の通用しない、多くの経験と知識からくるひらめきとしかいいようのないものですが、そういったものは、あるいは他人の研究をなぞることによって練習が可能かもしれません。また、他人の研究を突き詰めて考えることで、自分の研究の問題点(あるいは新たな可能性)に思い当たることも実際にあります。論文を読むことによってもこういったことは可能でしょうが、研究発表で研究者の生の声を聞きながら考えることからも、やはり多くのことが得られるような気がします。
いずれにせよ、「的確な質問」(もちろん質問なら何でもいいわけではありません)ができるようになることは、メリットの大きいスキルであると言えるので、若手の研究者の方にはぜひとも頑張っていただきたいと思います。
影山裕二
自然科学研究機構
岡崎統合バイオサイエンスセンター
November 3, 2010
「まさかシャペロンが・・・!?」 その1
東大分生研・泊です。最近、「タンパク質の社会」特定領域
http://www.protein.bio.titech.ac.jp/
が出しているニュースレター6号に寄稿させていただきました。
編集長である東工大の田口さんの許可もいただきましたし、せっかくなのでこのブログに転載いたします。
---
はじめに: small RNAはややこしい
今や,遺伝子名で検索をすれば「ノックダウン保証付き」のsiRNA(small interfering RNA)が数万円程度で購入でき,それを普通にトランスフェクションすれば,(よっぽど不運でない限り)だいたいどんな遺伝子でも簡単にノックダウンできる時代である.1998 年のMelloとFireによる「例の論文」1から十数年,RNAiはもはや日常のツールとして確固たる地位を獲得したと言って過言ではない.また,1993 年にAmbrosとRuvkunにより発見された当初は,「線虫にだけ存在する変な現象」だと思われていたmiRNA(microRNA)2,3も,その後ヒトを含めた動物・植物・菌類・ウィルスに至るまで広く保存された遺伝子発現制御システムであることが明らかとなり,また最近では癌をはじめとする様々な疾患と関わりも指摘されており,多くの研究者の耳目を集めている.
にもかかわらず,これらのsmall RNAが,どのようなしくみで標的遺伝子の発現を抑制するのか,ということについては,まだまだ不明な点が数多く残されている.その理由の一つして,通常の酵素とは違い,small RNAはそれ自身が触媒活性を持っているわけではなく,small RNAと複数のタンパク質を含むエフェクター複合体を形成してはじめてその機能を発揮できるという点が挙げられる.つまり,small RNAが働くしくみを理解するためには,small RNAのことだけではなく,エフェクター複合体がどのようなタンパク質によって構成されているのか,その複合体がどのようにして組み立てられるか,そしてその複合体全体としてどのような機能を持つのか,ということを考える必要があり,非常にややこしいのであるA.最近我々は,ひょんなことから,このエフェクター複合体の組み立てにHsc70/Hsp90シャペロンマシナリーが重要な働きを果たしていることを明らかにした4.以下はその背景と(紆余曲折の)いきさつである.
1. Fire,A. et al.: Nature,391: 806-811,1998
2. Lee,R. C. et al.: Cell,75: 843-854,1993
3. Wightman,B. et al.: Cell,75: 855-862,1993
4. Iwasaki,S. et al.: Mol Cell,39: 292-299,2010
A. しかしそのややこしさのおかげで我々研究者は飯が食えているとも言える.
RISCの中核因子Argonaute
small RNAのエフェクター複合体のことを,RISC(RNA-induced silencing complex)と呼ぶ.RISCを介し,small RNAは標的mRNAの切断や翻訳抑制を行う.RISCの見かけ上の分子量は百数十kDaから80S程度とばらついており,その構成タンパク質因子(の候補)も数多く報告されている.しかし,それらの因子のほとんどは,具体的な役割がよく分かっていない.唯一,機能がはっきりしているのが,Argonaute(Ago)と呼ばれるタンパク質であるB.Agoタンパク質はsmall RNAに直接結合し,small RNAの一本の鎖を「ガイド」として用い,その鎖に対して相補的な配列を持つ標的RNAを認識する.Agoタンパク質の一部(例えばショウジョウバエやヒトではAgo2)は,RNaseHに似た切断活性を有しており,標的RNAとsmall RNAとの相補性が高い場合は,その切断を直接触媒する.逆にこの相補性が低い場合や,切断活性を持たないAgoタンパク質(例えばヒトではAgo1,3,4)の場合は,標的の翻訳抑制や脱アデニル化を引き起こす一群のタンパク質をリクルートするC. つまり,Agoタンパク質は,RISCの最も中核をなす因子であると言える.
5. Bohmert,K. et al.: EMBO J,17: 170-180,1998
B. ちなみに,Argonauteとは,植物での変異体が(miRNAが機能できないことにより)葉が細長くタコの様な異常な形態を示すことから,殻を持つタコの一種Argonauta(日本語ではアオイガイまたはカイダコ)にちなんで付けられた名前である5.
C. かつては,翻訳抑制などを含めたRNAサイレンシング現象のことを総称してRNAiと呼んでいたが,最近ではRNAiと言えば標的切断反応のことを指す場合が多い.
二本鎖から一本鎖へ
siRNAもmiRNAも,生合成過程において21塩基程度のRNAが二本鎖を組んだ様な中間段階を経る.これらをsiRNA二本鎖,miRNA/miRNA* 二本鎖と呼び,合わせてsmall RNA二本鎖と呼ぶD.しかし,(当然二本鎖のままでは標的RNAと塩基対を組むことは出来ないために)RISCの中で標的認識のガイドとしてはたらくことができるのは,片方の鎖だけである.よって,RISCが形成されるどこかの過程で,二本の鎖が一本ずつに分離され,片方が捨てられる必要がある.small RNA二本鎖のうち,捨てられる方の鎖を「パッセンジャー鎖」,RISCのガイドとして働く方の鎖を「ガイド鎖」と呼ぶ.以前は,small RNA二本鎖は,まず何らかのRNAヘリカーゼにより一本鎖に巻き戻された後に,一本鎖としてAgoに取り込まれると考えられていた6.しかし,最近の研究から,siRNA二本鎖もmiRNA/miRNA*二本鎖も,まず二本鎖のままAgoに取り込まれ,その後Agoの内部において二本鎖が一本鎖に巻き戻されるということが実験的に示されている7-12.このsmall RNA二本鎖のAgoへの取り込み段階を“RISC loading”,Agoの内部で二本鎖が一本鎖に変換される段階を“unwinding”と呼ぶ.
6. Nykanen,A. et al.: Cell,107: 309-321,2001
7. Leuschner,P. J. et al.: EMBO Rep,7: 314-320,2006
8. Matranga,C. et al.: Cell,123: 607-620,2005
9. Miyoshi,K. et al.: Genes Dev,19: 2837-2848,2005
10. Rand,T. A. et al.: Cell,123: 621-629,2005
11. Kawamata,T. et al.: Nat Struct Mol Biol,16: 953-960,2009
12. Yoda,M. et al.: Nat Struct Mol Biol,17: 17-23,2010
D. 通常実験室で使われているsiRNAは,まさに「siRNA二本鎖」のことである.
http://www.protein.bio.titech.ac.jp/
が出しているニュースレター6号に寄稿させていただきました。
編集長である東工大の田口さんの許可もいただきましたし、せっかくなのでこのブログに転載いたします。
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はじめに: small RNAはややこしい
今や,遺伝子名で検索をすれば「ノックダウン保証付き」のsiRNA(small interfering RNA)が数万円程度で購入でき,それを普通にトランスフェクションすれば,(よっぽど不運でない限り)だいたいどんな遺伝子でも簡単にノックダウンできる時代である.1998 年のMelloとFireによる「例の論文」1から十数年,RNAiはもはや日常のツールとして確固たる地位を獲得したと言って過言ではない.また,1993 年にAmbrosとRuvkunにより発見された当初は,「線虫にだけ存在する変な現象」だと思われていたmiRNA(microRNA)2,3も,その後ヒトを含めた動物・植物・菌類・ウィルスに至るまで広く保存された遺伝子発現制御システムであることが明らかとなり,また最近では癌をはじめとする様々な疾患と関わりも指摘されており,多くの研究者の耳目を集めている.
にもかかわらず,これらのsmall RNAが,どのようなしくみで標的遺伝子の発現を抑制するのか,ということについては,まだまだ不明な点が数多く残されている.その理由の一つして,通常の酵素とは違い,small RNAはそれ自身が触媒活性を持っているわけではなく,small RNAと複数のタンパク質を含むエフェクター複合体を形成してはじめてその機能を発揮できるという点が挙げられる.つまり,small RNAが働くしくみを理解するためには,small RNAのことだけではなく,エフェクター複合体がどのようなタンパク質によって構成されているのか,その複合体がどのようにして組み立てられるか,そしてその複合体全体としてどのような機能を持つのか,ということを考える必要があり,非常にややこしいのであるA.最近我々は,ひょんなことから,このエフェクター複合体の組み立てにHsc70/Hsp90シャペロンマシナリーが重要な働きを果たしていることを明らかにした4.以下はその背景と(紆余曲折の)いきさつである.
1. Fire,A. et al.: Nature,391: 806-811,1998
2. Lee,R. C. et al.: Cell,75: 843-854,1993
3. Wightman,B. et al.: Cell,75: 855-862,1993
4. Iwasaki,S. et al.: Mol Cell,39: 292-299,2010
A. しかしそのややこしさのおかげで我々研究者は飯が食えているとも言える.
RISCの中核因子Argonaute
small RNAのエフェクター複合体のことを,RISC(RNA-induced silencing complex)と呼ぶ.RISCを介し,small RNAは標的mRNAの切断や翻訳抑制を行う.RISCの見かけ上の分子量は百数十kDaから80S程度とばらついており,その構成タンパク質因子(の候補)も数多く報告されている.しかし,それらの因子のほとんどは,具体的な役割がよく分かっていない.唯一,機能がはっきりしているのが,Argonaute(Ago)と呼ばれるタンパク質であるB.Agoタンパク質はsmall RNAに直接結合し,small RNAの一本の鎖を「ガイド」として用い,その鎖に対して相補的な配列を持つ標的RNAを認識する.Agoタンパク質の一部(例えばショウジョウバエやヒトではAgo2)は,RNaseHに似た切断活性を有しており,標的RNAとsmall RNAとの相補性が高い場合は,その切断を直接触媒する.逆にこの相補性が低い場合や,切断活性を持たないAgoタンパク質(例えばヒトではAgo1,3,4)の場合は,標的の翻訳抑制や脱アデニル化を引き起こす一群のタンパク質をリクルートするC. つまり,Agoタンパク質は,RISCの最も中核をなす因子であると言える.
5. Bohmert,K. et al.: EMBO J,17: 170-180,1998
B. ちなみに,Argonauteとは,植物での変異体が(miRNAが機能できないことにより)葉が細長くタコの様な異常な形態を示すことから,殻を持つタコの一種Argonauta(日本語ではアオイガイまたはカイダコ)にちなんで付けられた名前である5.
C. かつては,翻訳抑制などを含めたRNAサイレンシング現象のことを総称してRNAiと呼んでいたが,最近ではRNAiと言えば標的切断反応のことを指す場合が多い.
二本鎖から一本鎖へ
siRNAもmiRNAも,生合成過程において21塩基程度のRNAが二本鎖を組んだ様な中間段階を経る.これらをsiRNA二本鎖,miRNA/miRNA* 二本鎖と呼び,合わせてsmall RNA二本鎖と呼ぶD.しかし,(当然二本鎖のままでは標的RNAと塩基対を組むことは出来ないために)RISCの中で標的認識のガイドとしてはたらくことができるのは,片方の鎖だけである.よって,RISCが形成されるどこかの過程で,二本の鎖が一本ずつに分離され,片方が捨てられる必要がある.small RNA二本鎖のうち,捨てられる方の鎖を「パッセンジャー鎖」,RISCのガイドとして働く方の鎖を「ガイド鎖」と呼ぶ.以前は,small RNA二本鎖は,まず何らかのRNAヘリカーゼにより一本鎖に巻き戻された後に,一本鎖としてAgoに取り込まれると考えられていた6.しかし,最近の研究から,siRNA二本鎖もmiRNA/miRNA*二本鎖も,まず二本鎖のままAgoに取り込まれ,その後Agoの内部において二本鎖が一本鎖に巻き戻されるということが実験的に示されている7-12.このsmall RNA二本鎖のAgoへの取り込み段階を“RISC loading”,Agoの内部で二本鎖が一本鎖に変換される段階を“unwinding”と呼ぶ.
6. Nykanen,A. et al.: Cell,107: 309-321,2001
7. Leuschner,P. J. et al.: EMBO Rep,7: 314-320,2006
8. Matranga,C. et al.: Cell,123: 607-620,2005
9. Miyoshi,K. et al.: Genes Dev,19: 2837-2848,2005
10. Rand,T. A. et al.: Cell,123: 621-629,2005
11. Kawamata,T. et al.: Nat Struct Mol Biol,16: 953-960,2009
12. Yoda,M. et al.: Nat Struct Mol Biol,17: 17-23,2010
D. 通常実験室で使われているsiRNAは,まさに「siRNA二本鎖」のことである.
「まさかシャペロンが・・・!?」 その2
ATPはなぜ必要なのか?
miRNAのRISC 形成過程を解析している中で,我々は,RISC loadingにはATPの加水分解が必要なのに対し,unwindingにはATPが必要ないという意外な事実を見いだした11,12.RISC loading”という,Agoとsmall RNA 二本鎖との一見単純な「結合」になぜかエネルギーが消費され,“unwinding”では20個程度の塩基対が壊されるのにも関わらずエネルギーが必要ないということは,通常の生化学的感覚からすれば非常に不思議なことである.
我々はこの実験事実を合理的に説明するために, 「輪ゴムモデル」を提唱した13.このモデルでは,Agoにsmall RNA 二本鎖が取り込まれるためには,Agoのダイナミックな構造変化が必要であり,この変化にこそATPが消費されるということを想定している.これはちょうど,小さめの輪ゴムに長い二本の棒を入れ込もうとすると,まず(エネルギーを使って)手で輪ゴムを引っ張る必要があるのに似ている.続いて,smallRNA 二本鎖がひとたびAgoに入ると,さらに構造変化が起こりAgoはより閉じた安定構造に戻ろうとする.この時,Ago内部の空間が小さくなることにより,small RNAは二本鎖のままではとどまれなくなり,片方が押し出されると想定すればE,unwindingにATPが必要ないことがうまく説明できる.これは,輪ゴムを引っ張っていた手を離した時を考えると分かりやすい.バクテリアや古細菌のAgoのホモログFの結晶構造解析14,15から,Agoタンパク質に対して,21 塩基程度のsmall RNA二本鎖がA型ヘリックスとったものは大きすぎることが示唆されていることは,このモデルを支持するものである.
13. Kawamata,T. & Tomari,Y.: Trends Biochem Sci,35: 368-376 2010
14. Song,J. J. et al.: Science,305: 1434-1437,2004
15. Wang,Y. et al.: Nature,461: 754-761,2009
E. これまでの知見から,ガイド鎖の5´リン酸基は,Agoに固くアンカーされることが明らかになっていることから,unwindingの際には(アンカーされていない)パッセンジャー鎖が選択的に排除されると考えられる.
F. バクテリアや古細菌にはmiRNAやsiRNAは存在しないため,これらのAgoホモログの生理的機能は不明である.
RISC loading因子の探索(と挫折)
ここで問題になるのは,最初にAgoの構造を広げるために働く“RISC loading 因子”,つまり「輪ゴムを引っ張っている手」の本質が何かということである.幸いなことに,我々はショウジョウバエ胚およびS2細胞,ヒトのHeLa細胞やHEK293細胞等の粗抽出液を用いて,効率良くin vitroでRISC形成を行える実験系を持っていた.さらに,ショウジョウバエAgo2 経路においては,これまでにRISC 形成に必要だということが生化学的に確認されているAgo2,Dicer-2およびR2D2をリコンビナントで作成し,そこにdcr-2;ago2 二重変異体のショウジョウバエ胚粗抽出液Gを加え戻すことで,RISC 形成が再構成できることを見いだした.これは,粗抽出液中に未知のRISC loading 因子が存在することを明確に示すものであった.
実験系は立った.あとは因子を同定するのみである.そこで,我々はショウジョウバエAgo1およびAgo2をモデルとして,既知因子Hをリコンビナントとして調製したところに,粗抽出液をカラム分画したものを加え戻してRISC 活性を確認することで,RISC loading 因子を精製することを試みた.しかし,当初の楽観的な予想に反して,精製作業は困難を極めた.カラム精製を進めると,ピークが複数に分かれてしまい,またどれだけ大量の粗抽出液から始めてみても,3つ以上のカラムをかけるとほぼ活性がなくなってしまうのである.小林さんと岩崎君という二人の学生がそれぞれAgo1とAgo2を担当し,8ヶ月間に渡って何度も低温室で精製を繰り返し,標的切断活性とタンパク質溶出のピークが合うそれらしいバンドを切り出しては,いわゆる「ドーバー海峡」Iを渡り,工学部の鈴木勉さんと坂口さんのところにサンプルを持ち込み,幾度となくMS解析をお願いしたが,結局因子の単離同定には至らなかった.しかし,その過程の中で,Hsp70の恒常的発現ホモログであるショウジョウバエHsc70-4が,しばしば活性のピークと一致することに気がついた.また,試しにAgo1とAgo2を免疫沈降し,結合するタンパク質を調べてみると,Hsc70-4のほか,Hsp90のショウジョウバエホモログであるHsp83,Hsc70とHsp90をつなぐとされるHop,Jドメインタンパク質(Hsp40ホモログ)の一つであるDroj2など,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーの構成要素が釣れてきた.通常であれば,タンパク質精製あるいは免疫沈降実験においてシャペロンが出てきても,非特異的なものとして即座に捨てる場合が多いだろう.我々も,最初に実験結果を見た時は「まさかシャペロンが・・・!?」という思いだった.しかし,「輪ゴムモデル」を考えた時,シャペロンの働きは「ATPを消費してAgoの構造を変化させる」というRISC loadingの反応にピタリと一致するものだったのである.
G. R2D2はDicer-2 非存在下では非常に不安定なため,dcr-2;ago2 粗抽出液は,既知因子であるAgo2, Dicer-2, R2D2の3つすべてを欠損している.
H. Dicer-2とR2D2というRISC loadingに必須な因子が同定されているショウジョウバエAgo2 経路に対し,ショウジョウバエAgo1 経路およびヒトAgo1〜4の経路においてRISC形成に必要なことが明確に示されている因子はAgoタンパク質自身だけである.
I. 東大の本郷キャンパスと弥生キャンパスを隔てる言問通りのことをこう呼ぶらしい.
miRNAのRISC 形成過程を解析している中で,我々は,RISC loadingにはATPの加水分解が必要なのに対し,unwindingにはATPが必要ないという意外な事実を見いだした11,12.RISC loading”という,Agoとsmall RNA 二本鎖との一見単純な「結合」になぜかエネルギーが消費され,“unwinding”では20個程度の塩基対が壊されるのにも関わらずエネルギーが必要ないということは,通常の生化学的感覚からすれば非常に不思議なことである.
我々はこの実験事実を合理的に説明するために, 「輪ゴムモデル」を提唱した13.このモデルでは,Agoにsmall RNA 二本鎖が取り込まれるためには,Agoのダイナミックな構造変化が必要であり,この変化にこそATPが消費されるということを想定している.これはちょうど,小さめの輪ゴムに長い二本の棒を入れ込もうとすると,まず(エネルギーを使って)手で輪ゴムを引っ張る必要があるのに似ている.続いて,smallRNA 二本鎖がひとたびAgoに入ると,さらに構造変化が起こりAgoはより閉じた安定構造に戻ろうとする.この時,Ago内部の空間が小さくなることにより,small RNAは二本鎖のままではとどまれなくなり,片方が押し出されると想定すればE,unwindingにATPが必要ないことがうまく説明できる.これは,輪ゴムを引っ張っていた手を離した時を考えると分かりやすい.バクテリアや古細菌のAgoのホモログFの結晶構造解析14,15から,Agoタンパク質に対して,21 塩基程度のsmall RNA二本鎖がA型ヘリックスとったものは大きすぎることが示唆されていることは,このモデルを支持するものである.
13. Kawamata,T. & Tomari,Y.: Trends Biochem Sci,35: 368-376 2010
14. Song,J. J. et al.: Science,305: 1434-1437,2004
15. Wang,Y. et al.: Nature,461: 754-761,2009
E. これまでの知見から,ガイド鎖の5´リン酸基は,Agoに固くアンカーされることが明らかになっていることから,unwindingの際には(アンカーされていない)パッセンジャー鎖が選択的に排除されると考えられる.
F. バクテリアや古細菌にはmiRNAやsiRNAは存在しないため,これらのAgoホモログの生理的機能は不明である.
RISC loading因子の探索(と挫折)
ここで問題になるのは,最初にAgoの構造を広げるために働く“RISC loading 因子”,つまり「輪ゴムを引っ張っている手」の本質が何かということである.幸いなことに,我々はショウジョウバエ胚およびS2細胞,ヒトのHeLa細胞やHEK293細胞等の粗抽出液を用いて,効率良くin vitroでRISC形成を行える実験系を持っていた.さらに,ショウジョウバエAgo2 経路においては,これまでにRISC 形成に必要だということが生化学的に確認されているAgo2,Dicer-2およびR2D2をリコンビナントで作成し,そこにdcr-2;ago2 二重変異体のショウジョウバエ胚粗抽出液Gを加え戻すことで,RISC 形成が再構成できることを見いだした.これは,粗抽出液中に未知のRISC loading 因子が存在することを明確に示すものであった.
実験系は立った.あとは因子を同定するのみである.そこで,我々はショウジョウバエAgo1およびAgo2をモデルとして,既知因子Hをリコンビナントとして調製したところに,粗抽出液をカラム分画したものを加え戻してRISC 活性を確認することで,RISC loading 因子を精製することを試みた.しかし,当初の楽観的な予想に反して,精製作業は困難を極めた.カラム精製を進めると,ピークが複数に分かれてしまい,またどれだけ大量の粗抽出液から始めてみても,3つ以上のカラムをかけるとほぼ活性がなくなってしまうのである.小林さんと岩崎君という二人の学生がそれぞれAgo1とAgo2を担当し,8ヶ月間に渡って何度も低温室で精製を繰り返し,標的切断活性とタンパク質溶出のピークが合うそれらしいバンドを切り出しては,いわゆる「ドーバー海峡」Iを渡り,工学部の鈴木勉さんと坂口さんのところにサンプルを持ち込み,幾度となくMS解析をお願いしたが,結局因子の単離同定には至らなかった.しかし,その過程の中で,Hsp70の恒常的発現ホモログであるショウジョウバエHsc70-4が,しばしば活性のピークと一致することに気がついた.また,試しにAgo1とAgo2を免疫沈降し,結合するタンパク質を調べてみると,Hsc70-4のほか,Hsp90のショウジョウバエホモログであるHsp83,Hsc70とHsp90をつなぐとされるHop,Jドメインタンパク質(Hsp40ホモログ)の一つであるDroj2など,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーの構成要素が釣れてきた.通常であれば,タンパク質精製あるいは免疫沈降実験においてシャペロンが出てきても,非特異的なものとして即座に捨てる場合が多いだろう.我々も,最初に実験結果を見た時は「まさかシャペロンが・・・!?」という思いだった.しかし,「輪ゴムモデル」を考えた時,シャペロンの働きは「ATPを消費してAgoの構造を変化させる」というRISC loadingの反応にピタリと一致するものだったのである.
G. R2D2はDicer-2 非存在下では非常に不安定なため,dcr-2;ago2 粗抽出液は,既知因子であるAgo2, Dicer-2, R2D2の3つすべてを欠損している.
H. Dicer-2とR2D2というRISC loadingに必須な因子が同定されているショウジョウバエAgo2 経路に対し,ショウジョウバエAgo1 経路およびヒトAgo1〜4の経路においてRISC形成に必要なことが明確に示されている因子はAgoタンパク質自身だけである.
I. 東大の本郷キャンパスと弥生キャンパスを隔てる言問通りのことをこう呼ぶらしい.
「まさかシャペロンが・・・!?」 その3
Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーがRISC loadingを媒介する
ここからは展開が早かった.Hsp90には特異的阻害剤としてゲルダナマイシンやその誘導体である17-AAGがよく知られている.また,もともとp53の活性を阻害することが知られており,構造が簡単で入手しやすいPifithrin-μ(phenylethynesulfonamide: PES) が,実はHsp70の阻害剤として働くことが最近示されていたJ,16.そこで,これらの阻害剤を購入し,ショウジョウバエAgo1およびAgo2経路,およびヒトAgo2 経路におけるRISC形成過程に対する影響を解析した.その結果,これらすべての経路において,Hsp90阻害剤とHsp70 阻害剤はともに,small RNA 二本鎖がAgoに取り込まれるRISC loadingの段階を特異的に阻害するのに対し,その後Ago内で二本鎖が巻き戻されるunwindingの段階や,さらにその後の標的切断反応,そしてその切断産物の放出には全く影響を与えないことが明らかとなった.また,Hsc70-4のドミナントネガティブ変異体を実験系に加えると,RISC 形成が顕著に阻害されることも分かった.これらの実験結果は,ATPを消費するRISC loadingの際に,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーによるAgo構造変化が必要であることを示唆するものであり,我々が提案した「輪ゴムモデル」を強く支持するものである.ちょうど同じ時期に,農業生物資源研究所の石川先生のグループ,慶応大学の塩見先生のグループも,それぞれ植物のAGO1 経路,ショウジョウバエのAgo2経路において,Hsp90に着目した同様の実験結果を得ていることが分かり,結果的にこの3グループから論文が発表されることになった4,17,18.RISC 形成にシャペロンが必須な働きを果たすという新たなモデルを,日本から世界に向かって発信できたことは,誇るべきことだと思う.
16. Leu,J. I. et al.: Mol Cell,36: 15-27,2009
17. Miyoshi,T. et al.: Nat Struct Mol Biol,17: 1024-1026,2010
18. Iki,T. et al.: Mol Cell,39: 282-291,2010
J. 元の論文では,ほ乳類においてはPESはHsp70特異的に阻害し,Hsc70には作用しないことが示唆されていたが,我々はショウジョウバエHsc70-4とAgo1およびAgo2の結合はPESによって阻害されることを実験的に確認した.
さいごに: RISC 形成の“PURE System”に向けて
以上の様に,本研究から,RISC 形成には,シャペロンを介したAgoタンパク質のダイナミックな構造変化が伴うことが明らかになった.しかし,その具体的な分子メカニズムはまだまだ不明瞭である.実際,我々が免疫沈降で同定したHsc70-4,Hsp83,Hop,Droj2だけではRISC 形成は全く起こらない.よって,良く解析されたステロイドホルモンレセプターの成熟過程同様19,Agoタンパク質にもHsc70/Hsp90と多くのコシャペロンが順序よく作用することが必要なのだろうK.ふたを開けてみれば,最初の精製においてピークが複数に分かれてしまったことも,精製が進むと活性が失われたことも,Hsc70/Hsp90システムが様々なコシャペロンを含む「マシナリー」として働き,様々なクライアントタンパク質に結合していることを考えれば納得がいく.しかし,今後分子レベルの詳細な作用機序を明らかにするためには,RISC 形成過程を完全に再構成することが必要であろう.そして,結局そのためには初心に戻り,既知因子をリコンビナントとして調製し,さらに必要となる因子を精製・同定することを避けては通れないと思われる.「単離と再構成」という愚直な生化学20は,次世代シーケンサが1時間に1,000億塩基読もうとする現代もなお黄金律でありつづけている.RISC 形成の“PURE System”21を構築することは,我々の目標であり,あこがれである.
19. Taipale,M. et al.: Nat Rev Mol Cell Biol,11: 515-528,2010
20. 水島昭二: 蛋白質核酸酵素,38: 2089-2091,1993
21. Shimizu,Y. et al.: Nat Biotechnol,19: 751-755,2001
K. small RNA二本鎖をAgoタンパク質のリガンドだと捉えれば,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーがきちんと作用して成熟化することにより,はじめてリガンドであるステロイドに結合できるようになるステロイドホルモンレセプターの場合と極めてよく似ている.
ここからは展開が早かった.Hsp90には特異的阻害剤としてゲルダナマイシンやその誘導体である17-AAGがよく知られている.また,もともとp53の活性を阻害することが知られており,構造が簡単で入手しやすいPifithrin-μ(phenylethynesulfonamide: PES) が,実はHsp70の阻害剤として働くことが最近示されていたJ,16.そこで,これらの阻害剤を購入し,ショウジョウバエAgo1およびAgo2経路,およびヒトAgo2 経路におけるRISC形成過程に対する影響を解析した.その結果,これらすべての経路において,Hsp90阻害剤とHsp70 阻害剤はともに,small RNA 二本鎖がAgoに取り込まれるRISC loadingの段階を特異的に阻害するのに対し,その後Ago内で二本鎖が巻き戻されるunwindingの段階や,さらにその後の標的切断反応,そしてその切断産物の放出には全く影響を与えないことが明らかとなった.また,Hsc70-4のドミナントネガティブ変異体を実験系に加えると,RISC 形成が顕著に阻害されることも分かった.これらの実験結果は,ATPを消費するRISC loadingの際に,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーによるAgo構造変化が必要であることを示唆するものであり,我々が提案した「輪ゴムモデル」を強く支持するものである.ちょうど同じ時期に,農業生物資源研究所の石川先生のグループ,慶応大学の塩見先生のグループも,それぞれ植物のAGO1 経路,ショウジョウバエのAgo2経路において,Hsp90に着目した同様の実験結果を得ていることが分かり,結果的にこの3グループから論文が発表されることになった4,17,18.RISC 形成にシャペロンが必須な働きを果たすという新たなモデルを,日本から世界に向かって発信できたことは,誇るべきことだと思う.
16. Leu,J. I. et al.: Mol Cell,36: 15-27,2009
17. Miyoshi,T. et al.: Nat Struct Mol Biol,17: 1024-1026,2010
18. Iki,T. et al.: Mol Cell,39: 282-291,2010
J. 元の論文では,ほ乳類においてはPESはHsp70特異的に阻害し,Hsc70には作用しないことが示唆されていたが,我々はショウジョウバエHsc70-4とAgo1およびAgo2の結合はPESによって阻害されることを実験的に確認した.
さいごに: RISC 形成の“PURE System”に向けて
以上の様に,本研究から,RISC 形成には,シャペロンを介したAgoタンパク質のダイナミックな構造変化が伴うことが明らかになった.しかし,その具体的な分子メカニズムはまだまだ不明瞭である.実際,我々が免疫沈降で同定したHsc70-4,Hsp83,Hop,Droj2だけではRISC 形成は全く起こらない.よって,良く解析されたステロイドホルモンレセプターの成熟過程同様19,Agoタンパク質にもHsc70/Hsp90と多くのコシャペロンが順序よく作用することが必要なのだろうK.ふたを開けてみれば,最初の精製においてピークが複数に分かれてしまったことも,精製が進むと活性が失われたことも,Hsc70/Hsp90システムが様々なコシャペロンを含む「マシナリー」として働き,様々なクライアントタンパク質に結合していることを考えれば納得がいく.しかし,今後分子レベルの詳細な作用機序を明らかにするためには,RISC 形成過程を完全に再構成することが必要であろう.そして,結局そのためには初心に戻り,既知因子をリコンビナントとして調製し,さらに必要となる因子を精製・同定することを避けては通れないと思われる.「単離と再構成」という愚直な生化学20は,次世代シーケンサが1時間に1,000億塩基読もうとする現代もなお黄金律でありつづけている.RISC 形成の“PURE System”21を構築することは,我々の目標であり,あこがれである.
19. Taipale,M. et al.: Nat Rev Mol Cell Biol,11: 515-528,2010
20. 水島昭二: 蛋白質核酸酵素,38: 2089-2091,1993
21. Shimizu,Y. et al.: Nat Biotechnol,19: 751-755,2001
K. small RNA二本鎖をAgoタンパク質のリガンドだと捉えれば,Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーがきちんと作用して成熟化することにより,はじめてリガンドであるステロイドに結合できるようになるステロイドホルモンレセプターの場合と極めてよく似ている.
November 2, 2010
EMBL symposium
10月13日から16日にかけて、ドイツのハイデルベルク市郊外のEMBLで開催されたEMBL symposium “The Non-Coding Genome”の様子を報告します。参加者は総勢で300名程度ありましたが、日本からの参加は少なく、我々のグループ(私と大学院生の田埜さん)の他は、塩見研グループ(春彦先生、美喜子先生、石津さん、三好さん、長尾さん)だけでした。
会場は、2010年3月に公式オープンしたばかりのThe EMBL Advanced Training Centre (ATC) です。外観はヌクレオソーム構造に似ており、内部には2つのらせん階段がDNA二重らせん構造を模して作られていて大変ユニークな建築物でした(http://www.embl.de/training/eicat/atc/pictures/gallery_exterior/index.html)。らせん階段に沿って、ポスター掲示場所があるので、スロープを登り降りしてポスターを見るような構成でした。このATCでは、様々なミーティングを開催するのみならず、トレーニング施設も併設しており、今回のミーティング中もpre-docコースが開催されていました。プログラムの内容から、小人数でインタラクティブなコースプログラムのようです。このような充実した環境で、かつ現役バリバリ(EMBLのグループリーダーに着任したばかりの知人が講師をしていました)の若手研究者が講師となっており、研究と教育の層の厚さ、そして研究サポート体制・環境の充実を実感しました。
さて、“The Non-Coding Genome”では、47の口頭発表と235のポスターが発表されていました。全体の感想としては、小分子ノンコーディングRNAが多く、私が主に興味を持つ長鎖ノンコーディングに関する研究発表は全体の2割弱程度でした。それも、分化刺激やストレス刺激によって発現変動するノンコーディングの候補を見つけるような発表が多く、長鎖ノンコーディングRNAの生理機能やメカニズムについて踏み込んでいる発表は非常に限られていました。そのような中で、Harvard Medical SchoolのDr. John RinnによるlincRNAの発表(口頭発表)がピカイチだったと思います。Dr. Rinn は、最近Cell誌に発表したp53の遺伝子発現ネットワークにおけるlincRNAの関与を報告しており、そのデータも発表していましたが、さらに、lincRNAが脂肪細胞の分化にも重要である可能性を示す新しいデータも報告していました。lincRNAが生理的に働いて入る可能性を示す大変興味深い発表でしたが、なによりプレゼンテーションが大変上手で、大変勉強になりました。
総じて、発表のレベルは高く、大変有意義なミーティングでした。2年後にも同様なミーティングを開催したいとアナウンスしていましたので、2年後には核局在ノンコーディングRNAの機能を説明する分子機構を是非とも発表したいと思っています。
東京大学アイソトープ総合センター
秋光信佳
会場は、2010年3月に公式オープンしたばかりのThe EMBL Advanced Training Centre (ATC) です。外観はヌクレオソーム構造に似ており、内部には2つのらせん階段がDNA二重らせん構造を模して作られていて大変ユニークな建築物でした(http://www.embl.de/training/eicat/atc/pictures/gallery_exterior/index.html)。らせん階段に沿って、ポスター掲示場所があるので、スロープを登り降りしてポスターを見るような構成でした。このATCでは、様々なミーティングを開催するのみならず、トレーニング施設も併設しており、今回のミーティング中もpre-docコースが開催されていました。プログラムの内容から、小人数でインタラクティブなコースプログラムのようです。このような充実した環境で、かつ現役バリバリ(EMBLのグループリーダーに着任したばかりの知人が講師をしていました)の若手研究者が講師となっており、研究と教育の層の厚さ、そして研究サポート体制・環境の充実を実感しました。
さて、“The Non-Coding Genome”では、47の口頭発表と235のポスターが発表されていました。全体の感想としては、小分子ノンコーディングRNAが多く、私が主に興味を持つ長鎖ノンコーディングに関する研究発表は全体の2割弱程度でした。それも、分化刺激やストレス刺激によって発現変動するノンコーディングの候補を見つけるような発表が多く、長鎖ノンコーディングRNAの生理機能やメカニズムについて踏み込んでいる発表は非常に限られていました。そのような中で、Harvard Medical SchoolのDr. John RinnによるlincRNAの発表(口頭発表)がピカイチだったと思います。Dr. Rinn は、最近Cell誌に発表したp53の遺伝子発現ネットワークにおけるlincRNAの関与を報告しており、そのデータも発表していましたが、さらに、lincRNAが脂肪細胞の分化にも重要である可能性を示す新しいデータも報告していました。lincRNAが生理的に働いて入る可能性を示す大変興味深い発表でしたが、なによりプレゼンテーションが大変上手で、大変勉強になりました。
総じて、発表のレベルは高く、大変有意義なミーティングでした。2年後にも同様なミーティングを開催したいとアナウンスしていましたので、2年後には核局在ノンコーディングRNAの機能を説明する分子機構を是非とも発表したいと思っています。
東京大学アイソトープ総合センター
秋光信佳
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